12月1日、竹芝ポートホールにて開催された美容内科学会第一回総会。初回にもかかわらず、多くの参加者で賑わい、大盛況のうちに幕を閉じました。もっとも、わたくし自身は懇親会の最後まで居られなかったのですが(その理由は次回にて)、間違いなく充実した一日でした。

 

 

特筆すべきは、当学会の青木晃理事長の高校の先輩であり、睡眠学会のキングとも言える、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授柳沢正史先生のご講演、”睡眠の謎に挑む:原理の追求から社会実装まで”。最新の睡眠研究とその社会への応用について、盛りだくさんの内容で聴衆を魅了しました。

 

柳沢正史先生とのツーショット。わたくし、見かけの体格だけは負けておりません……🤣

 

「これほど重要な睡眠なのに、医学部ではせいぜい1時間程度しか教えられていないんですよ。それも多くはナルコレプシーの病理としてだけで」と柳沢先生。まさに目から鱗の指摘です。

 

驚くべきことに、統計によれば1960年代の日本人は平均8時間睡眠だったとか。それが今や世界最短記録を更新中とは、一体どうしたことでしょうか。これは56本分の卒論テーマになるとの先生のご指摘。そこでわたくしなりに、その理由を考えてみました。

 

1. 長時間の通勤地獄

 

大都市圏では、片道1時間以上の通勤は当たり前。帰宅が遅くなれば、就寝時間も必然的に遅れます。満員電車でのストレスも相まって、睡眠の質は低下する一方。海外では職場と生活圏が近く、仕事が終わればさっさと帰宅。家族で夕食を楽しむのがデフォルトです。

 

2. 深夜まで煌めくテレビ文化(昭和の時代は特に)

 

深夜番組の充実ぶりときたら、まるで夜更かしを推奨しているかのよう。時差のある海外スポーツをリアルタイムで観戦できるのは嬉しいですが、その代償は睡眠時間。遅く帰宅しても、11時のニュースダイジェストは見逃せないという強迫観念(特にインテリ層に多いとか)。海外のように24時間ニュース専門チャンネルがあれば、こんなことにはならないのかもしれません。

 

3. カップル文化の希薄さ

 

日本は「セックスレス大国」とも言われ、夜にリラックスして心を通わせる時間が減少しているようです。長時間労働や通勤疲れで、パートナーとの時間を持つ余裕がないのかもしれません。心のつながりやスキンシップが薄れると(コロナ禍と同じ、オキシトシン分泌不足)、副交感神経の働きも鈍り、睡眠の質にも影響が出るのは当然のこと。

 

4. 明るすぎる照明文化

 

日本の夜は明るい。白色の蛍光灯やLEDライトが主流で、闇を愛でる「陰翳礼讃」の文化はどこへやら。明るすぎる照明やデジタルデバイスから放たれるブルーライトは、メラトニンの分泌を抑制し、脳を覚醒状態にしてしまいます。ヨーロッパのカフェのような暖かな間接照明で、心地よくリラックスできる空間がもっと増えてほしいものです。

 

5. 「睡眠=怠惰」という大いなる誤解

 

戦後の高度経済成長期から続く「寝る間を惜しんで働く」美徳。バブル期の「24時間戦えますか」というキャッチフレーズが象徴するように、睡眠を軽視する企業文化が根強く残っています。また、寝られないほど忙しいことを自慢する風潮もひどい。「ショートスリーパー」という言葉が、成功者や偉人の代名詞のように扱われていますが、多くは自称であり、健康を害して寿命を全うできない人も少なくありません。

 

6. 夜更かしを助長する不夜城の都市

 

大都市では深夜まで営業する飲食店や娯楽施設が目白押し。ついつい夜更かしが習慣化してしまいます。家族全員で夜遅くまで外食することも珍しくなく、子供の睡眠時間にも悪影響。夜の街の誘惑は大人だけのものではありません。

 

7. デジタル時代の誘惑

 

スマートフォンやタブレットが手放せない現代人。就寝前のSNSチェックや動画視聴が、気づけば深夜まで続くこともしばしば。デジタルデトックスが叫ばれる中、一人ひとりの意識改革が求められています。

 

8. 過密な教育スケジュール

 

子供たちは塾や習い事、宿題に追われ、夜遅くまで活動しています。親自身も睡眠不足では、早寝の習慣を教えるどころではありません。成長期の子供たちが十分な睡眠を取れないのは、大きな社会問題です。

 

9. 性差とジェンダーギャップ

 

家事、育児、仕事と三重苦を背負う女性たち。睡眠時間が男性より短い傾向にあり、家族全体の睡眠環境にも影響を及ぼしています。昭和の時代には、妻が夫の帰宅を待ちわび、先に寝ることも許されなかったとか。三つ指ついてお出迎え――「お帰りなさい、あなた。今日もお疲れ様でございました。先にお風呂になさいます? それともお食事かしら?」。時代は変わりましたが、根深い問題は残っています。

 

10. 高ストレス社会とメンタルヘルス

 

日本は先進国の中でもストレスレベルが高いと言われています。そのくせ、カウンセリングに行く習慣や、グループセッションなどは日常的ではありません。過労やプレッシャーが睡眠障害を引き起こし、悪循環に陥っているケースも。心の健康を取り戻すことが、質の良い睡眠への第一歩かもしれません。

 

いかがでしょうか。睡眠不足の背景には、社会構造や文化的要因が複雑に絡み合っています。特に「睡眠=怠惰」という大いなる誤解は、根強く残る意識であり、これを変革することが必要です。しかし、まずは自分と家族の健康から見直してみませんか?「隗より始めよ」と言いますし、小さな一歩が大きな変化を生むこともあるのです。

睡眠の大切さを再認識し、質の良い眠りを手に入れることが、美容と健康の鍵であることは間違いありません。次回は、小林弘幸先生のご講演内容と、わたくしがなぜ懇親会の最後まで居られなかったのか、その理由をお話ししたいと思います。お楽しみに!

 

 

睡眠について考えることは、人生を見つめ直すことかもしれません。今日も良い夢を。🌙