機内を降りた瞬間、空港の香りから、パリに「帰ってきた」と実感する。まるでプルーストのマドレーヌ効果のように、20年間過ごした街の記憶が突然蘇る。

タクシーは誇らしげにオリンピック用優先道路を走り抜け、窓の外には「PARIS 2024」の旗が風に揺れている。パラリンピックの熱気が街中に漂い、パリのエネルギーを感じさせてくれる。

 

週末は、身も心もハーベスト気分。今年も山下農園の収穫祭に参加することができた。農園主の山下朝史氏と「コーラ・ナチュール」(要は普通のコカコーラ😊)で乾杯し、まだ人々が集まり始めたばかりの静かな農園で、哲学的な談話にふける。

 

<多彩な才能を持つ、医師で漫画家のクリストフ吉田氏。プードルのジョジョくんも初参加>

 

<クリストフ氏の愛車、1960年代生まれ、Fiat 600D Multiplia、只今31000ユーロで新しいご主人さま募集中>

 

 

この収穫祭は、私にとって一年に一度の定点観測だ。毎年再会する顔ぶれとの交流は、まるで宝石のように貴重な時間である。フランスの知識人たちはリベラルを自認しているが、オリンピックの開会式を見て、様々なことが明らかになったという話や、柔道の審判への不満、政局の不安が会話の中で繰り広げられる。次々と振る舞われる農園の極上の料理に舌鼓を打ちながら、会話もまたそのまま一つの滋養となる。

 

<一瞬で収穫祭がジブリ風にポーン

 

今回、私が特に心を奪われたのは、マヨルカにバカンスに行った友人の🪼”クラゲの話”だった。🪼

今年は例年よりクラゲが少なかったが、毎回同じ二匹のクラゲが彼女に絡んできたという。質感から同じクラゲだと分かるそうだ。しかも、そのクラゲは恐らく小魚に突かれて、見るたびに少しずつ欠けて小さくなっていく…

その話を聞きながら、私の脳裏には、マヨルカの夜の海に輝く二匹のクラゲの姿が浮かび上がる。痛みも悲しみもなく、ただ運命を受け入れ、静かに小さくなっていくその姿が、月光に照らされ、まるで美しい絵画のようだった。

 

 

そういえば、今回訪れたl’Atelier des Lumièresでは、「Van Gogh, la nuit étoilée(ゴッホの星月夜)」と「Japon Rêvé, images du monde flottant(夢の日本、浮世のイメージ)」を鑑賞した。プロジェクションマッピング技術が生み出す圧倒的な世界観の中で、現実と幻想、そして有機的な物質世界の真理について、改めて考えさせられる体験だった。

 

 

ヘミングウェイの「移動祝祭日」の名言にあるように、一度でもパリに住んだ者は、その呪縛から生涯逃れられないのだと再認識した。パリを離れて7年が経つが、その魅力はますます強く私を捉え続けている。

“If you are lucky enough to have lived in Paris as a young man, then wherever you go for the rest of your life, it stays with you, for Paris is a moveable feast.”

ーErnest Hemingway’s A Moveable Feast