First Step 漢方、パリでの漢方(第3回)
在仏日本大使館医務官 間宮規章先生
第3回目です。会長の谷村玲実先生、名誉会長の松下フユ先生に土台を作って頂き、それを私がリライトしたものになります。
六病位について:疾病のステージ分類、東洋医学における疾病のステージ分類は、病因に関係なく、生体の闘病反応のパターンによって分類されます。
生体側の条件と病気を引き起こそうとする因子の絡み合いによって、病態は時事刻々と転変していき、そのステージは陽と陰にわけられ、それぞれ3期に細分されます。
太陽病期:風邪のひきはじめのような症状。悪寒、発熱、頭痛。
治療;自然発汗があるタイプとないタイプに分けて考える。
少陽病期:体の深部に病変の主座が移り、熱がこもったようになった状態。
咳が出たり食欲が低下したり、物の味が苦く感じたりする。熱の出方も一日のうちで上がったり、下がったりする(夕方微熱がでたりする。)
治療;腹部症状のひとつに胸脇苦満がある場合 柴胡剤を投与。 気管支炎症症状を主とするものは麦門冬湯等
陽明病期:全身に熱がみちている状態。病変の舞台は裏(消化管にまで達している)。口渇、便秘、高熱、舌苔(黄色)。
治療;裏熱型、腸型、お血型、水滞型に分けて考える。
裏熱型→清熱法 消炎、解熱を図る。
腸型→便を下剤で排泄させる。
お血型→下剤を含んだお血改善剤を用いる。
水滞型→消炎、解熱とともに水分代謝の改善をはかる。
太陰病期:陰の病の始まりは病気が長引き、あまり熱が出なくなって、体力がおちかけたところで、気虚や血虚がでてくる。消化器の働きも低下する。
治療;裏の寒をあたため、消化器の働きをよくする。気血水の滞りを改善する。
少陰病期:臓腑の機能がさらに低下。気血の不足も一段と進行する。ごろごろして横になりたがる時期。発熱はなく、身体は冷え切っている。陽明病期の逆。
治療は3型に分けて行なう。
表寒型→頭痛、関節痛がある。気血のめぐりをよくする。
裏寒型→不消化の下痢。裏にある寒を暖め、体力を補う。
血虚型→身体の水分の不足と血の不足。血虚の治療に準じる。
厥陰病期(けっちん):臓腑の衰えが極めて重篤。プレショック状態に相当。意識レベルの低下。体温調節機能も低下。
治療;寒と熱の調和が破れ、陰とも陽ともつかない状態なので 臓腑の機能を暖めて改善し、裏寒を改善することをめざす。
風邪の亜急性期の処方(少陽・陽明の時期)
柴胡剤:(柴胡・黄芩)大柴胡湯、小柴胡湯・柴朴湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯(竹茹温胆湯)。
非柴胡剤:麻杏甘石湯・五虎湯、小青竜湯、清肺湯、麦門冬湯、半夏厚朴湯、参蘇飲、真武湯。
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よく使われる漢方処方:
第1位 葛根湯
第2位 五苓散
第3位 柴胡桂枝湯
第4位 芍薬甘草湯
第5位 補中益気湯
第6位 大建中湯
第7位 加味逍遙散
第8位 抑肝散
第9位 六君子湯
第10位 八味地黄丸
最初に挙げた 葛根湯は日本では処方箋なしに薬局OTCで買えます。
葛根湯の一番の効力は前に述べたように、主に風邪の引き始めです。しかしそれ以外にも効能効果があります。例えば自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴う比較的体力のある人で次のような症状がある場合:
感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期
炎症性疾患(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎)
肩こり、上半身の神経痛、じんましん
むち打ち、夜尿症
葛根湯の主なる適応症状として:
発熱
悪寒
炎症性の疾患(頭痛、首・肩こり)
使用するときの診断ポイント
・項背強(首や背中が硬い)
・無汗
・浮実脉
・ときに臍の直上や横にしこり・圧痛を触知。腹部は全体的に緊張良好。
第2位 五苓散について:水毒の是正
人体のメカニズムは気血水の循環で維持されています。
“気”は生命活動の源泉、“血”は生命活動を活性化し、そして“水”は体の防御機能に関与しています。
ですから水の異常、水毒の場合は体のバランスが崩れます。
“水(すい)”とは全身をめぐる無色の液体を水といいます。
水毒=水の滞り・水の偏在
脱水 浮腫 めまい
タイプとして:
全身型 (いわゆる水太り)
皮膚・関節型 (関節リウマチ)
胸内型 (喘息)
心下型 (胃のあたりを手でかるくたたくとぽちゃぽちゃと水の音が聞こえる人、食欲不振、下痢、手足のひえなど)
五苓散の効用(猪苓 茯苓 蒼朮 沢瀉 桂皮)
悪心・嘔吐はあるが四肢冷感はなく、口渇と尿量減少がみられている、
汗をかきやすい、雨の前になると症状が悪化しやすい頭痛、軽い頭痛に適応。
水毒の典型は二日酔い;症状は舌痕、歯列痕。舌辺に歯の圧痕。脾虚や水滞。
アルコールを飲む前に2包、寝る前に2包。
二日酔い対策の漢方:当日の服用(酔いが醒めない時の処方)
1.顔が赤く動悸・頭痛がする時は黄連解毒湯
2.口渇があれば五苓散を服用
翌日の服用(酔いが醒めてからの処方)
1.嘔気、頭痛がすれば柴苓湯。すでに何回か吐いて、生唾が出て顔色がすぐれない時は人参湯 ,頭痛がすれば呉茱萸湯。
2.下痢すれば胃苓湯、腹鳴をともなえば半夏瀉心湯
3.腹痛があれば柴胡桂枝湯と安中散を併用
間宮先生は以下の場合に五苓散を服用しています:
二日酔いの予防と軽減
頭痛
めまい・メニエール病
むくみ
小児の下痢・嘔吐
硬膜穿刺後頭痛
帯状疱疹 急性期・三叉神経領域
(つづく)