2022年6月11日に吉田クリストフ先生宅にて、在フランス保険医療専門家ネットワークの定例会が行われました。今回は在仏日本大使館の医務官である間宮規章先生が漢方をテーマに「パリに住んでいても役に立つ漢方の知識」について分かりやすく講演してくださいました。これから始まる、レジュメというにはあまりに重みのあるドキュメントは、会長の谷村玲実先生、名誉会長の松下フユ先生に土台を作って頂き、それを私がリライトしたものになります。表はクリックすると拡大されます。

 

First Step 漢方、パリでの漢方(第1回)

 

        在仏日本大使館医務官 間宮規章先生

 

パリでも13区のハーブ店である益生堂・百草苑などで、漢方は入手できます。



 

エキス剤を取り寄せる、生薬を買い自分で煎じる(煮出し、以下湯液とします)かの二択です。湯液にするのに、生薬は數十分煮詰めなくてはいけませんが、ハリオ マイコン煎じ器(3 HMJ3-1000W)を使用すると便利です

 

<湯液とエキス>

エキス剤(顆粒剤)と湯液にはそれぞれの長所と短所があります


 

湯液の製法ですが、生薬を約600mlの水と一緒に土瓶などの容器に入れ、とろ火で4050分煮詰めます。液が最終的に300ml程度になったら、液が熱いうちにガーゼや茶こしで滓をこしとります湯液は通常1日の必要量を2、3回に分け、温めて服用します。


<葛根湯>

さて、漢方といえば風邪でよく使われる“葛根湯”です。日本では一般用医薬品O T C)でも購入できます。


 

医療で処方される漢方と、処方箋なしで薬局で買える漢方薬(OTC)の組成・性状の違いは、下記 の表の通りです。服用回数は、3服と2服になります。


 

風邪は発熱が始まる時期、極期、解熱期に分かれますが、葛根湯はどのタイミングで服用すればより効き目があるのでしょう?

答えは“風邪の引き始め”です。葛根湯には、体を温め、汗をかかせる作用があるので、「風があたると寒気がして」「首や肩がこわばる」「汗が出ていない状態」引き始めに服用すると、効果的です。

 

<風邪の漢方処方の使い分け>

汗をかくためには、麻黄剤(解熱、止咳、利尿、鎮痛)など、他の漢方薬も効きますが、体質・証による使い分けが大切であります。

 

実証:体力があり、暑がりで、胃腸が丈夫、血色が良いタイプ

虚証:体力がなく、寒がりで、胃腸が弱く、血色が悪いタイプ

 

実証な方には麻黄の多い漢方を処方します。対して虚証の方には麻黄の配合を少なくします。

麻黄の配合の多い漢方薬から少ない漢方薬は順次に“麻黄湯”“葛根湯”“麻黄附子細辛湯”“桂枝湯”となります。

 

以下の診断のポイントで漢方薬を使い分けます:

麻黄湯(まおうとう):麻黄 杏仁 桂枝 甘草

診断のポイント

・発熱、悪寒、無汗

・脉、浮、緊

・喘咳、身体疼痛(腰、四肢、関節)

・特別な腹証く、腹筋の緊張は良い。

腹力は充実している。

 桂枝湯(けいしとう):桂皮 芍薬 大棗 甘草 生姜

診断のポイント

・悪寒発熱頭痛

・汗ばむ傾向(自汗)

・脉は浮で弱、或いは緩

・特別な腹証なし

・腹部はやや軟。

・特別な腹証をみとめないのが特徴

 

麻黄剤を投与する場合に注意が必要なタイプ

   虚弱者で病後の衰弱や著しい体力低下

         著しく胃腸虚弱

         現に悪心がある

         発汗傾向が著しい、既に発汗

 

麻黄剤の禁忌
(麻黄=Ephedra sinica Stapf Ephedrin 交感神経刺激性アルカロイド10%以上含有すると覚醒剤の原料と分類される)

   狭心症、重症高血圧症などのエフェドリン不適応者

   甲状腺機能亢進症(コントロール不良)

   排尿障害、高度の腎障害

 

<麻黄剤とインフルエンザ>

さて、麻黄湯といえば、子供のインフルエンザに使用できるというのを、お聞き覚えのある方もいるかもしれません。

ちょっと話が逸れますが、子供・インフルエンザといえば、タミフルが地雷でした。タミフル(オセルタミビル)は、A型とB型のインフルエンザ治療薬として、日本では2001年から販売されました。インフルエンザウイルスの増殖を抑え、発症から48時間以内に服用すれば高熱が下がり、回復が早まる効果があります。しかし2007年ころ、タミフルを服用した10代の子どもの転落死が相次ぐなど、薬と異常行動との因果関係が取りざたされ、薬の副作用か、インフルエンザ脳症かと問題になりました。現在は10才以上の未成年者は、インフルでは、2日間は要観察となります。

 

 

インフルエンザに対する麻黄湯の効果:

(自衛隊仙台病院 窪 智宏先生より)

 

対象者:2004年13月のインフルエンザ流行期に38の発熱で外来受診し、インフルエンザ感染症を疑われた5ヶ月から13歳の60人、

19例にタミフル(オセルタミビル4mg/kg/日(分2))のみを服用。(1例インフルエンザ非感染者、残りの18例はA型インフエンザ感染者)

17例は麻黄湯エキス顆粒+オセルタミビルを服用。(その内14例がA型インフエンザを感染者)。

24例は麻黄湯エキス顆粒0.18g/kg/日(分3)のみの服用(17例がA型インフエンザを感染者、7例はインフルエンザ非感染者)。

統計から明らかに麻黄湯はA型インフエンザに効果があると証明されました。体温が37.2以下にまで下がり、再度熱の上昇が見られない状態を解熱したと判断しました。オキセルタミビル単独投与群にくらべ、麻黄湯を投与した群の有熱期間が有意に短縮したのです。

 

 

                                 (つづく)