一ノ関藩のこと


 東北新幹線一ノ関駅は、中尊寺観光や磐井川の厳美渓散策の下車駅として知られていますが、東北のこじんまりした城下町だったことも覚えておいてください。田村氏3万石。そもそも田村家は三春の領主だったのですが、秀吉の小田原着陣に間に合わず改易となっていました。

 ところで、NHK大河ドラマで最大のヒット作をご存じでしょうか? はい、1987年の『独眼竜正宗』ですね。年間平均視聴率39.7%は絶対的な永久王座となりました。この時の主役は渡辺謙、正宗の正室愛姫(めぐひめ)は桜田淳子でしたが、三春から嫁いだころは後藤久美子、そうゴクミでした。

 田村家の紆余曲折で絶家となっていたことを悲しんで、愛姫が正宗に名跡復活を願い、仙台藩内分ながら田村家一関藩が立藩したのが延宝9(1681)。初代藩主田村右京太夫建顕は早速歴史に名を残します。忠臣蔵の浅野内匠頭が松の廊下で刃傷に及び、切腹させられました。その場所が田村家江戸屋敷だったのです。———もっとも、わたくしは『さんさ時雨』の三幅一対も田村右京太夫も知らないまま、バブルの巷でジュリ扇パタパタしていただけですが。      

 

 

 実は母の実家は一ノ関市だったのです。今でこそ岩手県ですが、一関藩は立派な伊達のサムライたちの藩です。九州葉隠の地から出た父との結婚式は東京で行ったのでしょうが。その後に二人連れで里帰りなんかした時なんか、当然祝宴はあったはずですよね。伊達領の人々は皆さん、『さんさ時雨』を朗々と唄えるはず、どんな感じだったのでしょう? 満座の全員が歌う祝い唄なんて、圧倒的に押し寄せますよね、カンゲキが。そんな婚礼とか、経験してみたかったな、わたくしも。

    まだわたくしが影も形もないころのこと。今度こそ、母が生きているうちに訊いておきたいと思っています。



『さんさ時雨』の歌詞

1 さんさ時雨か 萱野(かやの)の雨か (ハァ ヤートーヤートー)

音もせで来て 濡れかかる 「ションガイナ」(ハァ メデタイメデタイ)
(2)この家座敷は 目出度い座敷 (ハァ ヤートーヤートー)

鶴と亀とが 舞い遊ぶ  「ションガイナ」(ハァ メデタイメデタイ)

(3)雉(きじ)のめんどり 小松の下で (ハァ ヤートーヤートー)

(つま)を呼ぶ声 千代(チヨ)千代と「ションガイナ」(ハァ メデタイメデタイ)

(4)門に門松 祝いに小松 (ハァ ヤートーヤートー)

 かかる白雪 みな黄金「ションガイナ」(ハァ メデタイメデタイ)
(5)さんさ振れ振れ 五尺の袖を (ハァ ヤートーヤートー)

  今宵ふらいで いつの夜に「ションガイナ」(ハァ メデタイメデタイ)
(6)武蔵あぶみに 紫手綱(むらさきたずな) (ハァ ヤートーヤートー)

  乗せてやりたや 春駒に「ションガイナ」(ハァ メデタイメデタイ)

(**)「三幅一対」とは上記(1)(2)(3)を通しで斉唱すること。