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 暦年の数え方には――①初めと終わりがある、②循環する、③永久に増え続ける――の3つがあります。③の例は西暦、イエスの誕生を期として年ごとに+1していくものであり、②は60年周期で還暦する干支があります。①は帝王の治世年数の数え方から自然災害や吉凶に応じて改変する年号となり、近代になって帝王一世一元の元号になったものです。地球上に元号で暦年を唱える国は日本だけです。それが5月から新しくなります。その令和なるもの、自称だけではありますが、美の錬術師であるわたくしの観点から考察していこうと思います。

 

 令和の意味ですが、政府は外国に“Beautiful Harmony”と説明し、考案者と目される中西進氏は“令(うるわ)しく平和”とコメントしています。典は万葉集巻5、大宰府における梅花曲水の宴で詠まれた和歌の序として大伴旅人が著した于時、初春令月、氣淑風和、梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香(時に、初春のれいげつにして、気よく風やわらぐ、梅は鏡前のこをひらき、蘭ははいごの香をくゆらす)」です。わたくしの訳では――梅は鏡の前の美女が装う白粉のように咲き誇り、蘭は焚きこめた香のように薫る――といったところ。

 

令の美しさとは、(梅や蘭によって形容されていますが)女性であればフルメイクアップにパフュームふりかけた人工的に身を固めた表現のように感じます。

 漢和辞典を引いてみます。令の字の上の人(ひとやね)は人を集める、または頭上にいただく冠を表し、下の刀(マ)が人が跪く、あるいは跪いて神意を伺う様とあります。令状・法令・律令・命令・指令‥‥、言いつける・命令する、英語ならcommand, rule

 令(レイ)の音感からは「美しく冷んやりとした美しさ」が匂ってきます。令嬢・令息・令妹・令閨‥‥。ツンデレじゃない、ツンツンの美。上から目線の美であり、統制された美、完整された美とすら言えます。

 

「ラリルレロ」のラ行が語頭にくる“やまとことば”はありません。すべて外来語といってよく、横文字もしくは漢語が由来です。海の向こうからの言葉は、きっと島国の人たちに新鮮に、かつオシャレに聞こえたことでしょう。一義的に令は command ですから、制服に一糸乱れずの整列。紛れ込んだら、誰だって美の一部になれるというものです。

 令色は美しいだけではありません。論語に「巧言令色鮮矣仁(こうげんれいしょく、すくなきかなじん)」という章句があります。「口先がうまく顔色をやわらげて、人を喜ばせ媚びへつらうことは、もっとも仁の心に欠けている」と、孔子は言っています。

 

 いろいろ考えてきましたが、人工的に美しく、上から目線で色を飾る。それが令の美しさと思われます。そして、和はハーモニーの調和。わたくしがずっと提唱しています「自発的で」「多様性(ダイバーシティ)のある」「人それぞれの」美しさとは、ちょっと方向性に違うようです。もしかしたら、日本的な同調圧力の美かもしれません。「さすがに日本人のベストチョイスですね」と言うのは冗談半分にしておきましょう。

 

 嘉辰令月という言葉もあります、“美しい季節のおめでたい日”のこと。お祝いごとのご挨拶を「かしんれいげつの今日の日」と始められたらタイムリーと思いますよ。

季節はやっぱり花咲くころがいいですね。ふふふ。