2018年6月28日「在フランス保健医療専門家ネットワーク」が、パリのレストラン「POMZE」にて開催されました。私は出席が叶わなかったのですが、書記として(前回の記録→★ )、またドクターの有意義な研究内容を世界発信すべく、ちょっと時差がございますがレジュメをお届けしたいと思います。

  

 今回は東北大学小児科よりパリ一の国立小児病院ネッカー (ネッケール) (Hôpital Necker-Enfants malades と研究機関であるHuman Genetics of infectious Diseases Laboratory Imagine Institute-INSERM U1163 にご留学中の森谷邦彦先生がご登壇なさいました。ちなみに世界的な遺伝子治療研究のメッカの一つがパリにあるネッカーになります。


 

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『原発性免疫不全症候群から学ぶ human immunology -新規責任遺伝子の同定の病態解析』

 

森谷邦彦先生

 

 免疫系とは「自己と非自己(敵と味方)を見分けることにより、病原体(非自己)から体(自己)を守る仕組み」です。免疫不全とは、この仕組みが破綻し、敵(病原菌)を見分けられない(and/orやっつけられない状態を言います。

 

 ちなみに病原体ではないものを攻撃するアレルギーや、自分をアタックする膠原病などの自己免疫疾患などもこの部類に入ります。

  

 この免疫の主役は身体中隅々までめぐってコントロールしている血液。よってT細胞、B細胞、好中球、好酸球、NK細胞などは全て骨髄にある造血幹細胞が起源となります。
  

 ★免疫不全症の原因は以下に分類されます。

 


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 後天性免疫不全症にAIDS=Acquired immune deficiency syndromがあるといえばわかりやすいですね。

 

 

 ★本題の原発性免疫不全症候群(PID=Primary immunodeficiency)です。


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 症候群というだけありまして、現在わかっているもので約350種類。世界中の研究期間で日々発見され更新されています。(森谷先生が同研究所にいらした1年半の間でも、新たに5、6種特定されたとか)

 日本の患者数は約1万人と言われ、厚労省では指定難病
です。小児発症が多いのですが、成人発症の例もあり、重篤ではない場合、“病気がちで弱いなあ”くらいで気がつかないまま人生を過ごされる方もいるとか。

 

 医学の進歩には病理ありき。この原因遺伝子の発見が正常免疫系のより深い理解に繋がり、免疫の絡む日常的な病気一般(花粉症や風邪、感冒などもそうですね)の病態理解に繋がり、最先端の遺伝子治療にも直結するのです。

 

 ★染色体上のマッピングをご覧ください。


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 PID基本的にX連鎖(X-linked)、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、de novo変異(突然変異)などの単一遺伝子疾患です。

 

 ★次は“血友病”で皆様もご存知のX連鎖性の例です。母親が保因者だと男子に50%の割合で発症します。


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 ★PIDの特徴に、繰り返す、治りにくい、普通じゃない(日和見感染)、重篤になる、などの易感染性、が挙げられます。


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 “最近妙に病弱になったかも..”“風邪から肺炎になりやすい”など、心当たりのある方は、厚労省のHPにてチェックしてください。→http://pidj.rcai.riken.jp

 

 ★診断は以下のように4ステップあります。


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 最終の4ステップ目(遺伝子解析)がまさに今回のお話し。

 

 ★フローサイトメーターという解析機械を使います。


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 ★蛍光で細胞をラベリングしそれを解析します。


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 ★次にPIDの治療法です。


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 抗真菌剤、抗菌剤などの予防内服や免疫グロブリン補充療法など。

 重篤例は早期に根治的治療である、臍帯血や骨髄による造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation : HSCT)が選択されます。

 

 ★Bubble Boy重症複合免疫不全症(severe combined immunodeˆciency : SCID)の例


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 PIDで、過去一番有名な患者といえば、生涯に渡り無菌管理バルーンの中で暮らしたテキサス生まれのDavid少年です。あらゆる病原菌の耐性がなく、外界から完全なる隔離をしないと致死的でした。外に出るときにはNASAの作った特製の宇宙服のような無菌衣が必須でした。
 David少年は12歳の時、残念ながら骨髄移植の4ヶ月後、ドナー(姉)由来であるEBウイルス関連の悪性リンパ腫で亡くなってしまいます。

 

 ★PIDも早期発見、早期治療が大原則。SCIDであっても、感染にかかる前の移植で予後好成績。

 

 ★新生児期での発見、マススクリーニングが有用です。アメリカでは2014年の時点で新生児300万例のうち52例のSCIDが見つかり、造血細胞移植をはじめとした早期治療にて92%が生存という成績を残しております。

 日本では名古屋で年間2、3万のスクリーニングがなされております。全国規模の実施を期待したいところです。


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 ★次世代のシークエンサーWESWhole-exome sequencing


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 今回は、PID疾患の遺伝子解析の現状についてのお話しでした。森谷先生によりますと、原因遺伝子の同定、発症機序の解明、治療法の標準化、遺伝子治療の臨床研究には、日本のみならずアジア、世界全体でのコラボレーションが必須であるとのこと。

 

 なんと現在すでに5万円程度で詳細に渡る遺伝子解析が可能だそうです。あと5年もたてば、より廉価でより精密なデータが提供されることでしょう。自分のDNAを知るのが当たり前の時代到来というのは、このような人道的な恩恵こそ、多く被らねばなりません。今後の動向に目が離せませんね。

 

 森谷邦彦先生、この度のお話しで、いかにわたくしたちが免疫の力で守られているのか、再確認できました。何よりワクワクドキドキの未来医療、最先端のお話しを誠にありがとうございました。


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<追記!>

 9月12日、フランスをご訪問中の皇太子さまがネッカー(ネッケール)小児病院を視察なさいました。日本人研究者として森谷邦彦先生のご面会の様子が、朝日新聞デジタルに掲載されております。→★