by courtesy of Mr.Koichi
Nakazawa
The north poleからの寒気団が欧羅巴に研いだ爪を伸ばそうとしていました。大雪が数日は続きそうな予報です。「やれやれ」 私の逃げ足はいつものように速く、雪降りだしたシャルルドゴール空港から、あわやのところでsouthboundの機内に駆け込みました。
乳と蜜流れる南の国に着いてSNSを覗くと、思ったとおり、つい数日前までお喋りに興じた友人たちはみな、白銀のマジックに翻弄されております。
けれど私は雪のニュースとともに紹介された、150年前の新聞記事に心惹かれました。
――1867年、小説家のエミール・ゾラは、光の街に雪が降った様子を、素晴らしいポエムとして提供しました。「我々は皆、愚かな幸せ者だ」と、彼は恋人の<純白と貞操>を再認識したことに狂喜していたのです。
ゾラはパリの街との恋に落ちていました。恋人であるパリが純白のドレスを纏っていることに感嘆し、その美しい光景に幻惑されて、こころ奪われてしまったのです。
『Le Figaro』 1867年1月17日に掲載された記事(抄:意訳)
夕暮れが深くなると、灰色がかった茜色の雲が地平線から浮かびあがって、ゆっくりと大空を満たしていく。小さな冷たいため息で、空気が震える。大きな静寂が、空間のすき間を凍りつかせて、パリは眠りに就く。冷たい穏やかな宇宙空間に、雪がゆっくりと舞いつ、降りてくる。空は、静かに眠っている純粋で無垢な処女である都市を覆う。
1月2日の朝、パリが目を覚ました。パリは、夜の間に、新年を迎える純白の服に着せ替えられたことを知る。パリは若返り、あどけなくなった。もはや、セーヌも、歩道も、石畳も消え、通りは大きな白いサテンのリボンとなり、広場は白いデイジーの咲く芝生となった。くすんだ屋根の上にも、冬のデイジーが咲いている。サンルーフ、ウィンドウ、門扉と木の枝らは、華奢なレースで縁取られているのである。
それらは、新しい年の、若いえくぼの、やわらかい少女そのものであった。彼女は泥に汚れ、塵にまみれた古着を脱ぎ捨て、新しく美しいコットンのスカートを身に着けていた。彼女は吐息をもらす…。
雪はすべてを白一色のベールの下に隠します。汚れも醜さも見えなくなります。
雪さえ降れば、一千年を超す歴史のパリの――若さとともに懊悩があり、絢爛の裏に老残が貼り付く――成熟した大人の都も、一夜にして<無垢なヴァージン>に変身できるというのです。これぞパリマダの真髄なのかもしれません!
「フランス万歳!」 はるか遠くカナンの地で私は喚声をあげました。