先日、恒例の在フランス保健医療専門家ネットワークの新年会&例会が凱旋門近くの日本料理店で開催されました。

 このネットワークは、2003年在仏日本大使館医務室を事務局とし設立され、年に数回、情報交換と勉強会を開催しております。専門科の枠を越え、日本語で医療について語り合える重要な場であると同時に、テロや災害、パンデミックなど、多数の邦人が病院に搬送されるような緊急事案発生の際には、ネットワークの先生方に協力をしていただくことにもなっています。
 さて今回の勉強会のご登壇は、当ネットワークの会長で、パリでデンタルクリニック開業22年、インプラントのスペシャリストである谷村玲実先生 です。


 

 


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 タイトルのバックは谷村家の家紋だそうです。

 


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 一番古いインプラントは、なんと紀元前5000年頃の人骨で見つかりました。1970年代にアルジェリアのコンスタンチンで発掘されたもので、骨で歯の代用をしています。元々の骨と結合していることから“インプラント”として考古学者は発表しています。死後に埋入されたものではないということです。

 


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 他にもエジプトや中国で金属製のもの、またフランス北部のケルト村からは紀元前600年の鉄製の歯など発掘されましたが、これはおそらく何かの儀式用であったて、死後に欠損歯部に入れてたものと考えられています。つまり、飾り物でインプラントとは呼べません。一方、ホンジュラスで真珠貝のものが発掘され、骨と結合していることからこれは正にインプラントで歯として活用していました。

 


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 近代的インプラントが臨床例で登場するのは1913年。アメリカのグリーンフィールドがバスケット型のインプラントを開発したのが始まりです。

 


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 当時は10年での残存率40%ほどでした。その後、各国で様々な素材を使い、様々なスタイルでの挑戦が続きます。日本でも阪大でサファイヤインプラントが開発されました。( ̄○ ̄;)この時点でわたくし、谷村家の家紋がもうインプラントにしか見えなくなりました。

 


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 1952年、アレルギーフリーのチタンが骨と結合すること(オセオインテグレーション)がスウェーデンでの研究でわかり、その後、スクリューチタンの臨床応用などを経て、1982年。16年経過後で残存率90%以上という、当時では驚異的な臨床成績の症例がブローネマルク教授によってトロントで発表され、一気に世界に拡散されます。

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 インプラント設置後、生体ナノレベルではどういう変化で結合されていくのでしょうか? 骨も破骨細胞で壊され骨芽細胞で新生されていくことを間断なく繰り返します。そのダイナミックな動的平衡の中に組み込まれていく無機物質であるインプラント。共存する生体の神秘をビデオで拝見しました。

 

 後半は実際に谷村先生が執刀なさった症例紹介ですが、閲覧要注意ですので、一番最後にまとめますね。

 

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 インプラント治療で大事な要は大きく二つ。一つは土台である上下両顎骨がしっかりしていることです。丈夫な下顎骨に比べ、上顎骨は海綿骨であり上顎洞もあるから、より留意しなくてはいけません。顎骨の欠損の場合は、骨の移植等で代用し、その程度によって、一回法か、二回法かが選択されます。負荷モードも従来法(数週間から数ヶ月インプラントに負荷をかけない)と即時負荷(インプラント上に歯を直ぐに設置する)があります。これも症例によって適切な負荷モードを選択します。

 もう一つは感染対策。3の症例(このページの最後参照)での全抜歯施術をした理由は勿論、動揺歯がほとんどでしたが、歯を抜くことは、実はこの病気(歯周病)を無くす一つの手段です。口腔内のフローラが、嫌気性菌が殆どないいわば赤ちゃんと同じになり、インプラント生存にふさわしい環境となることが理由です。ちなみに全抜歯の場合でも全ての歯根にインプラントを埋め込むのではなく、インプラント数を最小限にして、下顎で4本、上顎で6本のインプラントで補えるとのこと。上顎に4本でしか全歯を支えない技法(All on 4)もありますが、長期間の依存率を見ると下顎とは違って6本以上あった方が安全だそうです。

 画像に冷や汗書きながらもゴッドハンズ、匠の技をまざまざと拝見しました。

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 今後の展開の一つはインプラントを光機能化することによってハイドロキシアパタイトや、従来ですと50%前後の骨細胞の包囲率が100%近くになるというスーパーオセオインテグレーションです。 二つ目のアプローチが成長因子(骨形成タンパク質:BMPや、FGFTGF—β、IGF-1など)の導入で、骨補填材に浸透させてインプラントの支えとなる骨の増殖を試みるものです。これは、日本やヨーロッパでは歯科領域でまだ認可がおりていないそうです。今後の導入が期待されます。

 

 従来の入れ歯に比べ、審美的にも機能的にも優れ、お値段的にもLUXなインプラントですが、禁忌例もあります。

1、心臓弁膜症(但し心臓外科医と相談で可能なことも)

2、臓器移植などで免疫抑制剤使用中

3、顔面付近に放射線治療中

4、アグレッシブなステロイド治療中etc

 ご高齢の骨粗鬆症については、禁忌ではないですが、BIPHOSPHONATEなどを長期+大量に服用された方は顎骨の壊死現象がありますので要注意

 

 

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奥様、クロード(Claude)さんと。
 

 谷村玲実先生、貴重なお話しをどうもありがとうございました。歯の重要性を再確認すると同時に、もしもの時でも素晴らしいインプラントという選択法があること、その技術の進歩にも感動しました。

 

Dr. Rémy Tanimura

8 place du général Catroux

75017 Paris - France

Tél. : +33 (0)1 56 33 39 00

 

HP     

 

以下は、症例画像です。閲覧注意!

 

 

 

 

 

 

1、先天性欠損(上顎犬歯)

 


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2、外傷

 


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3、重度の歯周病による全抜歯


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