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 知り合いの人から「あなた、ご自分のお誕生日の旧暦がいつか知ってるの?」と訊かれました。そんなことは知りません。その人は、亡くなったお母さまから「あなたを産んだ夜の月は皓々として、そりゃきれいだったよ」と、何度も言われたそうです。

 「母が亡くなって、どんな月の夜だったのか調べてみたの。そうしたら旧暦の9月13日に私は生まれていたのよ。素敵だと思ったわ」と言うのです。旧暦8月15日が中秋の名月であるように、その夜の月は十三夜の月とか栗名月あるいは後の月とか言うそうで、名月が二度あるのは日本だけの風習だとかで、中秋の名月と両方見なければ、片見月で風流じゃないそうです。


 わたくしも気になって調べてみました。なんと、わたくしは旧暦では11月1日、新月の大安の日に生を享けていたのでした。新月満月とともに月の引力がマックスとなる大潮の日です。母からは難産だったと聞きましたので、大いなる月の力によって生まれ出ることができたのかもしれません。

 西洋の月の女神はアポロンの妹であるギリシア神ルーナ、同一視されるのは新月の銀の弓を手にする乙女ディアーナで、英語名がダイアナで貞節を司る狩猟の神です。中世には異教の神となって、夜の闇の中でディアーナに率いられた魔女たちは、野獣に騎行して徘徊したと伝えられています。ほれぼれする話ですね。

 日本の月の神は月読神(ツクヨミノカミ)。鎮座しているのは山形県の月山です。松尾芭蕉も登拝して「雲の峯いくつ崩れて月の山」という句を詠みました。農業の神、航海漁労の神として尊崇され、修験道では東国33か国総鎮守の神となっています。

 月の神は女性を守り開花させる力を持つといわれ、東北地方では西の伊勢参りに対して東の奥参りという人生儀礼が盛んです。夏の短いシーズンには成人前の白装束の女性たちが、咲き乱れる高山植物の花々と妍を競って眩いほど登ってきます。―男性の皆さん、月山の夏は本当に眼福ですよ!

 伊勢の太陽の神も女性ですから、日本の神様は女性にやさしく、だからこそ日本の男性も女性を大切にしてくれるのでしょう!?問題は“大切にする”ことの解釈ですね。


 わたくしの生誕の地は東京。月もない都会の夜というより、ネオンの眩しさに月をも隠れる大都会で呱々の声をあげました。「十三夜なんかより、新月の闇の中でひそかに生れたほうが野獣らしくていい」と言った方もいました。

 今年の旧暦11月1日は11月29日、大安の火曜日でした。折しも神戸での初トークショーの日 。新月の闇に杯を挙げ、想像力を羽ばたかせて、今年最初の誕生日を楽しんだのでした。

 それからしばらくしてつい先日、私は2度目の誕生日を済ませたばかりです。皆さん、過ぎ去った日は戻ってきません、来るべき来年のお祝いメッセージを楽しみにしますね(オニさん、笑ってるわ)。