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 中野香織さんから「生涯男性現役」「生涯恋愛現役」の書評をいただきました。

身にあまる光栄と恐縮しております。

ありがとうございました。

 

中野香織さまのブログ→★


 「安っぽくない潤い、とげとげしくない知性、いやらしくない官能」――そんな表現。過褒に過ぐるというより、仰天し戦いております。

 中野さんの文章を拝読していて、浮かんだイメージの最初はアスリートのシルエットでした。リオのオリンピックからの連想もあるでしょう。一切の贅肉を削ぎ落してアリーナに立っているアスリートは、身ひとつですべてを引き受けている潔さがあります。虚飾をかなぐり捨ててグイと論理で迫られる、男前です。

 

 文章には香が立ち色があります。どんな彩りなのか。たとえば、初夏から夏にかけて高原を彩るサラサドウダンはどうでしょう?

 ドウダンはドウダンツツジで、いっぱいに枝分かれして咲く花の形状が、昔かがり火に用いた結び燈台に似ていることからの命名といわれます。その一種であるサラサドウダンの花は、下向きの先端が淡いルージュで、それは花の下部から流れ落ちた紅涙が溜まっているかのようで、更紗染の模様そのものです。


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 更紗はヨーロッパから日本まで、ユーラシア大陸を横断する木綿の文様染めです。発祥はインド・ペルシャ周辺で、文様のデザインはシルクロードの昔から正倉院にも伝えられています。木綿染めは室町時代以降の大航海時代に日本に入って、江戸時代には国内各地でさかんにつくられました。植物や動物の抽象や微視的表現、ローカリティーの中にあるグローバリズム、イスラムのアラベスクや仏教の金剛界胎蔵界曼陀羅図など超常的宇宙観への発展ともなりました。

 

 更紗は日本語です。英語ではCalico、中国語では印花布とそっけない。でも、ドウダンツツジの中国語は満天星だとか。無数に分かれて広がり咲き誇る花の数々が、満天の星々のようだからだそうです。文字としてはこっちのほうがキラキラしてますね。

 中野さんの文章には更紗満天星のように、小さな素朴な花に宇宙まで含まれているような不思議さがあるように思います。