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先月末に降って湧いた「
大家の息子がそこのアパルトマンに住みたいというので、6月までに退去してほしい」という引っ越し通告。部屋はボロボロで、しょっちゅう水回りが故障し、その割に高く、決して住み心地がいいわけではなかったので、いつかは別の場所へ、と思っていたのは間違いないのですが、期限を切られるとそれはそれで辛い。何よりパリ文化の発祥の地である左岸のカルチェラタンには大変愛着はあります。ふぅむ。

 

山手線内くらいの広さしかないパリは19世紀や20世紀半ばに建てられた石造りのアパルトマンが主流で、中には歴史的建造物に指定されているものも。古い外観や水漏れなどメンテナンスが多いのが難点ですが、懐古的でなんとも風情があるので人気なのです。特に中心部は慢性的な住宅難で有名なパリの物件探し。アラブの富豪など一部の富裕層を除き、地元民も四苦八苦、条件の悪い外国人労働者ならひとしお。賃貸物件は空きなく稼動し、優良物件は口コミ、あるいは募集してすぐにかっさらわれると言われます。

探し方は定番である地元と日系不動産、フリーペーパーや掲示板、そして知り合いの口コミなど。全方位で開始しましたが帯に短し襷に長しでなかなか見つかりません。そんな時に息子が一言。“ネットでも探せるよ”はっ。そうね。一番便利なのを忘れていたわ。

 

利用したのはフランス最大手であるPAP
www.pap.fr )という大家さん直接交渉用サイトです。でも、便利というのは、皆も同じことを考えるので倍率が高いということでもあります。また不動産仲介料には互いの身元の確認なども含まれているでしょうから、そういう意味でリスキーな部分も多々。とはいえ、個人契約とは非常にフランス的でもあります。以前見たTVのドキュメンタリー番組の1シーンが蘇りました。朝募集かけると、いきなり多数の希望者。内覧は時に複数グループで。ここぞの物件では、その場で小切手を切る思い切りの良さが必要。とにかく優良人気物件では募集初日の夜までに入居者がほぼ決まってしまうと。入居希望者側では、まず大家とコンタクトとるのが至難の技。何とか見学できても30件以上交渉して未だ決まらない人もたくさんいるとか。


“ダメ元。とにかくトライ!内覧だけでもできればラッキー。それも今後のためになるでしょう。何事も経験だわ。”地区、予算、広さ、エレベーターの有無など条件を絞り、8つ程チョイスしてメイルでアプローチしてみました。翌日までに4つの大家さんから返事が来まして、そのうち2つは、すでに有り余る候補者がいるため申し訳ございませんと、丁寧にお断りされました。残る2つは見学OKではありましたので第一関門突破です。

一つ目の物件はパリのド中心にあります。交渉役の息子のヒゲを剃らせ、身なりを出来る限り整え、特に靴の輝きには気をつけ、いざ出陣。そして指定された住所にたどり着くと….


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久々のこの熱い気持ちはナニ!?なんとわたくしも息子も一目惚れしてしまったのです。大家さんではありません、その門を開けてはじめに目に入った共同玄関の雰囲気に。おまけに部屋の明るさや大きさといい、申し分ありません。ここは争奪戦が激しそうだということはすぐに理解できます。お父様が不動産をしていて、ここは持ち家の一つという大家さんから、朝からすでに4人見学に来ていると聞き出しました。(そしてわたくしたちの後にも
….

まさか初回でいきなり理想に出逢うとは思っていなかったので、収入証明どころか身分証明も何も、手ぶらで来てしまったわたくし。ちなみに一般的に提示する書類というのは以下のものです。パスポートや滞在許可証など身分証明、収入証明、納税証明、現時点の居住地のガス、電話代支払い書、家賃1年分凍結の銀行保証、保証人なら家賃の3倍の収入証明など。

 

まずは誠実でキレイ好きな日本人のアピールをし、パリの中心に15年以上住んでいる、銀行証明は以前していたので問題がない、引っ越しは出張の関係で1ヶ月以上先になるが、その間の家賃も払うつもり等、熱意を持って話しましたが、“書類がないので何とも言えません。とにかく全て揃った時点でメイルしてください”とだけしか言われませんでした。そりゃそうだ。
息子は“僕はヒゲを剃ったのに、ママは何にも準備してこなかった。どうしてぇ。”“まだ間に合うかも。やるだけのことはやるわ。あなたには(よい社会勉強になるから)交渉の窓口、頼んだわよ!”マレ地区にある2件目も見学しましたが、最初の物件の良さが際立つ結果に。。。とにかく本気出してしばらく頑張ることにしました。

 

大家さんの言いつけを遵守して書類が全部揃うまで待っていたら一週間もかかってしまい、その間に他のフランス人に取られてしまうのは火を見るよりも明らか。まずは直近で延期可能な用事を全てキャンセルし準備開始しました。口座の送金証明、残高証明、配偶者の収入証明(翻訳)も頼む。手元にある日本語の書類もまずはフラ語を手書きで書き足して送る。1か月半はかかるという保証を銀行に数日でなんとかならないか交渉しに行く。一番避けたくはあるけれど在仏の保証人探しも念頭に入れる。あっ。その前に家賃の前払いを交渉かな。とにかく息子には、熱意を持って連絡を取り続けるように言い渡しました。

 

2日目の夜のことです。息子が顔を上気させて報告に来ました。“大家さんから連絡入った!熱心で真面目そうな貴方に決めたって。早速ですが小切手を送ってくださいって。うまく進んだらこの週末に契約の予定だって。”

やったーーー!息子と小躍りです。とはいえ“うまく進んで”最終的にサインするまではまだ何があるかわかりません。口約束は何の意味もなさないのがフランス式契約社会。そして小切手は送るけど、それはそれで大丈夫でしょうねぇ。巧妙な詐欺だったりしたら。。。


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暇があると脳は悪い方向に考えがちになるので、悲観的思考停止のためにも淡々、黙々と断捨離&荷造りを決行しました。“今までなんとかなったのだから、今回もきっと大丈夫だわ”と自分に言い聞かせ。

 

……一時帰国も迫り超多忙な毎日を送りつつ、はたと気がつきました。

パリの部屋探しは日本的婚活に似ているかも~。タイミングが全て、相性大事、条件に優先順位をつける、チャンスをものにするため自己アピールをする、時に重なる乗り換え期間(家賃二重払い)、そして年収をあかさなくてはいけないこと含め!? 

さて、わたくしたちの「住活」は果たしてうまくいくのかしら。

 

つづく……