記念碑

ベルリン出張中に、幸運な事に以前より訪れたかったある場所に行く事ができました。それが『虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑』(通称、ホロコースト記念碑 )です。こちらは約2万平方メートルに及ぶ広大な広場に、高さがまちまちな2711もの石碑が整然と並んでいます。一見墓標のようですが、象徴的なモニュメントとのこと。この異様ともいえる非日常的空間は圧倒的存在感で人を惹きつけます。

ここはドイツの首都ベルリンのブランデンブルグ門や国会など政府機関のすぐ近く。後世の人々が人類最大級の負の歴史を決して忘れないようにと語りかけるのには、これ以上最適な場所はないでしょう。
ここには街の壁によく描かれてあるあの陽気な落書きは一切見当たりません。


空


奥の方に進むにつれ、がぜん石碑は高さを増し逆に地表面は沈みこんでうねりがひどくなり、平衡感覚が失われます。視界も狭くなって、まるでラビリンスに迷い込んだような不穏な気分に......こちら24時間開放されているのですが、日没後に入るのは勇気がいりそうです。


ラビリンス

見上げると鎮魂の十字架がネガのように浮かび上がりました。

広場の地下にはユダヤ人の迫害の歴史の一大情報センター(無料)があります。その入り口のところに、印象的な文章が刻まれていました。


『そのことは起こった。起こったということは再び起こりうるということでもある。それが記憶するということである』


6百万ともいわれる犠牲者たち。その悲痛な声ならぬ声が心に響いてきます。家族に宛てた最期の手紙、何かを訴えるような物憂げな顔、豊かで幸せだった頃の家族のポートレート、胸が熱くなり目が潤んで直視できません

『名前の部屋』というのがありました。そこには全ヨーロッパで殺害された、ユダヤ人達の名前と略歴を読み上げています。全員の分を聞くのに、約6年7ヶ月と27日かかるそうです。

以前訪れたアウシュビッツ収容所の記憶 をまざまざと思い出し、予想通りにまた心の古傷がズキズキと痛みました。
そして痛烈に感じました。この悲惨な史実を内在化しているドイツの姿勢も見習うべきだということを。合掌。

壁

下にちらりと顔を出しているのは今年で崩壊25周年のベルリンの壁。バックには再開発されたソニーセンター。そういえばこの街も空襲で徹底的に破壊され、さらに冷戦によって壁で真っ二つに分断された歴史を背負っているのでした。