蒼い月夜。鬱々とした森の木々にかかる靄。そして、葬儀用の黒馬車が駆け抜ける……。勝手に夢見た、私のイメージの中のトランシルヴァニア地方。トランシルヴァニアは “森の彼方” という意味です。

ところが、そんなドラキュラ映画の舞台のような場所は、どこにも見当たりません。たまに日本の前方後円墳みたいな感じに、緑の集落が見えるくらい。時代とともに消えてしまったのかしら? それとも陽気な夏だから?

少なくとも今回巡ったヴラド公ゆかりの土地は、鬱蒼とした森でも、荒涼とした寂しい台地でもありませんでした。しかも山間部や川沿いでは、若者たちやファミリーが太陽の光を存分に浴びながらキャーキャーいって、キャンプなんぞしております。それでも、夜には野犬に狼、熊なども出る、要注意の場所もあるのだとか
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大昔から “野生” が息づく土地。地元を知らぬよそ者が勝手にキャンプをしては危ない、そんなお話も聞きました。

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という訳で、今回はもうひとつの “本物” のドラキュラ城のお話です。

戦局の変化で宮殿のあったトゥルゴビシュテももはや安全ではないと考えたヴラド公は、ブカレストから
250km離れたアレフ村近くの、四方すべてが断崖という険しい山頂に築かれたポエナリ城を難攻不落の砦にすることに決めました。現在では整備されてなんと1480段の石段を登れば辿りつけますが、当時はもちろんそんなものはありません。ヴラド公はここに妻をかくまうのでした。

そして
1462年秋、 “遠征に出ているヴラド公は死んだ。城もすぐ敵陣に包囲される” との偽情報を受け取った妻が、この城の断崖から谷底を流れるアルジェシュ川に投身自殺したという言い伝えが有名です。フランシス・コッポラのフィルム『ドラキュラ』の冒頭部分も、この言い伝えをベースに作られているようです。

ところが今回、公にされていないショッキングな “もうひとつの言い伝え” を、現地の人からうかがいました。傷心の身で投身自殺したとされる妻ですが、真実は違うのだ……と。

妻──実際には内縁の妻であったらしい──を、ヴラド公は心から愛しておりました。愛し過ぎていたともいえます。妻の自分に対する永遠の愛情が不安になったヴラド公は、ある時、「私以外の男を好きになることはあるか? ないか? 正直に答えよ。虚言は見ぬくぞ」と尋ねました。妻は「もちろん貴方だけを愛していきます」と答えました。ヴラド公は「それはウソだ! どうしてウソをいうのだ!」といい、なんと妻を崖から突き落としたというのです。彼女を永遠に自分のものにするために……。ヴラド公には、そうした自虐的で大変に嫉妬深い一面もあったそうです。

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写真はドライバー兼ガイド兼ルーマニア語通訳のヴァリさん。まるで学者さんのように、膨大な知識を持って、私の質問にさらさらと答えてくださいます。彼からももちろん、
地元の方からも事前にいろいろとお話をうかがいました。

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ここが山の麓からポエナリ城へと登る、その入口です。

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そして、こんな感じの急な勾配をうねうねと
1480段。……もう足はガクガク。果たして登った先にあったものは……?

この先、閲覧注意です。

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うぎゃぁ~~~\
(o)/!

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なんとお城の入り口では、リアルに血塗られた串刺し人形がお出迎え。怯んでる私にヴァリさんは、サラッと「串の先は実際には背中じゃなくて口から出てたんだけどね」とかなんとか……
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当時、この石やレンガをどんなに苦労して積み重ねていったことでしょう。このお城自体、自分を裏切りそうな可能性のある貴族達の一家を強制労働させてヴラド公が作らせた、という言い伝えがあるそうです。

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ウラド公の妻が身を投げた(落とされた?)という場所。

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ひとつ前の写真ではどれほど凄い場所か判りにくいかと思いますが、現地で買ったお城の修復前の絵葉書の写真を見たら……。身がすくみました。

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今回のお話はちょっと強烈だったでしょうから、癒しのオマケ。「ドラキョロ、本物のドラキュラ城にいく」の巻でした。