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在仏邦人の健康を守る、パリ日本人メディカルチーム。日本大使館のテラスにて。
写真提供:クリストフ・クリタ氏


先日、在フランス保健医療専門家ネットワークの会が、日本大使館で行われました。今回はフランスの医学教育を受けられ、パリでドクターとして活躍なさっている金久章先生の御講演がありました。

前半は『腫瘍微小環境の放射線療法への影響、Autophagy (オートファジー、自食)のメカニズムからの分析』という、これからの癌治療の鍵を握る研究についての興味深いテーマでした。

マウスを使った比較実験で以下の事が結論づけられたそうです。

A:細胞のオートファジーを抑制すると、放射線治療感受性(効果)が上がる。 
B:Aの治療効果の向上は腫瘍微小環境の影響で大幅に減少される(腫瘍微小環境は:*細胞外マトリックス *繊維芽細胞 *免疫システム *腫瘍の新生血管による低酸素症)。

ちょっと難しいお話になっちゃいましたね。

先生の御講演の中で私がとても印象的に感じたフレーズがあります。“新しい診断法、治療法の発展で癌自体が完全に治らなくても寿命が飛躍的に伸びることで、癌は死に至る病から、高血圧や糖尿病と同じように持病に変わることができるであろう”という部分でした。まるで闇の世界に光明が差したような明るい気持ちにさせてくれます。

そして、後半はお待ちかね。現在のフランスと日本との医学教育制度の比較についてのお話でした。ベールに包まれた( !?)フランス医学教育の実際について、ちょっと御披露いたしましょう。

☆フランス医学教育のウソ&ホント

1:フランスには、医学部は国立しかないって本当ですか?
日本と違い、私立公立はありません。基本すべて国立で、例外的にカソリックの医学校があります。よって学費は、私の場合、年間6万ほどでした。

2:BAC(バカロレア:大学入学資格国家試験)に受かれば誰でも医学部に入れるって本当ですか?
はい。建前ではそうですが、実際は少し違います。BACには文系、理系、社会経済系がありまして、基本理系、または文系でも、成績優秀者が医学部に入ることが多いです。またBACを受ける前に3つの志望大学を選ぶのですが、Mention(*註)があった方が第一志望に入りやすいと思います。けれど好成績がなくても、選択権が少なくなるだけで医学部に入れます。
*註:Mention → BACが高得点ですと、秀(16~18点/20点)・優(14~16点/20点)・良(12~14点/20点)・という評価がもらえます。

3:基本、全員受け入れられるとなると、医学生だらけになるのではないでしょうか?
確かに1年次はそうともいえますが、2年次に進級する時点で大選抜が行われ、そこでドラスティックな人数調整がされるのです。例えば1年度生徒数が1300人程度とすると、2年度には定員制で200人程度に絞られます。よって、1年次はそれこそ大変な勉強量となります。私は図書館と家の往復のみでしたね。ちなみにパリは激戦区ですので、わざとレベルの少し低い地方やベルギーへ行くという選択をする学生もいます。
選抜に漏れてしまった多くの学生は次の年も挑戦できますが、留年は一度限りしか認められません。一度入学できればしめたもの、という日本の医学部との大きな違いです。ちなみに現在、医学部2年次はなんと7割が女性だそうです。

4:2年次からはどういうプロセスになりますか? 日本のような医師国家試験はあるのでしょうか?
2年次からは総合大学病院(俗にいうCHU)の中で講義を受けますので、病院内へは早い時期から出入りするようになります。勉強自体はかなり大変ですが、2年次からは上に進級しやすいですね。4年次からは医学士として、小額ではありますが給料も出ます。このころから簡単な医療行為や当直もするようになり、いろいろな科を回ることになります。そして6年次の大学卒業時にコンクールがあります。医師免許取得は、専門課程が終了する3~6年後になる(次項参照)という長い道のりです。そして日本のような医師国家試験は存在しません。 

5:専門医と一般総合医(ジェネラリスト)はどう違いますか? 
ジェネラリストは卒後さらに3年、専門医は約4~6年かかり、最後に論文を書きます。最終的には試験官3人ほどの口頭試問があり、無事に審査通過すると、晴れて医師になれるわけです。そこで“ヒポクラテスの誓い”を宣誓します。日本ではそれぞれの学会が別々に認定している専門医制度ですが、フランスではこのように、一貫してカリキュラムに組み込まれております。

6:希望した科には誰でもいけるのでしょうか?
科の選別ですが、卒業時コンクールの成績順に入りたい科を申請します。行きたい科があっても、人気が高ければ成績がよくないと入れない、ということになります。厚生省が毎年、各科の定員を調整するので、それにのっとって決める感じです。現在の人気の科は将来的に美容にも携われる“形成外科”そして“整形外科”。逆に不人気の科は“小児科”“産婦人科”“精神科”などですね。ところで日本では比較的自由に“転科”できますが、フランスでは1回限り。それも結局コンクールの成績で決まりますので、希望通りいくかどうかはすべてそれまで自分が獲得してきた成績に起因する、といったイメージですね。

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金久先生、御経験に基づいてのいろいろ貴重なお話を、どうもありがとうございました。他にも学位取得について、なぜか複数いる教授の不思議について、コンクール時の“仏式イヂワル”についてのお話などでも大いに盛り上がりました。(^v^)

ちなみに金久先生ですが、パリ市内NATIONにあるZAQUINE診察所にて、毎週土曜日とバカンスに、予約制で日本語対応可の診察を行っていらっしゃいます。

Dr. Akira KANEHISA (内科・小児科)
Cabinet du Docteur ZAQUINE 

22, Place de la Nation 75012 Paris
Tel: 07.87.45.55.85

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画像提供:金久章先生