自分の半生を振り返った時、私にはバレンタインデーに女性からチョコレートをもらった記憶がほとんどありません!(キッパリ!)
そんな私ですが、いまだに忘れられないバレンタインデーの思い出があります。
それは、もうかれこれ30年以上前になりますが、私が小学校4年生の時のお話です。
小学校4年生の春のことです。進級したときにクラス替えがあり、新しいクラスにもたくさんの友達ができました。私は相変わらずのお調子者で、よくイタズラをして先生にしかられたり、当時流行ったドリフターズのまねをしたりしてクラスのみんなを笑わせていました。男子、女子を問わずよくワイワイ遊んでいたものです。
そんな中で、休み時間にはいつも教室のスミでおとなしく数人の友達と遊んでいる女の子がいました。その女の子は田舎の学校には少し似合わない感じの、まじめで勉強ができて身なりもちゃんとしていて、いわゆる女の子らしい女の子でした。
仲のいい友達の女子には元気で活発な子が多く、私は少し感じの違うその子のことがとても気になっていました。
その後、確か同じ班になったときだったか、その女の子と席が近くなり、時々会話をするようになりました。よく周りの友達は私がつまんないギャグとかすると大笑いしたり、「つまんね~!」とか言って突っ込んでくるのですが、その子だけはチラッとこちらを見るだけですぐうつむいてしまい、あまり私のギャグで笑ってもらった記憶がありません。
でもその横顔は少しニコニコと微笑んでくれているように見え、それがなんだかとてもうれしくて、もっと笑ってもらおうと、その子の前ではさらにおどけたりはしゃいだりするようになりました。
その女の子が学校を休むと何だか張り合いがなく、学校の行事で違うグループに分かれた時などはすごく残念で、その子のことがとても気になってしまいます。でもそのころの自分にはそういった気持ちが一体何なのかよくわかりませんでした。
そして3学期の2月。クラスの女子はバレンタインデーのことで誰にあげるとかあげないとかで盛り上がっていました。そんな中、あまりそういったことにまだ興味がなかった私でしたが、ただひとつ、その女の子が誰にチョコレートをあげるのかだけはとても気になっていました。
そして2月14日。
いつもより少し早めに学校に行きました。ランドセルを置いて机に座り、教科書を取るフリをして机の下の棚に手を差し入れてみました。
「!!」
何だか手の先に四角い箱らしきものを触れるではありませんか。
「!! チョコ? 誰からだろう?」
すごく気になりましたが周りの友達の目があり、箱を取り出して確認することができません。
「あの子からだったらうれしいな・・」
ワクワクする気持ちと不安な気持ちが交錯します。
どうしても確認したい私は「あ、教科書忘れたかも。」とか言いながら本を探すフリをして机の下を覗き込みます。
箱が見えました。真四角の箱にはリボンがついており、そのリボンのところには小さな手紙がくっついています。友達に気づかれないように手早く手紙をめくってみます。
・・・!!
その手紙はずっと気になっていたあの女の子からのものでした。まだ手紙の中身は読めていませんが、差出人の名前だけははっきり見えました。
「やった~!」
思わずニヤケてしまう口元をぎゅっと引き締めて無表情を装いますが、どうしてもうれしさを押さえきれません。もうすぐ1時間目がはじまりますが、そうでなければ本当は教室を飛び出して校庭を走り回りたいくらいにうれしい気持ちでいっぱいでした。でもそれを表情に出すと私がチョコをもらったことが友達にバレてしまいます。友達に冷やかされるのがとても恥ずかしいので、気づかれないように机の棚の奥にチョコを押し込んで放課後まで隠しておくことにしました。
ところが・・
その日の授業が終わり、帰りの会をしている時です。
こっそりとチョコレートをランドセルに入れようとしたとき友達に気づかれてしまったのです。
「お~!こいつチョコレートもらってる!!!」
一気にクラスの友達が盛り上がりました。男子も女子も大騒ぎです。横にいた友達がヒョイと私の手からチョコを奪います。リボンについていた手紙を広げて、「うわ~○○からや~!!ヒューヒュー!」とクラス中に見せびらかしはじめたのでした。
私は顔が真っ赤になりました。そしてチラッとその女の子の方を見ると、その子もイスに座ってうつむいたまま顔を真っ赤にして固まっています。
まずい・・・
そう思った私は何を思ったのか、とっさに取られた手紙を友達から奪い返して、
「え~!、ぜんぜんこんなのに興味ないもん!!なんとも思ってないし!」
そういってクラス全員の前で、なんとその手紙をビリビリと破り捨ててしまったのです。
!!
クラスの男子からは相変わらずの冷やかしの歓声、女子からは「え~!かわいそう!」という悲鳴が聞こえてきます。
頭の中が真っ白になりました。
・・・
私はもうその女の子の方を見ることができませんでした。でも視野の端の方で見えるその横顔は少しこわばっているように思えました。
私はとんでもないことをしてしまったことに気づきました。しかし、もうすでにその手紙は、まだ中身を読んでないその女の子からの手紙は、細かく引きちぎられて教室の床に散乱してしまったあとでした。
・・・
・・・
春が来て、5年生に進級したとき、その女の子とはクラスが離れてしまいました。
その子と会話をしたのはあのバレンタインデーの前日が最後でした。
あの事件以来とても気まずくなってしまい、廊下であっても互いに目をそらしてしまいます。
その後、私は父の仕事の関係で5年生の終わりに県外の小学校に転校してしまい、それっきり現在に至るまでその子に会っていません。あれから30年以上たちますが、いまだにこの季節がくるとあの出来事を思い出して胸がぎゅっと痛くなります。
本当はチョコレートをもらってとてもうれしかったこと、
食べるのがもったいなくて1日1個と決めて大切に食べたチョコレートがとてもおいしかったこと、
そして、あの日だれもいなくなった教室のゴミ箱から、とても落ち込んだ気持ちで引きちぎられた手紙の破片を集めたこと・・。
ポケットの中で握り締めた手紙の破片の感触が、今でも手のひらの中に残っています。
素直に気持ちを伝えられなかった幼かったあのころ。
今思えば、これが私のほろ苦い初恋だったのかもしれません。
