何日か前のことです。私は駅の駐輪場に停めてあった自分の自転車を出して家に帰る途中でした。

 順調に自転車を転がして、駅前商店街から少し外れた、道幅はやや狭いながらも片側一車線の通りにやって来ました。

 しばらく道沿いに行くと、見知らぬ数名の人が道路の進行方向左側を漫ろ一列に歩いていました。歩行者専用路側帯はない道路です。

 私は自転車なので、当然道路の左側を通行していたのですが、間もなく歩行者の一団の最後尾を歩いていた初老の男性に後ろから近づく格好になりました。その瞬間でした。不揃いの長い髪に白髪が混じるその男性が、急に私の方を振り返り、「何やってんだ、お前は!」と叫びました。

 「はぁ?」と。こちらとしてはちゃんと交通法法規に則って自転車で左側通行をしているのに、堂々と左側通行をしている歩行者に怒鳴られる筋合いはありません。小学生の時に習っただろう、「人は右、車は左」だ、と言い返そうかと思いましたが、トラブルに巻き込まれてもいけないと、グッとこらえました。私は無言でその男性の側をスピードを上げて通り過ぎました。

 この例ように、道路はもちろん、駅構内でも、地下街でも、実に9割以上の人が左側を歩いています。これは、歩行者の安全にとっても、車両の安全にとっても、いいこところは一つもありません。もっとも地下街には車両は入らないので、左側に寄る意味さえありませんが・・。

 さらに、道路で左側通行の歩行者を後ろから自転車が追い超そうとしていている時に、たまたま自動車が後方から近づいた場合、瞬間的に左側トリプル通行になってしまいます。

 このように見ていくと、歩行者の左側通行は、極めて奇妙で無益な習慣と言えるでしょう。

 その点、JR東日本の三鷹駅では徹底して通行者を右側歩行に誘導しています。駅構内のみまらず、改札を出た階段や、隣接する駅ビル内でも右側歩行を貫いています。これは素晴らしい英断です。駅の中で左側歩行に馴らされてしまうと、道路でも左側歩行をするに決まっているのです。それを見事に阻止してくれるJR東日本三鷹駅の気高い見識には尊敬の念を禁じ得ません。