第17回:フェラーリに物申す(前編)
2024.03.13 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一 

昔のフェラーリは神がかっていた今も昔も“美しいクルマ”の代名詞とされるフェラーリ。

なかには「走る芸術品だ!」と言ってはばからない人もいるほどだが……最近はちょっと、どうにも様子がおかしい。

大乗フェラーリ教開祖とカーデザイン歴20年の識者が、“跳ね馬”のデザインを切る!

 

清水草一(以下、清水):今回のテーマは、「最近のフェラーリのデザインはなっとらん!」ということでよろしいですね?

 

(笑)渕野健太郎(以下、渕野):今回はちょっと、主観的な話になりそうですけど。

 

webCGほった(以下、ほった):どんと来いです。こういう企画は、方々で怒られてナンボですから。

 

渕野:ありがとうございます。スーパースポーツカーのブランドのなかでは、やっぱり今も昔もフェラーリが頂点ですよね。クルマに限らずすべてのブランドのなかでも、相当格は上ではないでしょうか?

 

清水:でしょうね。私は30年ちょっと前、初めてフェラーリを買うときには、「フェラーリはたとえ靴のブランドになっても残るだろう」って、自分で自分の背中を押しました。

 

ほった:実際、靴つくってますよね?

 

清水:ロイヤリティービジネスでね。

 

渕野:私がクルマ好きになり、カーデザイナーになった原点は、中学生の頃、父がお土産で買ってくれた『CAR GRAPHIC』の別冊でした。フェラーリの記事だけを集めた分厚い本なんです。それを食い入るように読んだんですよ。カーグラの最初の頃の、1960年代ぐらいの記事から90年代最初ぐらいまでの記事を、一冊にしたものです。ほった:『CAR GRARHIC選集』のことかな?

 

清水:私も持ってますよ!

 

渕野:当時、フェラーリのなかですごく気に入ったのが、「デイトナ」「BB」「308」「テスタロッサ」「F40」あたりで、後から調べたらピニンファリーナがデザインを請け負っていて、そのなかでもレオナルド・フィオラバンティっていう人がチーフだった頃のクルマたちなんですよね。

 

清水:神話的デザイナーですね。

 

渕野:当時、フェラーリはピニンファリーナにすべてデザインを一任してたじゃないですか。私としてはそこからピリンファリーナとか、カーデザインに興味を持ったんです。レーシングドライバーは、一度はフェラーリのF1ドライバーになりたいって思うそうですが、多分、私より上の世代のカーデザイナーは、一度はフェラーリを手がけてみたいって思ったことがあるんじゃないでしょうか。

 

清水:そうなんでしょうね。私も「フェラーリを買わずに死ねない!」と思ったし。


潮目が変わったのは「550マラネロ」から

 

渕野:1980年代までの、さっき挙げたフェラーリは、どれもこれもシンプルで、プロポーションだけで勝負してる感じがありますよね。それでいてフィオラバンティの頃のフェラーリは、クルマによってテイストがガラっと変わるんですよ。例えばBBまでとテスタロッサは、全然違うじゃないですか。プロポーションも全然違うんだけど、やはりどちらも小細工はしていない。テスタロッサ、あれを後ろから見たら、こーんな低くて、こーんなに幅が広いじゃないですか。あの当時は、普通のクルマとは全然違う世界の存在に見えたわけですよ。それで子供心に強烈な印象が残ったんです。

 

清水:テスタロッサは、ボディーに絞りなんかなかったですからねぇ。後ろにいくほど、どんどん車幅が広がっていく。

 

渕野:あのクルマを真上から見たプランビューって、等脚台形なんですよね。フロントのトレッドとリアのトレッドが全然違う。

 

清水:まるで違います。駐車枠に真っすぐ止めるのが本当に難しかった(笑)。

 

渕野:あのへんって、歴史的な名車ですよね。それが「あれ?」って思うようになったのが、「550マラネロ」からなんです。清水:マラネロからですか……。

 

渕野:個人的にはですよ?ほった:アメ車みたいなフェラーリっていう人いますよね。アメ車に対してずいぶん失礼な物言いだなと思っていますが。

 

清水:あれが出たときはぼうぜんとしたな。「なんだこれ?」「なにかの間違いじゃないか」って。

 

渕野:それまでは浮世離れしたクルマだったのが、急に一般的に見えたんですよ。その頃まだ中学生か高校生で、あまりデザイン的な話はわかんなかったんですけど、でも、それ以来ですよ。それ以来一回も、フェラーリから「あ、これ、すげえな」っていうデザインが出てこない。

 

清水:550マラネロ以来、ゼロですか!

 

渕野:そうなんです。

 

清水:涙が出ます……。


今やマクラーレンのほうが上?

 

渕野:例えば「360モデナ」とか、悪くはないんですけども、なんとなく“だるい”感じがするんです。余計な肉がついてるんですよね。タイヤまわりに。

 

清水:モデナが出た当時は、特にフロント左右分割のラジエーターグリルがものすごく斬新かつ強烈な違和感で、それを克服しようと葛藤した結果、ものすごくカッコよく見えるようになって、勇んで買いました。

 

ほった:カッコよく感じられるよう見る側が努力するってのも、変な話ですな。

 

清水:フェラーリさまが新しい造形にチャレンジしたんだから、自分もなんとか付いていかなきゃ! って思ったんだよ。けど、今冷静に振り返ると、全体的には渕野さんの言う通りだと思います。

 

渕野:私にとっては、“フェラーリ=カッコいい”なんですよ、今でも。

 

清水:私にとってもです。フェラーリは一にエンジン、二にカッコなので、優先順位はエンジンが上ですが。

 

渕野:だけど、現状だとそれはブランドイメージ上のことで、実際のデザインは、マクラーレンのほうがよっぽど上かなと思います。

 

清水:うーん、マクラーレンには当たり外れがあるけれど、「750S」のデザインは、今のフェラーリよりかなりいいと認めざるを得ません。

 

渕野:やっぱりそうなんですね。なるほど。マクラーレンで、私が常々デザインがいいと思うポイントが2つあるんです。1つはプロポーションがいいこと。もう1つは、オリジナリティーがあること。オリジナリティーを出すっていうのと、形を複雑にするっていうのは違うんですよ。最小限の手数で最大限の効果を出すっていうのが、デザイナーの腕の見せどころですよね。そういう意味では、現在のフェラーリは手数が多かったり、オリジナリティーがあまり感じられなかったり……。それに対してマクラーレンは、タイヤに対してのフォルムやキャラクターの絡み方とか、全体のシルエットの流れがすごくいい。オリジナリティーも、ヘッドランプの開口しかりで十分感じられるじゃないですか。非常にレベルが高い。


中核を担うモデルの暗黒期

 

清水:750Sはいいですよね。ただ、マクラーレンもそれ以外は今ひとつだな。

 

ほった:それ以外って?

 

清水:だいたい全部(笑)。

 

渕野:「アルトゥーラ」はあんまりですよね。わかります。あそこらへんはプロポーションは悪くないんだけど、オリジナリティーを出すところでちょっと小細工が多いのかなと思うんですよ。でも「GT」は結構好きです。スーパーカーなんだけど“普通”の側に寄せようとしてるじゃないですか。コンセプトとしても長距離を走るGTで、荷物も多少積める。ああいうタイプのクルマは、あっていいのかなと。

 

ほった:ちなみに新しいやつは、「GTS」って名前になるみたいです。

 

渕野:そんなに「カッコいい!」って感じではないんですよ。でも私、「モンディアル」とかも好きなので。

 

清水:気持ちはわかります(笑)。ド直球より多少変化球がいいっていう。でもこういうクルマって、本来ド直球であるべきだと思うんですよ。「フェラーリのなかでモンディアルが一番好き」だとか、「『フェラーリ・フォー』が一番欲しい」とか言う人、結構いますけど、そういう人はまずフェラーリなんか買いません。

 

ほった:それ、わかります。

 

渕野:なるほど。ではド直球の、例えば「F8トリブート」はどうですか?

 

清水:残念ながら、デザイン的に一番ぐちゃぐちゃですね。ミドシップフェラーリの暗黒時代って感じです。

 

渕野:そうですか(笑)。そのまま今のラインナップを見ていきたいんですけど……これはデイトナ? 

 

ほった:「デイトナSP3」です。リバイバルデザインの限定モデル「イーコナ」シリーズのクルマですね。

 

清水:これは『サーキットの狼』に出てきた「ディーノ・レーシングスペシャル ヤタベRS」の世界ですね。マンガみたいでものすごくカッコいい!

 

ほった:でもこれ、すごい高いんですよね。

 

清水:3億円くらいだったっけ? さすがに憧れるのもはばかられるね。
 

 



生唾が出るくらいでないと

 

渕野:最近の「SF90」や「812」はどうですか?

 

清水:SF90は普通にカッコいいけれど、グッとくるものはないなぁ。812は、エンジンは超絶最高だけど、形は「う~ん」と言うしかない。最近のフェラーリのなかでは、「ローマ」が断然美しいですよ! あと「296」は「250LM」のオマージュなので、そういう意味ではグッとくるんですが、顔がデカいんです……。今のフェラーリは昔と違ってフロントのトレッドが広くなってるので、顔がデカくなるのは仕方ない面もありますが、なんとかもうちょっと小顔に見せてほしかった。顔がダラ~ンと弛緩(しかん)して見えるんですよね。

 

渕野:自分が「カーデザインはプロポーションだ、ああだこうだ」って言うのは、そういうところもあるんですよ。296は250LMのリバイバルってことですけど、確かに形を見ればわかるんですが、なんかちょっと表面的に見えるんです。296ってパッケージ的にはもっとカッコよくできそうなんだけど、あんまりうまいこといってないんじゃないかな。

 

清水:生唾までは出ないですね。ほった:生唾ですか(笑)。

 

清水:フェラーリは生唾が出なきゃダメなんだよ!

 

渕野:でも、ローマと296っていうのは、どちらかというとシンプルにしようとしてますよね。

 

清水:そう思います。シンプルな美への回帰が見えるので、そこは本当によかったなぁと。

 

(後編へ続く)(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=フェラーリ、マクラーレンオートモーティブ、webCG/編集=堀田剛資)

 

 

 

第18回:フェラーリに物申す(後編)
2024.03.20 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一 

フェラーリへの期待値はもっともっと高い「フェラーリのデザインは退化している!」と嘆く、大乗フェラーリ教開祖とこの道20年の元カーデザイナー。

跳ね馬のデザイン的敗北の契機とは? 両人が考える「デザインのいいスーパースポーツ」とは? 

2人の有識者が“憧れのスーパーカー”の未来を考える。

 

渕野健太郎(以下、渕野):……で、その「フェラーリ・ローマ」なんですけどね。

 

清水草一(以下、清水):フェラーリの現行ラインナップのなかでは、デザイン的にダントツですよね。

 

渕野:ええ。個人的にも、もしお金があったら欲しいぐらいです。でもやっぱり、フェラーリに期待するレベルはもっと高いんですよ。

 

清水:ですね。「このクルマのためなら死んでもいい」ぐらいの、そういう感じで私は生きてきたんで。フェラーリって、「お前と一緒に死んでもいい、いやぜひ一緒に死にたい(笑)」と思わせるようなクルマですから。でもローマはちょっと違う。

 

渕野:自分はこういうGTのフェラーリ、昔だったら「250GT」とか、あそこらへんからの流れがすごく好きで、コンセプトとしていいなと思っているんですけど……。

 

清水:250GTはともかく、ローマと心中はないな……。大好きではありますけど。特にここが好きなんです。この逆スラントのグリルのところが。キュンときます。

 

渕野:低いところでスパーンと断ち切られてますね。

 

清水:そこはもう生唾です。渕野:でもどうでしょう? 全体的に見て、さきほど言ってた「プロポーションとオリジナリティー」という点では。特にオリジナリティーについてはどうですかね?

 

webCGほった(以下、ほった):申し訳ないけど、口さがない人からは「アストンマーティンなにがしのパクリだ」って言われたりしますね。

 

渕野:でしょうねぇ。実際に似ているかどうかは別にして、そういうことになると思うんですよ。



フェンダーにぜい肉が付いてません?

 

渕野:じゃあプロポーションのほうはどうかっていうと、こちらでもすごく気になってるところがあるんです。ここなんですよ(写真の、前後のフェンダー部を指す)。清水さんがよく指摘するタイヤの上のボリュームですが、ローマもこのテのクルマにしては盛り上がりすぎていて、タイヤが小さく見えるんです。ここのボリュームが強すぎるから、ドンとボディーを重たく感じる。おそらくは1960年代のフェラーリを連想させる、クラシカルなイメージを狙っているんでしょうけど、それでもちょっともっさりしていて……まぁプロポーションでも気になるところがあるというわけです。ほった:なるほど。

 

渕野:で、これを見てください。「アストンマーティンDB11」と「ヴァンテージ」ですけど。

 

清水:DB11のデザインはすべてが最高ですね。生唾が出る。

 

渕野:ここらへんのクルマのほうがプロポーションがいいなって感じるのは、やっぱりタイヤがしっかりして見えるからなんです。それに対してローマは、フェンダーがポヨンとしてる。

 

清水:うーん、このポヨンのおかげで、「お前となら死んでもいい」感が足りないのかな。

 

渕野:そういうことかもしれません(笑)。

 

清水:DB11とだったら死んでもいいです。

 

ほった:ワタシは「DBSスーパーレッジェーラ」ぐらいじゃないと、死んでもいいとは思いませんが。

 

清水:いやぁ、DB11がベストだよ!

 

渕野:清水さんが嫌いな「トヨタGRスープラ」でも、フェンダーの厚みはこれぐらいですよ。

 

清水:なんてことだ……。このポヨンのせいで、男が運命を共にするクルマっていうより、富裕層の奥さまのお買い物カーに見えちゃうのかな。

 

渕野:でもローマは欲しいんですよ。そこはブランド力で。

 

清水:そうですか。よかったです(笑)。

プロダクトアウトからマーケットインへ

 

渕野:でも、やっぱりフェラーリは最も高尚な乗り物であってほしいし、カーデザインのお手本であってほしいんですよ。歴史に残るようなものをつくってほしいんですよね。

 

清水:同感ですよ!

 

渕野:やっぱり昔のフィオラバンティが手がけたフェラーリに比べると、どこか俺らがデザインしたぐらいのレベルになってるというか(笑)。つまり一般的な感覚になっているんです。「普通の小型車をやってる人が、スーパースポーツをやりました」みたいな、そういうふうに見えてしまう。「フェラーリってもっとカッコよくなかったっけ?」って感じるんです。フェラーリ好きの方から見ても、最近のフェラーリはそんな感じなんですかね?

 

清水:あのー、あんまり言いたくないんですけど(笑)、ずいぶん長いことがっかりしてます。「458イタリア」を除いて。ほった君はどうなの?

 

ほった:ワタシはフェラーリの信奉者ってわけでもないので、この場の熱気についていけてないんですけど(笑)。そういう立場の人からすると、そもそも「フェラーリのデザインは常に最高だった!」って印象のほうが薄いんです。なんせ、皆が「あれからおかしくなった」っていう「マラネロ」が出てから、もう28年なんだから。それ以降のモデルに関しては、おふたりと同じような印象ですし……。よく現行「シボレー・コルベット」をフェラーリのパクリみたいに言う人がいるけど、“こっちサイド”から見たら、マラネロ以降のFRフェラーリのほうこそ、全部「イタリア人が線を引いた、妙にウネウネしたコルベット」に見える。マラネロだけじゃなくてね。

 

渕野:コルベットは世界最大のスポーツカーマーケットである北米で、一番売れてるモデルですからね。要はフェラーリも、北米でマーケットインしようとしてるわけですよ。スーパースポーツは「俺はこういうのをつくったから、みんな乗れ!」みたいな、プロダクトアウトであるべきだと思うんですけど、でも商売的にはマーケットインのほうがいいんでしょうね。たとえフェラーリであっても。確かに550マラネロ以降は、北米志向がより強くなった感じがあります。

2006年登場の「フェラーリ599フィオラノ」。 
 

清水「……そんなに似てる?」 
 

ほった「それ言ったら、現行『コルベット』だって、どのフェラーリに似てるっていうんです?」 
    

清水「……そんなに似てる?」 
    

ほった「それ言ったら、現行『コルベット』だって、どのフェラーリに似てるっていうんです?」拡大


リバイバルデザインの最大の敵

 

ほった:マーケットインのデザインってのは、本当にそんな気がしますね。おふたりの評価はビミョーですけど、個人的には直近の「296」は結構好きなんです。けど、それは自分が「250LM」とか「フォードGT40」みたいな、60年代のレーシングスポーツが好きだからなんでしょうね。296はモロにそこを狙ってきたデザインだから。でも、そもそもフェラーリって、昔はそういうことをしなかったじゃないですか。今はどこかしら、「みんなこういうのが好きなんでしょ」っていう作意を感じる。それで、すごく奇麗でクセのないローマを出して、クラシック路線の296を出してきた。「昔とは順番が逆だよなぁ。狙ってやってるなぁ」ってのは、やっぱり思います。

 

清水:そりゃもう狙ってるよね。でも実際、「F8トリブート」じゃなくて250LMとかフィオラバンティのリバイバルを狙ってくれたほうが、僕らも100倍うれしいんだよ! もうずっと狙ってやってるの。モンテゼーモロさん(ルカ・ディ・モンテゼーモロ元社長/元会長)が来てからずっとそうなの。30年くらい前から。でもそうするとさ、「俺も年をとったし、リバイバルものじゃなくて本物のフィオラバンティのフェラーリに乗ればいいんじゃないか?」ってなって、俺は「328」に回帰したんだよねぇ。渕野:それに、今のフェラーリはリバイバルにしても、小手先感がすごくあるんですよ。言いたい放題言ってますけど(笑)。
往年の「250LM」へのオマージュを取り入れたという「296」シリーズ。開発関係者いわく、テールランプを丸型にしなかったのは「それをやるとクラシックになりすぎるから」とのこと。

カラーリングにも「250LM」を模したスペシャルペイントが用意されている。 
 

ほった「これ、フェラーリファンにとっては格好いいんですか?」 
 

清水「……」
カラーリングにも「250LM」を模したスペシャルペイントが用意されている。 


    ほった「これ、フェラーリファンにとっては格好いいんですか?」 
    

清水「……」

この先に新しい展開はあるのか?

 

清水:自分がわかんないのは、スーパーカーに今後新しいデザイン展開ってあるのかなってことなんです。それって一番難しいじゃないですか。だからリバイバルするしかないのかもっていう絶望感があるんですよ。

 

ほった:ほうほう。

 

清水:それでも僕が最近ビビビときたスーパーカーが2つあってですね、1つは「日産ハイパーフォース」です(全員爆笑)。これはもう、竹ヤリ出っ歯ですから! こういうスーパーカーは初めてでしょう。

 

渕野:日産ハイパーフォースは、ジャパンモビリティショーが終わってから、たまたま銀座のショールームに行ってじっくり実車を見れたんですけど、意外と悪くないですね。

 

清水:それはどういうアレですか(笑)? ゲテモノですが。

 

渕野:ゲテモノなんですけど、デザインのオリジナリティーが強いじゃないですか。

 

清水:それは強烈ですよ!

 

渕野:立体構成を見るとボディーをすごく絞ってて、キャラクターラインをなくしちゃってるんです。みんなが言うようなダンボール細工ではなく、ちゃんとデザインされてるんですよ。

 

清水:へぇ~。一見ダンボールだけど、ダンボールじゃないんですね(笑)! とにもかくにも、こういう風にバカになれるっていう姿勢が大事じゃないかな、スーパーカーは。これが街を走ってたら、みんな口あんぐりで目が点になるよ! 「テスタロッサ」や「F40」には目が点になったけど、最近のフェラーリは目が点にならないでしょ。どこのブランドかもよくわかんない。

 

ほった:ハイパ-フォースの勝ちですね。

空力などまじめに考えていない、子供の絵のような造形のスポーツカーだが、実際にはその空力設計は、NISMOのレーシングチームと共同で開発されたものだった。

側面を見るとボディー中央部が大きく斜めに絞り込まれ、その後ろでリアフェンダーがどんと張り出している。谷間にあたる箇所ではキャラクターラインが消失していたりと、じつはいろいろ見どころの多いデザインをしているのだ。

2023年12月に行われた日産自動車の90周年記念イベントより、神奈川・横浜の日産グローバル本社ギャラリーに展示された「ハイパーフォース」。カッコいいかどうかはわからないが、これが公道を走っていたら、アゴが外れるほど驚くのは間違いない。



スーパーカーデザインの明日はどっちだ?

 

清水:もう1つは「マセラティMC20」なんです。あれがなぜ刺さるのか微妙なんですけど、レーシングカーの香りがあるけど、レーシングカーじゃないギリギリいいところにいてくれるからかな。スーパーカーって本来そういう存在ですよね。

 

渕野:確かにちょっとクラシカルな感じもあるし、品がいいですね。

 

ほった:渕野さんには、今のスーパースポーツで「このクルマはお手本になりそうだな」みたいなのってありますか?

 

渕野:やっぱりDB11ですね。オリジナリティーもあるしプロポーションもいい。実物を見ても、ドアなんかすごい絞り方をしてて、写真以上にダイナミックです。ほった:でも、新しくなっちゃったんですよね。「DB12」に。

 

渕野:そうそう。新しいほうはちょっとね。

 

清水:え、DB11がDB12になってたの? 知らなかった……。ほった:やたらとコテコテになっちゃったんですよ(写真を見せる)。

 

清水:ええっ! こんなに口がデカくなってんの!?

 

渕野:グリルがめちゃくちゃでかくなって、モチーフがわかりづらくなったんですよね。

 

清水:こりゃダメだ……。

 

ほった:結局スーパーカーデザインの未来は、ハイパーフォースに期待ってことで、よございますか?

 

清水:今回はそういうことで(笑)。

 

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=フェラーリ、アストンマーティン、マセラティ、webCG/編集=堀田剛資)