以前、石川県看護協会と日本看護協会の共同主催研修会の講師を務めるため、石川県にお招きいただいたことがあります。

 

 

大変お世話になったこの写真の石川県看護協会の幹部、会員、その他の保健医療従事者の皆様の多くは、現在、能登半島地震で被災されている方々への支援活動にご尽力されていることと存じます。

 

しかし、想像を絶する大災害で多くのものを失い、今後の生活の目途が立たず、不安でいっぱいのなか、それでも生きることを諦めないようにするには、どのような支援を行えばいいのでしょうか?

 

そこで今日は、特に、震災から10日経った「いま」だからこそ、求められる心理的支援に特化してお伝えしたいと思います。

 

『災害時のこころのケア』(日本赤十字社, 2004)によると、今の心理的プロセスの段階は「反応期」であると言えます。

 

発災直後から数日の「急性期」には、

  • 災害の衝撃に圧倒され、興奮状態にある
  • 茫然自失状態に陥り、不安や恐怖が強い

という心理的特徴があります。

 

その後の、災害から1~6週間経った「反応期」では

  • 押さえていた感情が湧き出てくる
  • つらい記憶がよみがえったり、悪夢を見たりする
  • イライラや孤立感が高まったり、抑うつ的になったりする
  • 生き残ったことへの罪悪感に襲われる

という特徴へと変化していきます。

 

この「反応期」である今、最も重要となるのが、自分の存在を肯定的に捉えるための支援です。

 

 

困難を生き抜いていくためには、まず自分自身の存在を肯定的に捉えることが不可欠です。

 

しかし、今回のような災害の場合、愛する人を助けられなかったことに対する自責感や、自分だけが生き残ったことに対する罪悪感を抱いたりして、自分の存在を肯定的に捉えられなくなることが少なくありません。

 

このため、どのような支援を行うにしても、まずはそのこわばっている気持ちを解きほぐすことが重要なのです

 

しかし、被災後すぐに当時の話を聞こうとすると、無理に心をこじ開けることになり、逆効果となりかねません。

 

したがって、まずは声をかけ、ただ傍にいて、深呼吸やストレッチをうながしたり、軽いマッサージをしてあげたりしながら、あなたが相手のことをケアしたいと思っているということを感じてもらうと良いでしょう。

 

そして、「話をしたい」という心の準備が相手にできたら、話を聞きます。

 

このときのポイントは、相手が話したことを、その相手の気持ちを汲み取りながら、あなたの言葉にして復唱することです。

 

例えば、

「もうどうなってもいい」

と相手が言った場合、

「すべてがどうでもいいと思ってしまいたくなるくらい、つらいですね」

と共感的に復唱するのです。

 

そうすることで、相手に「気持ちを受け入れてもらえた」「理解してもらえた」と感じてもらいやすくなります。

 

また、「感情を素直に出してもいい」ということを伝えることも重要です。

 

「ありのままの自分でいい」

「つらいときは泣いてもいいし、その気持ちを吐露してもいい」

と受けとめる姿勢を見せましょう。

 

まだまだ長くなりますので、また次のプロセスに心理が移行する頃、やるべき支援について、お伝えしていきたいと思います。

 

 

★本稿の引用・参考文献は、以下となります。ご興味のある方はご一読ください。

 

1)蝦名玲子.生き抜く力を高める支援のポイントとは? 緊急短期連載・災害を生き抜くためのヘルスコミュニケーション.公衆衛生情報, 2011年5月号, pp20-24.

2)日本赤十字社.災害時のこころのケア.2004年

日赤サービス (nisseki-service.com)

3)蝦名玲子.生き抜く力の育て方:逆境を成長につなげるために.大修館書店.2016年.