第82回日本公衆衛生学会で座長を務めましたシンポジウム「リスクコミュニケーションの発展に向けて:COVID-19対応からの教訓を活かす」が、無事終了いたしました。
 
危機管理を担う行政、リスクコミュニケーションの人材育成に不可欠な学術界、情報を広く伝えるメディア第一人者が、それぞれ、COVID-19下のリスクコミュニケーションの何に課題を感じ、教訓を得て、今後の備えや本分野の発展に向けて何が必要だと考えられているのか?
 
そんな壮大な問いの答えを探求することを目指したシンポジウムでした。

 

 

ご著名な演者の先生方と。右から、京都大学大学院医学研究科健康情報学分野教授の中山健夫先生、私、神奈川県理事の阿南英明先生、読売新聞東京本社編集委員の鈴木敦秋様。

 

内容としては、

  1. ダイヤモンド・プリンセス号でDMATの指揮をとられ、その直後から神奈川県の理事としてCOVID-19対策の指揮をとられ、感染拡大による医療崩壊を回避するための国の対策の基となった「神奈川モデル」出口戦略(通称「阿南ペーパー」)を構築され、常に先を見越した対策を講じられてこられた阿南英明先生が、初期から現在に至るまでの、時相に応じたCOVID-19対応のリスクコミュニケーションの振り返りと課題について、
  2. 今年度より我が国の公衆衛生大学院で初めて「公衆衛生の緊急事態(=危機・災害)」という文脈におけるリスクコミュニケーションの科目を新設された京都大学の中山健夫先生が、平時であってもリスクの定義が食品や医薬品等、分野によって異なることや、医学教育モデル・コア・カリキュラムの健康危機管理(SO-01-05-01)の中でリスクコミュニケーションも明記されたという観点から、新科目設立の経緯と意義・必要性について、
  3. 福島原発事故やCOVID-19等の危機下で、精力的に取材をされてきた読売新聞の鈴木敦秋様がメディアのお立場から、メディアと医療界の課題について、主に倫理的観点から、

それぞれご講演くださった後、最終討論を行いました。

 

お立場や切り口が異なるものの、ご登壇された先生方の根底にある価値観に共通点があり、シンポジウムを終えた今、危機下においては生活者の視点を忘れずに、悲劇をうまないリスクコミュニケーションが求められるのだと改めて実感しております。

 

危機という通常ではない状況に身を置き、時間の経過とともに状況・リスク・管理方法についても急速に変化し、データが不足し不確実なことも多く、人びとのアウトレイジも高まり、どの選択をしてもリスクが生じてしまう「リスクのトレードオフ」が起き様々な正義がぶつかる中でのリスクコミュニケーションを、厳しい時間的制約がある中で行うことは困難さを極めるものです。

 

だからこそ、時間的余裕ができ、まだ記憶が新しい今こそ、危機に適したリスクコミュニケーションの体制の構築、人材育成、本分野を重視する文化の醸成が必要であることが、本シンポジウムを受講された方はご理解いただけたと思います。

 

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人材育成は、京都大学大学院医学研究科健康情報学(公衆衛生大学院)で行っておりますので、ご興味のある方はぜひいらしてください!

 

深刻なテーマや状況だからこそ、希望や可能性に気づくことが重要で、コースを通してエンパワメントされるように、健康生成的に学ぶことができますよ!(教室の雰囲気は、中山先生や私の表情からおわかりいただけるはず!)

 

中山先生がこのたび新設され、私が担当講師を務めている「公衆衛生の緊急事態におけるリスクコミュニケーション」を受講している院生には、COVID-19対応をされた中で、もっと知識やスキルを高めたいという思いを強められて、入学された医療者も多いです。

 

大学院で使用しているテキストは、以下の2冊です。公衆衛生大学院に入学するのは難しいという方は、ぜひご一読ください。また講演やアドバイスのご依頼もお受けしておりますので、お気軽にご連絡ください → 蝦名玲子へのお問い合わせ

 

 

 

 

中山健夫先生のご著書

たくさんあるので、一部だけのご紹介となりますが、特に以下の3冊を読まれると、本シンポジウムで中山先生がご講演されたリスクやリスクコミュニケーションの理解が深まり、オススメです!

 

 

 

 

 

阿南英明先生のご著書

たくさんあるので一部だけのご紹介となりますが、以下の3冊は、危機管理の理解に欠かせません! 災害や化学テロ等の危機管理について学べるのはもちろん、なぜ阿南先生が「神奈川モデルや阿南ペーパーをまとめられたのか」の背景となる考え方や価値観・判断基準等が、これらの書籍を読まれると理解できるかと思います。オススメです!

 

 

 

 

 

鈴木敦秋様のご著書

危機管理の現場では組織体制や職場風土は、危機管理の質に大きく影響しますが、本書を読まれると、日々、命を扱う医療現場にも通じることを実感されると思います。透明性はリスクコミュニケーションでは非常に重要ですが、平時に隠蔽体質の組織は、危機下でも都合の悪い情報を隠蔽することが容易に予測されます。本書を読まれてドキッとされた方は、今のうちに職場風土の改善をしておきたいものです。こちらは第29回講談社ノンフィクション賞受賞作品です。