夜、湖畔を散歩していると、水面から魚が跳ねる音が聞こえてきます。

魚が挨拶してくれているのでしょうか・・・・

********************************

 

 ある湖に住む魚たちに、昔からの言い伝えがありました。

それは、満月の夜に水面に映ったお月さまの真ん中を跳べば願い事が叶うという言い伝えです。

ただし、願い事が叶うのは一生に一度だけです。

それで、願い事のある魚は、満月の夜になると、水の中からお月さまを目がけて空に跳び上がりました。

ですから、満月の夜になると、湖のあちらこちらで

(ポチャ、ポチャ。ポチャ、ポチャ)

と、魚が水から跳び出る音がしていました。

 

 この湖にワカサギの母と子が住んでいました。

子供の名前はサッチです。

サッチの体は小さかったので、お月様に願い事をしました。

 

「お月様、どうかぼくをコイのように大きく強い体にして下さい」

 

そして、サッチは満月の夜にお月さまに向かって跳び上がりました。

しかし、湖面に映ったお月さまは、ゆらゆらと揺れています。

「あー、何度やっても真ん中を跳ぶことができない!」

サッチは疲れてしまいました。

そして、近くでサッチを見詰めていたお母さんに聞きました。

「お母さんも願い事をして跳んだことあるの?」

お母さんは優しく答えます。

「ええ、あるわよ」

サッチは目を輝かせて聞きます。

「それで、上手く跳べたの? 願い事は叶ったの?」

「ええ、叶ったわよ」

「すごい! 上手く跳べたんだ! それで、どんな願い? 教えて!」

お母さんは、ニコニコして答えました。

「元気な良い子が生まれますようにって、願ったの」

「なーんだ、ぼくのことか」

「そうね、サッチは大きく強くなりたいんでしょ。じゃあ、諦めずに頑張って、跳ぶ練習をしなさい」

「わかった。お母さんも練習したんだね。ぼくもやってみるよ」

 

 それからというもの、

(ポチャ、ポチャ。ポチャ、ポチャ)

と、サッチの跳ぶ音が、毎晩、湖に響き渡りました。

そして、満月の夜には必ずお月さまに向かって跳び上がりました。

 

 しかし、一年が過ぎましたが、サッチの願いは叶わず、コイのように大きくなりません。

サッチは、がっかりして、お母さんに言いました。

「ぼくは、上手く跳べないよ。ダメみたい」

すると、お母さんは少し怒って、

「サッチ、自分の体を見てごらん。もう、お母さんより大きいじゃないの。それに、練習したおかげですごく強くなったでしょ。それは凄いことなのよ!」

サッチはお母さんを見詰めました。

お母さんは続けて話します。

「お月さまへの願い事は一生に一度だけなのだから、大切に取っておきなさい。そして、いつか、とても大事なことに使いなさい」

お母さんは、いつもの優しいお母さんに戻っていました。

「うん、そうするよ!」

「返事は『うん』じゃなくて『はい』でしょ!」

お母さんはサッチにほほ笑みました。

「はい!」

 

サッチは、自分がお母さんの子供で良かったと思いました。

ブログ形態変更時に削除したものを再掲載させて頂きます。

 

本作品は、禁小学生です。

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 ある時、猫と豚と馬が領主様に呼ばれました。

三匹は、自分達が何か悪い事をして、怒られるのではないかと思い、恐るおそる領主様のお屋敷に入って行きました。

 

そして、ガタガタ震えながら庭で待っていますと、領主様がニコニコ笑いながら出て来ました。

「猫、豚、馬、よく来た。きょうは、三匹の日頃の努力に報いるために贈り物をしようと思う。欲しいものは何かあるか? 遠慮なく言いなさい」

三匹は、驚いて顔を見合わせました。

三匹が困って黙っていると、

「どうした? 欲しい物は無いのか?」

と領主様は、三匹の顔をのぞき込みました。

猫が恐るおそる言いました。

「私達が何か良いことをしたのでしょうか?」

「おお、そうか。自分達が褒められる理由がわからないのだな」

三匹はうなずきました。

「猫。おまえのお陰で悪いネズミがいなくなった。ネズミは倉の穀物を食べたり、恐ろしい病気をまき散らす。お前のお陰で人間が健康で安心して暮らせる」

そう言われて、猫は心の中で思いました。

『私は何もしてないが、ネズミが勝手に逃げて行くんだけど。まあ、いいか!』

 

次に、領主様は、豚を見て言いました。

「豚。おまえは人間の食べ残しを文句も言わずに食べてくれるので餌代が助かる。また、ゴミを減らすこともできる」

そう言われて、豚は心の中で思いました。

『私は、好きで残飯を食べている訳ではないのです!』

 

最後に、領主様は馬を見て言いました。

「馬。お前は、重い荷物を運んだり、畑仕事を手伝ってくれて、本当に役立っている。また、競争もしてくれて、この前はたくさん儲けさせてくれた!」

そう言われて、馬は心の中で思いました。

『平日は重労働させられて、休日は競争させられて、嫌になっちゃうんだよね。少しは休ませてくれ!』

 

領主様は、改めて三匹の顔を見ると言いました。

「遠慮なく、欲しい物を言いなさい」

すると、猫が恐るおそる口を開きました。

「それでは、大判を下さい」

「なんだと。大判だと! 猫がお金を貰ってどうするんだ? 役に立たないではないか」

「いえ、領主様。お金があれば、美味しい食べ物をたくさん買えます」

「猫は買い物に行けないだろ!」

「大丈夫です。私の知り合いに、人間に化けるのが上手い猫がいまして、その化け猫に頼んで買って来てもらいます」

「うむ、なるほど。だけど猫よ、予算が少ないので大判はだめだ! 小判ならあげよう」

「けち! 競馬で儲けたくせに!」

猫は、馬に目配せしながら小さな声でつぶやきました。

「何か言ったか?」

「いえ、何も。では小判を頂きます」

「そうか、そうか」

領主様は、ほっとした顔をして、今度は豚を見ました。

 

領主様と猫のやり取りを聞いていた豚は、笑いを押し殺しながら言いました。

「領主様、私は真珠の首飾りが欲しいです」

「豚が、そんな物を貰ってどうするんだ?」

「この前、人間の太ったおばさんが真珠の首飾りを付けていました。その姿がすごく綺麗だったので、私も綺麗になりたいです」

「そうか。首輪の代わりに真珠の首飾りも悪くないな。よし、わかった!」

 

最後に、領主様は、馬を見ました。

馬は首を振りながら言いました。

「私は物はいりませんので、休日にお寺へ行き、お経を聞いて勉強させて下さい」

「えっ、馬よ、何のためにそんなことをするんだ?」

「お経を覚えて、人間の幸せを祈りたいのです」

「えらい! 大変良い心構えだ! 猫や豚も馬を見習いなさい! 馬よ、これから休日はお寺で勉強しなさい!」

馬はしめしめと思いました。

『これで、休日は競馬に出なくてすむぞ! ゆっくりと休める!』

 

その後、この三匹の話は諺になりました。

それが、

『猫に小判』

『豚に真珠』

『馬の耳に念仏』

です。

でも、この話を信じてはいけません。

 

 

<後書き>

 本作品を信じて、試験で×になっても、当方は責任をとれませんので御了承願います。

玉虫とゴキブリは外形が似ていますよね。

ただ色が違うだけ。

でも、人間の接し方は正反対。

同じ昆虫に生まれたのに・・・・・・

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 ゴキブリは悩んでいました。

「なんで僕は人間から嫌われるのだろう。何も悪いことなんかしていないのに・・・」

 

 ある日、ゴキブリが草の陰に隠れていると、そこに、玉虫が飛んできました。

「わあっ、なんて美しいんだ!」

ゴキブリは、思わず声を上げてしまいました。

それを聞いて、玉虫は嬉しそうにゴキブリに話し掛けてきました。

「ゴキブリさんではないですか。お久しぶりです」

「こんにちは。玉虫さんは相変わらず美しいですね」

「ありがとうございます。ところで、ゴキブリさんは、なぜ、そんな所に隠れているのですか?」

「僕は、嫌われ者なので、隠れているのです」

と、ゴキブリは、恥ずかしそうに答えました。

すると玉虫が言いました。

「それは、人間が嫌っているだけでしょ。私たち虫たちは、あなたを嫌ってはいませんよ」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると、とても嬉しいです」

玉虫は、ゴキブリに微笑むと、飛び去って行きました。

ゴキブリは、玉虫は姿だけでなく、心も美しいと思いました。

 

 ゴキブリは自分と玉虫を比べました。

『姿が美しいと、嫌われることがないので、心も美しくなるのかな・・・。嫌われてばかりいると、心がひねくれて、醜い心になってしまいそうだ』

ゴキブリは、玉虫を羨ましく思いました。

「そうだ! 僕も姿を美しくして、心も美しくしよう!」

でも、ゴキブリは、どうしたら姿を美しくできるか分かりませんでした。

 

そこで、物知りのカブト虫に相談しに行きました。

 

「カブト虫さん、僕は姿を美しくしたいのですが、何か良い方法はありませんか?」

カブト虫は、言いました。

「なぜ、姿を美しくしたいんだね。今のままでも悪くないじゃないか」

ゴキブリは、目を落して答えます。

「この姿だと、人間から嫌われて、いじめられてしまいます。それが、すごくつらいのです」

カブト虫は、悲しそうなゴキブリを見て、かわいそうに思いました。

「それでは、羽を黄色にしたら美しくなれるよ」

「嬉しい! それには、どうしたら良いのですか?」

「ユリの花があるだろ。最初、あの花の汁を体に付けて、次に花粉を付ければ黄色くなるよ。ただし、雨にあたると取れてしまうから注意しなければいけないよ」

「カブト虫さん、ありがとうございます。さっそくやってみます!」

 

ゴキブリは、急いでユリを探しに行きました。

そして、花を見付けると、カブト虫に教わったように羽に汁と花粉を付けました。

「わあっ、黄色くなった! すごく綺麗だな! もうこれで隠れる必要は無いな」

ゴキブリは、すごく喜んで、堂々と葉っぱの上にとまりました。

 

 しばらくすると、そこに網を持った人間が通りかかりました。

「わあっ、綺麗な虫! 捕まえよう」

人間は、ゴキブリに網をかけようとします。

『危ない!』

ゴキブリは、急いで草陰に逃げ込みました。

人間は、草の中をのぞき込んでさがしています。

しかし、ゴキブリは足が速く、人間から逃げるのが上手いので、捕まえることができませんでした。

「やれやれ、危ないところだった! それにしても、なぜ捕まえようとしたんだろう?」

ゴキブリが、まわりを見ると、近くで玉虫がガタガタ震えています。

「玉虫さん、どうしたのですか?」

「ゴキブリさん、人間は、行ってしまいましたか?」

「もう、いませんよ」

「あー、こわかった! もう少しで人間に捕まるところだった!」

「人間は玉虫さんも捕まえるのですか?」

「そうです。私の羽が美しいので、捕まえて標本にしたり、美術品に使うのです」

「わあー、こわい! 人間は、美しい虫も捕まえるのですね! 殺されるのは、僕みたいな嫌われている虫だけと思っていた!」

「いいえ、違いますよ。私たち虫たちにとって、人間は恐ろしい生き物ですよ。何でみんなに優しくなれないのでしょうかね」

ゴキブリは、今まで、人間に嫌われていることに悩んでいたのが可笑しく思えてきました。

『僕は、たとえ、嫌われても、いじめられても、決して心がひねくれたりはしない!』

と、ゴキブリは心に誓いました。

 

 しばらくすると、雨が降ってきました。

ゴキブリの体に付いた黄色の花粉は、雨粒で流れ落ちて行きました。

 

そして、ゴキブリの哀しみも流れ去って行きました。

『チュンとピュン』シリーズの第4編目(完結編)です。

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 ついに、チュンはピュンを捜し出しました。

窓ガラスをくちばしで叩いていると、その音を聞いてヨリちゃんが見に来ました。

「スズメさん、どうしたの?」

ヨリちゃんが窓を開けてくれました。

チュンは家の中に入ると、ピュンが入っているカゴに一目散に飛んで行きます。

「ピュンちゃん、だいじょうぶ? 心配で、心配で、捜したよ!」

「ありがとう、チュンちゃん」

チュンは、泣いているピュンのテープで固定された翼を見て全てを理解しました。

「だいじょうぶ! これからは僕がそばにいるから安心して」

「ありがとう、ありがとう」

ピュンの顔に明るい笑顔が戻りました。

二羽のやり取りを不思議そうに見ていたヨリちゃんは、

「スズメちゃんは、ツバメちゃんの友だちなんだね。これからは、いつでも会いに家の中に入って来てもいいよ」

と言うと、嬉しそうに二羽を見ています。

外ではピーも嬉しそうに見つめていました。

 

 それから、チュンとピーは、毎日ピュンのカゴの近くに来て三羽で話をしたり、遊んだりしました。

ピュンは、以前のように明るく笑うようになり、チュンとピーも大変仲良くなりました。

ピーは、またスズメの伝言を使って、チュンが無事であることをチュンの家族に連絡しました。

 

 ピュンの翼は少しずつ治っていきました。

何日か経って、ピュンのようすを見ていたお母さんが、

「ツバメちゃんを先生に診てもらいましょう。あれから三か月経ったから、そろそろ良くなっているかもしれないからね」

「はーい。治っているといいね、ツバメちゃん」

ピュンは箱に入れられて、先生の所まで連れていかれました。

チュンとピーは心配して後からついて行きます。

 

 先生はピュンの翼を固定していたテープを取ると、翼を広げました。

「良くなったね。きれいに骨がつながっている。これなら、もう固定しなくても大丈夫だ。たぶん、飛ぶこともできるよ」

「良かったね、ツバメちゃん」

「ただし、今は冬だから、外に出してはいけないよ。寒さで死んでしまうから、暖かい部屋の中で飼いなさい。春になり、ツバメ達が南国から帰って来たら、外に放してあげなさい。そうすれば、そのツバメ達と一緒に暮らすと思うよ」

「ありがとうございます」

ヨリちゃんとお母さんは、先生にお礼を言い、病院から出て来ました。

近くの枝で待っていたチュンとピーは、二人の笑顔を見て安心しました。

「治ったみたいだね。あー、良かった!」

 

 家に着くと、ヨリちゃんは部屋の窓を閉めて、ピュンを箱から出しました。

「ツバメちゃん、飛んでみる?」

ピュンは、ヨリちゃんの手の上で周りを見渡しました。

窓の外では、チュンとピーがピュンを見ています。

翼を固定していたテープが無くなり、自由に翼を広げることができます。

そこで、少し羽ばたいてみました。

「あー、なんて気持ちが良いの! でも、上手く飛べるかな?」

「がんばれ!」

窓の外からチュンの声が聞こえます。

ピュンは、巣立ちの時のチュンの声援を想い出しました。

「えい!」

ピュンは、ヨリちゃんの手から飛び立ちました。

「飛べた!」

ピュンは部屋の中を自由に飛び回りました。

「お母さん、ツバメちゃんが飛べた!」

ヨリちゃんが叫んでいます。

チュンとピーも鳴いています。

チュンは、久しぶりに見るピュンの飛ぶ姿に泣いてしまいました。

ピュンも飛びながら泣いています。

その涙がヨリちゃんの顔に掛かりました。

「あっ、ごめんなさい」

ピュンは急いでヨリちゃんの頭に止まりました。

「お母さん、ツバメちゃんが頭に止まったよ!」

「ヨリちゃんに懐いているみたいね」

「ツバメちゃん、春まで一緒にいようね」

ピュンは人間の言葉はわかりませんでしたが、人の優しさはわかりました。

 

 ヨリちゃんはピュンに三十分ほど飛ぶ練習をさせると、部屋を少しずつ暗くしてピュンを棒に留まらせました。鳥は暗いところでは目が見えないので飛ぶのを止めるのです。

そして、ピュンを左右から両手で優しく包んで捕まえると、足の前に小指を置いて棒から指に移らせました。

「きょうは、これぐらいにしようね」

ヨリちゃんはピュンをカゴの中に入れ、部屋を明るくすると窓を開けました。

「お待ちどうさま」

チュンとピーは、急いでピュンのところへ飛んで行きます。

「ピュンちゃん、ちゃんと飛べたね」

「ありがとう。でも、まだ調子悪いの。これで南まで飛べるかな?」

ピーが驚いて言います。

「えっ、だめだよ! 外はすごく寒いんだよ。雪が降りそうなんだから。こごえ死んでしまうよ。春までここで過ごさないと」

「外は寒いんだ! ずーと部屋の中に居たから、外のようすがわからなかった。じゃあ、春までお父さんやお母さんに会えないの? 寂しいな」

「ぼくたちが居るじゃないか」

「そうね! ところで『ゆき』ってなんなの?」

チュンが思い出して言いました。

「そうか、ピュンちゃんは雪を知らないんだ。ピュンちゃんはかき氷なら知っているよね。屋台で売っている冷たいやつ。以前、道に捨てられた残りを食べたことがあるよね。それが空から降ってくるんだ」

「へー、すごい! 甘いのが降って来るんだ」

ピーがにやりとしながら言いました。

「残念だけど、空から降ってくる雪は甘くないよ。それが地面にたくさん積もるんだ。だからすごく寒い」

「チュンちゃんやピーちゃんは寒くないの?」

「そりゃあ、寒いよ。でも、ぼくたちは、冬になると翼の下に細かい羽がはえて、寒さから身を守れるんだ」

チュンはそう言うと、翼を広げてその羽を見せました。

「すごい! 私には無いわ」

「ピュンちゃん達は、暖かい土地に移動するから必要ないんだよ」

「そうか。じゃあ、寒い外には出られないね。でも、私がここに居ることを、どうやってお父さん達に知らせたらいいかな?」

チュンはピーの顔を見ます。

そこで、ピーが、

「春になったら、ぼくが周りのスズメ仲間に頼んで、近くにいるツバメさん達に声をかけるよ。きっと、ピュンちゃんの家族は、この辺でピュンちゃんを捜すと思う」

「うれしい! ありがとう!」

「だから、安心して、春まで待って」

「わかりました。そうします」

 ヨリちゃんは、三羽が何を話しているのかはわかりませんでしたが、膝を抱えて嬉しそうに見ていました。

 

 ヨリちゃんは、毎日、ピュンをカゴから出して、飛ぶ練習をさせました。

それでピュンは段々と速く飛べるようになっていきました。

チュンとピーは、それを応援して見ています。

練習が終わると、三羽は一緒に過ごします。

そんな楽しい日々はあっという間に過ぎていき、春が訪れました。

「そろそろ、ツバメさん達が戻って来るころだね。ぼく、仲間たちにピュンちゃんの家族を捜すように頼んでくる」

ピーはそう言うと、飛び立ちました。

「お願いします!」

ピュンは期待に胸が高鳴ります。

 

 それから何日か経って、ピーの友達が息を切らして飛んで来ました。

「少し先で、ツバメの家族が変な飛び方をしているよ。もしかしたらピュンちゃんを捜しているのかもしれない!」

それを聞いて、チュンは飛び出しました。

「その場所を教えて下さい! ピュンの家族ならば、ぼくは知っています」

「じゃあ、あとからついて来て」

ピーも後から続きます。

 しばらく行くと、ツバメの家族が家々を見て回っています。

チュンが近づいてみると、それはピュンの家族でした。

チュンは大声で叫びました。

「ピュンちゃんのお父さん!」

お父さんがチュンに気が付きました。

「チュンちゃん。どうしてここに居るの?」

「ピュンちゃん、近くに居ます!」

「えっ、ほんと!」

「ぼくについて来て下さい!」

チュンは家族をピュンが待つ家へ連れて行きました。

 

チュンが窓ガラスを叩きます。

ガラスの向こうには、うれしそうなピュンの顔があります。

そして、ヨリちゃんが窓を開けました。

 

 

<最後までお付き合い下さいまして、ありがとう御座いました>

『チュンとピュン』シリーズの第3編目です。

以前掲載した『ヨリちゃんとスズメのピー』のピーちゃんが再登場します。

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 ピュンがヨリちゃんの家に保護されてからしばらく経ちました。

天気の良い日は、ピュンが入っているカゴは縁側に置かれました。

ピュンは空を見て想いました。

『お父さん、おかあさん、お姉さん、チュンちゃん。みんなに会いたい』

すると、庭に一羽のスズメが下りて来ました。

ピュンは、チュンを思い出して、声をかけました。

「スズメさん、こんにちは」

スズメは少し驚いたようでしたが、返事をしてくれました。

「こんにちは、ツバメさん。どうしてここにいるのですか?」

チュンは、テープで固定された翼を見せて言いました。

「嵐で翼が折れて、この家の人に助けられたの」

「そうでしたか。私もヒナのころ、巣から落ちて、この家の人に助けられました。それから今まで、庭でごはんを貰っています」

「スズメさんも助けられたのですか! いっしょですね。スズメさん、私と友だちになってくれますか? 私の名前はピュンです」

「いいですよ。私の名前はピーです」

「ピーちゃん。可愛いくていい名前ですね」

「ここの家のヨリちゃんが名前を付けてくれました。ピュンちゃん。速そうな名前ですね」

「でも、姉妹の中で、私が一番飛ぶのが遅いんです」

二羽は顔を見合わせて笑いました。

それから、ピーは、毎日、ピュンのカゴまで来て、家の人やまわりの話をしてくれました。

ある時、ピーがピュンに尋ねました。

「ピュンちゃんは、スズメのことを良く知っていますが、どこで知ったのですか?」

ピュンは、チュンのことを想い出しながら、

「私の巣の近くにスズメさんの巣があり、そこのチュンちゃんと仲が良かったのです。いっしょに餌を探したり、遊んだりしたんです」

「そうでしたか。その友だちは、きっと心配しているでしょうね」

ピュンはうなずいて、寂しそうに北の空を見詰めます。

ピーは、そんなピュンを見て元気付けようと思いました。

「そうだ、私がチュンちゃんに知らせる方法を考えます」

「えっ、ほんとうですか! 嬉しいな。でも、すごく遠くですよ」

「ええ~と、私は遠くまで飛ぶことができないので、町のはずれまで行き、そこで隣町のスズメに伝言を頼みます。そのスズメが隣町のスズメに伝言を頼んで、順繰りに進んで、最後にはチュンちゃんのところに届くと思います。さっそく、今から隣町まで行ってきます」

ピュンは目を輝かせました。

「ありがとうございます。チュンちゃんに届くといいな!」

ピーは、嬉しそうなピュンを見て飛び立ちました。

半日ほど飛んで、隣町までたどり着きました。

そこには、友だちのスズメがいます。

「おひさしぶり。元気だった? お願いがあって来たんだけど」

「元気だったよ。君も元気そうだね。お願いって何なの?」

「実は、友だちのツバメさんのことなんだけど。この前の嵐で翼が折れてしまって、私の巣のある人間の家で保護されているんだ」

「それはたいへんだ!」

「そのツバメさんの生まれたところに、チュンという名前のスズメの幼友達がいるそうで、会わせて元気を出してもらおうと思うんだ。それで、君に隣町まで行ってもらい、このことを君の友だちに伝言してもらいたいんだ。そして順繰りに伝言してチュンさんに知らせて欲しいんだ」

「わかった! じゃあ、すぐに隣町まで行ってくるね。翼が折れて保護されているツバメのチュンさんがスズメのピュンさんに会いたがっていると伝言すればいいんだね」

「ちがう! ツバメのピュンさんがスズメのチュンさんに会いたがって・・・」

「わかった! わかった! じゃあ行ってくるね」

「ありがとう。間違えないでね!」

「オッケー」

『本当に、大丈夫かな?』

ピーは少し不安でしたが、巣に戻りました。

 

 何日か過ぎて、チュンが住んでいる町にも伝言が届きました。

しかし、案の定、名前が間違えていました。

『怪我をして人間の家にいるツバメのピーが、スズメのピュンに会いたがっている・・・』

スズメたちは、ピュンという名前のスズメなんか知りませんでした。

しばらくして、この伝言の噂がチュンの耳に入りました。

チュンは『ピュン』という名前を聞いた時、体が震えました。

『間違って伝言されている! きっとピュンちゃんが怪我をしたんだ!』

チュンは家族に話をしました。

「ピュンちゃんが怪我をしたんだ。僕、会いに行って来る!」

お母さんは言います。

「名前が違っているじゃないの。どこにいるかもわからないし、危ないからやめなさい」

お父さんは、しばらく考えてから、チュンの真剣な顔を見て、

「行かなかったら、これからずーと後悔するな。違うツバメさんかもしれないけど、チュンが自分で決めなさい」

と、ニコリと笑って言いました。

「ありがとう、お父さん。では、行って来ます」

チュンは南の空に向かって飛び立ちました。

チュンは今飛んでいる空が、以前、ピュンが飛んだ空だと思うと、体に勇気が湧いてくるのを感じました。

 

 秋の終わりの風は冷たく強いです。

チュンは、ピュンを想いながら必死で何日も飛びました。

しかし、ツバメが一日で飛ぶ距離はスズメの数倍なので、中々進めません。

 チュンは途中で、スズメ仲間を見かけると、ピュンのことを聞きましたが誰も知りませんでした。なぜなら、ピュン家族は海沿いの空を飛びましたが、チュンは強い海風を避けて山沿いの空を飛んだからです。

チュンは不安でした。

『ピュンちゃんたちは、この空を飛んだのだろうか?』

ある夜、冷たくなった羽を丸めて、南の星空を見つめながら、しょんぼりとしていると、近くにスズメ仲間がやって来て声をかけました。

「この辺では、見かけない顔だね」

チュンは、旅をしている事情を話しました。

すると、そのスズメが言いました。

「違うかもしれないけど。以前、変なツバメがいて、スズメに挨拶しながら飛んでいたよ」

チュンは、それはピュンに間違いないと思いました。

「そのツバメのことを詳しく教えて下さい。いつ頃のことですか?」

「あれは大きな嵐が来た時だったから、夏の終わりだったな。山沿いを南の方へ家族で飛んで行ったよ」

「ありがとうございます。きっとピュンちゃんだと思います。明日、探してみます」

チュンの体に強い力がわいてきました。

 

 夜が明けると、チュンは近くを探し始めました。

「ピュンちゃんは、嵐のせいで怪我をしたんだ。きっと、この近くにいる」

チュンは人間の家を一軒一軒見て回りました。

夕方近くになり、庭に餌が置いてある一軒の家を見付けました。

『あそこの家で食べさせてもらおう』

チュンは庭に降り立ちました。

お腹が空いていたので夢中になって食べていると、家の中から懐かしい声が聞こえてきます。

「チュンちゃん、チュンちゃん、チュンちゃん」

チュンは窓のところに行き、家の中をのぞき込みました。

そこには、チュンの名前を必死に呼ぶピュンの姿がありました。

 

<後書き>

  次回は『再会』です。

  最終回です。

『チュンとピュン』シリーズの第2編目です。

************************************

 

 ピュンの一家は、生まれた土地を離れ、南を目指して飛び続けました。

ピュンにとってそれは初めての長い旅です。

ツバメたちは、幾つかの家族が一緒になって飛びます。

おとなのツバメたちが子供のツバメたちを囲み、ワシやタカなどに注意しながら飛ぶのです。もし、誰かが危険に気付くと、ほかのツバメたちに知らせ、全速力で逃げるのです。

ツバメは鳥の中で一番速く、しかも、急に曲がれるので、上空から急降下してくるハヤブサにも捕まることはありません。

 

 ピュンのお父さんは、海沿いを飛びました。なぜなら、見晴らしが良いので、恐い鳥を見付けやすいからです。

ピュンはこんな多くの水を見たのは初めてです。

「お父さん、あの水を飲んでもいい」

「ピュン、海の水は飲めないよ。しばらく行くと川があるので、それまでがまんしなさい」

「はあーい」

 ピュンたちは、夕方近くまで飛んで、お父さんがいつも立ち寄る場所に着きました。

ここは食べ物がたくさんあり、多くのツバメたちが立ち寄るところです。

「みんな、この場所を覚えておくんだよ。」

「はい、お父さん」

ピュンの三姉妹は、周りの景色を頭の中に入れました。

「それでは、少し休んだら、食べ物を探しに行こう」

ピュンは、くたくたに疲れていました。

食べ物はすぐに見付かり、食べ終わると、昼間の疲れから眠くなりました。

「チュンちゃんは、今ごろ何をしてるかな。すごく離れてしまったな」

ピュンはチュンのことを想いながら眠りにつきました。

 

 次の日の朝、明るくなると、直ぐに出発しました。

きのうと同じように、南に向かって飛び続けました。

ピュンは、チュンのことが懐かしくて、スズメに出会うたびに挨拶しました。

「スズメさん、こんにちは」

スズメたちは、ツバメに挨拶されたのが初めてらしく、驚いたり、きょとんとしたりしていましたが、中には、

「がんばってね」

と、返事をしてくれるスズメもいました。

ピュンは、チュンを想い出しながら、飛び続けました。

 

 そんな日が何日か過ぎた時、お父さんが困った顔をしてみんなに言いました。

「どうやら、嵐がこっちに向かっているらしい。これからは、気を付けて飛ばないといけない」

「嵐ってなに?」

子供たちは、まだ、嵐の怖さを知りませんでした。

「すごく強い風と雨が降るんだよ。飛んでいると、地面に叩き付けられるんだ。翼が折れたり、ひどい時は死んでしまう。だから、危なくなったら、大きな木の枝や屋根の下に避難するんだ。突然、強い風が吹くことがあるので注意しなさい」

「はーい」

お父さんは、今度は風の強い海沿いを避けて、山の方へ向かいました。山や、木が風を遮ってくれるので安全です。

 

 しばらく飛ぶと、昼間なのに空が急に暗くなってきました。

すると突然物凄い光が走り、空を震わす轟音が響き渡りました。

「危ない!」

お父さんが叫びました。ピュンの近くにカミナリが落ちたのです。

ピュンは吹き飛ばされ、地面に叩き付けられてしまいました。

起きようとしましたが体が動きません。

翼を見ると折れています。

「お父さん、助けて!」

ピュンは必至に叫びましたが、その声は風に消されてしまいます。

空の上では、家族がピュンのことを探していますが、葉っぱの下に入ってしまったピュンを見付けることができません。

ピュンは葉っぱのすき間から家族が無事なことを見届けると祈りました。

『お父さん、お母さん、お姉さんたち、ごめんなさい。私はもう動けません。私のことはあきらめて、旅を続けて下さい。お願いします』

ピュンは助けを呼ぶのをやめて、静かに目を閉じました。

空の上では、家族がいつまでもピュンを探し続けていました。

 

 「お母さん、たいへん! ツバメが倒れてる!」

ピュンは子どもの声で目を開けました。

「大丈夫、生きているわ。直ぐに獣医さんに診てもらいましょう」

ピュンは暖かい子どもの手で抱き上げられました。今まで人間に触られたことはありませんでしたが、冷え切ったピュンの体に人の温もりが伝わってきました。

「ヨリちゃん、お母さんが車を運転するから、ツバメをしっかり持っててね」

『この子は、ヨリちゃんという名前なんだ』

ピュンは、なぜか安心した気持ちになりました。

 

 獣医さんは、ピュンの体を診ると、顔を曇らせました。

「翼が折れているね。これでは治るのにすごく時間がかかるな。でも、その前に、餌を食べてくれるかだ」

先生は、ピュンの翼をきれいに折りたたむと、テープで体に固定しました。

そして濡れた体をヒーターで温めて乾かしました。

ヨリちゃんは、心配そうにツバメを見ながら、先生に聞きました。

「餌は何をあげたらいいんですか」

「ウグイス用のすり餌がいいかな。ペットショップで売っているよ。問題はそれをどう食べさせるかだ。下に置いたり、竹べらで口の中に入れてあげたり・・・。色々と試してみないと分からないな。ところで、このツバメを保護するつもり?」

先生は、ヨリちゃんとお母さんの顔を代わるがわる見ました。

ヨリちゃんはお母さんの顔を見ながら言いました。

「以前、スズメのヒナを保護したことがあります。お母さん、いいでしょ」

「先生、できると思いますか」

と、お母さんは少し心配そうに先生に尋ねました。

「やってみないと分からないけど、飼育の難しいスズメのヒナを保護できたのなら、大丈夫と思います。そうしてもらえると、私も助かります」

「私も小鳥が好きだから、保護してみますか」

と、お母さんが答えると、先生は喜んで言いました。

「では、栄養剤を渡します。飲ますと元気がでますよ。こうやってあげてくださいね」

というと、先生は、スポイトを使って、栄養剤をくちばしのすき間からしみ込ませました。

ピュンは静かにしていました。

育った巣のあった家の人も優しかったので、人間のことを信頼していました。

ピュンの口の中に栄養剤が流れ込んできました。

『あっ、おいしい! こんな美味しい水、初めて!』

「先生、飲んでる! ゴクゴク飲んでる!」

ヨリちゃんは嬉しくなりました。

「そうだね。これだけ飲む元気があるなら、たぶん大丈夫だ。連れて帰って、すり餌を食べさせてごらん。それから、野生動物は飼ってはいけないのだけれど、このツバメは負傷しているから、私が保護飼育申請を役所に出しておいてあげるね」

「ありがとうございます。お母さん、帰りにすり餌を買ってね」

「はい、はい。」

ピュンは、ヨリちゃんの手に包まれて病院を出ました。

 途中ですり餌を買って、家へ着くと、お母さんは小さなダンボールを持って来て中にタオルを敷き、ツバメが真っすぐになるように真ん中を少し凹ましました。

「ヨリちゃん、ツバメちゃんを中に入れて」

ヨリちゃんは、恐るおそるピュンをタオルの上に置きました。

ピュンは静かにしています。

ヨリちゃんの優しい手の温もりで安心しています。

『この人たちはいい人だな』

と、ピュンは思いました。

 ヨリちゃんは、ピュンに話かけました。

「今、お母さんがごはんを作ってくるから待っててね。ちゃんと食べてね」

ピュンは、首をかしげてヨリちゃんを見ました。

しばらくすると、お母さんがすり餌をビタミン剤で練った餌を持ってきました。

ヨリちゃんは、それを竹べらの上にのせてピュンの口元に持ってきました。

「ツバメちゃん、ごはんですよ」

しかし、ピュンは口を開けません。なぜなら、今までに人間から餌をもらったことが無かったからです。

『何だろう? おいしそうな匂いがするな』

ピュンは、ちょっと突いてみました。

すると、口の中に少し餌が入ってきました。

『わあっ、 おいしい!』

おなかがすいていたピュンは、夢中で食べ始めました。

「おかあさん、ツバメちゃんが食べた」

ヨリちゃんは喜んで叫びました。

「心配していたけど、簡単だったね」

お母さんもほっとして言いました。

「食べ終わったら、暗くして、休ましてあげなさい」

「はあーい」

 

 夕方、お父さんが仕事から帰って来ると、ヨリちゃんは、昼間に起きたことを話しました。

お父さんは、ヨリちゃんの不安そうな顔を見ると、

「そうか、治るまで長くかかるのなら、ここで春まで飼ってあげないといけないね。暖かくなったら放してあげよう。それまで、ヨリちゃんは、しっかりと面倒をみてあげなさい」

「お父さん、ありがとう。ツバメちゃん、よかったね」

となりで聞いていた、お母さんが言いました。

「名前を付けてあげるの?」

「ううん、スズメのピーちゃんの時のように別れがつらくなるから、名前はつけないの。ツバメちゃんのままにする」

「それがいいわね」

「ツバメちゃん、春まで私がママよ」

ピュンは不思議そうな顔をして話を聞いていました。

『何を言っているのか良く分からないけど、みんな優しい人みたい』

ピュンは、みんなの優しい笑顔を見て安心しました。

 

 次の日の朝、ピュンは南の空を見て祈りました。

『お父さん、お母さん、お姉さん、私は大丈夫です。無事に南の国へ着いて下さい』

そして、北の空を見て想いました。

『チュンに会いたい。私はここにいます』

 

 嵐が過ぎた空は晴れ渡り、ピュンを明るく照らしていました。

 

<後書き>

  次回は『ピュンを捜しに』です。

この第1編は以前掲載し、ブログ形態変更で削除したものの再掲載です。

 

スズメとツバメが庭に撒いた餌を仲良く一緒に食べていました。

それが微笑ましく、執筆してみました。

小さい子供向けのストーリーで、全4編で構成されています。

別の童話に登場したヨリちゃんとピーちゃんが次回以降に再登場しますので、お楽しみに。

***********************************

 

 スズメのチュンが育った巣は、ツバメの巣の近くにありました。

チュンと同じころに、ツバメのヒナも生まれましたので、チュンはヒナのころより、ツバメのヒナを見て育ちました。

チュンは三兄弟で、ツバメは三姉妹でした。

チュンと同じように親から食べ物をもらい、鳴き声は少し違いましたが、同じように巣の中で騒いでいました。

チュンもツバメのヒナも初めは似たような姿でしたが、大きくなるにつれて姿が違ってきました。

チュンはツバメの子供たちが黒く美しい姿になって行くのをまぶしい気持ちで見ていました。

 

 巣立ちが近いある日、チュンは勇気を出してツバメの子供に声を掛けてみました。

「こんにちは、ツバメさん。ぼくの名前はチュンです」

すると、三姉妹の内の一羽が返事をしてくれました。

「私はピュンです。名前が似ていますね」

と、言ってほほえみました。

「本当ですね」

チュンの心は揺れました。こんな優しい声を聞いたのは初めてでした。

「ピュンさんは、もうすぐ巣立ちですか」

と、チュンがためらいながら聞きますと、

「私、みんなより鈍くて、巣立ちできるか心配なんです」

と、ピュンは少しはにかみながら答えます。

「実は、ぼくも鈍くて心配なんです」

そして、二羽は顔を見合わせて笑いました。

チュンの心の中はピュンで一杯になりました。

 

 それからチュンはピュンと話をするのが楽しみになりました。

そんな二羽をお父さんとお母さんは、ほほえみながらも少し心配そうに見ておりました。

 

 やがてチュンの巣立ちの時がきました。

ツバメの巣からは、ピュンが見ています。

『落っこちたら、かっこ悪いな。ピュンに笑われてしまう。でも、その方がピュンには良いかな』

チュンの兄弟はじょうずに飛び立つことができました。

いよいよチュンの番です。

ピュンの視線を熱く感じます。

「エイッ!」

チュンは巣から飛び出して、羽ばたきましたが、ひっくり返りながら近くの枝につかまりました。

「がんばってー」

ピュンの声が聞こえてきます。

チュンはピュンの方を見て首をかいて照れ笑いをすると、

「もう一度、エイッ!」

チュンは地面すれすれのところまで落ちながら、羽ばたいて飛び立ちました。

『ちょっと、あぶなかったな!』

チュンは直ぐにピュンのところまで飛んで行きました。

自分が飛べたことより、ピュンの近くに行けたことの方が嬉しかったのです。

「チュンちゃん、飛べたね。おめでとう」

「ありがとう。少しドジっちゃた」

「おもしろかった! チュンちゃん、お母さんとお父さんが下で待っているよ」

「あっ、ほんとだ。これからは色々な事をお母さんとお父さんに教えてもらわないと。また来るね」

ピュンは笑って見送りました。

 

 何日か過ぎて、今度はピュンの巣立ちの時がきました。

チュンが近くの枝で心配そうに見ています。

『チュンちゃんもドジってだいじょうぶだったから、私もだいじょうぶ!』

ピュンは心を落ち着かせて、勢いよく飛び出しました。

いっしょうけんめい羽ばたくとすごく速く飛ぶことができます。

「ピュンちゃん、すごい!」

チュンは驚いて叫びました。

ピュンは急いでチュンのところに飛んできました。

「ピュンちゃん、おめでとう。すぐに飛べたね」

「ありがとう。チュンちゃんが、わざとドジってくれたおかげで、気持ちが楽になったの」

「なーんだ、知ってたの!」

「ううん、自分で飛んでみて気が付いたの。ありがとう、チュンちゃん」

「照れるな。それにしてもピュンちゃんは、すごく速いんだね。おどろいちゃった。ぼくはあんなに速く飛べないな」

と、少し悲しそうに言うと、

ピュンは、ほほえみながら、

「でもね、私はチュンちゃんのように空中で長いこと止まっていられないの。だから、私、チュンちゃんはすごいと思う」

そう言われて、チュンは落としていた瞳を上げて、ピュンを見ました。

そして、その優しい心と美しい姿に顔が赤らむのを覚えたのでした。

 

 巣立ちした後、チュンもピュンもお父さんやお母さんの後に着いて行き、生きていく方法を色々と教わりました。

一日の終わりに、チュンとピュンは、自分たちが教わったことを教え合いました。

そんな楽しい日々が過ぎていったのです。

 

しかし、夏の終わりが近づくにつれてピュンは元気が無くなっていきました。

時には目を赤くはらしていることもあります。

チュンは心配して、

「ピュンちゃん、何か心配ごとがあるの。ぼくに話してみて」

と、聞いてみました。

すると、ピュンは突然泣き出してしまいます。

「私たちツバメは、夏の終わりにここをはなれて南の土地に行かなければならないの。暖かい土地で冬を過ごすの。だから、チュンちゃんとお別れしなければならないの」

チュンは驚いて言葉がでませんでしたが、すぐに全てを悟りました。

チュンの目からも涙が落ち、只ただ、ピュンといっしょに泣くだけでした。

 

 夏が終わり、チュンとピュンのお別れの日がやって来ました。

チュンはピュンの美しい姿を見つめ、ピュンはチュンの優しい姿を見つめていました。

そして、それを目に焼き付けようと二羽は黙っています。

やがて、お別れの時がきて、ピュンは親にうながされて飛び立ちました。

「ピュンちゃん、元気でね! 来年、また会おうね!」

「チュンちゃんも元気でね! 冬に負けないでね!」

ピュンはチュンの上を何回も回り、そして家族と共に南の空へ飛んで行きました。

 

チュンは、いつまでも涙でにじんだ南の空を見つめていました。

 

 

<後書き>

  私は小学校の時に転校したことがあります。

  悲しかったな。

  次回は『傷ついたピュン』です。

以前、ツバメの空巣でスズメが子育てをしていました。

南国から戻って来たツバメは、暫く周りを飛び回っていたのですが、

スズメを威嚇することも無く、近くに新しい巣を作りました。

優しいツバメに心を打たれました。

この物語自体は今一なのですが、次に続く『チュンとピュン』シリーズ(全4編)の

前振りとなりますので、掲載させて頂きました。

*********************************

 

 ツバメの夫婦は困っていました。

春先に南の国から戻って来たら、自分の巣にスズメの夫婦が住んでいたのです。

「スズメさん、ここは私たちの家ですから出て行ってください」

と、言いましたが、スズメは、

「ごめんなさい、ここはツバメさんの家でしたか。長いことだれも住んでいなかったので使わせてもらっています。今、卵を温めていますので出て行けません。子供が巣立ちするまで待ってもらえますか」

と、言って、お腹を少し持ち上げて卵を見せました。

ツバメは、自分たちも子育てのたいへんさを知っているので、その巣はスズメにあげて、

近くに新しい巣を作ることにしました。

「ツバメさん、ありがとうございます」

スズメはツバメに心から感謝しました。

 

 しばらくして、ツバメ夫婦にも卵が産まれ、何日かたってヒナがかえりました。

あたりは、スズメとツバメのヒナで賑やかになりました。

そして、二組の夫婦は仲良く暮らしていました。

 

 そんなある日、スズメたちが騒ぎ出しました。

「スズメさん、どうしたのですか」

と、ツバメが聞きますと、

「近くにどう猛なカラスが来ているので、私たちがみんなで騒いでヒナの声を聞こえなくしているのです」

と、スズメが心配そうに言いました。

「カラスが来ていることを知りませんでした。教えてくれてありがとうございます。では、私たちはカラスの前を飛び回って気をそらします」

「ツバメさん、そんなことをしてカラスに捕まりませんか」

「大丈夫ですよ、私たちは鳥の中で一番速いのです。カラスなんかには負けません」

と言うと、ツバメ夫婦はカラスに向かって飛び立ちました。

「何て勇敢なのだろう」

スズメ夫婦はとても感心しました。

空では、ツバメ夫婦がカラスの直前を猛スピードで何回も横切り、カラスを混乱させていました。これにはカラスも困り果てて、しばらくすると飛び去って行きました。

「ツバメさん、ありがとうございました」

「こちらこそ、危険を知らせてくれてありがとうございました」

スズメとツバメの夫婦は顔を見合わせてほほえみました。

 

 やがて、二組の夫婦のヒナは無事に巣立ち、親鳥も子供と一緒に巣から離れる日がきました。

「スズメさん、私たちは、これから南に向かいます。長いことありがとうございました」

「ツバメさんがいなくなると、さびしいです」

「来年の春に、また帰ってきます。それまでのお別れです。では、スズメさん、お元気で」

「お気を付けて、ツバメさん」

 

 ツバメとスズメが去った後には、空っぽの二つの巣が来年の再会まで残されていました。

『ヨリタン・ヨリちゃん』シリーズの3作目です。

今回の作品は実話を基にしているのですが、私が子供のころは図鑑が充実しておらず、掲載されている昆虫の数も少なく、写真ではなく絵でした。

(そもそも、カラー写真が普及していなかったです)

幼虫についての記載など無に近かったのです。

************************************

 

 ある日、ヨリタンがジイジの畑を歩いていると、キャベツの上に青色の虫がいました。

その虫は、一生懸命に葉っぱを食べています。

ヨリタンは、

「キャベツを食べるとジイジに怒られるよ」

と、虫に言いました。

その虫は、食べるのをやめて、きょとんとした顔でヨリタンを見上げましたが、

また、食べ始めました。

「虫さんは、すごくおなかがすいているの?」

と、ヨリタンが言うと、虫はまた食べるのをやめて、じっとヨリタンの顔を見ました。

「じゃあ、待ってて。ジイジに話してくるから」

ヨリタンは、そう言うと、急いで家に戻りました。

そして、縁側から叫びました。

「ジイジ、虫さんがおなかをすかしているの。だから、畑のキャベツを食べてもいいよね」

「ええっ!」

ジイジは、驚いて跳び出て来ました。

「ヨリタン、今、なんて言った。虫が畑のキャベツを食べているのか?!」

「そう。おなかがすいているんだって。かわいそうだから、食べてもいいよね、ジイジ」

「こりゃ、まいったな!」

ジイジは、ヨリタンの真剣な顔を見ると何も言え無くなってしまいました。

家の中で話を聞いていたバアバが笑いながら出て来ました。

「とにかく、虫さんを見に行って来たら」

「ああー、そうするか」

ヨリタンは、うれしそうにジイジの手を引っぱって畑に向かいました。

 

 虫は、あいかわらず一生懸命に葉っぱを食べています。

「こりゃ、アオムシだ! キャベツがだめになってしまう。ころ・・・・」

と言いかけて、ジイジは黙りました。

ヨリタンが虫を見てニコニコしています。

「虫さん、ジイジをつれて来たからね」

ジイジは、アオムシに話しかけているヨリタンを見ながら考え込んでしまいました。

『はて、困ったな! どうしたもんか?』

そこへ、バアバがやって来ました。

「おやおや、アオムシだ」

「この虫さん、アオムシっていうの?」

「そうよ。おとなになるとチョウチョになるんだよ」

『ばあさん、余計なことを言いおって』

と思いながら、ジイジはバアバをにらみました。

しかし、バアバは知らん顔です。

「わあー、見てみたい。この虫さんはすごいんだね」

「ジイジにたのんで、家で飼ってみたら」

とバアバは、そう言ってニヤリと笑いました。

『また、余計なことを言いおって』

ジイジは横目でバアバの顔を見ました。

バアバは、またニヤリと笑いました。

「ジイジ、飼ってもいいでしょ!」

ジイジは、ヨリタンの甘えた顔を見ると反対できなくなります。

「ああー、いいよ」

「うれしい。アオムシさん。いっしょにお家に帰ろうね!」

ヨリタンは、アオムシを葉っぱの上にのせると、宝物のように大切に持って帰りました。

 

 家へ着くと、ヨリタンは大きな声で、お母さんを呼びました。

「アオムシさんを連れてきたよ」

お母さんは、アオムシと三人を見比べて、あきれて、

「それで、飼うことにしたのね。本当にジイジはヨリタンに甘いのだから」

「いや、ばあさんが・・・・」

「しょうがないわね。ちょっと待ってて。何か入れ物を探してくるわ」

と言うと、お母さんは台所に行き、大きなガラスのビンを持って来ました。

「これに、アオムシとキャベツを入れて」

「アオムシさん、今日から、ここがあなたのお家よ」

ヨリタンは、ビンの中に入ったアオムシをうれしそうに見ています。

アオムシは首を持ち上げて、周りを見ていましたが、また、一生懸命に葉っぱを食べ始めました。

お母さんは、ビンの口にガーゼを置いて輪ゴムで止めると、

「これで完成! これからは、毎日、キャベツを換えてあげるのよ」

「はーい」

「それから、アオムシさんもキャベツを食べるのだから、ヨリタンも毎日キャベツを食べると約束しなさい」

「ええー、そんなのずるい!」

お母さんは、しめしめと笑いながら台所に戻って行きました。

 

 ヨリタンは、ビンをテーブルの上に置くと、アオムシに話かけました。

「たくさん食べて、きれいなチョウチョになってね」

アオムシは、ヨリタンをちらっと見ましたが、葉っぱを食べています。

 

 夕方になり、お父さんが仕事から帰って来ました。

ヨリタンはドキドキしながらビンをお父さんの前に置くと、

「お父さん、アオムシさんが来たの!」

「ほおー、どこで見つけたの?」

「ジイジの畑。このアオムシさん、すごいんだよ! おとなになるとチョウチョになるんだって。バアバが言ってた」

「それで、飼うことにしたのか。しっかり面倒をみてあげるんだよ」

「はーい」

 

 ヨリタンは、寝る時も枕元にビンを置きました。

すると、ビンの中から音がします。

「ガリガリ、ガリガリ」

アオムシが葉っぱを食べる音です。

「アオムシさんは、夜でも食べているんだ。お母さんは、寝る前に食べてはいけませんと言うけど、アオムシさんはおなかをこわさないのかな?」

ヨリタンは、懐中電灯でアオムシを見てみました。

アオムシは迷惑そうな顔をして、葉っぱの奥に入ってしまいました。

「ごめんなさい。アオムシさん、ゆっくり休んでね」

ヨリタンはビンを見つめながら眠りました。

 

 次の日、ヨリタンはアオムシが葉っぱを食べる音で目を覚ましました。

「アオムシさん、おはよう。こんな早くから食べているの?」

アオムシは、知らん顔をして葉っぱを食べています。

そこにジイジがやって来ました。

「ジイジ、おはよう。このアオムシさん、何を言っても返事してくれないね!」

「そうかい。きっと、食べるのに忙しいんだよ。そのうちに、返事してくれるよ」

「ほんと! はやく返事してくれないかな」

「じいさん、また変なことを言って!」

いつの間にか、バアバが立っていました。

「おー、こわ。ばあさんに怒られちゃった! ジイジはキャベツを取って来るとするか」

「アオムシさん、食べるの忙しいですか? ジイジがキャベツを持って来てくれますよ。待っててくださいね」

 

 ヨリタンはしばらく考えて、アオムシが返事をしてくれないのは名前を付けていないからと思いました。

「アオムシさんに名前を付けなくっちゃね。どんな名前がいいですか?」

アオムシは、相変わらず知らん顔をして葉っぱを食べています。

「アオ・・・・、アオ・・・・、そうだ! アオちゃん、はどうですか?」

ヨリタンが大きな声を出したので、アオムシは驚いて首を上げました。

「この名前、気に入りましたか? それでは、アオちゃんにしましょうね」

アオムシは、きょとんとヨリタンを見ています。

そこへ、ジイジがキャベツを持って戻って来ました。

「ジイジ、名前を付けたのアオちゃん」

「いい名前だね。じゃあ、これを、アオちゃんにあげよう」

ジイジがキャベツをビンの中に入れると、すぐに新しい葉っぱに移って来ました。

「アオちゃんは、新鮮な方がいいんだね」

ヨリタンは、古い葉っぱをビンから出すと、ビンの口をガーゼでふたをしました。

「ヨリタン、ごはんですよ」

お母さんの声がします。

ヨリタンはビンを持って行き、テーブルの上に置きました。

「あら、あら、一緒にごはんを食べるの」

お母さんは、少し気持ち悪そうです。

「アオちゃんがさびしがるといけないから」

「アオちゃん? 名前を付けたのね」

「そう」

「じゃあ、アオちゃんに負けないように、ヨリタンもキャベツを食べなさいね」

「ええー!」

 

 ヨリタンは、毎日、アオムシの世話をしていましたが、一週間が過ぎたころから葉っぱを食べなくなりました。

ヨリタンは心配になり、ジイジに聞きました。

「ジイジ、アオちゃんが葉っぱを食べないの、どうしたのかな? 病気なのかな?」

ジイジは、アオムシを見ると、

「たぶん、アオちゃんは、サナギになる準備をしているんだよ」

「サナギって?」

「アオちゃんは、チョウチョになるために体の外側に殻を作るんだよ。それをサナギと言うんだよ。その中で変身するんだ」

「アオちゃん、すごいね! 殻を作って変身するんだ」

「アオちゃんが殻を作りやすいように、ビンの中に木の枝を入れてあげよう」

そう言うと、ジイジは枝を探しに行きました。

「アオちゃん、待っててね。ジイジが木の枝を持って来てくれるから」

アオムシは、ヨリタンをちらっと見てから、ビンの中を歩き回っています。

 

 しばらくして、ジイジが枝を持って戻って来ました。

そして、ビンの中に枝を入れました。

「アオちゃん、ジイジが持って来てくれましたよ。これでいいですか?」

アオムシは、枝を見付けると、すぐに登って来ました。

そして、枝の中ぐらいまで来ると、糸を出して動き回っていましたが、ヨリタンをじーと見てから、動かなくなりました。

「これは、サナギになるな。ヨリタン、少し暗いところに置いてあげなさい」

「はあーい」

ヨリタンは、ゆっくりとビンを持ち上げると、部屋のすみに静かに持って行きました。

そして、寝転がってビンを見ました。

「ジイジ、アオちゃんは、いつチョウチョになるの?」

「一週間くらいかかるよ」

「ええー、そんなにかかるの!」

「そうだよ。その間、静かにしてあげないといけないよ」

「はあーい。アオちゃん、きれいなチョウチョになってね!」

アオムシは、少し困った顔でヨリタンを見つめました。

 

 それから、ヨリタンは、一日中、ビンのそばで過ごしました。

お母さんが食事に呼んでも中々ビンのそばを離れません。

「ヨリタン、食事よ。早く来なさい」

「はあーい、ちょっと待って。今、アオちゃんがサナギになっているの」

「いいかげんにしなさい!」

ヨリタンは、アオムシが心配でしかたがありません。

「ちゃんとごはんを食べなさい」

「はあーい。でも、お母さん、アオちゃんがキャベツを食べなくなったから、ヨリタンも食べなくていいよね」

「だめです!」

「おー、こわ。怒られちゃった」

「もう、ジイジの口まねをしないの!」

ヨリタンとジイジは顔を見合わせて笑っています。

 

 アオムシがサナギになっても、ヨリタンは、毎日、サナギに話しかけました。

「アオちゃん、がんばって、きれいなチョウチョになってね。待ってるからね」

ヨリタンの声が聞こえるのか、サナギは時どき体をゆすりました。

そんな時、ヨリタンはうれしくてジイジを呼びました。

「ジイジ、また、アオちゃんが動いた! 早く出て来ないかな」

「アオちゃんは、がんばっているね。きっと、きれいなチョウチョになるよ」

「わあー、楽しみだなー」

 

 アオムシがサナギになって一週間が過ぎた夕方です。

ヨリタンがいつものように寝っこがってビンを見ていると、サナギがゴソゴソと動き始めました。そして、しばらくすると、背中にヒビが入りました。ヨリタンは大声を上げました。

「サナギが割れた! チョウチョが生まれる!」

ジイジが跳んで来ました。

「どれどれ、あっ、ほんとだ。もうすぐ生まれるぞ」

ふたりは息をひそめてサナギを見つめました。

サナギは上の方が二つに割れて、中から頭が出てきました。

次の瞬間、ヨリタンは叫び声を上げました。

「きゃあー、蛾だあ!」

ヨリタンは、驚いて泣き出してしまいました。

「ヨリタン、ごめん、ごめん。チョウチョじゃなかったね。ジイジが悪かった」

騒ぎを聞いて、バアバが跳んで来ました。

「あらら、蛾だったのね。じいさん、何で気が付かなかったの!」

バアバは自分が言ったことをけろっと忘れて、ジイジのせいにしています。

「アオちゃんは、チョウチョになると思っていたから驚いただけなの。だいじょぶだよ」

ヨリタンは、しゃっくりを上げながら、手で涙をぬぐいました。

そして、もう一度、ビンの中を見ました。

蛾は一生懸命、サナギから出ようとしています。

ヨリタンはじっとそれを見ていました。

「アオちゃん、がんばって!」

ヨリタンは蛾に声をかけました。

ジイジはおろおろしていましたが、ヨリタンの声を聞いて、顔をのぞき込みました。

ヨリタンは、いつもの笑顔に戻っています。

「ジイジ、だいじょうぶ。ヨリタンはアオちゃんが蛾でも大好きだよ」

「そうか、そうか」

「アオちゃんは、何の蛾なの?」

「たぶん、スズメガだな」

「スズメガさんか・・・・ がんばって出てきて!」

スズメガは、休み休み、力を出し切ってサナギから出てきました。

そして、折りたたまれていた羽を少しずつ広げていきました。

羽を広げ終わるころには、辺りはすっかり暗くなっていました。

「ジイジ、アオちゃんが羽を動かしているよ」

「きっと、飛ぶ練習をしているんだな。もうすぐ飛ぶから、ビンから出してあげよう」

と言って、ジイジは、スズメガが乗っている枝をビンから出して縁側に立てかけました。

そして、部屋の明かりを消しました。

 

 スズメガは、少し羽ばたくと、ゆっくりと枝を登り始めました。そして、枝の先端まで来ると、ヨリタンをじっと見つめました。

「ヨリタンありがとう。マタアオウネ」

「アオちゃんがしゃべった! ジイジにも聞こえたでしょ」

「いいや、ジイジには聞えなかったよ」

「ありがとう、また会おうね って言ったよ」

ジイジは不思議そうに首をかしげました。

『はて? わしは、変声でヨリタンありがとう とは言ったが、また会おうね とは言っていないが・・・』

ジイジは周りを見ましたが、ふたり以外には誰もいませんでした。

 

 スズメガは夜空に飛び上がりました。

「元気でね、アオちゃん!」

月明かりの中に消えていくアオちゃんをヨリタンは笑顔で見送りました。

ブログ形態変更しようとした時に削除してしまったものの再掲載です。

 

『ヨリタン・ヨリちゃん』シリーズの4作目です。

スズメのヒナがよく巣から落ちるのですが、うちの親鳥は家主と似て『ずぼら』らしく、ヒナに人間の匂いが付いても平気で、続けて世話をしています。

毎年、可愛い鳴き声を楽しみにしています。

なお、初めヒナは口を開かないので、先端を削って薄くした竹ヘラ(割り箸でも可)を嘴の横から入れて、ヘラを90°回して口を開き、そこに注射器(針無し)の先を入れて食べさせる方法は動物園の方に教えてもらいました。

何回か食べさせている内に、注射器の先をヒナの正面から持っていくと自分から口を開くようになります。

体が冷えないように電気敷毛布やアンカで温めてあげるとよいです。

(口を開けてハアハアと息をしてたら温度を下げます)

************************************

 

 ヨリちゃんが学校から帰って来ると、縁側でお母さんが困った顔をして小さな箱をのぞき込んでいました。

「お母さん、ただいま。どうしたの?」

と言って、ヨリちゃんもその箱をのぞき込みました。

そこには、毛布の上で小さなヒナがピーピーと鳴いています。

ヨリちゃんはおどろいてお母さんに聞きました。

「これどうしたの?」

「庭に落ちていたの。たぶん屋根にあるスズメの巣から落ちたみたい」

と、お母さんは言いました。

「じゃ、巣に戻してあげようよ」

と、ヨリちゃんが言うと、お母さんは、

「巣が高い所にあって、危ないから、お父さんが帰ってきたらやってもらおう。ヒナは一日食べないと死んでしまうから、何か食べさせないと」

ヨリちゃんはおどろいて、

「一日で死んじゃうの」

「そうよ、すごく弱いの。お母さんが子供のころ、おじいちゃんがジュウシマツを飼っていて、よくお手伝いをしてたの。ヒナにはゆで玉子の黄身をあげると良いの。お母さんは作ってくるから、ヨリちゃんはヒナを見てて」

と、言うとお母さんは台所に急いで行きました。

ヨリちゃんはヒナを見るのが初めてでした。

ヒナはヨリちゃんの顔を見てピーピー鳴いています。

「すぐにお母さんがごはんを作ってくるから待っててね」

ヨリちゃんはヒナの頭をなでながら言いました。

すると、ヒナはさっきよりも大きな声で鳴き始めました。

「困ったな、私はあなたのお母さんじゃないの」

ヨリちゃんはヒナがとてもかわいくなりました。

「名前を付けようね。ピーピー鳴くから『ピーちゃん』、良い名前でしょ」

ヨリちゃんはピーちゃんに歌いかけました。

「ピーちゃん、あなたのおうちはどこですか? ・・・・・・私は困ってしまい、えんえんええーん、えんえんええん」

すると、今まで鳴いていたピーちゃんが鳴きやみました。

「ピーちゃんは歌が好きなんだ、よかった」

そこに、お母さんが戻って来ました。

「どうしたの歌っていて」

「ピーちゃん、歌が好きみたい。私が歌ったら鳴きやんだの」

お母さんは少し困った顔をして、

「名前を付けたの。別れが悲しくなるわよ」

「だいじょうぶ。だって、ピーちゃんの巣は、この家の屋根でしょ。近くだもの」

「そうね、じゃあピーちゃんにごはんをあげましょう」

と言って、お母さんは、水とゆで玉子の黄身と針の無い注射器をヨリちゃんの前に置きました。そして、黄身に少し水を加えて、それを注射器の後ろから入れました。

「ヒナには、こうして食べさせるの。おじいちゃんがヒナに使っていた注射器を捨てないでおいてよかった」

お母さんは、ピーちゃんの口を横から竹ヘラで開けると、注射器の先をピーちゃんの口の中に入れて少しだけ黄身を食べさせました。

ピーちゃんはゴクンと黄身を飲み込みました。

「お母さん、すごい。ピーちゃんが食べた!」

ヨリちゃんは思わず叫びました。

「お母さんは、食事のしたくがあるから、ヨリちゃんがピーちゃんの世話をして。5分おきに今みたいに黄身を食べさせて。お腹が一杯になると鳴かないから、そうしたら、日の当たらない暖かい場所に置いてあげて」

そう言うと、お母さんは台所へ戻って行きました。

ヨリちゃんは、お母さんの言いつけ通りにしてお父さんの帰りを待ちました。

 

 夕方になり、お父さんが帰って来ました。

ヨリちゃんは急いでお父さんにピーちゃんの事を話しました。

「どれどれ、ピーちゃんを見せてごらん」

ヨリちゃんは、ピーちゃんの入った箱をお父さんに渡しました。

「元気そうだね。夜、ヒナを巣に戻すと、親鳥がおどろいてヒナを落としてしまうので、明日の朝になったら巣に戻そう。それまでヨリちゃんが世話をしなさい」

そう言って、お父さんは箱をヨリちゃんに渡しました。

ヨリちゃんは、ドキドキして箱を受け取ると、

「明日の朝までは、私があなたのお母さんよ」

ヨリちゃんはピーちゃんに話しかけました。

ピーちゃんはきょとんとしたしぐさをしてヨリちゃんを見上げています。

 

 夕食が終わると、ヨリちゃんはピーちゃんにも夕食をあげることにしました。

そして、箱の上に掛けてある布をどかすと、ピーちゃんがヨリちゃんの顔を見て鳴き始めました。

ヨリちゃんが注射器を近づけると、ピーちゃんは自分から口を広げます。

「お母さん、ピーちゃんが自分で口を開けたよ!」

「そう、きっとピーちゃんはヨリちゃんを親と思っているのよ」

「わー うれしい。私がママですよ」

ヨリちゃんはピーちゃんが可愛くてたまらなくなりました。

夜寝る時は、ピーちゃんが冷えないようにと、箱を自分の布団の中に入れました。

 

 朝になり、お父さんがヨリちゃんを起こしに来ました。

「ヨリちゃん、起きなさい。ピーちゃんを巣に戻すよ」

ヨリちゃんは起きて、布団の上に座り、

「お父さん、私、眠れなかった。ピーちゃんをこのまま飼ってはだめ?」

お父さんは、ヨリちゃんの前に座り、少し考えてから、

「ピーちゃんにとっては、親のところが一番しあわせなのだよ。ヨリちゃんだって、お父さんやお母さんから引きははされたら悲しいだろ」

お父さんは続けて話します。

「これから、ピーちゃんは、親鳥に自然の中で生きていく方法を教えてもらうんだよ。それは、人間では教えられない。このままピーちゃんを飼ったら、ピーちゃんはカゴの中で生活して、一生、大空を自由に飛ぶことができない。だから、戻してあげよう。これからは、みんなでピーちゃん一家を見守ってあげようね」

ヨリちゃんは黙って話しを聞いていましたが、涙がこぼれ、ひざをぬらしていました。

 

 ヨリちゃんは、ピーちゃんに最後のごはんをあげると、箱をお父さんに渡しました。

「元気でね、ピーちゃん。ママのこと忘れちゃいやだよ」

お父さんは屋根にはしごをかけて、ピーちゃんをそっと巣に戻しました。

 

 親鳥がエサを運ぶのを、ヨリちゃんはいつまでも見詰めていました。

 

 

<後書き>

  ヨリちゃんは次に掲載させて頂く予定の『チュンとピュン』シリーズの2作で

  ピーちゃんは3作目で再登場しますのでお楽しみに。