『警備員になった猫』の続編です。
今回も『お説教ポイ』記述を極力避けたストーリーにしてあります。
物足りないという方もいると思いますが、長編でカバーしましたので、最後まで読んで頂けたら嬉しいです😺
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【1】
ある町にミコという名前の化け猫が住んでいました。
化け猫は普段は猫の姿ですが、人間の姿に化けることができます。
実は、ミコはショッピングが大好きな女の子で、人間に化けて街を見て歩くのを楽しみにしていたのです。
それで、化け猫でない仲間たちは、欲しい物がある時には、ミコに人間の店で買い物をして貰っていました。ミコは、みんなの頼みを喜んで聞いてくれたので、とても人気がありました。
しかし、困ったことが一つありました。人間に化けた時、口が耳の近くまで裂けた顔になってしまうのです。その顔を見ると人間が恐がるので、口を見られないようにしなくてはなりません。ですから、化ける時は必ずマスクをしていました。
ある熱い日、ミコがショッピングをしていると、美味しいそうなソフトクリームを売っている店が目に留まりました。
『わあっ、美味しそう。マスクが暑くて、冷たいものが食べたーい!』
最近は多くの人がマスクをしているので、ミコがマスクをしていても以前の様に目立たないのですが、猫は皮膚呼吸ができないのでマスクをすると凄く暑苦しいのです。
ミコは悩みながら、その店の前を行ったり来たりしていましたが、我慢ができずに店員さんに注文をしました。
「マーブルソフトを一つ下さい」
「はい、少々お待ち下さい」
暫く待っていると、大盛のソフトクリームが出てきました。ミコは急いでお金を払うと、ソフトクリームを持って歩き出しました。
『人がいない所を早く探さないと融けちゃう!』
ミコは焦りました。どこに行っても人がいます。ソフトクリームは融け出してミコの手に流れてきます。ミコは、マスクの下側を少し持ち上げて、それをペロリと舐めました。
『いけない、いけない。ネコ癖が出てしまった!』
しばらく行くと小さな公園がありました。子供達が遊んでいます。中に入って行くと、ベンチが空いています。周りに人はいません。
『しめた! ここに座って食べよっと』
ミコは、腰かけるとマスクを外して食べ始めました。
『あー、美味しい!』
ソフトクリームは、舐めても舐めても、どんどん融けてきます。
ミコはソフトクリームのことに夢中で、周りのことをすっかり忘れてしまいました。
ふと気が付くと、小さな子供がスマホでミコを撮影しています。
「おねーちゃん、お口大きいね」
「あーっ、撮っちゃっダメッ!」
ミコは、急いで子供を追いかけました。
「キャハハハー」
子供は鬼ごっこするように逃げ回ります。中々捕まえられません。
すると、向こうから子供のお母さんがやって来ました。
「遊んで頂いてありがとうございます」
「いえ、私、あの、その・・・・」
「おかあさん、このおねえちゃん、すごくお口が大きいよ」
「こら! 失礼なこと言うんじゃありません。本当に申し訳ありません」
「いいんです、子供は正直だから・・・・」
ミコは、急いで、その場から立ち去りましたが、しばらく行くと、後ろの方から
「きゃー!」
という悲鳴が聞こえてきました。ミコが振り返ると、あのお母さんがミコを指さしています。すると、何人かの男の人がミコを追いかけて来ます。
『これは、まずい!』
ミコはソフトクリームを惜しそうに捨てると、全速力で逃げ出しました。人間が追って来ます。公園を出て、街中に入いると、追手が叫びました。
「その女の子を捕まえてくれ!」
ミコは必死で逃げましたが人が多くて中々先に進めません。どんどん追手が近づいて来ます。狭い路地を見付けて逃げ込むと、そこは行き止まりでした。
周りに人はいません。ミコは急いで猫の姿に戻りました。
「あれ、行き止まりだ! 確かに、ここに逃げ込んだと思ったが、向こうを捜そう」
ミコは、小さくなって震えていましたが、人間達は気付かずに行ってしまいました。
『あー、恐かった!』
ミコは、恐るおそる路地から出ると猫の姿のまま家へ帰りました。
その日の夕方、近所の猫が息を切らしてミコのところに走って来ました。
「ミコちゃん、たいへん! たいへん!」
「そんなに急いで、どうしたの?」
「テレビを見てたら、ニュースにミコちゃんが出てた!」
「人、いや猫違いじゃないの?」
「違う、違う! 化け猫姿のミコちゃん!」
「ええっー」
あの子供が写した写真がニュースになったのです。
「ああー、どうしよう!」
テレビを見た近所の猫が、続々と集まって来ます。
「ミコちゃん、大丈夫よ。私達が守ってあげるから」
「なに言ってんの。私達が守らなくても、ミコちゃんが人間の姿にならなければ、大丈夫でしょ」
「あっ、そうか! だいじょぶだー」
「あはは・・・」
「あんた達、笑い事じゃないんだよ。これから、ミコちゃんに買い物を頼めなくなるじゃないの!」
「あっ、そうか! それはたいへんだー」
「ミコちゃん、きっと、化け猫仲間から、こっぴどく叱られるよ。かわいそうに」
それを聞いて、ミコは泣き出してしまいました。
「ああんー、みんな、慰めてんのー、脅してんのー、どっち! もう嫌い!」
それを聞いて、猫達は、こそこそと帰って行きました。
ぽつんと残ったミコは、散々泣いたあげく、
「まっ、いいかっ! 済んでしまったことだし、今さら後悔しても始まらないもんね」
と、けろっと立ち直るのでした。
次の日、ミコが、塀の上から、人間の家のテレビを見ていると、
「私、口裂け娘で~す。私、口さき娘で~す」
と、お笑い芸人が口紅で口を大きく書いて漫才をやっています。
『あははは、結構おもしろい! 私、有名になっちゃたな~』
ミコは、なんだか嬉しくなりました。
そこへ、化け猫仲間がやって来ました。
「ミコちゃん、やらかしたわね!」
「ごめんなさい」
「いったい、どうしたの?」
「あの~、ソフトクリームが融けそうだったので・・・・・・」
ミコは必死に説明をしました。
「まあ、あきれた! そんな理由だったの!」
「はい!」
けろっとしているミコにあきれて、これでは説教しても無駄だと首を振りながら帰って行きました。
ミコは、しばらく人間に化けるのを止めることにしましたが、ウインドショッピングは止めませんでした。
猫の姿で街を歩いていると、学生達が、マスクの下に化け猫顔の口紅を付けてふざけています。
『ちょっと違うな、 もっと怖い顔なんだけど』
ミコが、ちょっとがっかりしていると、一軒のスカーフを売っている店が目に留まりました。
ウインドを覗くとスカーフがたくさん飾ってあります。
『かわいい模様がいっぱい。どれが私に似合うかしら』
店の前に座って見とれていると、入口が開いて、お婆さんが出て来ました。
「まあ、なんてかわいい猫ちゃんなの。中に入っていいわよ」
「にゃあ~ん(おじゃまします)」
ミコは、店の中に入りました。
「猫ちゃんには、どれが似合うかしら。これなんかどうかな」
と言って、花柄のスカーフをミコの体に合わせました。
「とっても似合うわ。じゃあ、半分に切って・・・・ 端を縫い合わせてと・・・・」
お婆さんは、はさみでスカーフを切るとミシンで縫い始めました。
『そんなことしたら、もったいないです!』
ミコがそう思っている間に、お婆さんはミシン掛けを終えると、ミコの首にスカーフを巻きました。
「これでよし。すごくお似合いよ」
そういうと、ミコの前に鏡を置きました。
『わあっ、すごく似合ってる。お婆さん、ありがとうございます』
ミコは嬉しくて、お婆さんの手に頬をこすり付けます。
「気に入ってくれたのね、よかったわ。ところで、あなた、お腹空いている? 何か持って来てあげましょうね」
そう言うと、お婆さんは奥に入って、干し肉を持って来てくれました。
『これ、おいしい!』
ミコは、前足をそろえて食べ始めました。
「あなたは、礼儀正しいのね」
お婆さんは、ミコを撫ぜてくれます。
ミコは、このお婆さんに何かしてあげたくなりました。
『何か良い考えはないかな?』
しばらく考えていましたが、ミコは、ウインドのところに座って、路を歩く人に声を掛け始めました。
「にゃあ、にゃあ~」
歩いている女の人が気付いて足を止めます。
「まあっ、かわいい猫ちゃん。人形じゃないのね」
「にゃあ~」
女の人が店に入って来ました。
「素敵なスカーフがいっぱいね」
女の人は、ミコを抱っこしたあと、スカーフを買って帰って行きました。
ミコは、またウインドに座って路を歩く女の人に声を掛けました。
「にゃあ~」
その人も、ミコを見ると店に入って来て、ミコを撫ぜたあと、スカーフを買って帰って行きました。
こうして、ミコは多くのお客を店に呼び込みました。
「猫ちゃん、ありがとね。お陰でたくさん売れたわ。こんなこと初めて」
「にゃあー」
「あなたは、家に帰らなくていいの?」
「にゃ、にゃっ」
「そう、帰らなくていいの。お家がないのね。じゃあ、ここに、好きなだけいてもいいのよ」
そういうと、お婆さんは店を閉めて食事の準備を始めました。
ミコは椅子の上に座って、お婆さんを見ていました。
楽しい食事が終わると、ミコは、お婆さんの膝の上で眠りにつきました。
次の日も、ミコはウインドに座っていました。すると、たくさんの人がミコを見にやって来ます。きのうのお客さんがミコの写真を撮って拡散させたのです。
お陰で、お店の中は人があふれ、スカーフがたくさん売れました。
「猫ちゃん、ありがとね。これで、少し生活が楽になったわ」
お婆さんは、店を閉めながらミコに話し掛けました。
その時です。数人の男がどやどやと店に入って来ました。
「ばあさん、いいかげんに、この店を売ってくれないか!」
「おまえ達みたいな悪い奴には、死んでも売らない!」
「なにっ! じゃあ死んでもいいんだな、ばーあさん!」
男達は、シャッターを閉めて外から見えなくすると、店の中を壊し始めました。お婆さんが丹精込めて作ったスカーフを踏みつけました。それを見たミコは、急いで奥の部屋に行くと化け猫の姿に変身して出て来ました。
「おっ、かわいいお嬢ちゃんがいるじゃないか」
男の一人が、ミコの肩に手を掛けます。
ミコはマスクを取ると、大きな口を開いて、その手に噛み付きました。
「痛ててててて!」
「口裂け娘だ!」
ミコは、出口を立ち塞ぐと、逃げようとする男達を飛び跳ねながら引っかき、噛み付き回ります。
店の中の騒ぎを聞いた人達が、店の前に集まって来ます。
警察官も駆け付け、シャッターをこじ開けました。
中には、倒れた男達と、猫に戻ったミコを抱いたお婆さんが立っています。
男達は、警察に逮捕される時、震えて何も言えませんでしたが、ミコの姿を見ると、警察官に抱き付きました。
「た、助けてくれ。ば、化け猫だ!」
「何を言っている。こっちえ来い!」
ミコは、にやりと笑って男達をにらみ付けます。
『これで、だいじょうぶ。お婆さん』
ミコは、お婆さんに微笑みました。
警察官が不思議そうに聞きます。
「ところで、お婆さん。どうやって、こいつらをやっつけたのかね?」
「私は、怖くて目をつぶっていたので分からないの。目を開けたら、男達が倒れていたの」
「そうか、じゃあ、男達に聞くか」
警察官は、そう言うと男達を連行して帰って行きました。
「猫ちゃん、ありがとうね。あなたが、口裂け娘なのね」
そう言うと、お婆さんは自分の頬をミコの頭につけて微笑ました。
逮捕された男たちは、頭がおかしいということで精神病院に入れられて、その後、出て来ることはありませんでしたが、誰にやられたかは最後まで謎となりました。
【2】
この事件がテレビで大々的に報道され、店が有名になり過ぎたので、ミコは仲間の猫達にお婆さんの店を頼んで、しばらく身を隠すことにしました。
二か月ほどすると、口裂け娘のことも話題にならなくなったので、また、ミコは人間の姿でショッピングを始めました。
用品屋さんのウインドーを覗きながら、
「わー、かわいいリボン! 付けたいなー。でも、だめかー。猫の姿に戻った時、頭から落ちちゃうなー」
ミコがそうつぶやいた時、後ろから声がしました。
「君、猫なの?」
ミコが振り向くと、そこに少年が立っています。
ミコはどう答えようか悩みました。
『嘘は言いたくないし。かと言って、化け猫ですとも言えないし・・・・』
ミコが黙ってもじもじしていると、
「まあ、どっちでもいいや。言葉は通じるんだよね?」
ミコがうなずくと、少年はにこりと微笑みました。
「猫さんは、人間に化けて買い物をしているんだ。すごいね!」
ミコは、褒められたのが嬉しくて、はにかみながら微笑み返しました。
「ぼく、マサル。猫さんの名前は?」
「ミコです」
消えそうな小さな声で答えます。
「ミコちゃんか! ところで、猫さんって、みんな人間に化けれるの?」
「いいえ、化け猫だけです」
ミコは、秘密を話してしまい、しまったと思いました。
「じゃあ、ミコちゃんは化け猫さんなんだ。かっこいいー」
ミコは、人間から『かっこいい』と言われて驚きました。
『私、かっこいいんだ!』
ミコは凄く嬉しくなりました。
実は、ミコは以前から人間に聞いてみたいことがあったのです。
良い機会だったので、勇気を出して、
「でも、私、口がすごく大きいの」
「人間にだって、口の大きい人いるよ」
「私の口は耳の近くまで裂けているの」
マサルは口裂け娘のことを思い出しました。
「もしかして、ミコちゃんは口裂け娘?」
ミコは、小さくうなずきました。
「そうなんだ。口裂け娘は化け猫さんだったんだ!」
「マサルさんは、恐くないの」
「別に! ぼくの家にも猫のリリーちゃんがいるよ。あくびをすると、口がすごく大きく開くんだ。最近、少し歯石が付いているのが気になるんだけど・・・・」
ミコはマサルが天然な人だと思いました。と同時に、何か親しみも感じました。
「私の顔を見てもらえますか?」
「いいよ」
ミコは、恐るおそるマスクを取りました。
マサルは、また、にこっと微笑みます。
「あのー、本当に怖くないの?」
「ぜーんぜん。猫さんだから、口が耳の近くまで裂けていてもしょうがないよね」
ミコは拍子抜けしてしまいました。
『今まで、何で悩んでいたのだろう』
とは言うものの、また、テレビで話題になると仲間から怒られるので、急いでマスクを付けました。
「そのままでもいいのに」
「ほかの人は天然じゃないから」
「ひどいな~ 僕は天然?」
ミコは、こくりとうなずきました。
「まいった、猫さんだ!」
マサルは大笑いをしています。やはり、正真正銘の天然だとミコは思いました。
すると、マサルがミコをじーと見詰めたので、ミコはピクンとしました。
「ミコちゃんにお願いがあるんだけど」
「何ですか・・・?」
「ミコちゃんは猫と話ができるよね」
「はい、もちろん」
ミコは嫌な予感がしました。
「うちのリリーちゃんに、病院で歯石を取るように説得してもらいたいんだけど」
「ええっー、私がですか?!」
「彼女、いくら言っても聞かないんだ。口を開けようとすると、怒って引っかくし。困っているんだ。お願い! 猫助けだと思って」
『猫助けか・・・・。上手いこと言うな。これでは断れないな~』
「僕の家、直ぐ近くだから、三十分でいいから、お願い!」
『お母さんから、知らない猫に付いて行っていけませんよと言われているけど・・・ マサルは猫じゃないし・・・ こっちは化け猫だから・・・ もし、マサルが悪い奴だったら食べちゃえばいいか!』
「じゃあ、少しだけ」
「ありがとう! すごく助かる! リリーちゃん、歯石で口が臭いんだ。だから、チューされた時、臭くて臭くて」
『ええっー そんな理由だったんだー だったら断ればよかった!』
ミコは、少しがっかりして、マサルの後をついて行きました。
暫く行くとマサルが止まりました。
「ここだけど。お母さんが居るな。ミコちゃんを、どう紹介しようかな?」
「私、顔を見せる訳にはいかないので、猫の姿に戻ります」
「それがいいね。うちのお母さん、大の猫好きだから、気を付けてね」
「何を気を付けるの?」
「会えばわかるよ」
「それ、ちょっと心配なんだけど・・・ 猫に戻るから、少し待っててね。それから、猫の姿の時は、人間の言葉を理解できるけど、人間の言葉をしゃべることはできないの。人間の姿の時は、猫語を理解できるけど、猫語をしゃべることはできないの」
「何か、頭の中がごちゃごちゃしてきた・・・」
ミコは、にやっと笑うと、茂みに入って行きしゃがみました。次の瞬間、真っ白い毛長の美しい猫が出て来ました。
「にゃあー」
「えっ、君はミコちゃん」
「にゃあー」
「凄く綺麗!」
「にゃーあっ」
「化け猫さんだから、すごく怖い猫さんかと思っていた」
「にゃ、にゃあ~」
「じゃあ、抱っこするよ」
「にゃん!」
マサルは、ミコが嫌がっているのが分からずに抱っこしました。その瞬間、マサルの腕の中でミコが人間の姿に戻りました。
「あのー、抱っこされるの嫌なんですが・・・」
「あっ、ごめん、ごめん。つい猫ちゃんのつもりで」
「あのー、早く降ろして貰えますか」
「はいっ、怒った?」
「いいえ。猫助けですから。もう一度、猫に戻ります」
そう言うと、ミコは茂みのところに行き猫の姿で戻って来ました。
「お母さん、ただいま」
マサルは、玄関に入ると、ミコを廊下に上げました。
「わあー、なんて可愛い猫ちゃんなの! この白い毛、とっても綺麗!。あなたお腹空いている?」
「朝食べただけだから腹ぺこなんだ。何かある?」
「あなたじゃないの。猫ちゃんに聞いているの」
「にゃーあ」
「声も凄く可愛いのね! 何か作ってあげましょうね。肉と魚、どっちが好き?」
「にゃ、にゃ、にゃっ」
「そーなの。じゃあ、両方作ってあげましょうね」
「お母さん、ミコちゃんのこと聞かないの?」
「ミコちゃんて言うの。やけに平凡な名前ね」
「しっ! ミコちゃんに聞こえるよ」
「変なこと言うわね。まあ、いつものことだけど。この子には、ソフィアとかエリザベスという名前が向いているんだけどねえ~、猫ちゃん!」
「にゃあ~」
「ほらっ、その方がいいって言っているわ」
「それ、映画スターの名前でしょ」
「ところで、ソフィアさんはどこの娘さんなの?」
「もう、勝手に名前を変えないでよ!。ミコちゃんなんだから。友達の猫ちゃんで、リリーちゃんの友達になってもらうために預かったんだ。だから、リリーちゃんのところに連れて行くよ」
「じゃあ、お食事が出来たら持って行くわね」
「はーい」
「あなたに言っているんじゃないのよ」
マサルは、椅子から立ち上がり、歩き出しました。
「ミコちゃん、こっちにおいで。リリーちゃんがいる部屋へ行こう。リリーちゃんは、時々、脱走するので、奥の部屋にいるんだ。彼女の気持ち、分からなくもないが・・・・ 僕も時々脱走したくなる」
「にゃ、にゃ!」
マサルは、ドアを開けるとミコを中に入れました。
「ミコちゃん、こちらがリリーちゃんです。リリーちゃん、こちらがミコちゃんです。仲良くしてね」
「シャアー!」
「リリーちゃん、怒らないの!。きょうは、ミコちゃんに話しに来て貰ったんだから」
ミコはリリーに近寄ると話し掛けました。
「にゃ、にゃあ、にゃあー、にゃあーあっ」
「シャアー!」
リリーは、すごく怒っています。
「リリーちゃんどうしたの。いつもは、優しいじゃない。こっちに来てチューして」
「オエッ! あー、やんなっちゃた!」
ミコが人間の姿になりました。
「ミコちゃん、そのオエッはないだろ」
「私はソフィアです」
「ごめん。お母さんが名前を勝手に変えて」
「ソフィアという名前、私は気に入っているけど」
「はあ~」
「リリーちゃんには、歯石で口が臭いから取りなさいと言っておいたわ」
「えー、そんなふうに言ったの!」
「それよりも、彼女、マサルさんのことが凄く好きみたい。だから、私を連れて来たのを怒っているの。私には、これ以上の説得は無理だわ」
「そうか。困ったな!」
「大丈夫よ、きっと、歯石を取ることを承諾すると思う」
「なぜ分かるの?」
「それは、ヒ・ミ・ツ」
「・・・・」
突然、ドアが開き、お母さんが入って来ました。
「リリーちゃん、ソフィアさん、お食事ですよ」
「お母さん、急にドアを開けないでよ!」
「中に居るのは、猫ちゃんだけでしょ。ノックしたら、猫ちゃんが驚くでしょ」
「にゃあ~」
「ほら、ソフィアさんもそう言っていますよ」
ミコは、素早く猫の姿に戻っていました。
「ふたりとも、こちらに来て。お食事ですよ」
「うわあ、うまそう」
「あなたのじゃないの。猫ちゃんたちの。マサルは冷蔵庫の中に朝の残り物があるから食べといて」
「僕は、猫以下?!」
「あなたは、可愛くないからね」
「そうかにゃー」
「にゃあ~」
「まあ、ソフィヤさんは、言葉が分かるのね。本当に、いい子」
お母さんは、食事をリリーとミコの前に置きました。ミコは食べ始めました。
『これ、すごくおいしい!』
しかし、リリーは食べません。
「シャアー」
「あら、リリーちゃん、どうしたの? あなたの大好物を作ったのよ」
「リリーちゃんは、僕がミコちゃんを連れて来たんで怒っているんだって」
「へー、そうなの。よく分かったわね? リリーちゃん、ソフィアさんと仲良くしてね。じゃあ、マサル、ふたりが喧嘩しないように見ていてね」
と言うと、お母さんは部屋を出て行きました。ミコは人間の姿になると、
「あー、おもしろかった! 猫以下なんだ」
「うちでは、リリーちゃんが一番」
「リリーちゃんには、私が化け猫だと話しておいたから、もう大丈夫よ」
「リリーちゃん、こっちへおいで」
リリーはマサルの膝の上に上がって来て、顔を腕にこすり付けています。ミコはそれを見ながら、
「なんか、私、この家が好きになっちゃた。しばらく居てもいいかな?」
「猫の姿ならばいいけど」
「それならば大丈夫。普段は猫だから。人間に化けてるのって、結構疲れるの。じゃあ、暫くお邪魔します」
「あと、うちの家族は、お父さんと妹がいるよ。みんな猫好き。順位は、リリーちゃん、お母さん、妹、お父さん、僕」
「マサルはビリなんだ」
「呼び捨て・・・」
「だって、猫以下なんでしょ」
「まあ、そうだけど。ところで、家に帰らないとミコの家族は心配しない」
「呼び捨てなの」
「すいません。ミコちゃんの家族は心配しませんか」
「今、私、ひとり暮らしなの」
「お父さんやお母さんは?」
「ちょっと離れた町で、警備会社を経営しているわ」
「すごいね! ミコちゃんは社長の娘なんだ」
「まあね」
「じゃあ、何でこの町に来たの?」
「この町に会社を作れるか調べる為に来たの」
「それで、どう。作れそう?」
「まだ分からない。この町へ来て、大分経ったけど、何をしたらいいか分からなくて困っているの」
「それは大変だね」
「ウインドショッピングは楽しいけど・・・・。そうだ、マサルも手伝って!」
「ショッピングを?」
「違う! 会社を作る方」
「いいけど。人間が手伝うことを、ミコちゃんの家族に話しておいた方がいいんじゃない?」
「そうね、連絡してオッケーを貰うわ」
「どうやって連絡するの?」
「化け猫同士は、テレパシーで連絡できるの」
「テレパシーって?」
「簡単にいうと、携帯電話が頭の中にあるの」
「凄いね! それ料金かかるの」
「話し放題で、海外通話も無料」
「すごい! 今度、使わせて」
「マサルは、状況を理解していないみたいね」
「ダメか・・・」
「でも、私に頼べば、世界の猫に連絡できるわよ」
「そんな必要もないし。ところで、リリーちゃんとミコちゃんとは、どっちの地位が上なの」
「猫世界では化け猫の方が上だけど、ここではリリーちゃんが先輩だから、私が下になるわ」
「ずいぶん、物分かりがいいね」
「私たち猫族は、人間と違って、無駄な争いは好きじゃないの」
「なるほど、賢いね!」
「そうなの! よっぽどのことがなければ喧嘩はしないわ」
「よっぽどのことって?」
「たとえば、私を好きな男の子がふたりいる場合とか」
「そんなことあったんだ!」
「まだ無いけど・・・・ でもね、たとえ喧嘩に勝ってもダメなの。私が気にくわなかったら、負けた方と仲良くしちゃうから」
「じゃあ、喧嘩、意味ないじゃん」
「そうなの! だから、ほとんどの場合、大声を出し合うだけで終わるの」
「あったまいいー」
「ありがと!」
「でも、時々、喧嘩して怪我している猫を見掛けるけど」
「あれは欲張りな雄たちの縄張り争いね。本当に馬鹿なんだから! 話し合えば良いのに。私たち雌が上に立ったら、きっと血みどろの争いは減るでしょうね」
「人間も同じかもね」
「ところで、家の中を歩き回ってもいい?」
「猫の姿ならばね」
「じゃあ、行って来るね」
「僕も行くよ」
「マサルは、リリーちゃんのとこに居てあげて。彼女、寂しがっているから」
「そうなんだ。オッケー」
ミコは猫の姿になり部屋を出ました。
お母さんがキッチンで食事を作っています。
「あら、ソフィアさん、マサルがうるさくて逃げ出して来たの?」
「にゃあ」
「そうなの。好きな所で休んでいて」
ミコはソファーの上に上がり、寝っ転がりました。窓の外でスズメが鳴いています。
『人間の家の中っていいなー ずーとここに居たいな~』
暫くすると、玄関が開く音がしました。
「ただいま。お母さん、お腹空いたー」
女の子が部屋に入って来ました。
「わあ、カワイイ! この猫ちゃんどうしたの?」
「マサルの友達の猫ちゃんで、ソフィアさんっていうの」
「こんにちは、ソフィアちゃん」
「にゃあ~」
「返事した!」
「人間の言葉が分かるみたいよ」
「うっそー! ソフィアちゃんは頭がいいんだ。毛も真っ白ですごく綺麗!」
「にゃーあっ」
「ほんと! ちゃんと話す! すごい! お手もできるかな?」
ミコは出された手の上に自分の手をのせました。
「すごい! すごい! お手もできる! じゃあ、おかわり」
ミコは逆の手をのせました。
「お母さん! すごいよ! おかわりもできる!」
お母さんが見に来ました。
ミコは、今度は自分から手を出しました。
「えっ! 握手?」
女の子は、ミコの手を握りました。
「わあ、すごい! すごい! ソフィアちゃん、大好き!」
お母さんと娘は、大はしゃぎしています。
「なに、騒いでいるの?」
マサルが部屋から出て来ました。
「ソフィアちゃん、お手もおかわりも握手もできるのよ!」
「ええっ、ミコちゃんにそんなことさせたの! 失礼だよ」
「変なこと言うわね。いつものことだけど」
「お兄ちゃん、ミコちゃんって? ソフィアちゃんじゃないの?」
「ソフィアは、お母さんが勝手に付けた名前。だけど、ミコちゃんも気に入っているって」
「ソフィアさんが、そう言ったの?」
「そう」
「お兄ちゃんは、猫語が分かるんだ」
「いや、ミコちゃんが、日本語が分かるんだわ」
「へー、そうなんだ。でもどうして、お兄ちゃんが、ソフィアちゃんがそう言ったと分かったの?」
「エリちゃん、もう、よしなさい。マサルと話していると、頭が変になってしまうわよ。それより、ごはんの支たくを手伝って」
「はあーい」
ミコは、マサルを見てにやっと笑うと、ソファーの上でまた横になりました。
夕方になると、お父さんが帰って来ました。
「おおっ、新入りの可愛い猫ちゃんだな!」
お父さんは、ミコを見て声を掛けました。
「リリーちゃんのお友達になってもらう為に、マサルが借りてきたソフィアさんよ」
お母さんが嬉しそうに紹介すると、エリも、
「すごく頭がいいの。お手もおかわりも握手もできるの」
「どれどれ、お父さんにもしてくれるかな」
お父さんもお手から握手まで何度も試しました。
「これはすごいぞ! なんて頭がいいんだ!」
と、大盛り上がりです。
マサルは、申し訳なさそうに、ミコを見ていました。ミコは時どきマサルにウインクして家族の相手をしていました。
夕食の時もミコの話で、マサル以外は盛り上がっています。
「ミコちゃんは、初めての家で疲れたと思うから、僕の部屋で休ませるよ」
マサルは食事が終わると、ミコを直ぐに部屋に連れて行きました。
「さっきは、うちの家族が色々と迷惑をかけて、ごめんね。疲れたでしょ」
ミコは、人間の姿になると、
「大丈夫。私も楽しかったわ」
「それなら、よかった。心配しちゃった」
「マサルに会社作るのを手伝ってもらうことを、ママに連絡したわ」
「パパじゃないんだ」
「ママが社長で、パパが副社長なの」
「ママの方が偉いんだ! 僕の家と同じだな」
「ちょっと違うんだな~」
「どう違うの?」
「ママは化け猫だけれども、パパは普通の猫なの」
「格差婚か~」
「何、それ?」
「つまり、ふたりの間に埋めがたい地位の違いがあるということ」
「へー、人間って、そんなことを気にするんだ」
「まあね、色々とあるから。ところで、どうだった。僕が手伝うことオッケーして貰えた?」
「いちよう、貰ったけど・・・ 人間は裏切るから注意しなさいって言ってたわ」
「確かに、人間はこの地球上で、唯一、裏切る生き物だからね。でも、僕は大丈夫」
「ほんとに?」
「ほんとに!」
「もし、裏切ったら、食べちゃうからね!」
「ええー、裏切らない、裏切らない! ところで、化け猫さんって、人間を食べるの?」
「昔は、悪い奴を良く食べたらしいけど、最近はファーストフードやキャットフードが美味しいから、わざわざ不味そうな物は食べないわ」
「人間は、不味いんだ」
「私は食べたことが無いから分からないけど・・・ ひいお婆ちゃんはそう言ってた。生肉はお腹に良くないしね。それに、お金を出せば、簡単に食べ物が手に入りますから」
「お金を使えるんだ!」
「そうよ、猫族のことわざでは『猫には小判を』なの」
「お金好きなところ、なんか人間に似ているね」
「人間が化け猫に似ているんだと思うけど」
「なるほど」
「ところで、マサル、どうやって会社を作ったらいいと思う」
「今のところ、ノーアイデア」
「なーんだ、 頼りないな~」
「でもさ、さっき、リリーちゃんの歯石の件、助けてくれたよね。なにか、猫助けや人助けになる仕事を見付ければいいんじゃないかな」
「そうか! 何かいい考えある?」
「ノーアイデア」
「またか~」
「お父さん、いや、お母さんの警備会社はどんなふうなの?」
「猫たちが夜回りしていて泥棒を見付けると、ママが駆け付けて化け猫に変身して泥棒を驚かすの。その間にパパが警報ボタンを押して警察に連絡し、捕まえてもらうの」
「それ、いいじゃん!」
「でも、ダメなの。ママは人間の二倍くらいの大きさに変身できるけど、私はママみたいな大きな化け猫に変身できないの」
「なぜ?」
「ママの親はパパママとも化け猫なんだけれども、私のパパは普通の猫でしょ、だから、私は人間のサイズの化け猫にしか変身できないの」
「そういう、事情があるんだ。人間サイズじゃ、泥棒も驚かないよな~」
「そうなの。だから、何か別の仕事を考えないと・・・」
「そういえば、以前、スーパーマンっていう映画があって、他の惑星から来た人間が電話ボックスに入ってスーパーマンに変身して、人助けに空を飛んで行くってのがあったな」
「猫が茂みに入って化け猫に変身しても、私、空を飛べないんですけど」
「ダメか・・・・」
「もっと、真剣に考えて! ママに頼りになる人だと言ってしまったんだから!」
「ごめん、 今日は疲れたから、また、明日、頭が冴えたところで考えない?」
「あ~あっ・・・・」
「じゃ、ミコちゃんは、どこで寝る?」
「リリーちゃんといっしょに寝ます」
「それがいいね」
「おやすみなさい!」
ミコは猫の姿に戻ると、リリーのそばに行き、寄り添って眠りにつきました。
翌朝、マサルが目を覚ますと、ミコが顔をのぞき込んでいます。
「ミコちゃん、おはよう。よく眠れた?」
ミコは、人間の姿になると、
「久しぶりに、安心して、ぐっすり寝れたわ」
「それは良かった。今まで安心して眠れなかったの?」
「そりゃあ、外で寝るのは、大変よ! 雨が降ったり、虫がいたりで・・・。それに、化け猫の姿の時は凄く強くて、棒で叩かれても平気だし、ピストルの玉も避けることができるけど、猫の姿の時は弱いの」
「そーなんだ! それなら、ずーと、ここに居なよ。みんな、ミコちゃんのこと大好きだから」
「嬉しい! ありがとう」
「お母さん達、喜ぶな」
「ところで、マサルのお父さんは何の仕事をしているの?」
「お巡りさん」
「えー、すごい!」
「いや、それが全然すごくないんだよ。警察に入って、まだ一度も手柄を立てたことがないんだ」
「猫好きで、あんなにいい人なのに」
「動物好きが災いして、街をパトロールしていても、野良犬や捨て猫の方に気が行ってしまうみたい」
「いいことじゃない!」
「この前も、池に落ちて溺れている猫を助けたみたい。帰って来て自慢してたけど・・・・」
「わー、猫の大恩人ね!」
「でも、猫を助けても手柄にならないから、出世しないんだ」
「そんなの変よね!」
「泥棒や凶悪犯人を捕まえるとか、人命救助をしないと手柄にならないんだ」
「決めた! 私、マサルのお父さんの手助けをして恩返しする」
「えー、どうやって?」
「悪人の情報を仲間の猫たちに集めさせて、それをお父さんに教えてあげる!」
「そんなことできるの?」
「簡単よ! テレパシーがあるから、世界中の猫から情報をもらえるわ」
「世界の猫と言葉が通じるの?」
「猫語は世界共通なの」
「すごい! じゃあ英語を勉強しなくていいんだ。羨ましい・・・。英語、不得意なんだよな~。そういえば、確か、インターポールっていう国際刑事警察があったな。これは国際猫警察だから、インターナショナルニャリス、短くしてインターニャールだな。ミコちゃんは、その最初の警察官だね。カッコイイ~」
「さっそく、出動よ!」
「どこへ?」
「ついて来て」
そう言うと、ミコは猫の姿になって窓から出ようとしました。
「ミコちゃん、待って! 僕、ついて行けないよ!」
「ほんとに、人間って面倒くさいんだから」
ミコは部屋に戻ると、ドアの方へ歩いて行きました。
「にゃあ」
「オッケー、何か猫語が分かってきたみたい」
台所では、お母さんが食事を作っています。
「ソフィアさん、おはよう」
「にゃあー」
「今、ごはん作っているからね」
「お母さん、朝の散歩に行ってくる」
「あら、珍しい」
「ミコちゃんが外に行きたいんだって」
「よく分かったわね? 三十分以内に帰って来てね」
「はーい。行って来ます」
ふたりは外に出ると、ミコが先を歩いて行きます。暫く行くと広場に出ました。
「にゃあー、にゃ」
すると、どこからともなく猫が集まってきました。その猫たちにミコが何かを話しています。話し終わると、猫たちは帰って行きました。
「ミコちゃん、何を話したの」
ミコは草むらに入ると、人間の姿になって戻って来ました。
「猫仲間に悪人の情報をたのんだの」
「だったら、テレパシーを使えばいいのに」
「テレパシーは、化け猫同士でないと使えないの。普通の猫には、直接会って話さないといけないの。でも、みんながこの話を他の猫たちに伝えてくれるから、直ぐに広まるわ」
「そうか、そういうシステムなんだ」
「世界の化け猫仲間には、テレパシーで送っておいたわ。あとは待つだけ」
「お父さんの手柄になる情報が集まるといいけどな」
「そうね、きっとすごいのが来るわよ!」
【3】
それから、三日が過ぎた時に、玄関で猫が鳴きました。
「にゃあー、にゃあにゃっ」
ミコは、直ぐに気が付きます。
「マサル、玄関に猫仲間が来て鳴いているわ」
「僕には、何も聞こえないけど・・・・」
「猫は人間の十倍以上も耳が良いの」
「そうだったんだ。行ってみよう」
ミコは猫に変身すると、マサルと一緒に玄関に出ました。
戸を開けると、近所のトラネコが座っています。
ミコが近づくと、トラネコは一生懸命に何かを話し出しました。
話が終わると、ミコがマサルの方に振り向いてウインクしました。
マサルは、急いで台所に行き、干し肉を持って戻って来ました。
それをトラネコに渡すと、トラネコはニコリとして戻って行きました。
「ミコちゃん、何て言ってた? 教えて!」
部屋に戻るとマサルは目を輝かせてミコに聞きます。
「少し先のアパートに空き巣泥棒が住んでいるそうなの。猫友だちの家に泥棒に入ったので、後を付けて住み家を見付けたんだって」
「すごいぞ、お父さんに知らせなくっちゃ!」
「でも、お父さんに、どう言うの? まさか猫から聞いたとは言えないでしょ。たとえ言っても信じないわよ」
「困ったな、どうしよう」
「そうだ、私が猫仲間に見張らせるので、泥棒に入るところをお父さんに知らせて捕まえてもらったら」
「それがいいね! その前に、泥棒の住み家と顔を見に行こう。ミコちゃん、案内してくれる?」
「じゃあ、行きましょうか」
ミコは、玄関に出ると先ほどのトラネコを呼びました。
マサルと猫たちは泥棒の住み家の前まで行くと、遊んでいる振りをして泥棒が出て来るのを待ちます。
暫くすると、周りをキョロキョロしながら人相の悪い男が歩いて来ます。すると、トラネコが合図をしました。
「にゃん!」
「そうか、こいつか。顔を覚えたぞ!」
みんなで顔を見合わせると、泥棒に気付かれないように戻りました。
「トラネコちゃん、ありがとう」
トラネコは、頭をペコリと下げると帰って行きました。
「よし、これで、あの泥棒が次の盗みに入るのを待つだけだ」
マサルとミコはどきどきしてその時を待ちました。
二日後に連絡が入りました。
今度は、隣町に住む化け猫仲間からのテレパシーです。
「マサル、あの泥棒が、隣町で空き巣に入っているそうよ」
「隣町にも化け猫仲間がいるんだ!」
「感心していないで、早くお父さんに連絡して」
「オッケー。お父さんの緊急連絡先はここだな・・・・。もしもし、私、榊原巡査の息子のマサルですが、あっ、斉藤さんですか、こんにちは。緊急で父に伝えたいことがあるのですが・・・・。はい、空き巣が泥棒に入っているらしいのですが、間違えだといけないので、その現場に父に行って見てもらいたいのです。はい、北町二丁目五番地四の田中さんのお宅です。宜しくお願い致します」
マサルは電話を切ると、自転車のカゴにミコを乗せて家を跳び出しました。
現場に着いてみると、警察の車が二台停まっています。
しかし、物は盗まれて、泥棒は逃げた後でした。
「マサル、どうして空き巣が分かったんだ」
「話は後で、泥棒の住み家を知っているので、直ぐに行こう」
「えっ、本当か?」
「早く行かないと盗んだ物を処分されてしまう!」
「分かった。斉藤巡査、ちょっと調べたいことがあるので、息子と行って来る」
「では、お気を付けて」
「マサル、パトカーに乗れ」
「お父さん、泥棒に気付かれてしまうから、覆面パトカーの方でね。それから、サイレンはダメだよ!」
「そうだな」
マサルがミコを抱いて車に乗りました。
「なんで、ソフィアちゃんがここに居るんだ?」
「お父さん、それは後で、兎に角急いで!」
「よし!」
マサルの道案内で泥棒のアパートに向かいます。
アパートの前に着くと、車を止めて泥棒の部屋を見張りました。
そこに、あの泥棒が自転車に乗って帰って来ました。泥棒はリュックを背負っています。
「お父さん、あの男だよ」
「間違えないな?」
「うん。前に見た顔と同じだ!」
「そうか。事情は後で聞くが、今は逮捕が先だ。泥棒が部屋に入ったら、職務質問に行くから、おまえはここで待っていろ」
「いや、僕は裏側を見張っているよ」
「そうか、では、気を付けるんだぞ。武器を持っているかもしれないから無理はするな」
「分かった、大丈夫。ぼくが空手ができることを忘れたの。お父さんこそ気を付けて!」
「よし、出動だ!」
マサルとミコは裏に回りました。窓が少しだけ開いています。
ミコがそこから中に入って行きます。
お父さんは、泥棒の部屋の前に行くとノックをしました。
ドアが少し開いて、男がお父さんを見ました。
「警察です。お聞きしたいことがあります」
男は、それを聞くと、ドアを急いで閉めました。
次の瞬間、部屋の中から悲鳴が聞こえてきました。
「ぎゃあー!」
マサルは窓を開けて中に跳び込みます。
そこにはミコに顔を引っ掻かれた泥棒が床に倒れてもがいています。
お父さんがドアをこじ開けて跳び込んで来ました。
ミコはネコの姿に戻るとマサルの後ろに隠れます。
「マサル、大丈夫か!」
そう言いながら、お父さんが男の腕をねじ上げます。マサルは男のバックを開けました。中には、宝石や時計や田中さん名義のクレジットカードが入っています。それを見て、お父さんは男を縛り上げました。
応援が来るまでの間、マサルはお父さんにミコの秘密を話すかどうか迷いましたが、
「お父さん、今日のこと、僕が係り合ったこと内密にして欲しいんだ。お願い!」
「何か事情があるのか?」
「そう。絶対に言えないし、言っても信じてもらえそうもないんだ。お母さんや妹にも言わないで」
「おまえがそこまで言うのなら、分かった。署内で話してみるよ。でも、おまえ強くなったな。頼もしかったぞ。しかし、爪が伸びすぎているようだけど・・・・」
「ちょっとね!」
マサルがミコを見詰めると、ミコはウインクで返しました。
その夜、お父さんの初めてのお手柄に家族は大盛り上がりです。それをミコも嬉しく見ています。
『みんなが喜んでいる。いいことしたな。これからも頑張ろう!』
マサルは、優しくミコを撫ぜていました。
【4】
それからしばらくして、ミコがマサルの隣で日向ぼっこしていると、海外からテレパシーが入りました。ミコは、じっと聞いています。ミコは人間の姿になりマサルに話し掛けます。
「マサル、今、アフリカから連絡があったの。クロアシネコの子供達が誘拐されて、日本に密輸されるらしいわ」
「そのクロアシネコってなに?」
「ワシントン条約に指定された絶滅危惧種で、捕獲や輸出入が禁止されているの。だから、すごく高い値段で売れるの」
「珍しいネコちゃんなんだ!」
「そうなの。以前にも密輸されたことがあって、裏に国際窃盗団がいるみたい」
「それじゃあ、そいつらを捕まえたら大手柄だね!」
「そうね、マサルのお父さんに捕まえてもらって、子猫を助けないと」
「お父さん、喜ぶぞ! これで昇進間違いなしだ! ところで、そいつら、いつ日本に来るの?」
「二、三日後らしいの。港に着く貨物船に隠して運んでいるらしい。荷物室の中に隠すと死んじゃうから、犯人の部屋に隠していると思うの」
「子猫を連れて、船から下りたところを捕まえるか? お父さんに事情を話してみる」
「そうして、お願い! 子供を助けて、お母さんの元に返してあげないと」
「でも、困ったな。この話の出どころを聞かれたらどう答えよう? この前の空き巣の件は、偶然で通せたけど、今度はそうも行かないし・・・・」
「そうね、お父さんに化け猫の秘密を話すこと、化け猫組織のトップに了解を取るわ。子猫を助けるためだから、きっとオッケーが出るわ」
「そんなこと必要なんだ」
「マサルのことは、了解済よ。もし裏切ったら、みんなで食べちゃうって!」
「ええー、絶対に裏切らない、裏切らない!」
「ちょっと待っててね・・・・・・・・。はい、トップの了解をもらったわ」
「すごく早いね!」
「猫は人間と違って、判断が早いの。そうしないと獲物に逃げられてしまうからね」
「なるほど!」
マサルとミコはお父さんが帰って来るのを家の前で待ちました。
「お父さん、おかえり」
「どうした、こんなところで」
「ちょっと、話があるんだ」
「さては、お母さんに聞かれてはまずいことだな」
「良く分かったね」
「これでも警察官だからな」
「実は、ミコちゃんのことだけど・・・・驚かないで聞いてね。彼女、実は化け猫なんだ」
「はあっ・・・・」
お父さんは、ミコを見ながら一瞬笑いましたが、マサルの真剣な顔を見ると真顔になりました。
「この前の空き巣の件も、化け猫仲間からの情報なんだ」
お父さんはミコを見ました。ミコはコクリとうなずきます。
「さっき、化け猫仲間から情報が入って、ワシントン条約対象動物のクロアシネコの子供達が誘拐されて、国際窃盗団が日本に密輸するらしいんだ。それをお父さんに捕まえてもらいたいとミコちゃんが言っているんだ」
「マサル、お前、頭、大丈夫だよな」
「信じられないでしょ。だから、今からミコちゃんに化け猫に変身して貰います。驚かないでね。口が耳の近くまで裂けているから。ミコちゃん、よろしく」
ミコは、茂みの中に入って行き、人間に変身して戻って来ました。
「こりゃ、驚いたな!」
「お父さん、あんまり驚かないね」
「これでも、警察官だからな」
ミコは、にこっと笑って頭を下げました。
「私、ミコです。宜しくお願いします。誘拐された子供達を助けて下さい!」
「分かった! 猫でも人間でも、子供を誘拐する奴は許せん!」
「詳しいことは、僕から話すよ」
マサルは、ミコから聞いたことをお父さんに話しました。
「港は港湾警察の担当で、我々は口出しすることが出来ないから厄介だな。確固たる証拠があれば良いのだが、化け猫さんからの情報ということでは取り合ってもらえないな。国際貿易埠頭には、警察官といえども事件が無ければ立ち入ることはできないし、これは困ったな」
ミコはしょんぼりした目でお父さんを見ました。
マサルが口を開きます。
「お父さん、猫ならば、埠頭に入れるよね。ミコちゃん達に子猫の居場所を探してもらって、犯人が子猫を連れて埠頭を出るところを捕まえたら」
「猫ちゃんが、そんなことできるのか?」
「この前も猫ちゃん達が協力して犯人の家を突き止めたんだよ」
「そうか。それならばできるな。それでは詳しい作戦を考えよう」
ミコの目が輝きました。
「ところで、この話、お母さんとエリには絶対内緒だぞ。ミコちゃんが化け猫だと分かったら、大喜びして近所に言いまくるからな」
マサルも同感でした。
「そうだね! あの二人のことだから、何をするか分かったもんじゃない」
船が到着する日、知らせを聞いて駆け付けた猫達が埠頭に集まりました。
船から荷物が降ろされるたびに、猫達は
「にゃあ、にゃあ」
と鳴いて、子猫を呼びました。また、降りて来る船員の荷物にも呼びかけました。
「きょうは、やけに猫が多いな!」
船員たちは不思議がっています。
辺りはだんだん暗くなってきましたが、どこからも子猫の声や臭いはしません。
それでも猫達は、諦めませんでした。それは、夜になってから犯人が動き出すと、お父さんが予想していたからです。
真っ暗になったころ、船の上からロープにつながった黒い箱が静かに下りて来ました。猫の目は暗いところでも良く見えるので、猫達はその箱に気付きました。そして、ミコに知らせに走ります。
闇に紛れて車が船に近づいて来ます。そして、男が車から降り、その箱を受け取りました。
駆け付けたミコが箱に近づいて、
「にゃ、にゃっ」
と、鳴きました。するとその箱の中から、
「にゃあ~」
と、か細い声が聞こえてきたのです。ミコはその声からクロアシネコの子供だと分かりました。
男は車に乗り込むと走り出しました。ミコは、テレパシーで、マサルとお父さんのところにいる化け猫仲間に車のナンバーを連絡をします。
それを聞いたお父さんは、無線で応援を頼みます。
「こちら、榊原巡査。国際密輸窃盗団がN埠頭にいます。至急応援をお願いします」
その間に、マサルが埠頭の門の前に柵を置きます。
犯人の車が近づいて来て、門の前で止まりました。男がドアを開けて出て来ます。
お父さんは車に近づくと、
「警察だ! おとなしくしろ!」
それを聞くと、犯人は車に跳び乗り急発進させ、柵を突き破って逃走しました。
その瞬間、ビッグサイズの化け猫が車の前に立ち塞ぎ止めると、別の化け猫が車の上に跳び乗りガラスを突き破って犯人の首根っこを押さえ付けます。
お父さんは、車のドアを開けると、化け猫に震え上がっている犯人を引きずり出しました。
車を追って来たミコは急いで車内に入り、箱を大切に抱えて出て来ました。
「子猫ちゃん、もう大丈夫よ。ママのところに帰れるからね」
ミコは、箱の穴から子猫達に話しかけました。
そこへ、警察のパトカーが到着したので、化け猫達は、急いで猫の姿に戻ります。
「榊原さん、こいつらが犯人ですね。お怪我はないですか? あっ、マサル君もいるじゃないか!」
「斉藤さん、この箱を開けてみて下さい。ワシントン条約対象の猫ちゃん達が入っています。逃げ出さないように気を付けて下さいね」
「そうか、分かった・・・・・。あれ変だな、この箱は二重になっているぞ・・・・・。下の箱に白い粉が入っている」
別の警察官が、粉を少し指に付けて舐めると大声をあげました。
「これは麻薬だ! こいつら麻薬も一緒に密輸しようとしていたんだな! 榊原さん、これはすごいお手柄ですよ!」
お父さんは、きょとんとしていました。マサルは、そんなお父さんを見て、
『お父さんは、麻薬の発見より、子猫を助けた方が嬉しいんだろうな』
と、ミコを抱っこしながら思いました。
後日、お父さんは今回の件で表彰されることになりました。
その席上、本部長がお父さんに質問をしました。
「それにしても、君はこんな凄い情報をどこから入手したんだね?」
「はい、ネコからです」
「ネコ?」
「いや、ネ、コ、コ、コ、コネ・・・です」
「そうか、秘密の特別なコネがあるんだね」
「はい、秘密の特別なネコです」
「・・・・」
その晩、マサルの家では、今回も盛り上がったのでした。
<それから十年後>
「ふたりとも急いで。これがキヨちゃんのお弁当。こっちがマサルのお弁当。マサルのは夕食の残りだからね」
「はい、分かってます。ところで、きのう、化け猫さん達が捕まえた犯人だけど、署に連行したら態度を変えて、白状せずに困っているんだ」
「じゃあ、後で皆で行って、脅かすね」
「頼みます。こっぴどくね」
「任せといて!」
「ねえ、ねえ、お母さん! お母さんは白くて可愛い猫ちゃんに化けられるよね。ぼくも、まねをして化けてみたんだ」
「ええっー キヨちゃん、化けれたの?!」
「できたよ! でも、凄く大きかったの」
「へー、お父さん見たいから、ちょっと、やってみて」
「いいよ。じゃあ、やるよ。ウ~ニャン!」
「わぁー、ホワイトタイガーだぁ!」
(おわり)
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最後までお読み頂き有難う御座いました。
私、最近、少し体調が悪く、猫と一緒に一日中ゴロゴロと横になっております。
頭が冴えず、読み書きの集中力が落ちてPCが苦痛なので創作は一時中止です。
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皆様とお会いする機会が減ってしまいますがお許し下さい。
中村 昭