学校帰りの小学生がカラスに石を投げていました。

子供は大人の背中を見て育つと言いますが・・・・

以前、アグネス・チャンさんから聞いた話を思い出して、創作しました。

虐められるカラスが無くなることを願って

 

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 カラスのカーキチが木の枝にとまって休んでいると石が飛んできました。

下を見ると子供達がカーキチに向かって投げています。

「やれやれ、またか!」

カーキチはそう呟くと、おもむろに飛び立ちました。

『色が黒くて大きいというだけで、何で虐められなければならないんだ!』

カーキチの心は、いつも情けない気持ちで一杯でした。

 

 そんなある日、カーキチが川で水を飲んでいると、近くにツバメが降りて来て、土を摘まんでいます。

「こんにちは、ツバメさん。その土を食べるんですか?」

カーキチは驚いて聞きました。

ツバメは、カラスに話し掛けられたので、一瞬、ぎょっとしましたが、カーキチの優しい顔を見ると、

「いいえ、カラスさん。食べている訳ではなくて、この土で巣を作るのです」

「そうでしたか、たいへんですね。頑張って下さい」

ツバメは、カーキチに微笑むと飛び去って行きました。

 

 次の日、その日は大人に投げられた石が体に当たり、川の水で冷やしていました。

「全く、人間という生き物は、子供も大人も、なんて凶暴なんだ! ただ木にとまっているだけで石を投げてくるなんて!」

カーキチが、そう呟くと、近くにいた昨日のツバメが話し掛けてきました。

「カラスさん、災難でしたね。この国ではカラスさんは嫌われていますが、お隣の国では『親孝行の鳥』と言われているんですよ」

「えっ! そうなんですか?!」

「はい、私は、夏はこの国で、冬は南の国で暮らしますが、向こうではカラスさんを虐めたりはしませんよ」

カーキチは、優しかった自分の親を思い出しました。

『僕は心配ばかり掛けて、親孝行なんかしたこと無いけど・・・・ お父さんやお母さんも人間に虐められていたな・・・・』

ツバメは、悲しそうに遠くの空を見詰めているカラスに気付くと、

「カラスさん、夏の終わりに、一緒に海を渡って隣の国へ行きませんか? 夏は少し熱いですが、木の実や果物は一年中ありますよ」

「でも、遠いのでしょ。ツバメさんは速く長く飛ぶことができますが、私にはできないです。それに、この国に家族がいるので行くことができません」

「そうですか・・・ それは残念ですね」

「でも、その話を聞いて心が安らぎました。世の中に僕たちを大切にしてくれる人たちがいる。それが分かりとても幸せです」

「それは良かった! お役に立てて、私も幸せです」

 

 カーキチは寝床に帰ると、みんなから愛され微笑んでいる自分の姿を心に描きながら眠りにつきました。

 ある日、フトアゴヒゲトカゲとエリマキトカゲが話をしていました。

「エリマキさん、その襟巻、凄く綺麗ですね」

と、フトアゴが言うとエリマキは嬉しそうに襟巻を広げて、

「ありがとうございます。フトアゴさんのあご鬚も凄く立派ですね」

と、褒め返しました。

「いやあ~、実はこの髭には困っているのです」

「それは、また、どうして・・・?」

「実は、みんながこの髭を見て、無精で気持ち悪いと笑うのです。なぜ、剃ってしまわないのかと。でも、この髭は皮膚の一部で剃れないんです」

「そうですよね、私は知っていますよ。でも、酷いですよね。フトアゴさんは凄く優しいのに・・・・可哀そう!」

「ありがとうございます。そう言って貰うと凄く嬉しいです」

「フトアゴさんが無精では無いことをみんなに知らせる方法はないかしら?」

エリマキはフトアゴに微笑み掛けました。

「そうだ、いいことを思い付いた!」

「えっ! 何ですか? エリマキさん。教えて下さい!」

「それはですね・・・・ 私のように襟巻をして、その髭を隠すのです」

「なるほど! それは良い方法ですね!」

「では、早速、襟巻を買いに行きましょう」

「どこで買うのですか?」

「ヘビさんの店で、蛇の抜け殻を売っているのです」

「えっ! 蛇の抜け殻ですか!」

「はいっ、そうです。凄く綺麗な柄もありますよ」

「そうですか。でも、ちょっと心配だな・・・」

「大丈夫ですよ」

「分かりました。では行きましょう」

ふたりは連れ添ってヘビの店に向かいました。

 

「ごめんください」

「へい! いらっしゃい。おや、エリマキさんではないですか。あっ、フトアゴさんも御一緒で・・・」

ヘビは赤い舌をクルクル回しながらニコニコして出て来ました。

店の壁には色々な抜け殻が飾ってあります。

フトアゴが驚いて見ていると、エリマキが話し出しました。

「実は、フトアゴさんの髭を隠す襟巻を買いに来ました」

「えっ、それはどうして? なぜ隠すのですか?」

フトアゴは事情を説明しました。

「それはお可哀そうに。そうだ、最近取れたばかりの綺麗な抜け殻がありますよ。蛇の子供の物で、小さくて売り物にならなかったので店には出していないのですが、サイズはフトアゴさんにぴったりです」

そう言ってヘビは奥から赤と黄色の柄の綺麗な抜け殻を持って来ました。

「わあっ、綺麗!」

フトアゴは思わず叫んでしまいました。

ヘビはニコニコして、

「これなら、髭を隠せるし、顔が明るく見えて、人気者になれますよ。ちょっと着けてみましょうか?」

「お願いします!」

ヘビは抜け殻の端を口に咥えるとフトアゴの首を一周して、抜け殻を巻き付けました。

「わあっ、凄く綺麗! 髭が隠れてフトアゴさんに見えない!」

エリマキが言うと、ヘビも

「そうですね。新しいトカゲさんに見えますね」

と言います。

フトアゴは、

「そうですか! そんなに良いですか。それでは、これを貰おうかしら。おいくらですか?」

「料金はいりませんよ。どうせ売り物にならなかった物ですし、フトアゴさんに喜んでもらえるなら私も嬉しいです」

「ありがとうございます」

ニコニコしているヘビに見送られて、ふたりは店をあとにしました。

 

「エリマキさん、本当にありがとうございました。これからはみんなに笑われずに済みます」

「いえいえ、どういたしまして。フトアゴさんに喜んでもらって、私も嬉しいです」

エリマキもニコニコして帰って行きました。

 

 フトアゴは蛇の襟巻をして、意気揚々と歩き出しました。

「きっと、みんな驚くだろうな! 僕だって分かるかしら。これで人気者になれる!」

フトアゴは人気者になった自分を想像しながらニコニコして広場に向かいました。

 

 広場の入口に着くと、

「えへん!」

と、ひとつ咳をしました。

みんながフトアゴを見ました。

次の瞬間、みんなは我先に逃げ出しました。

フトアゴは急いで広場に入って行くと、逃げ足の遅いカタツムリの前に立ちました。

カタツムリはガタガタ震えています。

「どうしたの? カタツムリさん?」

「どうか、お許しください。私には家族がおります。どうか食べるのは・・・・」

「やだな、食べたりしないよ! 僕だよ、フトアゴだよ」

カタツムリは、閉じこもっていた殻から恐る恐る顔を出してフトアゴを見ました。

「あ~驚いた! フトアゴさんだ! 首に蛇を巻いているので、怖いトカゲだと思った」

「あはははは・・・ これは蛇の抜け殻の襟巻。どう、綺麗でしょ!」

カタツムリは、フトアゴの襟巻をシゲシゲと見詰めました。

「確かに綺麗だけど・・・・ それよりも怖いです」 

「そうかな~」

「なぜ、そんな物を首に巻いたの?」

「だって、無精髭だって、みんなが笑うから、これで隠したんだ」

「私は笑っていませんよ。フトアゴさんが優しいことを知っています」

「ほんと! ありがとう!」

「そんな怖い物、巻かないでください。お願いします」

カタツムリは、ニコリと微笑みました。

 

 フトアゴはひとりになると考えました。

『どっちが良いかな? 笑われるのと、怖がられるのと・・・・』

襟巻が風になびいています。

 

 悩んでいるフトアゴの上で、お日さまが微笑んでいました。

暑さが通り過ぎて、体調が良くなってきたのですが、小説の方、全然進みません!

また、気分転換に童話を書いてみたのでお付き合い下さい。

 

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 ナメクジは悩んでいました。

人間はカタツムリのことは大好きなのに、ナメクジのことは嫌っているからです。

人間は子供のころから、

「でんでん虫虫カタツムリ・・・・」

と、歌っていますが、ナメクジを見ると、

「気持ち悪い! 汚い!」

と、言います。

ナメクジは思いました。

『私はカタツムリさんの親戚だし、歩き方や食べる物も同じなのに、何で私だけ嫌われるのだろう』

ナメクジは考えました。

『カタツムリさんが好かれるのは、背中にお家を背負っているからかしら。私も背中にお家を背負えば好かれるかしら』

 そこで、ナメクジはお家を探すことにしました。

 

 しばらく歩いていると、ペットボトルの蓋が落ちていました。ナメクジはそれを背中にのせてみました。

『これでカタツムリに見えるかしら』

ナメクジは、喜んで歩き出しました。

すると、そのようすを見ていたカタツムリが近寄って来ました。

「ナメクジさん、何をしているのですか?」

「あっ、カタツムリさん。これを背負ったら、あなたに見えるかと思って」

カタツムリは笑いながら、

「ナメクジさん、それではカタツムリに見えませんよ。それにしても、いったい、なぜカタツムリの真似をするのですか?」

「私は人間から嫌われています。ですから、カタツムリさんのようにお家を背負えば、人間に好かれるかと考えたんです」

ナメクジから褒められたカタツムリは嬉しくなりました。

「そうでしたか。それでは、もっと良いお家を一緒に探しましょう」

「ありがとうございます、カタツムリさん」

ふたりは並んで歩き始めました。

 

 しばらく行くと、ボタンが落ちていました。ナメクジは背中にのせて、カタツムリに見せました。

「これはどうですか。カタツムリさんに見えますか?」

「さっきのフタよりはいいですね。でも、それでは、中に入ることができませんし、全然美しくないですね。私の家のように綺麗な模様のものを探しましょう」

「そうですね」

 

 また、ふたりは歩き出しました。

今度は、美しい四角い箱が落ちていました。ナメクジは、その箱を背負ってみました。

「カタツムリさん、これならお家の中に入れますけど、どうでしょうか?」

「四角いお家では、カタツムリに見えませんね」

「やっぱり、ダメですか。まるい美しい箱がどこかにないかしら」

 

 ふたりが探し回っているところに大カタツムリが通り掛かりました。

「おふたりさん、何をしているの?」

「ナメクジさんのお家を探しているのです」

「そうですか。では、私のお家のように大きなお家がいいですね」

と言って、自分のお家を自慢げに見せました。

すると、カタツムリが、

「私は、大きいより美しいお家が良いと思いますよ」

と言い返して、自分のお家を見詰めました。

「でも、大きい方が豪華に見えますよ」

大カタツムリが言い返します。

「そうかしら、美しい方がみんなに注目されますよ」

「そうかしら!」

大カタツムリとカタツムリは、自分のお家の方が良いと言い争いを始めてしまいました。

ナメクジが呆れて見ていると、

「ねえ、ナメクジさん、大きいお家と、美しいお家と、どちらが良いと思う!」

と、カタツムリたちがナメクジに聞いてきました。

ナメクジは、答えに困ってしまい、もぞもぞしていると、

「あなたは、どっちに住みたいの!」

と、カタツムリたちが怖い顔をして詰め寄って来ます。

「はい・・・、大きくて美しいお家に住みたいです・・・」

ナメクジは、震えながら答えました。

「まあっ! 何てがめついんでしょう!」

カタツムリたちは、ぷいっと横を向くと、別々の方向へ歩いて行ってしまいました。

後に残されたナメクジは、

『あ~、怖かった! お家は無いけど、ナメクジのままでいいや』

と、思うのでした。

 

 微笑んでいるナメクジの前を、先ほどのペットボトルの蓋がカラコロと軽い音を立てて風に流されて行きました。

『警備員になった猫』の続編です。

今回も『お説教ポイ』記述を極力避けたストーリーにしてあります。

物足りないという方もいると思いますが、長編でカバーしましたので、最後まで読んで頂けたら嬉しいです😺

 

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    【1】

 ある町にミコという名前の化け猫が住んでいました。

化け猫は普段は猫の姿ですが、人間の姿に化けることができます。

実は、ミコはショッピングが大好きな女の子で、人間に化けて街を見て歩くのを楽しみにしていたのです。

それで、化け猫でない仲間たちは、欲しい物がある時には、ミコに人間の店で買い物をして貰っていました。ミコは、みんなの頼みを喜んで聞いてくれたので、とても人気がありました。

 しかし、困ったことが一つありました。人間に化けた時、口が耳の近くまで裂けた顔になってしまうのです。その顔を見ると人間が恐がるので、口を見られないようにしなくてはなりません。ですから、化ける時は必ずマスクをしていました。

 

 ある熱い日、ミコがショッピングをしていると、美味しいそうなソフトクリームを売っている店が目に留まりました。

『わあっ、美味しそう。マスクが暑くて、冷たいものが食べたーい!』

最近は多くの人がマスクをしているので、ミコがマスクをしていても以前の様に目立たないのですが、猫は皮膚呼吸ができないのでマスクをすると凄く暑苦しいのです。

ミコは悩みながら、その店の前を行ったり来たりしていましたが、我慢ができずに店員さんに注文をしました。

「マーブルソフトを一つ下さい」

「はい、少々お待ち下さい」

暫く待っていると、大盛のソフトクリームが出てきました。ミコは急いでお金を払うと、ソフトクリームを持って歩き出しました。

『人がいない所を早く探さないと融けちゃう!』

ミコは焦りました。どこに行っても人がいます。ソフトクリームは融け出してミコの手に流れてきます。ミコは、マスクの下側を少し持ち上げて、それをペロリと舐めました。

『いけない、いけない。ネコ癖が出てしまった!』

しばらく行くと小さな公園がありました。子供達が遊んでいます。中に入って行くと、ベンチが空いています。周りに人はいません。

『しめた! ここに座って食べよっと』

ミコは、腰かけるとマスクを外して食べ始めました。

『あー、美味しい!』

ソフトクリームは、舐めても舐めても、どんどん融けてきます。

ミコはソフトクリームのことに夢中で、周りのことをすっかり忘れてしまいました。

ふと気が付くと、小さな子供がスマホでミコを撮影しています。

「おねーちゃん、お口大きいね」

「あーっ、撮っちゃっダメッ!」

ミコは、急いで子供を追いかけました。

「キャハハハー」

子供は鬼ごっこするように逃げ回ります。中々捕まえられません。

すると、向こうから子供のお母さんがやって来ました。

「遊んで頂いてありがとうございます」

「いえ、私、あの、その・・・・」

「おかあさん、このおねえちゃん、すごくお口が大きいよ」

「こら! 失礼なこと言うんじゃありません。本当に申し訳ありません」

「いいんです、子供は正直だから・・・・」

ミコは、急いで、その場から立ち去りましたが、しばらく行くと、後ろの方から

「きゃー!」

という悲鳴が聞こえてきました。ミコが振り返ると、あのお母さんがミコを指さしています。すると、何人かの男の人がミコを追いかけて来ます。

『これは、まずい!』

ミコはソフトクリームを惜しそうに捨てると、全速力で逃げ出しました。人間が追って来ます。公園を出て、街中に入いると、追手が叫びました。

「その女の子を捕まえてくれ!」

ミコは必死で逃げましたが人が多くて中々先に進めません。どんどん追手が近づいて来ます。狭い路地を見付けて逃げ込むと、そこは行き止まりでした。

周りに人はいません。ミコは急いで猫の姿に戻りました。

「あれ、行き止まりだ! 確かに、ここに逃げ込んだと思ったが、向こうを捜そう」

ミコは、小さくなって震えていましたが、人間達は気付かずに行ってしまいました。

『あー、恐かった!』

ミコは、恐るおそる路地から出ると猫の姿のまま家へ帰りました。

 

 その日の夕方、近所の猫が息を切らしてミコのところに走って来ました。

「ミコちゃん、たいへん! たいへん!」

「そんなに急いで、どうしたの?」

「テレビを見てたら、ニュースにミコちゃんが出てた!」

「人、いや猫違いじゃないの?」

「違う、違う! 化け猫姿のミコちゃん!」

「ええっー」

あの子供が写した写真がニュースになったのです。

「ああー、どうしよう!」

テレビを見た近所の猫が、続々と集まって来ます。

「ミコちゃん、大丈夫よ。私達が守ってあげるから」

「なに言ってんの。私達が守らなくても、ミコちゃんが人間の姿にならなければ、大丈夫でしょ」

「あっ、そうか! だいじょぶだー」

「あはは・・・」

「あんた達、笑い事じゃないんだよ。これから、ミコちゃんに買い物を頼めなくなるじゃないの!」

「あっ、そうか! それはたいへんだー」

「ミコちゃん、きっと、化け猫仲間から、こっぴどく叱られるよ。かわいそうに」

それを聞いて、ミコは泣き出してしまいました。

「ああんー、みんな、慰めてんのー、脅してんのー、どっち! もう嫌い!」

それを聞いて、猫達は、こそこそと帰って行きました。

ぽつんと残ったミコは、散々泣いたあげく、

「まっ、いいかっ! 済んでしまったことだし、今さら後悔しても始まらないもんね」

と、けろっと立ち直るのでした。

 

 次の日、ミコが、塀の上から、人間の家のテレビを見ていると、

「私、口裂け娘で~す。私、口さき娘で~す」

と、お笑い芸人が口紅で口を大きく書いて漫才をやっています。

『あははは、結構おもしろい! 私、有名になっちゃたな~』

ミコは、なんだか嬉しくなりました。

そこへ、化け猫仲間がやって来ました。

「ミコちゃん、やらかしたわね!」

「ごめんなさい」

「いったい、どうしたの?」

「あの~、ソフトクリームが融けそうだったので・・・・・・」

ミコは必死に説明をしました。

「まあ、あきれた! そんな理由だったの!」

「はい!」

けろっとしているミコにあきれて、これでは説教しても無駄だと首を振りながら帰って行きました。

 

 ミコは、しばらく人間に化けるのを止めることにしましたが、ウインドショッピングは止めませんでした。

猫の姿で街を歩いていると、学生達が、マスクの下に化け猫顔の口紅を付けてふざけています。

『ちょっと違うな、 もっと怖い顔なんだけど』

ミコが、ちょっとがっかりしていると、一軒のスカーフを売っている店が目に留まりました。

ウインドを覗くとスカーフがたくさん飾ってあります。

『かわいい模様がいっぱい。どれが私に似合うかしら』

店の前に座って見とれていると、入口が開いて、お婆さんが出て来ました。

「まあ、なんてかわいい猫ちゃんなの。中に入っていいわよ」

「にゃあ~ん(おじゃまします)」

ミコは、店の中に入りました。

「猫ちゃんには、どれが似合うかしら。これなんかどうかな」

と言って、花柄のスカーフをミコの体に合わせました。

「とっても似合うわ。じゃあ、半分に切って・・・・ 端を縫い合わせてと・・・・」

お婆さんは、はさみでスカーフを切るとミシンで縫い始めました。

『そんなことしたら、もったいないです!』

ミコがそう思っている間に、お婆さんはミシン掛けを終えると、ミコの首にスカーフを巻きました。

「これでよし。すごくお似合いよ」

そういうと、ミコの前に鏡を置きました。

『わあっ、すごく似合ってる。お婆さん、ありがとうございます』

ミコは嬉しくて、お婆さんの手に頬をこすり付けます。

「気に入ってくれたのね、よかったわ。ところで、あなた、お腹空いている? 何か持って来てあげましょうね」

そう言うと、お婆さんは奥に入って、干し肉を持って来てくれました。

『これ、おいしい!』

ミコは、前足をそろえて食べ始めました。

「あなたは、礼儀正しいのね」

お婆さんは、ミコを撫ぜてくれます。

ミコは、このお婆さんに何かしてあげたくなりました。

『何か良い考えはないかな?』

しばらく考えていましたが、ミコは、ウインドのところに座って、路を歩く人に声を掛け始めました。

「にゃあ、にゃあ~」

歩いている女の人が気付いて足を止めます。

「まあっ、かわいい猫ちゃん。人形じゃないのね」

「にゃあ~」

女の人が店に入って来ました。

「素敵なスカーフがいっぱいね」

女の人は、ミコを抱っこしたあと、スカーフを買って帰って行きました。

ミコは、またウインドに座って路を歩く女の人に声を掛けました。

「にゃあ~」

その人も、ミコを見ると店に入って来て、ミコを撫ぜたあと、スカーフを買って帰って行きました。

こうして、ミコは多くのお客を店に呼び込みました。

「猫ちゃん、ありがとね。お陰でたくさん売れたわ。こんなこと初めて」

「にゃあー」

「あなたは、家に帰らなくていいの?」

「にゃ、にゃっ」

「そう、帰らなくていいの。お家がないのね。じゃあ、ここに、好きなだけいてもいいのよ」

そういうと、お婆さんは店を閉めて食事の準備を始めました。

ミコは椅子の上に座って、お婆さんを見ていました。

楽しい食事が終わると、ミコは、お婆さんの膝の上で眠りにつきました。

 

 次の日も、ミコはウインドに座っていました。すると、たくさんの人がミコを見にやって来ます。きのうのお客さんがミコの写真を撮って拡散させたのです。

お陰で、お店の中は人があふれ、スカーフがたくさん売れました。

「猫ちゃん、ありがとね。これで、少し生活が楽になったわ」

お婆さんは、店を閉めながらミコに話し掛けました。

 

 その時です。数人の男がどやどやと店に入って来ました。

「ばあさん、いいかげんに、この店を売ってくれないか!」

「おまえ達みたいな悪い奴には、死んでも売らない!」

「なにっ! じゃあ死んでもいいんだな、ばーあさん!」

男達は、シャッターを閉めて外から見えなくすると、店の中を壊し始めました。お婆さんが丹精込めて作ったスカーフを踏みつけました。それを見たミコは、急いで奥の部屋に行くと化け猫の姿に変身して出て来ました。

「おっ、かわいいお嬢ちゃんがいるじゃないか」

男の一人が、ミコの肩に手を掛けます。

ミコはマスクを取ると、大きな口を開いて、その手に噛み付きました。

「痛ててててて!」

「口裂け娘だ!」

ミコは、出口を立ち塞ぐと、逃げようとする男達を飛び跳ねながら引っかき、噛み付き回ります。

店の中の騒ぎを聞いた人達が、店の前に集まって来ます。

警察官も駆け付け、シャッターをこじ開けました。

中には、倒れた男達と、猫に戻ったミコを抱いたお婆さんが立っています。

男達は、警察に逮捕される時、震えて何も言えませんでしたが、ミコの姿を見ると、警察官に抱き付きました。

「た、助けてくれ。ば、化け猫だ!」

「何を言っている。こっちえ来い!」

ミコは、にやりと笑って男達をにらみ付けます。

『これで、だいじょうぶ。お婆さん』

ミコは、お婆さんに微笑みました。

警察官が不思議そうに聞きます。

「ところで、お婆さん。どうやって、こいつらをやっつけたのかね?」

「私は、怖くて目をつぶっていたので分からないの。目を開けたら、男達が倒れていたの」

「そうか、じゃあ、男達に聞くか」

警察官は、そう言うと男達を連行して帰って行きました。

「猫ちゃん、ありがとうね。あなたが、口裂け娘なのね」

そう言うと、お婆さんは自分の頬をミコの頭につけて微笑ました。

 

 逮捕された男たちは、頭がおかしいということで精神病院に入れられて、その後、出て来ることはありませんでしたが、誰にやられたかは最後まで謎となりました。

 

     【2】

 この事件がテレビで大々的に報道され、店が有名になり過ぎたので、ミコは仲間の猫達にお婆さんの店を頼んで、しばらく身を隠すことにしました。

 二か月ほどすると、口裂け娘のことも話題にならなくなったので、また、ミコは人間の姿でショッピングを始めました。

用品屋さんのウインドーを覗きながら、

「わー、かわいいリボン! 付けたいなー。でも、だめかー。猫の姿に戻った時、頭から落ちちゃうなー」

ミコがそうつぶやいた時、後ろから声がしました。

「君、猫なの?」

ミコが振り向くと、そこに少年が立っています。

ミコはどう答えようか悩みました。

『嘘は言いたくないし。かと言って、化け猫ですとも言えないし・・・・』

ミコが黙ってもじもじしていると、

「まあ、どっちでもいいや。言葉は通じるんだよね?」

ミコがうなずくと、少年はにこりと微笑みました。

「猫さんは、人間に化けて買い物をしているんだ。すごいね!」

ミコは、褒められたのが嬉しくて、はにかみながら微笑み返しました。

「ぼく、マサル。猫さんの名前は?」

「ミコです」

消えそうな小さな声で答えます。

「ミコちゃんか! ところで、猫さんって、みんな人間に化けれるの?」

「いいえ、化け猫だけです」

ミコは、秘密を話してしまい、しまったと思いました。

「じゃあ、ミコちゃんは化け猫さんなんだ。かっこいいー」

ミコは、人間から『かっこいい』と言われて驚きました。

『私、かっこいいんだ!』

ミコは凄く嬉しくなりました。

実は、ミコは以前から人間に聞いてみたいことがあったのです。

良い機会だったので、勇気を出して、

「でも、私、口がすごく大きいの」

「人間にだって、口の大きい人いるよ」

「私の口は耳の近くまで裂けているの」

マサルは口裂け娘のことを思い出しました。

「もしかして、ミコちゃんは口裂け娘?」

ミコは、小さくうなずきました。

「そうなんだ。口裂け娘は化け猫さんだったんだ!」

「マサルさんは、恐くないの」

「別に! ぼくの家にも猫のリリーちゃんがいるよ。あくびをすると、口がすごく大きく開くんだ。最近、少し歯石が付いているのが気になるんだけど・・・・」

ミコはマサルが天然な人だと思いました。と同時に、何か親しみも感じました。

「私の顔を見てもらえますか?」

「いいよ」

ミコは、恐るおそるマスクを取りました。

マサルは、また、にこっと微笑みます。

「あのー、本当に怖くないの?」

「ぜーんぜん。猫さんだから、口が耳の近くまで裂けていてもしょうがないよね」

ミコは拍子抜けしてしまいました。

『今まで、何で悩んでいたのだろう』

とは言うものの、また、テレビで話題になると仲間から怒られるので、急いでマスクを付けました。

「そのままでもいいのに」

「ほかの人は天然じゃないから」

「ひどいな~ 僕は天然?」

ミコは、こくりとうなずきました。

「まいった、猫さんだ!」

マサルは大笑いをしています。やはり、正真正銘の天然だとミコは思いました。

すると、マサルがミコをじーと見詰めたので、ミコはピクンとしました。

「ミコちゃんにお願いがあるんだけど」

「何ですか・・・?」

「ミコちゃんは猫と話ができるよね」

「はい、もちろん」

ミコは嫌な予感がしました。

「うちのリリーちゃんに、病院で歯石を取るように説得してもらいたいんだけど」

「ええっー、私がですか?!」

「彼女、いくら言っても聞かないんだ。口を開けようとすると、怒って引っかくし。困っているんだ。お願い! 猫助けだと思って」

『猫助けか・・・・。上手いこと言うな。これでは断れないな~』

「僕の家、直ぐ近くだから、三十分でいいから、お願い!」

『お母さんから、知らない猫に付いて行っていけませんよと言われているけど・・・ マサルは猫じゃないし・・・ こっちは化け猫だから・・・ もし、マサルが悪い奴だったら食べちゃえばいいか!』

「じゃあ、少しだけ」

「ありがとう! すごく助かる! リリーちゃん、歯石で口が臭いんだ。だから、チューされた時、臭くて臭くて」

『ええっー そんな理由だったんだー だったら断ればよかった!』

ミコは、少しがっかりして、マサルの後をついて行きました。

 

暫く行くとマサルが止まりました。

「ここだけど。お母さんが居るな。ミコちゃんを、どう紹介しようかな?」

「私、顔を見せる訳にはいかないので、猫の姿に戻ります」

「それがいいね。うちのお母さん、大の猫好きだから、気を付けてね」

「何を気を付けるの?」

「会えばわかるよ」

「それ、ちょっと心配なんだけど・・・ 猫に戻るから、少し待っててね。それから、猫の姿の時は、人間の言葉を理解できるけど、人間の言葉をしゃべることはできないの。人間の姿の時は、猫語を理解できるけど、猫語をしゃべることはできないの」

「何か、頭の中がごちゃごちゃしてきた・・・」

ミコは、にやっと笑うと、茂みに入って行きしゃがみました。次の瞬間、真っ白い毛長の美しい猫が出て来ました。

「にゃあー」

「えっ、君はミコちゃん」

「にゃあー」

「凄く綺麗!」

「にゃーあっ」

「化け猫さんだから、すごく怖い猫さんかと思っていた」

「にゃ、にゃあ~」

「じゃあ、抱っこするよ」

「にゃん!」

マサルは、ミコが嫌がっているのが分からずに抱っこしました。その瞬間、マサルの腕の中でミコが人間の姿に戻りました。

「あのー、抱っこされるの嫌なんですが・・・」

「あっ、ごめん、ごめん。つい猫ちゃんのつもりで」

「あのー、早く降ろして貰えますか」

「はいっ、怒った?」

「いいえ。猫助けですから。もう一度、猫に戻ります」

そう言うと、ミコは茂みのところに行き猫の姿で戻って来ました。

 

「お母さん、ただいま」

マサルは、玄関に入ると、ミコを廊下に上げました。

「わあー、なんて可愛い猫ちゃんなの! この白い毛、とっても綺麗!。あなたお腹空いている?」

「朝食べただけだから腹ぺこなんだ。何かある?」

「あなたじゃないの。猫ちゃんに聞いているの」

「にゃーあ」

「声も凄く可愛いのね! 何か作ってあげましょうね。肉と魚、どっちが好き?」

「にゃ、にゃ、にゃっ」

「そーなの。じゃあ、両方作ってあげましょうね」

「お母さん、ミコちゃんのこと聞かないの?」

「ミコちゃんて言うの。やけに平凡な名前ね」

「しっ! ミコちゃんに聞こえるよ」

「変なこと言うわね。まあ、いつものことだけど。この子には、ソフィアとかエリザベスという名前が向いているんだけどねえ~、猫ちゃん!」

「にゃあ~」

「ほらっ、その方がいいって言っているわ」

「それ、映画スターの名前でしょ」

「ところで、ソフィアさんはどこの娘さんなの?」

「もう、勝手に名前を変えないでよ!。ミコちゃんなんだから。友達の猫ちゃんで、リリーちゃんの友達になってもらうために預かったんだ。だから、リリーちゃんのところに連れて行くよ」

「じゃあ、お食事が出来たら持って行くわね」

「はーい」

「あなたに言っているんじゃないのよ」

マサルは、椅子から立ち上がり、歩き出しました。

「ミコちゃん、こっちにおいで。リリーちゃんがいる部屋へ行こう。リリーちゃんは、時々、脱走するので、奥の部屋にいるんだ。彼女の気持ち、分からなくもないが・・・・ 僕も時々脱走したくなる」

「にゃ、にゃ!」

マサルは、ドアを開けるとミコを中に入れました。

「ミコちゃん、こちらがリリーちゃんです。リリーちゃん、こちらがミコちゃんです。仲良くしてね」

「シャアー!」

「リリーちゃん、怒らないの!。きょうは、ミコちゃんに話しに来て貰ったんだから」

ミコはリリーに近寄ると話し掛けました。

「にゃ、にゃあ、にゃあー、にゃあーあっ」

「シャアー!」

リリーは、すごく怒っています。

「リリーちゃんどうしたの。いつもは、優しいじゃない。こっちに来てチューして」

「オエッ! あー、やんなっちゃた!」

ミコが人間の姿になりました。

「ミコちゃん、そのオエッはないだろ」

「私はソフィアです」

「ごめん。お母さんが名前を勝手に変えて」

「ソフィアという名前、私は気に入っているけど」

「はあ~」

「リリーちゃんには、歯石で口が臭いから取りなさいと言っておいたわ」

「えー、そんなふうに言ったの!」

「それよりも、彼女、マサルさんのことが凄く好きみたい。だから、私を連れて来たのを怒っているの。私には、これ以上の説得は無理だわ」

「そうか。困ったな!」

「大丈夫よ、きっと、歯石を取ることを承諾すると思う」

「なぜ分かるの?」

「それは、ヒ・ミ・ツ」

「・・・・」

 

 突然、ドアが開き、お母さんが入って来ました。

「リリーちゃん、ソフィアさん、お食事ですよ」

「お母さん、急にドアを開けないでよ!」

「中に居るのは、猫ちゃんだけでしょ。ノックしたら、猫ちゃんが驚くでしょ」

「にゃあ~」

「ほら、ソフィアさんもそう言っていますよ」

ミコは、素早く猫の姿に戻っていました。

「ふたりとも、こちらに来て。お食事ですよ」

「うわあ、うまそう」

「あなたのじゃないの。猫ちゃんたちの。マサルは冷蔵庫の中に朝の残り物があるから食べといて」

「僕は、猫以下?!」

「あなたは、可愛くないからね」

「そうかにゃー」

「にゃあ~」

「まあ、ソフィヤさんは、言葉が分かるのね。本当に、いい子」

お母さんは、食事をリリーとミコの前に置きました。ミコは食べ始めました。

『これ、すごくおいしい!』

しかし、リリーは食べません。

「シャアー」

「あら、リリーちゃん、どうしたの? あなたの大好物を作ったのよ」

「リリーちゃんは、僕がミコちゃんを連れて来たんで怒っているんだって」

「へー、そうなの。よく分かったわね? リリーちゃん、ソフィアさんと仲良くしてね。じゃあ、マサル、ふたりが喧嘩しないように見ていてね」

と言うと、お母さんは部屋を出て行きました。ミコは人間の姿になると、

「あー、おもしろかった! 猫以下なんだ」

「うちでは、リリーちゃんが一番」

「リリーちゃんには、私が化け猫だと話しておいたから、もう大丈夫よ」

「リリーちゃん、こっちへおいで」

リリーはマサルの膝の上に上がって来て、顔を腕にこすり付けています。ミコはそれを見ながら、

「なんか、私、この家が好きになっちゃた。しばらく居てもいいかな?」

「猫の姿ならばいいけど」

「それならば大丈夫。普段は猫だから。人間に化けてるのって、結構疲れるの。じゃあ、暫くお邪魔します」

「あと、うちの家族は、お父さんと妹がいるよ。みんな猫好き。順位は、リリーちゃん、お母さん、妹、お父さん、僕」

「マサルはビリなんだ」

「呼び捨て・・・」

「だって、猫以下なんでしょ」

「まあ、そうだけど。ところで、家に帰らないとミコの家族は心配しない」

「呼び捨てなの」

「すいません。ミコちゃんの家族は心配しませんか」

「今、私、ひとり暮らしなの」

「お父さんやお母さんは?」

「ちょっと離れた町で、警備会社を経営しているわ」

「すごいね! ミコちゃんは社長の娘なんだ」

「まあね」

「じゃあ、何でこの町に来たの?」

「この町に会社を作れるか調べる為に来たの」

「それで、どう。作れそう?」

「まだ分からない。この町へ来て、大分経ったけど、何をしたらいいか分からなくて困っているの」

「それは大変だね」

「ウインドショッピングは楽しいけど・・・・。そうだ、マサルも手伝って!」

「ショッピングを?」

「違う! 会社を作る方」

「いいけど。人間が手伝うことを、ミコちゃんの家族に話しておいた方がいいんじゃない?」

「そうね、連絡してオッケーを貰うわ」

「どうやって連絡するの?」

「化け猫同士は、テレパシーで連絡できるの」

「テレパシーって?」

「簡単にいうと、携帯電話が頭の中にあるの」

「凄いね! それ料金かかるの」

「話し放題で、海外通話も無料」

「すごい! 今度、使わせて」

「マサルは、状況を理解していないみたいね」

「ダメか・・・」

「でも、私に頼べば、世界の猫に連絡できるわよ」

「そんな必要もないし。ところで、リリーちゃんとミコちゃんとは、どっちの地位が上なの」

「猫世界では化け猫の方が上だけど、ここではリリーちゃんが先輩だから、私が下になるわ」

「ずいぶん、物分かりがいいね」

「私たち猫族は、人間と違って、無駄な争いは好きじゃないの」

「なるほど、賢いね!」

「そうなの! よっぽどのことがなければ喧嘩はしないわ」

「よっぽどのことって?」

「たとえば、私を好きな男の子がふたりいる場合とか」

「そんなことあったんだ!」

「まだ無いけど・・・・ でもね、たとえ喧嘩に勝ってもダメなの。私が気にくわなかったら、負けた方と仲良くしちゃうから」

「じゃあ、喧嘩、意味ないじゃん」

「そうなの! だから、ほとんどの場合、大声を出し合うだけで終わるの」

「あったまいいー」

「ありがと!」

「でも、時々、喧嘩して怪我している猫を見掛けるけど」

「あれは欲張りな雄たちの縄張り争いね。本当に馬鹿なんだから! 話し合えば良いのに。私たち雌が上に立ったら、きっと血みどろの争いは減るでしょうね」

「人間も同じかもね」 

「ところで、家の中を歩き回ってもいい?」

「猫の姿ならばね」

「じゃあ、行って来るね」

「僕も行くよ」

「マサルは、リリーちゃんのとこに居てあげて。彼女、寂しがっているから」

「そうなんだ。オッケー」

 

 ミコは猫の姿になり部屋を出ました。

お母さんがキッチンで食事を作っています。

「あら、ソフィアさん、マサルがうるさくて逃げ出して来たの?」

「にゃあ」

「そうなの。好きな所で休んでいて」

ミコはソファーの上に上がり、寝っ転がりました。窓の外でスズメが鳴いています。

『人間の家の中っていいなー ずーとここに居たいな~』

 

 暫くすると、玄関が開く音がしました。

「ただいま。お母さん、お腹空いたー」

女の子が部屋に入って来ました。

「わあ、カワイイ! この猫ちゃんどうしたの?」

「マサルの友達の猫ちゃんで、ソフィアさんっていうの」

「こんにちは、ソフィアちゃん」

「にゃあ~」

「返事した!」

「人間の言葉が分かるみたいよ」

「うっそー! ソフィアちゃんは頭がいいんだ。毛も真っ白ですごく綺麗!」

「にゃーあっ」

「ほんと! ちゃんと話す! すごい! お手もできるかな?」

ミコは出された手の上に自分の手をのせました。

「すごい! すごい! お手もできる! じゃあ、おかわり」

ミコは逆の手をのせました。

「お母さん! すごいよ! おかわりもできる!」

お母さんが見に来ました。

ミコは、今度は自分から手を出しました。

「えっ! 握手?」

女の子は、ミコの手を握りました。

「わあ、すごい! すごい! ソフィアちゃん、大好き!」

お母さんと娘は、大はしゃぎしています。

「なに、騒いでいるの?」

マサルが部屋から出て来ました。

「ソフィアちゃん、お手もおかわりも握手もできるのよ!」

「ええっ、ミコちゃんにそんなことさせたの! 失礼だよ」

「変なこと言うわね。いつものことだけど」

「お兄ちゃん、ミコちゃんって? ソフィアちゃんじゃないの?」

「ソフィアは、お母さんが勝手に付けた名前。だけど、ミコちゃんも気に入っているって」

「ソフィアさんが、そう言ったの?」

「そう」

「お兄ちゃんは、猫語が分かるんだ」

「いや、ミコちゃんが、日本語が分かるんだわ」

「へー、そうなんだ。でもどうして、お兄ちゃんが、ソフィアちゃんがそう言ったと分かったの?」

「エリちゃん、もう、よしなさい。マサルと話していると、頭が変になってしまうわよ。それより、ごはんの支たくを手伝って」

「はあーい」

ミコは、マサルを見てにやっと笑うと、ソファーの上でまた横になりました。

 

 夕方になると、お父さんが帰って来ました。

「おおっ、新入りの可愛い猫ちゃんだな!」

お父さんは、ミコを見て声を掛けました。

「リリーちゃんのお友達になってもらう為に、マサルが借りてきたソフィアさんよ」

お母さんが嬉しそうに紹介すると、エリも、

「すごく頭がいいの。お手もおかわりも握手もできるの」

「どれどれ、お父さんにもしてくれるかな」

お父さんもお手から握手まで何度も試しました。

「これはすごいぞ! なんて頭がいいんだ!」

と、大盛り上がりです。

マサルは、申し訳なさそうに、ミコを見ていました。ミコは時どきマサルにウインクして家族の相手をしていました。

 

 夕食の時もミコの話で、マサル以外は盛り上がっています。

「ミコちゃんは、初めての家で疲れたと思うから、僕の部屋で休ませるよ」

マサルは食事が終わると、ミコを直ぐに部屋に連れて行きました。

「さっきは、うちの家族が色々と迷惑をかけて、ごめんね。疲れたでしょ」

ミコは、人間の姿になると、

「大丈夫。私も楽しかったわ」

「それなら、よかった。心配しちゃった」

「マサルに会社作るのを手伝ってもらうことを、ママに連絡したわ」

「パパじゃないんだ」

「ママが社長で、パパが副社長なの」

「ママの方が偉いんだ! 僕の家と同じだな」

「ちょっと違うんだな~」

「どう違うの?」

「ママは化け猫だけれども、パパは普通の猫なの」

「格差婚か~」

「何、それ?」

「つまり、ふたりの間に埋めがたい地位の違いがあるということ」

「へー、人間って、そんなことを気にするんだ」

「まあね、色々とあるから。ところで、どうだった。僕が手伝うことオッケーして貰えた?」

「いちよう、貰ったけど・・・ 人間は裏切るから注意しなさいって言ってたわ」

「確かに、人間はこの地球上で、唯一、裏切る生き物だからね。でも、僕は大丈夫」

「ほんとに?」

「ほんとに!」

「もし、裏切ったら、食べちゃうからね!」

「ええー、裏切らない、裏切らない! ところで、化け猫さんって、人間を食べるの?」

「昔は、悪い奴を良く食べたらしいけど、最近はファーストフードやキャットフードが美味しいから、わざわざ不味そうな物は食べないわ」

「人間は、不味いんだ」

「私は食べたことが無いから分からないけど・・・ ひいお婆ちゃんはそう言ってた。生肉はお腹に良くないしね。それに、お金を出せば、簡単に食べ物が手に入りますから」

「お金を使えるんだ!」

「そうよ、猫族のことわざでは『猫には小判を』なの」

「お金好きなところ、なんか人間に似ているね」

「人間が化け猫に似ているんだと思うけど」

「なるほど」

「ところで、マサル、どうやって会社を作ったらいいと思う」

「今のところ、ノーアイデア」

「なーんだ、 頼りないな~」

「でもさ、さっき、リリーちゃんの歯石の件、助けてくれたよね。なにか、猫助けや人助けになる仕事を見付ければいいんじゃないかな」

「そうか! 何かいい考えある?」

「ノーアイデア」

「またか~」

「お父さん、いや、お母さんの警備会社はどんなふうなの?」

「猫たちが夜回りしていて泥棒を見付けると、ママが駆け付けて化け猫に変身して泥棒を驚かすの。その間にパパが警報ボタンを押して警察に連絡し、捕まえてもらうの」

「それ、いいじゃん!」

「でも、ダメなの。ママは人間の二倍くらいの大きさに変身できるけど、私はママみたいな大きな化け猫に変身できないの」

「なぜ?」

「ママの親はパパママとも化け猫なんだけれども、私のパパは普通の猫でしょ、だから、私は人間のサイズの化け猫にしか変身できないの」

「そういう、事情があるんだ。人間サイズじゃ、泥棒も驚かないよな~」

「そうなの。だから、何か別の仕事を考えないと・・・」

「そういえば、以前、スーパーマンっていう映画があって、他の惑星から来た人間が電話ボックスに入ってスーパーマンに変身して、人助けに空を飛んで行くってのがあったな」

「猫が茂みに入って化け猫に変身しても、私、空を飛べないんですけど」

「ダメか・・・・」

「もっと、真剣に考えて! ママに頼りになる人だと言ってしまったんだから!」

「ごめん、 今日は疲れたから、また、明日、頭が冴えたところで考えない?」

「あ~あっ・・・・」

「じゃ、ミコちゃんは、どこで寝る?」

「リリーちゃんといっしょに寝ます」

「それがいいね」

「おやすみなさい!」

ミコは猫の姿に戻ると、リリーのそばに行き、寄り添って眠りにつきました。

 

 翌朝、マサルが目を覚ますと、ミコが顔をのぞき込んでいます。

「ミコちゃん、おはよう。よく眠れた?」

ミコは、人間の姿になると、

「久しぶりに、安心して、ぐっすり寝れたわ」

「それは良かった。今まで安心して眠れなかったの?」

「そりゃあ、外で寝るのは、大変よ! 雨が降ったり、虫がいたりで・・・。それに、化け猫の姿の時は凄く強くて、棒で叩かれても平気だし、ピストルの玉も避けることができるけど、猫の姿の時は弱いの」

「そーなんだ! それなら、ずーと、ここに居なよ。みんな、ミコちゃんのこと大好きだから」

「嬉しい! ありがとう」

「お母さん達、喜ぶな」

「ところで、マサルのお父さんは何の仕事をしているの?」

「お巡りさん」

「えー、すごい!」

「いや、それが全然すごくないんだよ。警察に入って、まだ一度も手柄を立てたことがないんだ」

「猫好きで、あんなにいい人なのに」

「動物好きが災いして、街をパトロールしていても、野良犬や捨て猫の方に気が行ってしまうみたい」

「いいことじゃない!」

「この前も、池に落ちて溺れている猫を助けたみたい。帰って来て自慢してたけど・・・・」

「わー、猫の大恩人ね!」

「でも、猫を助けても手柄にならないから、出世しないんだ」

「そんなの変よね!」

「泥棒や凶悪犯人を捕まえるとか、人命救助をしないと手柄にならないんだ」

「決めた! 私、マサルのお父さんの手助けをして恩返しする」

「えー、どうやって?」

「悪人の情報を仲間の猫たちに集めさせて、それをお父さんに教えてあげる!」

「そんなことできるの?」

「簡単よ! テレパシーがあるから、世界中の猫から情報をもらえるわ」

「世界の猫と言葉が通じるの?」

「猫語は世界共通なの」

「すごい! じゃあ英語を勉強しなくていいんだ。羨ましい・・・。英語、不得意なんだよな~。そういえば、確か、インターポールっていう国際刑事警察があったな。これは国際猫警察だから、インターナショナルニャリス、短くしてインターニャールだな。ミコちゃんは、その最初の警察官だね。カッコイイ~」

「さっそく、出動よ!」

「どこへ?」

「ついて来て」

そう言うと、ミコは猫の姿になって窓から出ようとしました。

「ミコちゃん、待って! 僕、ついて行けないよ!」

「ほんとに、人間って面倒くさいんだから」

ミコは部屋に戻ると、ドアの方へ歩いて行きました。

「にゃあ」

「オッケー、何か猫語が分かってきたみたい」

 

台所では、お母さんが食事を作っています。

「ソフィアさん、おはよう」

「にゃあー」

「今、ごはん作っているからね」

「お母さん、朝の散歩に行ってくる」

「あら、珍しい」

「ミコちゃんが外に行きたいんだって」

「よく分かったわね? 三十分以内に帰って来てね」

「はーい。行って来ます」

ふたりは外に出ると、ミコが先を歩いて行きます。暫く行くと広場に出ました。

「にゃあー、にゃ」

すると、どこからともなく猫が集まってきました。その猫たちにミコが何かを話しています。話し終わると、猫たちは帰って行きました。

「ミコちゃん、何を話したの」

ミコは草むらに入ると、人間の姿になって戻って来ました。

「猫仲間に悪人の情報をたのんだの」

「だったら、テレパシーを使えばいいのに」

「テレパシーは、化け猫同士でないと使えないの。普通の猫には、直接会って話さないといけないの。でも、みんながこの話を他の猫たちに伝えてくれるから、直ぐに広まるわ」

「そうか、そういうシステムなんだ」

「世界の化け猫仲間には、テレパシーで送っておいたわ。あとは待つだけ」

「お父さんの手柄になる情報が集まるといいけどな」

「そうね、きっとすごいのが来るわよ!」

 

     【3】

 それから、三日が過ぎた時に、玄関で猫が鳴きました。

「にゃあー、にゃあにゃっ」

ミコは、直ぐに気が付きます。

「マサル、玄関に猫仲間が来て鳴いているわ」

「僕には、何も聞こえないけど・・・・」

「猫は人間の十倍以上も耳が良いの」

「そうだったんだ。行ってみよう」

ミコは猫に変身すると、マサルと一緒に玄関に出ました。

戸を開けると、近所のトラネコが座っています。

ミコが近づくと、トラネコは一生懸命に何かを話し出しました。

話が終わると、ミコがマサルの方に振り向いてウインクしました。

マサルは、急いで台所に行き、干し肉を持って戻って来ました。

それをトラネコに渡すと、トラネコはニコリとして戻って行きました。

「ミコちゃん、何て言ってた? 教えて!」

部屋に戻るとマサルは目を輝かせてミコに聞きます。

「少し先のアパートに空き巣泥棒が住んでいるそうなの。猫友だちの家に泥棒に入ったので、後を付けて住み家を見付けたんだって」

「すごいぞ、お父さんに知らせなくっちゃ!」

「でも、お父さんに、どう言うの? まさか猫から聞いたとは言えないでしょ。たとえ言っても信じないわよ」

「困ったな、どうしよう」

「そうだ、私が猫仲間に見張らせるので、泥棒に入るところをお父さんに知らせて捕まえてもらったら」

「それがいいね! その前に、泥棒の住み家と顔を見に行こう。ミコちゃん、案内してくれる?」

「じゃあ、行きましょうか」

ミコは、玄関に出ると先ほどのトラネコを呼びました。

マサルと猫たちは泥棒の住み家の前まで行くと、遊んでいる振りをして泥棒が出て来るのを待ちます。

暫くすると、周りをキョロキョロしながら人相の悪い男が歩いて来ます。すると、トラネコが合図をしました。

「にゃん!」

「そうか、こいつか。顔を覚えたぞ!」

みんなで顔を見合わせると、泥棒に気付かれないように戻りました。

「トラネコちゃん、ありがとう」

トラネコは、頭をペコリと下げると帰って行きました。

「よし、これで、あの泥棒が次の盗みに入るのを待つだけだ」

マサルとミコはどきどきしてその時を待ちました。

 

 二日後に連絡が入りました。

今度は、隣町に住む化け猫仲間からのテレパシーです。

「マサル、あの泥棒が、隣町で空き巣に入っているそうよ」

「隣町にも化け猫仲間がいるんだ!」

「感心していないで、早くお父さんに連絡して」

「オッケー。お父さんの緊急連絡先はここだな・・・・。もしもし、私、榊原巡査の息子のマサルですが、あっ、斉藤さんですか、こんにちは。緊急で父に伝えたいことがあるのですが・・・・。はい、空き巣が泥棒に入っているらしいのですが、間違えだといけないので、その現場に父に行って見てもらいたいのです。はい、北町二丁目五番地四の田中さんのお宅です。宜しくお願い致します」

マサルは電話を切ると、自転車のカゴにミコを乗せて家を跳び出しました。

 

 現場に着いてみると、警察の車が二台停まっています。

しかし、物は盗まれて、泥棒は逃げた後でした。

「マサル、どうして空き巣が分かったんだ」

「話は後で、泥棒の住み家を知っているので、直ぐに行こう」

「えっ、本当か?」

「早く行かないと盗んだ物を処分されてしまう!」

「分かった。斉藤巡査、ちょっと調べたいことがあるので、息子と行って来る」

「では、お気を付けて」

「マサル、パトカーに乗れ」

「お父さん、泥棒に気付かれてしまうから、覆面パトカーの方でね。それから、サイレンはダメだよ!」

「そうだな」

マサルがミコを抱いて車に乗りました。

「なんで、ソフィアちゃんがここに居るんだ?」

「お父さん、それは後で、兎に角急いで!」

「よし!」

マサルの道案内で泥棒のアパートに向かいます。

 

アパートの前に着くと、車を止めて泥棒の部屋を見張りました。

そこに、あの泥棒が自転車に乗って帰って来ました。泥棒はリュックを背負っています。

「お父さん、あの男だよ」

「間違えないな?」

「うん。前に見た顔と同じだ!」

「そうか。事情は後で聞くが、今は逮捕が先だ。泥棒が部屋に入ったら、職務質問に行くから、おまえはここで待っていろ」

「いや、僕は裏側を見張っているよ」

「そうか、では、気を付けるんだぞ。武器を持っているかもしれないから無理はするな」

「分かった、大丈夫。ぼくが空手ができることを忘れたの。お父さんこそ気を付けて!」

「よし、出動だ!」

マサルとミコは裏に回りました。窓が少しだけ開いています。

ミコがそこから中に入って行きます。

お父さんは、泥棒の部屋の前に行くとノックをしました。

ドアが少し開いて、男がお父さんを見ました。

「警察です。お聞きしたいことがあります」

男は、それを聞くと、ドアを急いで閉めました。

次の瞬間、部屋の中から悲鳴が聞こえてきました。

「ぎゃあー!」

マサルは窓を開けて中に跳び込みます。

そこにはミコに顔を引っ掻かれた泥棒が床に倒れてもがいています。

お父さんがドアをこじ開けて跳び込んで来ました。

ミコはネコの姿に戻るとマサルの後ろに隠れます。

「マサル、大丈夫か!」

そう言いながら、お父さんが男の腕をねじ上げます。マサルは男のバックを開けました。中には、宝石や時計や田中さん名義のクレジットカードが入っています。それを見て、お父さんは男を縛り上げました。

 

 応援が来るまでの間、マサルはお父さんにミコの秘密を話すかどうか迷いましたが、

「お父さん、今日のこと、僕が係り合ったこと内密にして欲しいんだ。お願い!」

「何か事情があるのか?」

「そう。絶対に言えないし、言っても信じてもらえそうもないんだ。お母さんや妹にも言わないで」

「おまえがそこまで言うのなら、分かった。署内で話してみるよ。でも、おまえ強くなったな。頼もしかったぞ。しかし、爪が伸びすぎているようだけど・・・・」

「ちょっとね!」

マサルがミコを見詰めると、ミコはウインクで返しました。

 

 その夜、お父さんの初めてのお手柄に家族は大盛り上がりです。それをミコも嬉しく見ています。

『みんなが喜んでいる。いいことしたな。これからも頑張ろう!』

マサルは、優しくミコを撫ぜていました。

 

     【4】

 それからしばらくして、ミコがマサルの隣で日向ぼっこしていると、海外からテレパシーが入りました。ミコは、じっと聞いています。ミコは人間の姿になりマサルに話し掛けます。

「マサル、今、アフリカから連絡があったの。クロアシネコの子供達が誘拐されて、日本に密輸されるらしいわ」

「そのクロアシネコってなに?」

「ワシントン条約に指定された絶滅危惧種で、捕獲や輸出入が禁止されているの。だから、すごく高い値段で売れるの」

「珍しいネコちゃんなんだ!」

「そうなの。以前にも密輸されたことがあって、裏に国際窃盗団がいるみたい」

「それじゃあ、そいつらを捕まえたら大手柄だね!」

「そうね、マサルのお父さんに捕まえてもらって、子猫を助けないと」

「お父さん、喜ぶぞ! これで昇進間違いなしだ! ところで、そいつら、いつ日本に来るの?」

「二、三日後らしいの。港に着く貨物船に隠して運んでいるらしい。荷物室の中に隠すと死んじゃうから、犯人の部屋に隠していると思うの」

「子猫を連れて、船から下りたところを捕まえるか? お父さんに事情を話してみる」

「そうして、お願い! 子供を助けて、お母さんの元に返してあげないと」

「でも、困ったな。この話の出どころを聞かれたらどう答えよう? この前の空き巣の件は、偶然で通せたけど、今度はそうも行かないし・・・・」

「そうね、お父さんに化け猫の秘密を話すこと、化け猫組織のトップに了解を取るわ。子猫を助けるためだから、きっとオッケーが出るわ」

「そんなこと必要なんだ」

「マサルのことは、了解済よ。もし裏切ったら、みんなで食べちゃうって!」

「ええー、絶対に裏切らない、裏切らない!」

「ちょっと待っててね・・・・・・・・。はい、トップの了解をもらったわ」

「すごく早いね!」

「猫は人間と違って、判断が早いの。そうしないと獲物に逃げられてしまうからね」

「なるほど!」

 

 マサルとミコはお父さんが帰って来るのを家の前で待ちました。

「お父さん、おかえり」

「どうした、こんなところで」

「ちょっと、話があるんだ」

「さては、お母さんに聞かれてはまずいことだな」

「良く分かったね」

「これでも警察官だからな」

「実は、ミコちゃんのことだけど・・・・驚かないで聞いてね。彼女、実は化け猫なんだ」

「はあっ・・・・」

お父さんは、ミコを見ながら一瞬笑いましたが、マサルの真剣な顔を見ると真顔になりました。

「この前の空き巣の件も、化け猫仲間からの情報なんだ」

お父さんはミコを見ました。ミコはコクリとうなずきます。

「さっき、化け猫仲間から情報が入って、ワシントン条約対象動物のクロアシネコの子供達が誘拐されて、国際窃盗団が日本に密輸するらしいんだ。それをお父さんに捕まえてもらいたいとミコちゃんが言っているんだ」

「マサル、お前、頭、大丈夫だよな」

「信じられないでしょ。だから、今からミコちゃんに化け猫に変身して貰います。驚かないでね。口が耳の近くまで裂けているから。ミコちゃん、よろしく」

ミコは、茂みの中に入って行き、人間に変身して戻って来ました。

「こりゃ、驚いたな!」

「お父さん、あんまり驚かないね」

「これでも、警察官だからな」

ミコは、にこっと笑って頭を下げました。

「私、ミコです。宜しくお願いします。誘拐された子供達を助けて下さい!」

「分かった! 猫でも人間でも、子供を誘拐する奴は許せん!」

「詳しいことは、僕から話すよ」

マサルは、ミコから聞いたことをお父さんに話しました。

「港は港湾警察の担当で、我々は口出しすることが出来ないから厄介だな。確固たる証拠があれば良いのだが、化け猫さんからの情報ということでは取り合ってもらえないな。国際貿易埠頭には、警察官といえども事件が無ければ立ち入ることはできないし、これは困ったな」

ミコはしょんぼりした目でお父さんを見ました。

マサルが口を開きます。

「お父さん、猫ならば、埠頭に入れるよね。ミコちゃん達に子猫の居場所を探してもらって、犯人が子猫を連れて埠頭を出るところを捕まえたら」

「猫ちゃんが、そんなことできるのか?」

「この前も猫ちゃん達が協力して犯人の家を突き止めたんだよ」

「そうか。それならばできるな。それでは詳しい作戦を考えよう」

ミコの目が輝きました。

「ところで、この話、お母さんとエリには絶対内緒だぞ。ミコちゃんが化け猫だと分かったら、大喜びして近所に言いまくるからな」

マサルも同感でした。

「そうだね! あの二人のことだから、何をするか分かったもんじゃない」

 

 船が到着する日、知らせを聞いて駆け付けた猫達が埠頭に集まりました。

船から荷物が降ろされるたびに、猫達は

「にゃあ、にゃあ」

と鳴いて、子猫を呼びました。また、降りて来る船員の荷物にも呼びかけました。

「きょうは、やけに猫が多いな!」

船員たちは不思議がっています。

辺りはだんだん暗くなってきましたが、どこからも子猫の声や臭いはしません。

それでも猫達は、諦めませんでした。それは、夜になってから犯人が動き出すと、お父さんが予想していたからです。

 

 真っ暗になったころ、船の上からロープにつながった黒い箱が静かに下りて来ました。猫の目は暗いところでも良く見えるので、猫達はその箱に気付きました。そして、ミコに知らせに走ります。

闇に紛れて車が船に近づいて来ます。そして、男が車から降り、その箱を受け取りました。

駆け付けたミコが箱に近づいて、

「にゃ、にゃっ」

と、鳴きました。するとその箱の中から、

「にゃあ~」

と、か細い声が聞こえてきたのです。ミコはその声からクロアシネコの子供だと分かりました。

男は車に乗り込むと走り出しました。ミコは、テレパシーで、マサルとお父さんのところにいる化け猫仲間に車のナンバーを連絡をします。

それを聞いたお父さんは、無線で応援を頼みます。

「こちら、榊原巡査。国際密輸窃盗団がN埠頭にいます。至急応援をお願いします」

その間に、マサルが埠頭の門の前に柵を置きます。

犯人の車が近づいて来て、門の前で止まりました。男がドアを開けて出て来ます。

お父さんは車に近づくと、

「警察だ! おとなしくしろ!」

それを聞くと、犯人は車に跳び乗り急発進させ、柵を突き破って逃走しました。

その瞬間、ビッグサイズの化け猫が車の前に立ち塞ぎ止めると、別の化け猫が車の上に跳び乗りガラスを突き破って犯人の首根っこを押さえ付けます。

お父さんは、車のドアを開けると、化け猫に震え上がっている犯人を引きずり出しました。

車を追って来たミコは急いで車内に入り、箱を大切に抱えて出て来ました。

「子猫ちゃん、もう大丈夫よ。ママのところに帰れるからね」

ミコは、箱の穴から子猫達に話しかけました。

そこへ、警察のパトカーが到着したので、化け猫達は、急いで猫の姿に戻ります。

「榊原さん、こいつらが犯人ですね。お怪我はないですか? あっ、マサル君もいるじゃないか!」

「斉藤さん、この箱を開けてみて下さい。ワシントン条約対象の猫ちゃん達が入っています。逃げ出さないように気を付けて下さいね」

「そうか、分かった・・・・・。あれ変だな、この箱は二重になっているぞ・・・・・。下の箱に白い粉が入っている」

別の警察官が、粉を少し指に付けて舐めると大声をあげました。

「これは麻薬だ! こいつら麻薬も一緒に密輸しようとしていたんだな! 榊原さん、これはすごいお手柄ですよ!」

お父さんは、きょとんとしていました。マサルは、そんなお父さんを見て、

『お父さんは、麻薬の発見より、子猫を助けた方が嬉しいんだろうな』

と、ミコを抱っこしながら思いました。

 

 後日、お父さんは今回の件で表彰されることになりました。

その席上、本部長がお父さんに質問をしました。

「それにしても、君はこんな凄い情報をどこから入手したんだね?」

「はい、ネコからです」

「ネコ?」

「いや、ネ、コ、コ、コ、コネ・・・です」

「そうか、秘密の特別なコネがあるんだね」

「はい、秘密の特別なネコです」

「・・・・」

 

その晩、マサルの家では、今回も盛り上がったのでした。

 

 

  <それから十年後>

「ふたりとも急いで。これがキヨちゃんのお弁当。こっちがマサルのお弁当。マサルのは夕食の残りだからね」

「はい、分かってます。ところで、きのう、化け猫さん達が捕まえた犯人だけど、署に連行したら態度を変えて、白状せずに困っているんだ」

「じゃあ、後で皆で行って、脅かすね」

「頼みます。こっぴどくね」

「任せといて!」

「ねえ、ねえ、お母さん! お母さんは白くて可愛い猫ちゃんに化けられるよね。ぼくも、まねをして化けてみたんだ」

「ええっー キヨちゃん、化けれたの?!」

「できたよ! でも、凄く大きかったの」

「へー、お父さん見たいから、ちょっと、やってみて」

「いいよ。じゃあ、やるよ。ウ~ニャン!」

「わぁー、ホワイトタイガーだぁ!」

 

(おわり)

 

********************************

 

最後までお読み頂き有難う御座いました。

私、最近、少し体調が悪く、猫と一緒に一日中ゴロゴロと横になっております。

頭が冴えず、読み書きの集中力が落ちてPCが苦痛なので創作は一時中止です。

体調が良い時だけアメブロに訪問させて頂きます。

皆様とお会いする機会が減ってしまいますがお許し下さい。

                              中村 昭                         

 

 この作品を読まれた方は、私が小学校からガリ勉の子供だと思われるかもしれませんが、小さい時より運動選手をしていて勉強を全くしなかったので、小中学校の成績は正真正銘のビリでした。選手であることを学校や友達に話していなかったので、心無い先生やクラスメートに馬鹿にされたり蔑まれておりました(『ドジなエンジェル

』のビリク状態でした)。選手生命が行き詰って、中3の夏に勉強にスイッチが入り、それから挽回した次第です。

 なお、この経験を基に『カメムシとタガメ』を書きました。

 

***********************************

 

     【1】

 私の高校時代のことで、半世紀経った今でも時々思い出すことがある。

 私の通った高校は、男子校であった。

この学校は戦前は優秀な軍人を多く輩出した学校で、戦後二十年が過ぎた当時でも文武両道を旨として無骨なところが残っていた。その学帽が旧陸軍士官学校と同様の形だったり、全校生徒対象のフルマラソン大会や遠泳を行う臨海学校の催しがあったり、体育の授業では組体操、サッカー、ラグビー、バク転までもが必須で剣道も選択できたり、また音楽の授業ではオペラを歌わせたりと、かなり異色であった。

 

 当時は、学生運動が盛んな時期で、この学校にも革命戦士を名乗る生徒が数人いた。彼らは、この学校の方針が旧帝国主義だと批判し、ことある毎に学校側と対立していた。

 マラソン大会では『開催の目的は何だ!』という旗を掲げて、学校側に力ずくで撤去されると、『軍国主義的暴力反対』と叫んだりしていた。だが、ほとんどの生徒は無関心であった。寧ろ、

「そんなに嫌なら退学しろ」

という声の方が多く、彼らの行動が批判されるので、彼らは孤立していった。

 

 二年生になった時、私は選挙で学年委員に選出された。そして、生徒会の議長にも選出されて、クラブ予算の配分、生徒総会や秋の文化祭の準備に追われた。生徒総会で全校生徒合意のもと予算案が可決したところまでは順調だったのだが、文化祭の準備が始まったころから生徒会の雰囲気がおかしくなってきた。

 学年委員の中に革命戦士が二、三名いて、文化祭で学校を軍国主義から改革する為に討議の場を設けろとか、社会革命についてのコーナーを作り学外の専門家に講演させろ、という要求をしてきたのである。それは、文化祭の趣旨に合わないから呑めないと言っても要求を引っ込めない。散々揉めた挙げ句、最後は、委員会を開催して否決したのであるが、それでは収まらなかった。

 

 文化祭が盛況で終わり、ほっと一息ついた時に事件が起きた。

 数人の革命戦士が夜間警備員を人質にして学校図書館に立てこもり、学校側に改革への要求書を突き付けたのだ。マラソン大会や臨海学校を自由参加にすることや、体育授業の軍隊的指導の中止、果ては行事の会計公表まで要求する内容だった。

 彼らの中に、親しい友人がいた。普段から社会革命について話しており、私も議論が好きな方だったので、しばしば加わったことがあった。ただ、段々と過激な方に流れていくので危ないなと感じていた矢先に事件が起きた。

 その日の朝、登校すると、警察の車が数台、校門の前に止まっており中に入ることが出来ない。何が起きたのかと見ていると、数人の生徒が警察官に両脇を抑えられて護送車に乗せられた。その中に、あの友人もいた。彼は、まるで別人のような恐い様相である。最後に人質になった警備員が警官と話しながら出て来た。この警備員とは顔見知りであった。彼は司法試験浪人生で、夜間警備員は静かに勉強できて、お金も貰えるので両得と笑っていたお兄さんだ。

 学校の封鎖が解かれると、私は直ぐに生徒会室へ行って、執行委員メンバーが来るのを待った。全員が集まったところで協議が始まる。この時、私は既に議長職を退いていたので、後ろに控えていた。しかし、議論は空転して中々話が纏まらない。私は痺れを切らして発言した。

「先ず、学校や警察から話を聞いて状況を把握するのが先決だろう。次に、全校集会の開催を学校に要求し、そこで状況の説明をしたらどうか。状況によっては、生徒会から、学校側に今後の要望書を出しても良いと思うが。この案で良いのなら、学校側に伝えて、了解して貰おう」

私の案に皆が賛成して、動くことになった。そして、私が学校側との交渉の窓口になることに決まった。

 校長は、警察に行っていたので、教頭から状況を聞き取りし、全校集会の開催を許可してもらった。次に、警察に出向き生徒との面会をお願いしたが、警備員を縛って人質にしたことが刑法に違反するので『逮捕』となっていた。よって、保護者若しくは弁護士でないと面会は出来ないと言われた。警察署を出る時、険しい表情で警察署に入って行く友人の両親とすれ違った。

 

 学校に戻ると、既に全校集会が開催されていた。校庭に生徒が集まり、その前で生徒会の執行委員が話をしている。先生達は周りで心配そうに見ていた。私は、生徒会長から学校側に提出する要望書の原案書きを頼まれたので、教室に籠もって執筆し、それを渡した。要旨は、事を起した生徒は、やり方の問題はあるが、彼らなりの考えで学校を良くしようとしたので寛大な処置をお願いしたい。また、この混乱は生徒会が責任を持って鎮めるとの内容にした。

 私は、それが済むと、今後の処理は生徒会長と議長に任せた。

 その後、学校の警察への働き掛けもあり、逮捕が任意同行に変わり、事件を起こした生徒たちは、謹慎期間後に別の学校へ転校して行った。

 

 この事件を起こした友人は、超一流大学を卒業すると直ぐに会社を設立したが、それを四十歳半ばで子供に任せると、世界中を旅する生活を送っている。彼とは半世紀経った今でも親交があるが、ある時、社会主義系の国会議員にならなかったことを揶揄すると、

「まあ、そんなもんだよ」

と、空を見上げて笑った。

「そんなもんか」

私も笑った。

彼から目を逸らし空を見上げると、そこは学生時代であった。

 

     【2】

 柔道部の主将は、私と同じクラスの木村という二年生だった。

 彼は二年生で部の主将となり、学校のボス的存在で、力が強いことから、彼に逆らう者はいなかった。気の弱い先生などは、授業中にヤジを飛ばされても黙っているほどで、それで彼は有頂天になっていた。

 この学校では、定期試験の度に、成績上位者の名前が廊下に貼り出される。私は常連だったが、木村は入学直後に一回だけ名前が載って、その後は見たことがなかった。そんなこともあり、授業中、私が活発に授業に参加するのを、木村は苦々しく思っていたようだ。それで、木村は、日頃から何かと私に因縁を付けてきた。勿論、先生のいない所で、である。

「おまえ、勉強が出来ると思って、突っ張ってるんじゃねーぞ!」

とか、

「先生にゴマすりやがって!」

という具合で、すれ違いざまに、肩をぶつけてくるのは日常であった。何人かの生徒は、木村の真似をして、私に同じようなことをする者も出てきた。

 通常、これはいじめとなるが、私の場合、そうならなかった。私は、小学校のころ『女の子』というあだ名が付いたぐらい、表面的には弱々しい様相なのだが、きつい性格の持ち主なのである。

 私の我慢が限界に来て出来事が起こる。

授業中のことである。私が、先生に質問した時に、後ろの方の席からヤジが飛んで来た。

「かっこ付けて、突っ張ってるんじゃねーぞ」

それを聞いた私は立ち上がり、振り向くと、

「今、言ったのは誰だ!」

と叫んだ。勿論、木村だと分かっている。それまでざわ付いていた教室が一瞬にして静まり返った。

木村は、何も言わない。

私は、再度叫んだ。

「名を名乗れないなら、ヤジるな!」

「何だと、表へ出ろ!」

木村は顔を真っ赤にして私に向かって来た。

私は、怯まずに言い返えす、

「俺の、どこが突っ張っているんだ。みんなの前で話してみろ!」

「このやろう!」

木村は、私の胸ぐらを掴かむと、拳を振り上げた。

「殴りたけりゃ、殴ってみろ!」

「君たち、落ち着いて」

先生はうろたえて、同じ文句を連呼しているだけだ。実に情けない。

私と木村の睨み合いが続く。

私は自分でも不思議なくらい冷静で、腹の中で、

『さあ、早く殴れ! 殴ったら、この学校から追い出してやる!』

と考えていた。

「ちぇっ、馬鹿々々しい」

木村は、そう捨て台詞を言うと、戸を蹴っ飛ばして、教室から出て行った。

 

 その日の放課後、私は、帰り道で木村に襲われるのではないかと、内心はびくびくしていた。心配して、一緒に帰ろうと申し出てくれた友人もいたが、校外で襲われれば、警察沙汰になるので、奴を退学させるチャンスだから、彼を止められては困るのでと断ったが、本当のところは怖かった。

 しかし、何事も無く、家に帰ることができた。

 

 私は、家に帰ると、早速、母に今日ことを話したのだが、

心配するかと思ったら、

「あした、木村君に会ったら、おはようと声をかけなさい。そうすれば、解決するよ」

と笑っていた。

その時は、何て非情な女なんだと思ったが、後に凄い女性だと知った。

 

 だいぶ経ってから聞いた話だが、学校を飛び出した木村は、むしゃくしゃしていたが、柔道をしているだけあって、自制心の訓練は出来ていたそうだ。

 少し街で時間を潰したあと家に帰ると、まだ幼い妹と夕食の準備に取り掛かった。母親が亡くなり、父と妹の三人暮らしなのである。木村は、むしゃくしゃすることがあっても、この母親似の妹の顔を見ると、心がすがすがしくなるそうだ。

「お兄ちゃん、きょうは早かったね。稽古なかったの?」

「仁美の顔を見たくなって、稽古やめて帰ってきちゃった」

「あしたも、早く帰ってきて。優しいお兄ちゃん、大好き」

『優しいか・・・』

木村は、後味の悪い思いで朝を迎えたそうだ。

 

 次の日、私は、いつもより早く登校した。教室には、まだ誰も来ていない。落ち着かない気持ちで木村が来るのを待つ。怒っているだろうな、きょうは休むかな、色々と考えていると、木村もいつもより早く登校して来た。

教室内には、私と木村の二人だけだ。

半信半疑で母のアドバイスを実行してみる。唇が震えた。

「おはよう」

ちょっと間があって、

「おはよう」

と低い声が返ってきた。

見詰めると、木村の顔は穏やかである。

「きのうは、ごめん。言い過ぎた」

彼の照れくさそうなお茶目な表情を見て、私は、自分でも思ってもみなかった言葉が出てしまった。

木村は、子供のように、にこっと笑うと、

「おうっ!」

と訳の分からない声を出して席に着いた。

しばらくすると、何人かの級友が騒ぎながら入って来て、我々の姿を見ると会話が止まった。

すると、突然、木村が大声を出した。

「中村、ごめんな」

驚いている級友達を見て、我々は笑っていた。

 私は気が付いた。木村は、級友が入って来るのを待って謝った。彼は自分より度量が大きく、優しい奴だと。

 その後、三年生では、木村と私は別のクラスになったが、廊下ですれ違う時は、お互いににこりと笑う関係になった。

 

     【3】

 三年生になった私のクラスに、軽い適応障害の坂口という級友がいた。彼は感情の起伏が大きく、自分でそれを制御できないらしい。級友にちょっと気にくわないことを言われると叩いたり、物を投げたりする。初めの内は、級友達も笑っていたが、誰彼なしに本気で叩いたり、本気で黒板消しなどを投げ付けたりするので、その内に、彼をいじめるようになった。胸ぐらを掴んで壁に押し付けたり、後ろから蹴っ飛ばしたりである。

 私は、学年委員をしていたので、毎回止めに入り、状況を担任の先生に報告をしていたが、それが災いして、私の目の届かないところで彼をいじめる級友が出始めた。

 また、彼の母親が学校に乗り込んで来て、いじめる級友の名前を学校側に伝えると、いじめが陰湿化して、犯人が分からないような方法でいじめ出した。椅子の座布団の中に画鋲を仕込んだり、持ち物を隠したりして、彼が困るのを見て笑っていた。

 夏休みが終わって、二学期が始まると、いじめはエスカレートしていった。大学受験のプレッシャーから、ストレスの吐け口を彼へのいじめに向けたのだ。坂口を庇護している私もいじめられ始めた。

 

 そんなある日、いじめられている彼を級友達からかばっていると、木村がふらっと教室に入って来た。この教室の前を通りかかった時に、私の声が聞こえたらしい。

「中村、どうした?」

私は木村に懇願するように話した。

「坂口が、みんなにいじめられて困っているんだ。助けてくれないか」

木村と私が友人だと知らない級友達は、

「主将、中村と坂口をやっちまえ」

とはやし立てている。それを聞いた木村は、坂口の前に腰かけると、手を出した。

「握手だ!」

坂口は戸惑っていた。木村も自分をいじめるのでは無いかと疑っているのが分かった。

「坂口、大丈夫だよ。木村はいい奴だから」

坂口は私の顔を覗き込んだ。私がうなずくと、防御していた手を降ろし、恐るおそる木村の手を握った。

「よし、これで俺と坂口は親友だ! いじめた奴は、俺が許さん!」

と大声を張り上げると、あっけにとられる級友達を睨み付けた。

「中村には弱いんだ、俺」

木村は、また大声を出しながら教室から出て行った。

 その後、私と坂口はいじめられなくなった。

 

     【4】

 十一月に入ると、受験準備のため、学校への登校が任意となる。外部の受験対策ゼミナールに通う為である。

 坂口も登校しなかった。学校には行きたくない心境だったろう。

 

 新年が明けて一月中旬になると三年生の登校は無くなる。国公立の受験が終了し、卒業式が近くなったころ、学校から書類が送られて来た。それによると、卒業式の準備は全て学校が実施するとのことで、当日の式次第が同封されている。式当日に学校に来てくれとのことだ。たぶん、残っている革命戦士の行動を封じる為の策だったと思われる。

 

 式当日、学校へ行くと級友達が集まっていたが、そこに坂口の姿は無かった。

 担任の先生が手招きするので、そちらに行くと、坂口の両親が居た。どうやら、彼の代わりに卒業証書をもらいに来ているらしい。

母親から丁寧に頭を下げられた。

「坂口君、お元気ですか?」

「はい、お陰様で、〇〇大学に合格致しました」

母親は、周りの卒業生に聞こえるように大きな声を出していた。

父親は、私の肩に手を置くと、

「君のお陰で無事に卒業できた。息子は、君は生涯の友達だと言っているよ。今度、連絡するので、遊びに来て下さい」

と言った。

 しかし、その後、坂口からの連絡は無かった。きっと、高校時代の全てを忘れ去りたいのだと、私は思った。

それは、私の心からも去って行くことであった。

 

 私は、式後に木村を捜した。一言お礼を言いたかった。しかし、見付からない。

 

 最後に校庭を見ておこうと、向かう道には早桜が咲いている。

と、その先に、木村がひとりで校庭を見詰めている。

私が近づくと、いつもの、

「おうっ!」

で、迎えてくれた。

誰もいないグラウンドを二人で静かに眺める。

そこは、既に想い出と成していた。

「木村・・・」

と、言い掛けると、彼は私の肩を声が出なくなるほど強く揉み、いつかの微笑みを浮かべて背を向けると、片手を頭の上に上げながら去って行った。

 彼を追う様に春風が乾土を巻き上げながら桜の先に流れ、蟹股の歩みが渦と共に昇華した。

 

 あの時以来、会っていないが、彼も私のことを時々思い出してくれているような気がしてならない。

私の童話は『お説教ぽい』と言う方がおりまして・・・・

そこで、『お説教』を入れないストーリーで創作してみました。

薄っぺらいストーリーになってしまいましたが、宜しかったら読んでみて下さい。

なお、今回の話は、次回のお話の前座となります。

今回で懲りずに、次回も読んで頂けると嬉しいです。

 

***********************************

 

 ある町にトコニャという名の猫が住んでいました。

トコニャは人間の言葉が分かり、二本足でも歩けたので町の人気者でした。

 ある日、トコニャが街を散歩していると、大きな家の前に紙が貼られていました。

 

警備員急募! 条件⇒暗い所でも怖がらないこと】

 

トコニャは考えました。

『僕は暗い所でも目が見えるから怖くなんかない。警備員になって人の役に立とう』

 

その家の玄関に行き、ドアを叩くと、おじさんが出て来ました。

「おや、トコニャじゃないか。どうした」

トコニャは、紙を指さして言いました。

「にゃあ~、にゃあ~」

「そうか、トコニャが警備員になってくれるのか。猫なら暗くても大丈夫だから好都合だ」

おじさんは、たいへん喜んでトコニャに仕事を頼むことにしました。

「倉庫の夜の見回りを頼むよ。いいかい?」

「にゃあ~」

「そうか、ありがとう」

と言うと、おじさんは魚を持って来ました。

「これは前払いだよ。遠慮なく食べてくれ」

トコニャは魚を食べ始めました。

おじさんはトコニャが食べ終わるのを見定めると、にやりとしながら声を落して、

「ところで、その倉庫なんだけれども、ちょっと問題があって。夜中に、誰もいない部屋から足音が、コツ、コツと・・・・。ドアの隙間から中をのぞくと青白い光の中に白い影が・・・・」

「にゃあー!」

トコニャは思わず叫んでしまいました。

「おや! トコニャ、恐いのかい?」

「にゃあーあ」

「そうか、大丈夫か。よかった!」

おじさんは、そう勝手に決め付けています。

トコニャは迷いました。

『これは困ったな。暗い所は平気だけど、オバケは怖いな! でも、魚を食べてしまったから、今更やめますとは言えないし・・・』

「じゃあ、今晩から頼むよ。ああ、本当に良かった! 今まで、みんな一日でやめてしまって、困っていたんだ!」

「・・・・・」

おじさんは親指を立てるとドアをピシャリと閉めてしまいました。

トコニャは胃袋をさわりながら、

『だまされたような気もするけど・・・・、約束だから、みんなの為に、この仕事をしよう!』

そう思うと、なぜか力がわいてきます。

『そうだ明るい内に倉庫の中を見ておこう』

 

トコニャは倉庫に行くと、恐るおそる扉を開けました。中は真っ暗です。しかし、猫は瞳を大きくすれば昼間のように明るく見えます。

中には色々な商品が山のように積まれています。

「どれどれ、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、パソコンもある。電気屋さんの倉庫なんだ」

トコニャは、恐るおそる倉庫の奥へ歩いて行きました。

突き当りに部屋があります。

「これが、オバケが出る部屋だな!」

勇気を振り絞ってドアを開けました。

しかし、部屋の中には机と椅子があるだけです。

「なーんだ、大丈夫じゃないか!」

トコニャは安心しました。

「じゃあ、夜までここで一寝入りするか」

トコニャは、机の上に跳びのると、体を丸めて眠り始めました。

 

 夜になり、トコニャは、青白い光で目を覚ましました。

真っ白い服を着た女の人がトコニャをのぞき込んでいます。それは、口が耳まで裂けた恐ろしい顔です。

「にゃおーん、オバケだ!」

トコニャは、恐ろしさで叫び声を上げました。そして、ドアに向かって一目散に逃げ出しました。

すると、後ろから猫の声がします。

「猫が猫を怖がって、どうするのー」

トコニャは、止まって、振り向くと、そこには可愛い白猫が座っています。

「君はだれ?」

「化け猫」

「えっ、化け猫?」

「そう、化け猫。あなたは知らないの?」

「君が化け猫?! 化け猫って、凄く恐い姿だと思っていた」

「それは人間の姿の時。普段は普通の猫よ」

「そうなんだ! あー、驚いた。さっきは人間に化けていたんだね。すごく怖かった!」

「ありがと!」

「別に、ほめたつもりはないけど」

「人間だけでなく、猫まで怖がらせるなんて、私も捨てたもんじゃないな」

「あのねー、そういうの良くないよ! 君だね、毎晩、警備員さんを怖がらせていたのは」

「だって、おもしろいもん!」

「ここのおじさん、困っているよ」

「困っているのは、私の方なの!」

「えっ、どうして?」

「元々、ここには空き家があって、私が暮らしていたの。なのに、それを壊して、こんな倉庫を作っちゃうんだから! 大迷惑! おまけに、夜になると人間が入って来て、うるさくて寝られやしない。だから、怖がらせていたの。お化け屋敷にしちゃえば、人間がいなくなって、また、楽しく暮らせるでしょ」

「そうかー。でも、恐がらせても倉庫は無くならないと思うよ」

「そうかな~」

「それより、人間と仲良くした方がいいよ。今日から、僕がここの警備員になったから、もう大丈夫。静かに寝られるよ」

「ほんと! あー、よかった!」

「もう、人間に化けたりしないでね」

「オッケー」

トコニャは変な化け猫だと思いましたが、これで怖い思いをせずに済むと安心しました。

 

 夜が明けると、トコニャは、おじさんの家に行き、ドアを叩きました。

「トコニャ、どうだった。大丈夫だった?」

「にゃあ~」

「そうか。よかった、よかった。さすが猫だ! じゃあ、ごほうびをあげよう」

おじさんは、そういうと干し肉をたくさん持って来てくれました。

「これからも、よろしくたのむよ」

おじさんは、上機嫌です。

 

 トコニャは、ごほうびを持って倉庫に戻りました。

「干し肉をもらって来たよ。化け猫さん、いっしょに食べよう」

「ありがとう。でも化け猫と呼ぶのはやめて。人聞きが悪いから。私の名前はピコです」

「僕はトコニャです」

「トコニャ、早く干し肉をちょうだい」

「呼び捨てかよ」

「だって、化け猫の方が位が上でしょ」

「確かに。じゃあ、ピコ、食べようか」

「呼び捨てなの」

「失礼しました。ピコさん、食べましょう」

「そうね、頂くわ」

「はいっ、どうぞ」

「すごくおいしい! こんなの初めて」

「僕の分も残しておい・・・・」

ピコの目がきらりと光ります。

「いえ、好きなだけ食べて下さい」

でもトコニャは、にこにこして食べているピコを見てうれしくなりました。

「あー、おいしかった! 人間と仲良くするのって得ね」

「僕もそう思います、はいっ」

 

それから毎晩、二匹は一緒に倉庫の見回りをしました。

それは、とても幸せな時間でした。

 

 そんなある夜中、トコニャが見回りをしてると、窓ガラスが割れる音がしました。トコニャは、音の方へ静かに近づきます。

すると、割れたガラスの外から手が伸びて、窓の鍵を開けています。

そして、窓が開くと、人が入ってきました。

三人組です。

「あっ、泥棒だ!」

トコニャは、物陰に隠れました。

泥棒たちは、懐中電灯を点けて物色しています。そしてパソコンを見付けると三人はそれを抱えました。

トコニャは考えました。

『今、捕まえないと、警察官が来る前に逃げられてしまうな』

トコニャは、泥棒たちの前に跳び出して、毛を逆立てて叫びました。

「にゃあー!」

「なーんだ。猫か」

泥棒たちは、ナイフを持ってトコニャに迫って来ます。

トコニャは後ずさりします。

そこに、ピコが駆け付けて来ました。

「おや、おや。また猫が来たぞ」

その瞬間、ピコは人間の姿に化けました。

体は人間の倍も大きく、口は耳まで裂け、今にも人間を食べてしまいそうな姿です。

「わあっ、化け猫だー!」

ピコが泥棒の上に覆いかぶさると、泥棒たちは腰を抜かして動けなくなってしまいました。

その間に、トコニャが警報器のボタンを押します。サイレンが鳴り響きます。

 

 しばらくすると、警察官とおじさんが駆け付けて来ました。その瞬間、ピコは猫の姿に戻りました。

泥棒たちは、ピコを指さして、

「化け猫~、化け猫~」

と、震えながら叫んでいます。

「何をばかなことを言っているんだ。おまえたちを逮捕する!」

警察官は、泥棒たちを縛り上げました。

「トコニャ、よくやった。お手柄だ!」

泥棒は警察に連行されて行きました。

 

「トコニャ、ありがとう。助かった!」

おじさんがトコニャの頭をなぜようとすると、トコニャはピコのところに歩いて行きました。そして、おじさんに言いました。

「にゃーん~」

おじさんは、ピコを見て不思議そうな顔をしていましたが、さっきの泥棒たちの言葉を思い出しました。

「この猫は・・・・化け猫? 可愛い化け猫さんだなあ。ありがとう!」

「にゃあ~」

ピコは、しっぽを立てながら答えます。

 

 その後、トコニャとピコは警察から表彰され、おじさんが作ってくれた『化け猫警備会社』の社長と副社長になりました。

もちろん、社長はピコの方です。

 子供に野菜への親しみを持って貰おうと思い創作したのですが・・・・

良~く考えたら・・・ 最近は、果物屋さんや八百屋さんが凄く少なくなり、スーパーでは両方が同じ売り場で販売されているので、子供が状況を理解できない🙀

サザエさんの世界でないと理解できないストーリーになってしまいました。

これは失敗作ですね😿

でも、もし宜しかったら読んでみて下さい。

 

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 ある商店街に古い作りの八百屋がありました。

この店のおじさんは、すこぶる元気で、威勢が良く、いつも大声で呼び込みをしておりました。

「いらっしゃい! いらっしゃい! 今日はキュウリが安いよ! へい! いらっしゃい! いらっしゃい!」

てな具合で、道行く人に声をかけていました。

しかし、店の野菜たちは、それをうんざりした気持ちで見ていました。

 

キュウリが青ざめて言いました。

「まったく! あの言い方、品がないんだから! 私たちが安物に見えちゃうわ!」

 

それを聞いてキャベツも葉っぱを広げて言います。

「ほんとに! 大声を出しゃいいてもんじゃないのに! それに、あの古くて汚い前掛け、どうにかならない。私たちが恥ずかしくなっちゃうわ!」

 

すると、ニンジンは顔を赤くしながら、

「うちの前のくだもの屋さんのご主人はイケメンで、お店も新しくてオシャレだし、こちらとは大違い。そう思わない、トマトさん?」

と、トマトに問いかけてきました。

 

「そうですね。くだもの屋さんでは、みんな拭いてもらって、きれいに並んでいますね! 私たちときたら、そのまま、どさっと山積みですものね!」

トマトは、以前からくだもの屋さんを見ては、うらやましく思っておりました。

『私もあんな素敵なお店に並べてもらいたいな! トマトがくだものだったら良かったのに!』

トマトは、以前からの疑問が口を突いて出ました。

「それにしても、なぜ、野菜はくだものと差別されるのかしら?」

 

それに答えてレタスが汗をかきながら答えます。

「野菜は、くだもののように甘くないから人間に好かれないからじゃない。子供は野菜が嫌いだものね」

 

すると、今まで黙っていたカボチャが嬉しそうに、

「私は甘いから、子供にも好かれているよ」

 

「カボチャさん、ずるい! ひとりでいい子になっちゃて!」

と、ピーマンが少し怒って顔にしわを作って言うと、

「でも、ほんとだもん!」

と、カボチャが言い返しました。

それを聞いていたトマトはあきれて、

「ここで、仲間割れはよそうよ」

と、止めに入りました。

 

 そんなある日、おじさんがリンゴをたくさん仕入れてきて、店先に並べました。

「いらっしゃい! 今日は、リンゴが安いよ! 買った! 買った!」

 

トマトは思いました。

『へー、リンゴはくだものなのに、八百屋でも売るんだ!』

トマトはリンゴに声をかけてみました。

「リンゴさん、こんにちは。あなたたちは、どうしてここに来たの?」

すると、リンゴは、

「今日は市場にリンゴがたくさん入り、安かったので、八百屋のおじさんが私たちを仕入れてくれたの」

「そう、かわいそうに! くだもの屋さんでなく八百屋に来てしまって・・・・」

と、トマトが言いますと、

「なぜ、かわいそうなの? 私たち、そんなことを思ったことないわ」

と、リンゴが不思議そうに答えます。

「でも、あなたたちだって、向かいのくだもの屋さんのような、オシャレな店に行きたかったでしょ!」

「いいえ、私たちは、八百屋さんに来たのを喜んでいるのよ」

トマトは、すごく驚いて、

「どうして? 八百屋よりくだもの屋さんの方が素敵じゃない!」

と言いますと、リンゴは、

「私たちくだものは、おやつやデザートで食べるものだけど、野菜さんたちは人間に必要な栄養を持っているでしょ。私たちは野菜さんたちを尊敬しているの。だから、一緒に売ってもらえるのが嬉しいの」

 

トマトは、リンゴの言葉に驚きました。

『そうか! 野菜は人間にとって大切なものなんだ』

そして、胸の中のもやもやが晴れていきました。

また、周りの野菜たちも、今まで、そんな風に考えたことはありませんでした。

『私たちは、外見ばかりを気にして、文句ばかりを言っていたわ!』

そして、自分たちの今までの態度を恥ました。

 

 その後、野菜たちは八百屋で売られることを誇りに思い、おじさんの悪口を言うのをやめたのです。

 チロちゃんが、まだ外猫だった時に一緒に散歩したら、偶然、野ネズミに出会いました🐀

こっちは猫だし、当然、襲い掛かるのかと思い気や、

彼女は、

「にゃ~ん」

と、挨拶をして通り過ぎたのです😺

あっちは固まっていましたが、去って行く彼女の後ろ姿を立ち上がってず~と見ていました🐭

 

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 ある町の大きな米倉の中にクーニャというネコが住んでいました。

クーニャは、この米倉の米を食べるネズミを捕まえるために人間が飼っていたのです。

クーニャはとてもお利口で、多くのネズミを捕まえました。

それで人間たちはクーニャを可愛がり、ネズミを捕まえて来るたびに肉や魚のごちそうをくれたのです。

また、クーニャを見かけると、優しく声をかけたり、体をなぜてくれたりもしました。

クーニャもそんな人間たちが大好きでした。

『あの人たちのためにがんばらなくちゃ』

クーニャはいつもそう思い、一生懸命に働きました。

 

 ある夜のこと、米倉の中でネズミを探がしていると、すみの方でゴソゴソと音がしました。

気付かれないようにそっと近づくと、母ネズミと三匹の子ネズミが米袋を破ってお米を食べています。

『しめしめ四匹もいるぞ。一度に全部を捕まえることはできないから、まず足のおそい子ネズミたちから捕まえることにするか』

クーニャは子ネズミたちにねらいを付けると襲いかかりました。

その時、母ネズミがクーニャに気付きました。

母ネズミは、子どもを守るためにクーニャの横っ腹に体当たりをしたのです。

「みんな早く逃げて!」

子ネズミたちは、ちりじりになって逃げました。

クーニャは母ネズミに体当たりをされたので、一瞬たじろぎましたが、

『くそ、子ネズミは逃がしたが、この母ネズミは逃がさんぞ』

母ネズミは子どもたちが逃げ切るまで、その場でクーニャをにらみ付けています。

しかし、逃げ場を無くした母ネズミはガタガタと震えています。

こうなったら、もうクーニャの勝ちです。母ネズミは、あっと言う間にクーニャに捕まってしまいました。

母ネズミは涙を流しながら、

「私はどうなってもいいから、あの子たちは捕まえないで!」

と、クーニャに頼みました。

「だめだ、あの子たちもすぐに捕まえてやる!」

と、クーニャは言い放ちます。

 

クーニャは、意気揚々と母ネズミを人間のところに連れて行きました。

「クーニャ、よくやった。ほら、ごほうびだ」

クーニャはおいしい魚をもらいました。

「今日は遅いから、このネズミは、明日、始末しよう」

人間たちはそう言って、母ネズミを檻の中に入れて鍵をかけて出て行きました。

 

 その夜、クーニャは今まで聞いたことがない鳴き声で目がさめました。

恐るおそる声のする方に行ってみると、壁に開いた小さな穴から聞こえてきます。

「お母さん! お母さん!」

あの子ネズミたちが悲しくて泣いていたのです。

「いくら泣いてもお母さんは来ないぞ、うるさいやつだ!」」

と、言いかけた時、クーニャは自分が小さかった時に、人間から同じことを言われたのを思い出しました。

実は、クーニャは子どものころ、優しかったお母さんから引きはなされて、この米倉に連れて来こられたのです。

クーニャは悲しくて悲しくて、何日も泣いていたのです。

 

「お母さん!」

クーニャは絞り出すようにつぶやきました。

そして、自分の心が分から無くなりました。

『ぼくは、いったい何をしているのだろう。あの悲しい想いを、ぼくは、いま、この子ネズミたちにさせている』

クーニャは悩みました。

 

うなだれて、どのくらい時が過ぎたでしょうか・・・・

クーニャは、顔を上げると、猛然と母ネズミのところへ走って行きました。

 

「ネズミさん、ぼくが間違っていた。ここから出して逃がしてあげるね」

母ネズミは泣きはらした目でクーニャをにらみ付けます。

「そう言って、私をここから出して始末するのでしょ!」

「嘘じゃないよ。実は、ぼくも子どものころ、お母さんから引きはなされて、ここに連れてこられたんだ」

母ネズミの入った檻には鍵がかかっています。

「ネズミさん、鍵がどこにあるか知らない?」

母ネズミは少しの間迷っていましたが、恐るおそる机の引き出しを指さしました。

「分かった」

クーニャは机に跳びのり、引き出しを開けると、鍵を取って檻に戻り、扉を開けました。

「ネズミさん、ぼくに付いて来て」

母ネズミはクーニャを信じてよいか悩みましたが、クーニャの子供の時の話を思い出して心を決め、クーニャの後に付いて行きました。

人間は帰っていたので、無事に戻ることができました。

「ネズミさん、早く子どものところへ行ってあげて」

クーニャが優しく言いうと、母ネズミは何度もお礼を言って帰って行きました。

 

 次の日の朝、ネズミが逃げたことがわかり、人間たちは騒いでいました。

だれが悪いかで喧嘩をしているのです。

「おまえが鍵をかけ忘れたんだ!」

「おれは知らん。おまえこそ鍵をかけ忘れたんだ!」

クーニャはそんな人間たちをあきれて見ていました。

 

 その後、クーニャは、もうネズミを捕まえることをやめました。

するとどうでしょう、人間たちはクーニャに食べ物をくれないばかりか、

「この役立たず!」

と、クーニャをののしりました。時には、蹴ったり、叩いたりしました。

クーニャは彼らの本当の姿を知ったのです。

それは、とても悲しいことでした。

 

 何日も、クーニャは食べ物をもらえませんでした。

おなかを空かして動けずに横になっていると、あの母ネズミが心配してやって来ました。

「ネコさん、大丈夫ですか。私に何かできることはありませんか?」

「ネズミさん、ありがとう。でも、何もありません。ただ、悲しくて悲しくて死にそうです」

「何を言うのです、ネコさん。ここから出て、外に行けば良いことがたくさんありますよ」

「そと・・・?」

クーニャは、子どもの時に、この米倉に連れてこられて、今まで米倉の外に出たことが一度もありませんでした。だから、『そと』が何だか分かりません。

「そうだ! 私が壁に穴を開けて、ネコさんを外に出してあげます!」

そう言うと、母ネズミは壁をかじり始めました。

しばらくして、クーニャが通れるくらいの穴が開きました。

そこからは、まぶしい光が差し込んできます。

クーニャは光に誘われるように、よろけながら『そと』へ出ました。

「何だ! これはすごい!」

思わずクーニャは叫びました。

 

 

天井のない空、おいしい空気、川に水が流れ、近くの広場では人々が動物に食べ物をあげています。

 

 

クーニャは新しい世界へ進んで行きました。

 

童話を休んで小説の執筆に専念したのですが、三百枚過ぎたところで、停滞!

読み直してみたら、TVドラマの展開みたいになってて、自虐!

気分転換に猫エッセイを書きました。

時間が無駄になるストーリーだと思いますが、読んで頂ければ嬉しいです😹

 

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 私、錆柄ネコの『サビ』です。

失礼しちゃうのよね! 毛色が錆柄だからって、名前を『サビ』にするとは!

私だって、ちゃんとしたレディーなんですからね!

もう少し、マシな名前が考え付かなかった、飼い主のセンスに呆れています。

だから、彼が、

「サビちゃん」

とか、

「サビにゃん」

とか、時には

「サビ!」

と呼んでも、無視しています。女心の分からない彼は嫌いです。

とは、言うものの、怪我をした上に、お腹を減らしていた私を助けてくれた彼には、心から感謝しています。

でも、それと、これとは別です。名前は一生ものですからね!

これからも、返事はしないつもりです。

 

あっ、また呼んでいる。

「サビにゃん、どこにいるの? ごはんだよ」

 

ところで、皆さん、知っていますか? 錆柄ネコは、三毛猫の一種だってこと。

そうなんです! 良く見て下さい! 白、黒、茶色の細かい模様なんです! 

だから、三毛猫!

でも、あっちは、人間に好かれているけど、私は地味で汚い錆柄ということで、日本では余り好かれていません。でも、外国では『鼈甲(べっこう)猫』と、美しく呼ばれていて、幸運をもたらす猫として人気があるんです!

この柄、利点もあるんですよ。自然の中では目立たないので、隠れたり、獲物を捕まえるのに有利なんです。

とは言うものの、獲物を捕まえたことはありませんし、捕まえる気もありませんけどね。

ほらね! 今、彼が私を捜しているけど、目立たないから見付けられないでしょ。

変な名前を付けた罰に、毎回手こずらせてやっているんです。

あっ、やっと見付けたな!

「サビちゃん、こんな所にいたの! 返事してくれないから、お父さん、分からなかった」

私は人間の父親を持ったつもりは無いのですが、彼は、私の父親と主張するんです。全く困ってしまいます。

ほとんどの猫族は母系養育で父親は子育てに関与しないのです。だから私は父親を知りません。それを良い事に父親を名乗るとは、不届き者ですね。

「はい、ごはんでちゅよ」

あーあー、私は赤ちゃんではなく、列記としたレディーなのに、赤ちゃん言葉は気持ち悪いんです。

「にゃん!」

皆さん、知っていますか?

『にゃん』

と、短く言った時は、気分の悪い時や、怒った時なんです。

気分の良い時や、嬉しい時は、

『にゃあ~ん』

と、甘えた感じで語尾を伸ばすんです。

だから、私、今は気分が悪いんです!

でも、彼は、こんな基本的なことも理解していないんです。本当に困ってしまいます!

「お腹空いていないの?」

違います。そのキャットフード、不味いんです!

拾ってもらった時は、お腹が減っていたので、不味くても、ガツガツ食べましたが、今は違います。レディーは、上品な味が好きなんです! でも、彼は分かってくれないんです!

一度、自分で色々なキャットフードを食べ比べてみれば分かるんですけどね!

私達の味覚は、人間に近いんです。

理由は、家ネコの先祖はベンガル山猫で、その猫が人間の手で進化し、家の中で人間と一緒に暮らして来て、人間と同じ物を食べてきたからなんです。

だから、人間が美味しいと感じた物は、私達も美味しいと感じるんです。逆に、人間が不味いと感じた物は、私達も不味いと感じるんです。

 

「どうしたのかな? 最近、たくさん食べてくれないね」

彼の様な体形には成りたく無いので、ダイエットの為でもあります。跳び乗ったり、跳び降りたりする時に、お腹が出て体が重たいと、足に負担が掛かりますからね。

これ以上、彼に心配を掛けると、体の具合が悪いと勘違いされて、病院に連れて行かれて、血液検査なんかされると痛いから、少し食べますか。

『あ~、まずい!』

 

 そうそう、いつも行く病院なんですが、先生がガメツクて、特に悪くも無いのに、何やかんやと検査をして、最後にビタミン剤を薬と称して売りつけるんです。私が人間の言葉が分からないと思っているんです。先生と奥さんの会話、全部聞こえていますよ! 安月給の彼が可哀そうなので、不調の時でも、我慢して明るく彼に接しています。但し、私なりの明るさですけれどもね。

 

 私、彼が何の仕事をしているのか知りません。話してくれないんです。彼、仕事を家庭に持ち込まないタイプみたいです。

私としては、話をしてもらいたいんですが・・・・。

愚痴を聞くのは嫌ですが、悩みの相談ならば、乗ってあげたいと思っています。

但し、舐めてあげることぐらいしかできませんが。

 この前、凄く落ち込んでいたので、舐めてあげたら凄く喜んでくれました。

でも、あとで、彼女に振られたと知って、舐めなければ良かったと後悔しました。

これからは、理由を確認してから舐めることにします。

 その彼女、性悪女で、彼の前では、

「私、動物大好き!」

とか言って、私を撫ぜるんですが、彼が居なくなると豹変して、私を投げ飛ばすんです。それで、頭に来て、一発引っかいてやり、部屋中を逃げ回りました。

その内に彼が戻って来て、事情を彼女から聞いていました。彼女は、

「こんな猫、捨てて!」

と、叫んでいましたが、彼は私を怒りませんでした。私のおびえた目と、彼女の怒りの目を見比べていました。私は、ワザと凄くおびえている振りをしたんですけどね!

彼は、彼女よりも私を選んでくれたんです。凄く嬉しかった!

たぶん、そんなこともあって、彼女に振られたみたいです。でも、彼にとっては、あんな性悪女と別れて良かったんです。これからも、私が彼の彼女を審査しようと思っています。

 

 そう言えば、この前、彼が初めてチュールを買ってくれました。たぶん、彼女と別れて、お金に余裕ができたんだと思います。

凄く美味しかった!

テレビの中で、仲間達が興奮している理由が分かりました! 四本入りを買ったみたいなので、あと三本舐めれます。でも、それ以上は要求しません。私は、彼が傍に居てくれるだけで十分なんです!

 

 彼が勤めに行っている間、私はひとりなんです。

彼は優しいので、私が寂しくないようにと、テレビを点けっ放しにしてくれます。

でも、私、テレビが嫌いなんです。うるさくて眠れません! 

私達は一日十六時間ほど寝むるんです。彼は、朝七時に出て行って、夜の八時に帰って来ます。その間は十三時間なので、ずーと寝ていたいんです。

そして、彼が帰って来たら、うんと甘えます! 

それで、テレビの消し方を覚えました。黒い棒の上にある赤いボタンを押すんです。電気代も助かります。でも、折角の彼の好意を無にしてはいけないので、彼が帰って来る足音が聞こえたら、また、赤いボタンを押してテレビを点けておきます。

私達の耳は、人間の十倍以上感度がいいんです。そして、音色も判別できるんです。だから、彼の足音は直ぐに分かります。

そして、玄関まで行って、お出迎えをします。

「サビちゃん、ズーと玄関で待っててくれたの!」

と、彼は凄く喜んでくれますが、本当は、ズーとソファーの上で寝ていました。

ちょっと、後ろめたい気もしますが、彼が喜んでくれるので、

『ヨシ!』

としています。

 きっと彼は疲れているのだと思いますが、休むこともせずに私の世話をしてくれます。水を換えてくれて、ごはんの準備をしてくれます。

『あっ、キャットフードが変わった!』

私が沢山食べないので、別の物を買ってくれたみたいです。そういう彼の優しさに私はメロメロです。でも、付け上がるといけないので、そこそこな仕草をしておきます。後でちょっとだけ舐めてあげれば十分でしょう。

 

 私の食事が終わるのを待って、彼はコンビニの袋からお弁当を出して食べ始めます。本当は一緒に食べたいのですが、彼は私が食べ終わるまで食べません。それが彼の優しさだと思います。でも、毎日、お弁当では体に悪いと思うのですが、私は料理が出来ないタイプなので申し訳ないです。彼を取られるのは嫌ですが、彼の為には、料理が上手く、猫好きな良い人が早く見付かれば良いと思っています。

 

 彼、食事が終わるとシャワーを浴びるのですが、レディーの前で平気で裸になるんです。本当に困ります! テレビを視る振りをして背を向けていますが、時々、

「サビちゃんもシャワーで綺麗になろうか」

などと抜かします。猫は体を洗わなくも大丈夫なんです。人間と違って、猫の皮膚には汗腺が有りませんから汚れないし、臭くもなりません。

そんなことより、水、だっ嫌いなんです! だから、いつも叫びながら逃げ回ります。この時ばかりは、彼を睨み付けます。

「そんなに嫌いならしょうが無いね」

と、あっさりと諦めてくれるところも好きです。

 

 シャワーから出ると、パソコンの前に座り、ヘッドフォンを付けると、何やらカチャカチャ始めます。私は彼の大きな膝の上に寝そべって至福の時を過ごすのです。時々、彼の手が私を優しく撫ぜてくれます。

『あ~、気持ちいい!』

長い時もあり、短い時もあります。このまま永遠に時が過ぎたらどんなに幸せかとウトウトするのですが、時として彼の音痴な歌声が流れて来て、現実に引き戻されます。

彼、凄い音痴なんです! 

でも、ヘッドフォンを付けている為か、自分で気付か無いようです。一度、自分の歌声を録音すると分かるんですがね! 

御近所に聞かれると恥ずかしいので、私も一緒に歌って彼の声を消すことにしています。彼は誤解して喜んでくれていますが、この前、その御近所が、私の声がうるさいと文句を言って来ました。もし、私が歌わなかったら、もっと酷いことになることが分からないんです。彼、ひたすら謝っていましたが、私を怒りませんでした。

でも、それから、彼は歌うのを止めました。だから、私も歌う必要が無くなりました。それはそれで良かったと思います。

 

 寝る時は、いつも一緒です。彼の脇の下に顔を埋めると優しく撫ぜてくれます。私は昼間寝ているので余り眠く無いのですが、静かに彼を見詰めていると、何時しか眠りに落ちてしまいます。

但し、彼は寝相が悪いので要注意なんです。危険を察したら、素早く離れなければなりません。一晩に何回もあるので熟睡は出来ません。それで、昼間も良く眠れます。

 

 きのう、彼、帰りが遅く、熟睡していました。私も彼の帰りを待っていたので睡眠不足で熟睡していました。

『あれ! 朝なのに、彼、起きない!』

目覚まし時計は鳴っていません。

『休みなのかな・・・・ でも、きのう、そんなそぶりはなかったし・・・・ 起こそうかな・・・・ でも、休みだったら申し訳ないし・・・・』

時計を見に行ったら、

『針が止まっている! たいへん!』

「にゃあ! にゃあ! にゃあ! にゃあ! にゃあ!」

彼、中々起きない! こうなったら最後の手段! 猫腹窒息固め!

「にゃん!」

「・・・・ぶはっ!」

「にゃん! にゃん!」

「サビちゃん、もう少し寝かせてよ・・・・あれっ?! 明るいな! 何時かな?」

「にゃん!」

「大変だ! 時計が止まっている! 何時だろう?! あっ! 七時過ぎてる! まずい!」

彼は飛び起きると、出かける準備を始めました。

「サビちゃんのごはんとお水、猫砂を綺麗にしてと・・・・」

『私のことはいいから、自分のごはんを食べて!』

「起こしてくれてありがとね。じゃあ、行って来るね。ゴメンね、今日は遊んであげられなくて」

いつも彼は出かける前に遊んでくれるんです。彼は自分のごはんを食べずに、私のごはんを用意してくれました。そんな優しさに、私はうっとりです。

「じゃあ、行ってきます。サビちゃん、いい子でいてね!」

慌ただしく、彼は出掛けました。

彼を見送った時、何となく胸騒ぎがしたんです。

 

 不安な一日が過ぎていきました。

彼は、遅くなっても帰って来ません。

『どうしたんだろう? こんなに遅くなったこと無いのに。それにしても、お腹が空いたな!』

玄関に行ったり、部屋の中を歩き回ったり、ソファーの上に上ったり、爪を研いだり、また玄関に行ったり。

『お腹が空いてイライラするな! もう、遅いんだから・・・・』

少しでも彼に近づきたいので玄関の前で待つことにしました。

 

 時間が長く過ぎていきます。

『どうしたんだろう、彼に何かあったのかしら? こんなに心配させて、帰って来たら怒ってやろう!』

 

 時を刻む音が不安を重ね、その重みが心を潰します。

やがて、窓から差し込む光が心を白く染めていきます。

『やはり、彼に何かあったんだわ!』

もう、空腹のことなど気にならなくなりました。

『事故にあったのかしら? 朝、急いで出て行ったから。少しおっちょこちょいなところがあるから。あーあ、どうしよう?! 痛い思いをしていないかしら・・・・ まさか・・・・ 猫神様、どうか彼を助けて下さい。彼は私の命の恩人です。どうか、どうか、お願いします!』

 

 次の日も、次の日も、彼は帰ってきません。

食べ物は、最初の夜に無くなっています。

私は、玄関の前にうずくまると、覚悟を決めました。

もし彼が死んでいるのなら、自分はこのまま餓死して彼の傍へ行きます。子供のころ、お母さんから餓死は辛くないと教わりました。初めはお腹がすごく空くけれど数日後にはお腹が空かなくなり、寒いや熱い感覚もなくなり、穏やかに死ぬことが出来ると。神様は私達を哀れんでそうしてくれていると教わりました。だから、私は餓死することに恐怖はありません。むしろ、彼の傍に行けるのが幸せ。

『向こうに行ったら、人間になって、彼のお嫁さんに絶対なる!』

 

 何日経ったか、今が何時かも分かりません。外に誰か来ました。でも、彼の足音では無いです。立ち上がろうとしましたが、足がふら付いて倒れてしまいます。

ドアが開いて女の人が入って来ました。

初めて見る人です。

「だいじょうぶ? サビちゃん」

『なぜ、私の名前を知っているのかしら?』

「はい、これを食べて!」

私の前にキャットフードと水が置かれました。

『ほって置いて下さい。私は彼のところに行きます』

彼女は電話を掛けています。

そして、私の耳元に電話を持って来ました。

彼の声がします。

「サビちゃん、お父さんだよ。ゴメンね。事故に遭っちゃった。帰れないから、そのおねえさんの言うこと聞いて、ごはんを食べてね」

「にゃ~ん、にゃ~ん」

彼女は彼と何か話した後、台所へ行き、戻って来ると優しく私を膝の上に抱き上げてくれました。そして、スポイトで口の中に何かを入れてくれます。

『あっ、この前、彼がくれたチュールだ』

少し嘗めてみる。

「わあっ、良かった! 食べてくれた」

彼女は電話で彼と話し始めました。私も彼と話しをしたかったのですが、彼が生きていてくれたので、それで十分です。

『猫神様、ありがとう御座いました!』

 

 しばらくして、彼女は水でふやかしたキャットフードを口に入れてくれました。

『優しいおねえさん』

それから、彼女は、一日中、私を介抱してくれたんです。

 

その後、彼女は毎日来てくれました。

『この人となら彼と三人で暮らしても良いな!』

そんなことを思い始めました。

 

 何日かして、玄関に懐かしい足音がします。

『彼だ!』 

おねえさんの足音もします。

玄関の前に跳んで行き、開くのを今か今かと待ちます。

『お帰りなさい!』

「にゃ~ん」

「サビちゃん!」

抱っこしてくれたので、彼の顔を舐めたのですが、凄く臭い!

『何日も風呂に入っていないな! でも好き!』

「にゃ~ん」

 

彼は部屋に入り、痛そうに床に腰を下ろしました。

おねえさんが彼の隣に座ります。

私は彼と彼女の間に割って入って座ると、彼女の顔を見て言いました。

『彼は私のものですからね!』

「にゃん!」

『猫は頭が悪くない!』の続編です。

御近所の元保護犬のランちゃんをモデルにして創作しました。

とっても可愛い子です!

 

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 ある日、パーニャとリッキーが立ち話をしていると、ショルティーのランちゃん通り掛かりました。

「ランちゃん、こんにちは」

「パーニャさん、リッキーさん、こんにちは。いい天気ですね」

「そうですね、お出かけですか?」

「はい、買い物を頼まれて、近くのお店に行くところです」

パーニャは驚いて聞きました。

「どうやって、買うのですか? 人間は私達の言葉が分からないですよね」

「そう、だから買う物を書いた紙が首輪に付いています」

「そうか! それなら大丈夫ですね。でも、凄いですね。私は買い物を頼まれたことなんか無いな~」

「きっと、人間は猫さんは買い物ができないと思っているのですよ」

それを聞いたリッキーが、

「ぼくも買い物を頼まれたことが無いけど、きっとできないと思っているんだね」

「かもしれませんね」

と言ってランちゃんは微笑みました。

リッキーは、以前から気になっていたことを聞いてみることにしました。

「ところで、ランちゃんは凄くスマートだね。何か秘訣でもあるの?」

するとランちゃんは口を少しとんがらさせて、

「実は、私、少し不満があって・・・・・ 私の御主人、不味いダイエット食ばかり出すの! それもお腹一杯食べれないの! だからリッキーさんが羨ましいわ」

「え~、ぼくの体形が羨ましいの!」

「そうじゃなくて、美味しい物をお腹一杯食べれること」

「やっぱりな・・・・」

リッキーは首を落として落ち込んでしまいました。大好きなランちゃんに体形のことを言われたのがショックだったのです。

それを見たランちゃんは慌てて、

「でも、リッキーさんは『お手』ができるんでしょ。実は、私はできないの」

と、急いで話を変えました。

それを聞いたパーニャは驚いて聞きます。

「えっ、ランちゃん、『お手』できないの。犬さんはみんなできると思っていた」

「私は特別かな」

「お買い物ができるんだから、頭が悪いはずはないよね?!」

「パーニャ、失礼なことは言わないの!」

リッキーがたしなめると、

「ごめんなさい。いつも、頭が悪いと言われているので、つい・・・・」

「いいの、気にしないで。私、子供のころ、前の御主人が、『お手』をしないと凄く怒ったの。それで『お手』と言う言葉を聞くと怖くなって体が固まってしまうの」

それを聞いてリッキーは凄く腹が立ちました。

「酷いね! 許せない!」

「私、怖くて怖くて、いつも部屋の隅で小さくなったいたの。そしたら捨てられちゃった」

「え~、酷い!」

「でも、それが良かったの。今の御主人のところに来て幸せになれたから」

「よかったね! ランちゃんがそんな思いをしたなんて知らなかった。ぼくは『お手』の御褒美で太ってしまっているけど、それもいいかな!」

それを聞いたパーニャは、

「それと、これとは、話しが違うと思うけど・・・・ ところで、ランちゃん、今も『お手』ができないの?」

「そう、できないの。でも、今の御主人は、私が怖がるのを見て、無理にさせたりしないわ」

「それで、病院に連れて行かれて痛い検査をされたりしないの?」

リッキーが心配そうに聞きました。

「そんなことないわ。でも、定期的に病院で健康診断をして貰っているわ」

「ぼくと同じだ! やっぱり、凄く愛してくれているんだ!」

みんなは顔を見合わせて微笑みました。

 

 リッキーはウキウキしてランちゃんの買い物に付いて行きました。

そのふたりの後ろ姿を見送りながら、

『犬は大変なんだな。猫は一日中寝っ転がって、人が来たら喉を鳴らすだけでよいから、猫ってやっぱり得だな!』

と、パーニャは思うのでした。