俺は何度もデカイ声で呼んだ

ポリーース!! ヨーー!! 
ポリーーース!!! エクスキューズミーー!!
おーーいっ!!

閉ざされた鉄の扉の前をポリスが行ったり来たり、捕まった奴が前を通ったり。
叫んでも、目の前を通るポリスを呼び止めようとも無視だ。
お前は後回しだ。と言わんばかりに忙しそうに足早に皆通り過ぎて行く。

廊下の途中、普通の部屋と部屋の間にいきなり鉄格子。みたいな感じでこの牢屋は剥き出しになってる。

鉄の扉以外何もない四角い部屋。汚いし匂いがキツイ。
うるさいヤツやら危なそうなジャマイカン7人と一緒だ。

この状況で、最悪の事態。。。


腹痛

まだ余波だからいいが、この牢屋の中にはトイレがない。
しかしさすがに大だし、トイレくらいは行かせてくれるだろう。
もし漏らしてしまったら俺もこの壁に名前を刻み込んでやる!
いやいや、そんなの勘弁だ。
そんなリアル汚名はいらない。

この部屋の圧迫感に気が狂いそうになってたから、一瞬だけかもしれないがここから出れるかも。
そう思ったら余計にトイレに行きたくてしょうがない。

トイレにさえ行ければ、まあ当たり前だが洋式だろう。
洋式便所に座り込み、まさに考える人の姿勢で、冷静に今の状況を考える事が出来る。5〜10分時間も潰せる。一度頭の中を整理する必要がある。
ここに居ちゃあいけない。
一瞬でもここから出るには腹痛というピンチももはやチャンスかもしれない。

ヘーーイ!!!ヘルプミー!!
うおーー!
ちょっと来てくれー!!



カリブの海賊とかで見た事あるだろう?
両手で握った2本の鉄格子の間から顔を覗かせ、まさに囚人という姿勢で叫んだ

ヨーー!!


やっとの事で一人立ち止まった。
モロにジャマイカン体型のずんぐりむっくり、小さくて太ったおばちゃんポリス。
ヘアースタイルもこれまたジャマイカン特有のパリッパリに固められたベリーベリーショート。
そんなディズニーでも出て来そうな子豚ちゃんっぽいおばちゃんポリスに、トイレへ行きたい事を伝えた。
(この後何度か出てくるのでブーちゃんポリスと名付ける)


すると、
『わかったからちょっと待ってろ。』
そう言ってまたすぐに去って行ってしまった。


すぐ戻ってくるのを待ちながらジャマイカンと話して紛らわす。

こーやって放っておかれたまま 間に合わなかった時だったり、出所する時に嫌がらせ、憂さ晴らしに壁にウンコをなすりつけて行くらしいこの部屋は、マジで耐え難いほどに臭いし汚い。
そして、ビリビリの汚い新聞紙が引かれただけの床に長時間座ってたらケツも痛い。
かなり限界だ。
とりあえず早く一度ここから出してトイレへ行かせてくれ。。


しかし待っても待っても来ない。
俺の腹痛も2回ほど波は越えたところだが、そろそろデカイ本波が来てもおかしくない。

これはもう待っててもダメだ。
チャンスは自分で掴み取る。という想いでまた鉄格子をガタガタ揺らしながら叫び呼んだ。
日本語でも。

おーい 早くしろ馬鹿野郎!
トイレくらい行かせろ!
ババア!こらぁーー!


すると、横に居た悪そうなうるさい少年が立ち上がった。

俺に任せろ。
こーやるんだよ!

と言いながらどや顔で、鉄の扉をガッシャンガッシャン蹴り出した。
何度も。何度も。

ヘルプ!! ヨーヘルプ!!!
ガッシャン!ガッシャン!!
ヨーー!!


俺ですらしつこいなって思う程うるさい。

すると鬼の形相で怒りまくったブーちゃんポリスが小走りでテクテクと扉の前にやって来た。

『待てって言ってるだろ!ちょっとくらい待てないのか?
そんなにトイレ行きたいか!?
そんなに行きたいなら奥の部屋行くか!?
いつでも行けるぞ?
行きたいのか?』
まくしたてるように言い放った。

すると、扉を蹴って看守を呼んでくれた悪そうな少年が
ノーノー!!それは勘弁してやってくれ!
ただトイレだけ行きたいらしいんだ!

軽い口論になった。

とにかくトイレに行きたくて何も余裕がなかったのと、言ってる事の意味がその瞬間に大して理解出来てなかった俺は、また良くないタイミングでブーちゃんポリスに再度お願いした。



トイレ行かせてくれ。頼む。





逆鱗に触れたようだった。

『じゃあお前ら日本人は ”奥のジェイル” 行け!!
そこならトイレ付いてるから。
覚悟しなさい!!』


そしてまた小走りでテクテクといなくなった。
その時はあまり理解もしてない上に もよおして焦っていたが、ブーちゃんポリスが去ってすぐ、ワタルとその悪そうなうるさい少年と話してマズイ状況をハッキリと理解した。



”奥のジェイル”


それがマズイのだ。
どうやら凶悪犯や重罪者の判決待ちの奴らがいる、ここブラックリバー警察署の【本当のジェイル】の事だった。



今俺たちが居るのは、距離的にも時間的にも警察署内の1番手前の牢屋になる。
どうりで、、こんな手前にむき出しであるのが変だとは思ったが、本当のJailはもっと奥にあって、ここはちょっとした時に使われたり、出入りする日が近いヤツが一時的に入る簡易的かつ、まだマシな牢屋らしい。
だからトイレがないのか。




ジャラッ、ジャラッ!!
カギの束を鳴らしながらブーちゃんポリスが扉の前に戻って来た。



『コミン ジャパニーズ!!』

そう言ってカギを開けると、俺とワタルはこの牢屋から出され、更に奥へと。
【本当のJail】へと連れて行かれた。