『胸のナイフを拔いてくれ』 | あとりえ憧憬

あとりえ憧憬

北のまちから発信します。
出逢いは偶然。偶然は必然。
「いきます! 花田聖子です」

カロスラジオロータリー「イキマス!花田聖子です」2011.5.11
本日の選曲
 
山下達郎
1、KISSからはじまるミステリー   作詞.松本隆
2、忘れないで             作詞.竹内まりや
7、Forever mime
8、僕の中の少年
ラストBGM 星に願いを
  
憂歌団
3、想い出の街  
4、かぞえきれない雨
5、苦労の缶詰
6、胸が痛い
・ザ・エン歌 とっておきのライヴバージョンも選曲したのですが、スタジオのデッキとの相性悪く断念。


私のすきなたいせつな、お料理の本
  
『料理歳時記』 辰巳浜子著から
「明石鯛」
敗戦、戦後、旅、春、明石鯛。
長かった戦争の苦しみ、悲しみ、不安、そんな諸々の迷いのなかからハタとわれに返った気付薬。
私のいきているかぎり春がくると、天を仰ぎ地に伏して無心に感謝を捧げずにおられない深い感銘の思い出に連なる言葉です。
焼野の原と化した東京、バラックの堀立て小屋、落着きを失って目ばかりギョロギョロ光らせる群衆。
無気力な人のかたまり、横行する闇屋、地面を見回して棒の先のくぎに素早く突きさすモクひろい。
恥も外聞も忘れて、ただその日一日を生きるのが精いっぱいの人々。
「日本はどうなるのだろう」考えあぐんだ私にとって、戦禍を蒙らなかった松阪、伊賀上野、中川を経て伊勢路、大和路の旅で、微動だもせぬ、静かさと美しさが、しだいにたくましさを感じさせ、それは不思議な安堵と落着きをひきもどしてくれました。・・・・・
「ああ、日本はこんなにも美しくちゃんとあったではないか。・・・」
万感胸にせまって、泪で景色はかすむばかりでした。
先の見通しなど皆目わからぬ不安に常におののきつづけていた心は、なんのためらうこともなく、希望を失わず、元のままの日本人に立ち返ればいいのだ、あの丘のように。うららかな心をとりもどせばいいのだと・・・・・。
戦後初めての旅で、ハタとわが心を取りもどせた動機となったのです。
その感激をのせたまま大阪に着き、宿の夕餉のお膳にはこれまた久しぶりの明石鯛のお作りとご対面でした。湯引かれた桃色の鯛の皮ちぢれて、透き通ったお作りは思いなしかふるえているかのように見えました。うどのつまに芽じそ、花おち胡瓜が露をふくんだ風情のうれしさに思わず赤絵の鉢を手にうけて、幾年ぶりかで日本人に返った喜びにひたりました。姑にも娘にも、息子にも、妹たちにも、食べさせてやりたい人たちの顔が次々に浮かび上がって、申しわけないやら有難いやら、ひと切れひと切れを大切にいただきました。
あふれるような食べものに埋まっている今日もなお、あの時の思いは物の有難さ、もったいなさを、しっかりと全身で受け止めたい尊い教えとなって、生活のなかに生かしつづけております。・・・・

本日、番組にてお話させていただきました。