肌が弱い私は、冬になるといつも、手指にたくさんのあかぎれをつくった。

 小学校のころは、掃除の時間にぞうきんを洗うのが本当につらかった。

 

 絞るときに力を入れると、傷が開く。水がひとつひとつの傷に沁みるだけじゃなく、

 バケツの中の汚れた水から、傷口にばい菌が入らないか心配にもなった。

 小さな糸くずやごみが傷口に入ったときは悲惨だった。

 でも、掃除の時間に手袋をつけるわけにも、箒で床ばかり掃いているわけにも、いかなかった。

 

 その日も小さな決心をして、黒く濁った水に浮かぶぞうきんをつまみあげるところだった。

 そのとき、いきなり右手をつかまれた。あたたかい手だった。

 仲良く話したこともない子だったけれど、私の右手を両手ではさんだまま

 手の甲を少しなでて、「かわいそうに」とつぶやいた。

 すぐに私のぞうきんを代わりに絞って、渡してくれた。




 中学校にあがって、その子が学年中から非難を浴びたことがあった。

 生徒会の委員なのに帰り道にジュースを買い飲みした、ということだった。

 別のクラスだったけれど、廊下の真ん中にある階段を超えて、その話は伝わった。

 とっさに、小学校でのことが思い浮かんだ。あの子の優しい手。

 「たいしたことないじゃない」その一言が言えなかった。

 そう、あの優しさをもっているんだもの、ジュースの買い飲みなんて、たいしたことじゃない。


 それなのに、救われたのに、救うことができなかった。

 

 ありがとう、ごめんね、と今でも思う。