小説指原莉乃リライト SP章 「まいやんのピンヒール」〜㊂話もうルブタンなんて一生履かない | 散り急ぐ桜の花びらたち~The story of AKB.Keyaki.Nogizaka

散り急ぐ桜の花びらたち~The story of AKB.Keyaki.Nogizaka

小説家を目指しています。ゆいぱる推し 京都地元大好き 鴨川のせせらぎと清水寺の鐘の音の聞こえるところに住んでいます。


こんにちわマナです

佐竹のん乃というアイドルさんがこの春にまた地下アイドルから再出発するそうです。
パパ活のスキャンダルが報じられプロデューサーの指原莉乃もネット上で謝罪し結局事実上の解雇となって辞めていった元=LOVEのアイドルと言えばご存知の方も多いでしょうか

アイドルを辞めてもアイドルをやるということ自体レアでその例は極めて少ない
それもスキャンダルでグループに追われる様に辞めた人が再びアイドルの道を目指す何て前代未聞。
当時、いち早く自らのTwitteで事の詳細を報告して謝罪しファンに理解を求めた指原P。もしあの迅速な対応がなくだらだらと有耶無耶なまま引きずっていたら
果たして今のイコラブの人気はあったかどうか。
今振り返ればメジャーグループになれるかどうかの神様が与えた試練だったのかも知れない。

佐竹のん乃さん
マイナーグループでの生活は苦しくてみんながギリギリの収入で日々を生きてるのは百も承知。
今回のお話で主役とも言える村重杏奈ちゃんもことあるごとに博多という地方で活動するアイドルの難しさと日々の暮らしの生きづらさを吐露してる。
それでもそれをみんなで笑い飛ばし涙しながら真っ当な形で乗り越えたから今の無双出来てる「一番売れてる」村重ちゃんがある。
ちゃんとアイドルやってたからこそ、さしこを始め周りは手を差し伸べエールも送ってくれる。

一人では生きていけないアイドル。
ゲームみたいに安易にリセットして全てを無かったようなものとしてシラっとまた世に出てきた佐竹のん乃さん。
再びアイドルになることで改めて注目されるのは貴女ではなくて
パパ活アイドルを出してしまった=LOVEというアイドルグループ
2度までもグループやメンバを辱めることになることをこの人は自覚してるんだろうか。



 

 




𓂃𓈒𓂂𓏲☆.・𓂃𓈒𓂂𓏲☆.・



ということで今回の前説はここまで
そんな村重ちゃんが大いに吠える第三話、ご覧くださいませ
 



             𓂃𓈒𓂂𓏲☆.・𓂃𓈒𓂂𓏲☆.・





小説指原莉乃SP リライト~ もうルブタンなんて一生履かない
                 ~乃木坂が乃木坂である為に









㊀話と㊁話はこちらから
 
㊀話 君のは希望


㊁話 しぇからしか、乃木坂!


 
 
   
            𓂃𓈒𓂂𓏲☆.・𓂃𓈒𓂂𓏲☆.・






「なにするんですか!!」
 
 
真っ先に辺りの空気を引き裂くような叫び声をあげたのはかずみんでもなくさゆりんごでもなく生田衣梨奈。その澄んだ声の響きはまるでミュージカルのワンシーンを見てるようだ。すくっと伸びた背筋に真っ直ぐなその瞳。小学校の先生が生徒を諌めるような口調と向き合うその姿勢がなんともいくちゃんらしい。
 
 
「台本なんか投げつけて、アイドルの顔傷つけてどうすんですか!!」
 
 
 
その台本はといえば、私の頭に当たってその勢いで斜め後方60度の角度で飛ばされ長テーブルの上に落ちそのままスルスルと滑っていき、たどり着いたのは端っこで肘枕でこっくりと夢うつつの西野七瀬の元。その整った鼻面にコツンと小さな音を立てて止まった。
 
 
「もぉー、痛ったいなぁぁ!ええこんころもちで寝てんのにぃぃ。誰ぇ?起こすのん!?」
 
 
七瀬丸は寝起きが悪い。
 
夢うつつの途中で起こされると人が変わるとみんなは言う。
 日ごろはまったくと言ってお目かかれない彼女の中のネイティブな浪速女が顔を出すらしい。
 
切れ長の大きなその目はまだ半開きだ。唇の周りに二本三本と纏わりついた長い髪を拭おうともせず鼻づらの先にある真っ赤な物体に目を落とす。それに顎を押し付けながら眠気眼の目を二度こすった。
 
 
「ちょっとぉ、台本なんかなげたのぉー、誰よ!?」
 
 
頭に来れば沸点の見当がつかないそんな二人がそろった形だ。
 頭も切れてドスも効く、乃木坂の体幹を司るこのツートップが博多の鉄砲玉を迎え撃つ格好。
 
 
大切なリハーサルを前にスタジオ内は静まり返る。中に入ろうとしたスタッフ数人もその空気を察してその場で足が止まる。
 
 
 
「謝ってください」
 
 
絞りだすような低くてか細い声だった。
 ぷくっと小さく腫れ上がった私のおでこに掌を添えながら真夏は
 その上気した顔を村重杏奈に向けた。
 
ひんやりとした掌の感触が妙に小っ恥ずかしかったのを私は今でも覚えている。
 
 「村重、謝ってきな」
 
超選抜が陣取る真ん中付近から声がした。誰もが知ってるあの人の声だ。
 
 「さっしー・・」
 
周りに促されシブシブ立ち上がった村重杏奈は唇の端をぷくっと膨らませ眉間にしわを寄せ何かぶつぶつと呟いている。その表情といったらとうてい反省の色には程遠い。
 
キュッキュッとスニーカーで床を擦る音が静まり返ったスタジオ内に響く。
 
 麻里子様とともちんはと言えば、まるで存在を消したかのようにもう何も言わない。壁に凭れかかり腕を組んだまま事の成行きを見つめている
 
 
私はと言えば、おでこをさすって、ちっちゃなたんこぶがあるのを確認すると上目遣いにそっと顔を上げた。目の前に村重杏奈が立っていた。
 
 ごめんなさい、その言葉で何事もなかったかのように辺りはまた時間が動く。私のおでこの小さなそれも前髪下ろせばなんとかなるし。
 
でも彼女の口からもれた言葉は懺悔じゃなかった。
 
 
 
 「謝んない・・」
 
 
「杏奈!」
 
 
諌めるような声がどこからともなく飛ぶ。
 そんな声には委細構わず村重杏奈は一人の世界に入ってゆく。
 
 
「博多はさぁ、思ったほど近くはないんだよ、あんたらが思うほどにはね」
 
 
不思議なことに彼女の瞳の中に私はいなかった。その遠い目が捉えていたのは壁の上部に並んだ明かりを取り入れるためのウインドウ。おそらく彼女が見ていたのは故郷の福岡は博多の中洲かなんかだろうか。
 
 
「ルブタンだかブータンだか知らないけどね、んなもん黙って履けばいいのよ。いちいちこんなとこで開けてああだのこうだの。。
 何よ?あてつけ?」
 
 
「杏奈、もうやめな!」
 
見るに見かねた指原莉乃の声が飛ぶ
 
 
「やめないよ、やめないよ私は」
 
 
その自らに諭すような声はかすかに震えていた。でもこの子は決してこの場の空気に流されて語気を荒げているのではない、そう思わせる低くて胸の奥から絞り出すような声だった。
 
 
 
 「見てよこのパーカー。分かる?」
 
村重杏奈は着ていたピンクのパーカーを両腕を萌え袖にして私の前に差し出して見せた。
 
袖口のゴムが緩んで全体のショッキングピンクに比べて脱色したみたいに袖の部分だけ色褪せ始めている。
 
 
「 これはさっしーにもらったチャンピオンのパーカーだよ。
 二年前からずっとヘビロテしてる
 お気入り?それもある。
 でもこれしかないのよ、ちゃんとしたやつはね
 私だけじゃなくみんなそう。先輩たちが卒業するときに断シャリして置いていってくれる
 それが私達の日常
 かせげるのは一部のメンバーだけ。バイトは止められてる
 大人達は未成年だから親に助けてもらえって。
 無理だよ、押し切って逆らってみんなアイドルやってんだから。
 博多でアイドルやるって 
 
意味わかる?
 しがみついてるだけだからね、うちらは。
 削除されないように蹴落とされないように。
 
 月に二三回はメンバーのパパやママがやって来ては自分の子を連れて帰ろうとする。
 お願いだからもう戻してくださいって
 普通の子に戻してって。
 毎日の楽しみはワンコイン持ってコンビニ行ってあれやこれやと迷ったげく買ったお菓子とジュースを稽古場の隅でみんなと膝突合して食べること。
 
 だからストレス貯まるよ、毎日不安だらけ
 あんた達みたいにきらびやかな都会で生きてんじゃねぇんだからさ
 それは誘われたら遊びにも行くさ
 悪いことなんて何もしてないよ、するはずがないし。
 小学生みたいにお菓子ポリポリ食べてただケラケラわらって
 アホなゲームやって。ハイそれで終わり。
 
 それさえダメだって言われたらさぁ、どうすんのよわたしたち!?
 ねぇ、どうやって生きてったらいいのよ!!」
 
 
堪えていた涙がひとしずくだけ彼女の頬伝う。
 
顔は前を向いたまま大きく見開いたその青い瞳だけがギロリと動く。瞬きをすると大きな涙のしずくがテーブルの上にポタポタと音を立てて落ちた。
 
微かなすすり泣く声がどこからともなく聞こえていた。
 
 
「あんたらはどう思ってんのか知んないけどうちらはあんたらとは違う、私らは違うんだよ。
 だから、仲間なんて思ってないから」
 
 
 
チッチッチッチッ・・・壁時計の秒針の音が聞こえるようだった。
 
 
私はその声に顔をあげれなかったけれど、なにか分かるような気がした。
 みんなには悪いけどこの子の言ってることが分からないでもなかった。
 日々の生活に窮しながらもアイドルにしがみついてる自分たち
 
たまに覗く都会大東京の景色は眩しくて恨めしくて
 根っこは同じグループでも色分けがちゃんとあって
 集まればそれを嫌が上にも思い知らされる。
 
 AKBはもう十年。
 
華々しい伝説を産んだその代償として裏では淘汰されていくものもいる。そんな子たちには後から割り込んでなんの苦もなく紅白の舞台に立つ私達を疎ましく思っても無理のないことかもしれない。
 
 時の流れが止まる。
 
わずか数10秒程の時間が長く感じられた。
 その重い空気を引き裂くようにまず秋元真夏が声をあげる。
 
 
「なんでよ、なんでそんなこと言われなきゃいけないの?
 あんた達はあんた達の事情。私達が悪い訳じゃないでしょ
 それをなんでうちらに押し付けんのよ
 まるでガキじゃん言ってることが。
 だからあんたたちは・・・」
 
 
真夏が一瞬声を止めたのは。生駒里奈の真っ白な手が彼女の口に伸びたから。
 
 
「里奈。。」
 
振り向いた生駒里奈が小さく首を振る。その先は言ったらダメ、かすかに動いた唇がそう言っていた
 スタジオ内には乃木坂のメンバーを含めて数十人、いや百人以上はいるだろうか。
 
けれどこの場でAKBも乃木坂も変わらない平らな目で見れるのはおそらく彼女一人だけだった。言い換えれば一人だけ浮いてしまった微妙な立ち位置。そんな彼女の今を一番良く知るのが秋元真夏
 
さぁどうしようか
 
真夏は里奈の手の温もりを感じながら村瀬杏奈のその濡れた瞳に自分を探していた。上げた手を降ろすことのないこの鉄砲玉をどうしたものかと。
 
 
 そんな真夏をよそに当の私はと言えば意外にも驚くほど冷静で俯瞰で辺りを見回せていた。
 三つある出入り口でその場所から最も離れたドア付近では隣のスタジオで打合せをしていた渡辺麻友や高橋みなみ数人が何事かと顔を出し始めていた。
 
 
「生駒ちゃん。。。?」
 
まゆゆの顔が曇る。一歩踏み出そうとする彼女の身体をたかみなの手がそっと止める。
 
 
「だまを溶かすいい機会だから。見とこ。ね、まゆゆ」
 
目を細めていたづらっぽく笑うたかみなにまゆゆがピンクルージュの唇をへの字に曲げながら小さく頷いた。
 
 
そんな二人を目ざとく見つけて目で追っていたのは指原莉乃と総監督横山由依。
 
 「たかみなが動かないの?」
 
こんな時は誰よりも早く動くはずの高橋みなみがまゆゆを抱くようにして止めている。
 
口をあんぐり開いたまま目を合わせる二人。
 
「秋元さんから何か言われてるかもしれへんし」
 
半月ほど前に総監督になったばかりの横山由依にはたかみなを差し置いてまで前に出る、そんな度量も勇気もまだ無いようだ。
 
 
 「だからあんたたちは・・なによっ!
 言ってみなさいよ。ねぇ、言いなさいよっ!!」
 
もう誰に向かって拳を振り上げているのか分からない村重杏奈の叫び。私の頭越しに唾とも涙ともつかない飛沫が弾けて消えていく。
 
 
 
 
「いいわよ!真夏が言わへんねんやったら、
 うちが言わしてもらうから!
 なんやのん、自分らのビンボーばなしをたらたらと
 そんなんいらんいらん!
 うちらアイドルやで、
 妬みとか嫉妬なんか内に秘めて、なんで力に変えられへんのん!
 仮にも博多で秋元グループのアイドル張ってねんやったら
 それなりの根性見したりぃな!」
 
 
「な、なぁちゃん・・・」
 
 
七瀬丸の寝起きの悪さの凄まじさ
 綺麗に咲いたお花畑の花をも毟り取る勢いに
 静かだったスタジオ内がざわつき始める。
 AKBの面子達の顔から戸惑いが消えその表情に険しさが増してゆく
 
 
 「もうルブタンなんて、一生履かないから・・・」
 
 
後ろで生駒里奈の吐息のような涙声が聞こえていた。
 
 
 


           𓂃𓈒𓂂𓏲☆.・𓂃𓈒𓂂𓏲☆.・





~㊃話に続きます(_ _)/♡