小説翼はいらない第十二章~彩,夢の形② | 散り急ぐ桜の花びらたち~The story of AKB.Keyaki.Nogizaka

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小説家を目指しています。ゆいぱる推し 京都地元大好き 鴨川のせせらぎと清水寺の鐘の音の聞こえるところに住んでいます。

 

「だから言ったでしょ、自分でぜんぶ背負うなって、 あんたのやってることはみんなの事を考えてるようで全然考えてない、自分に酔ってるだけなのよ、彩!」

 

部長の宮崎美穂は吐き捨てるようにそう言った。返す言葉もなく私はただ唇をかんだ。誰かが部室の壁にかかった音楽祭のポスターをビリビリと音を立てて切り裂く。 体中の血液がその音に反応して一斉に騒ぎ出す。 

 

「初めからそのつもりだったんじゃないの!」

 

「どうせ、最後には自分が残るんでしょ!」

 

次々と仲間から浴びせらる声が信じられなかった。みんなの叫び声が怒号が涙声に変わっていく。

 

「私は・・」、

 

込み上げる言葉を無理から胸に押し込む。出せば、きっと私も涙声になる、そしてそれは自分の正体を変える。

口をついて出るのは恨みつらみの種類でしかない。そうなればもう私は私でなくなる。

 

・・・私は所詮、ここまでなんや 

小さくそう囁いて、拳を握りしめながら何も言わずに出口に手をかける。背中に部員たちの罵声を受けたとたん、涙があふれた。 

 

 

 

 

 

「さや姉~!上がってきて~はやく~」

 

あれから一週間、軽音の部室には足を一度も踏み入れていなかった。

今日も、もし、まっこじの声がなければ私の脚はここには向かなかった。

 

 

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山本彩の夢をあなた達は知ってる?

彩が何処へ向かって誰の為に歌っているのか知ってるの?

そういう私もよく知らない

ただ、歌を夢の為の道具にしている、そんな彩でないことは私も、

そしてあなた達もわかっているはず・・だよね

山本彩はけっして近道を選んではいない

友を置き去りにしてまで夢を選ぶ子ではない

彩の声はみんなのなかから、あんた達のなかからしか聞こえて来ない

それだけはわかっているつもりだよ

あんた達もそんなことはきっとわかってるはずなんだ





これが昨日の朝、部室の壁に張ってあったそうだ。

書いたのは大家志津香。年が明ければ卒業する私の二年先輩。

彼女をヤマハのポプソンの最終メンバーに入れたのは、いわば私のゴリ押し。


そんな私の気持ちに気付きながら

「なんでもいいよ、彩が私のことを思ってやってくれてるんなら

それに乗っかる、それでいいんでしょ」


そう彼女は笑い飛ばしてくれた

私はみんなの気持ちを代弁しただけなのに。

しーちゃん先輩を最後の花道へ、それが最後の最後に崩れた・・・



~大東京
 

 

「あんたさぁ、さっきからなんでみんな睨んでんの」

大家志津香が私に始めて口を開いたのは入部まもない新歓コンパの宴の最中だった。

「別に・・・ 」 それだけ言って私はまた前を向いた。

睨んでたわけやない、東京言葉に入っていけない自分がなにか情けなく思えて必死になってそれを隠そうとしていただけ。
窓から見える東京タワーは通天閣と違いおしゃれで綺麗で私にはどうしようもなく眩しかったし、飛び交う言葉は洗練されていてまるでテレビドラマのように私の耳を撫でていく。けれどその言葉はとても仲間同士とは思えない上っ面だけで全く感情のないものに私には思えていた。

酔ってはいなかった。でも少しいらついていたのかも知れない。
そんな東京に。そんな東京を認めたくない自分に。

「何してんの、あんたの番だよ」
大家志津香が耳元で囁く。知らない間に自己紹介の順番が回ってきていた。自己紹介といっても、うちの大学ではそれはちょっとした入部テストを兼ねていた。軽く歌を口ずさみ、自分をアピールして終わる、それが入部への一連の慣わしだった。

まだ半分以上残っているジョッキのビールを一気に飲み干す。その適度のアルコールが私のなかの思考回路を研ぎ澄ましていく。

―― 言うべき時にはちゃんと言ってあげる、それが仲間というもんや。
ひとつの事をなおざりにしたら、それがどんどん変な方向に絡まっていく。
間違いはその都度正していく。正義に東京も大阪もあらへん
迷ったら声を上げる、それでええんや、彩。・・・


おばぁちゃんは私のバイブル ピンチの時もチャンスの時も心の引き出しを開ける

そこに詰まっている言葉がそのシーンに応じてまるで映画のテロップの様に頭の中を流れていく、

私が立ち上がっても隣の大家志津香以外、気づくものは誰一人いない。
二回ほど深呼吸をしながらあたりを見回す。二十人ほどが座した楕円形の円卓、居酒屋の人熱れのなか様々な香水の匂いが混ざり合い辺りを漂う。


彼女らにとってはもう宴もたけなわなのか、3分たってもまだ私を見ようとはしない。

5分6分、東京に来て抑えていたはずの私のなかの浪速の闘魂がカウントダウンを始める。

こいつら・・・ほんまに私の事見えてないんか

これが東京の礼儀なのか?心の底で本当にそう思いはじめていた。

気の短い方ではない、切れるときにはそれ相応の理由を自分のなかで作ってから・・・それがいつもの私

でも何故かその日は違った、鼻をつくようなシャネルのローズの香りがそうさせたのかも知れない。


「あんたら!うちのこと見えてないんかぁ!」

大阪弁はよく響く、だから腹八分で出したらええ、これもおばぁちゃんの言葉。
ジョッキを持つ手の動きが一斉に止まる。十メートル先の料理を運ぶ仲居さんの動きをも止めた私の叫び。

「ちゃんと見えてるよ」

真正面に座っていたひと際チャラい女がほろ酔い加減の、瞬きも忘れたような目を私に向けた。

「宮崎美穂、次期部長だよ」
大家志津香に言われなくても大よその見当はついていた。
しゃべり方、目線、彼女への周りの気遣い、それに、なにより彼女だけが時折私を見ていた。
私はあった目線は必ず返す、敵でも見方でもそれは変わらない。

「あんたがずっと立ったまま、なんもしゃべんないからさぁ、待ってただけだよ。
それとも、なに? 私たちがさぁ、よろしくお願いしますとでも言わなきゃなんないの?」


一応筋が通っているようにも見えた。怒っているのは私のわがまま、
楽しいはずの宴をぶち壊してしまった一年生、そんな流れはどう見てもできてしまっている


「謝りな、早めに。変な正義感はこの人たちには通用しないから」


今度は大家志津香は明らかにみんなに聞こえるようにそう言った。

どうもこの人だけ、見ているものが違う。そう私は感じ始めていた。

この場にふさわしくないという言い方があっているかどうかは分からないけど

彼女からは私と同じ匂いがした。

 

「あらあら志津香先輩いらしたんですよね。全然わからなかったわ」


「先輩?」


「私は3年、彼女は2年、それだけのことよ」

現三年生には部長の資質に当てはまるべき人材はいない。だから次期部長に二年生を指名した。

それが早々と退部していった前部長の考え方だったらしい。


「最後までいるわよ。あと二年。まぁ、あんたらには風通しがわるいとは思うけどね」



思わず彼女の顔を見た。下を出しながら、ウインクを返すその笑顔はやけに眩しく感じた。

東京にはこんな人もいる、そう思うと今まで高ぶっていたお腹の虫が嘘のように静かになった。
自分が子供に見えたといった方がいいのかもしれない。


やっぱり私はここでやめる訳にはいかない
帰るところなんて私にはないんや、そう思った



「そんなことより、大家先輩、この人どうしましょう?

なんか私達のことよっぽど気に入らないみたいだし、

なんなら、やめてもらいます?」


大家志津香の答なんてこの人は求めていない、

この人はみんなに言ってる。やめさせれるのは私、あんたじゃない。

そう言っているの誰にもわかった。


「勝手にしたら・・・

とそう言いたいとこだけどね。

でも、この子は間違ってないよ。


初めての挨拶、立ち上がっても誰も自分を見ない、じっと待つ

それでも見ない。


さぁ、そこで、あんたなら、どうする、新人の時なら、どうした?」


「・・・」


「黙って、この空気に飲み込まれるように座るか

それとも無視して喋り出すか・・・」


「・・・」


「試したんだろ、あんた?この子を」


「志津香先輩!」


誰かが声をあげる


「いいから」


宮崎美穂はそれでもまだ笑っていた

円卓のこちらと向こう側、宴はもうすっかり冷え切っていた

窓から吹き込む神田川の川風が何故か道頓堀のそれと同じ匂いがした。


「言い方は悪かったかもしれない、けど、この子は私達と向き合ってる、それを分からない、あんたじゃない」


「・・・」


「それと、あともう一つ。

誰も言えないようだから、私が言ってあげる。


今のあんたさぁ、かっこよくないよ。

あんたが入って来たときはこの子とおんなじ目をしてた。

世界の正義を全部背負ってるような目をしてた。

みっともなかったけど、 私は・・・・


あとはもういいわ、どうぞ、お好きに。決めるのは私じゃない。

あんたなんでしょ 」


大家志津香は少しだけ泣いているようにも見えた。私だけが見えた涙かもしれない。私の為か自分の為か、部長の為か、それはわからない。

けど、その時思った。わたしはこの人の事を忘れない。少なくともこの大学にいる間はこの人をずっと見ている、そう決めた



 

~見えなかったもの

 

 

「それでみんなは?」

「なんかこれ読んだら、みんなしんみりしちゃって

それに、部長のこともあって・・」

「部長?」

「これ、美穂さんが渡してくれって、さや姉に」

まっこじから受けとった部長からの手紙はやけにいい匂いがした。



山本彩へ、

あんたは私のことを好きじゃないだろうけど、私はそうでもないのよ。あの日から、ずーっと。

まぁ、信じらんないでしょうけどねww

だから今回もあんたのやってることは間違ってるとは思わない、全然思わない

ただね、あの日もそうだったけど、自分の逃げ場所を用意してないあんたを見るといらいらしてくんのよ、

私があんたの嫌いなとこはそこだけ。

一人で突っ走ることを怖がらないさやか

それでいいんだよ

 

あんたは。


元部長 美穂

 

 

 

「これって?」

「今日でやめるって、部長」


「美穂さん・・」




───  ちゃんと見えてるよ


あの日のあの目は私のなかに自分を見ていたんだ


───   眩しくて仕方がないんだよ、美穂はあんたを


しーちゃん先輩がいつも言っていたのはこのことだった


便箋から香るのはシャネルのサムサラの香り

握っただけで数日はとれそうにない強烈なバラの香り

一枚の手紙にどれだけ時間をかけたのかが、それで分かった

張り付くようにして便箋を睨む宮崎美穂の姿に心が震える

 

込み上げる熱いものを押し戻す

 

まだ泣く訳にはいかない



「あと半年しかないけど部長はしーちゃん先輩に任せるって

そのあとはさや姉が・・・・・

ねぇ、話、終わってないよ!どこ行くの!さや姉!」



私達が今感じたことを形にする、それが私たちの正義


みっともないけど、かっこ悪いけど、しがみついて昇っていくこと


それが私の決めた道


美穂さん  

 

しーちゃん先輩は私が武道館へ連れていく、


何があっても・・・・



~to be continued

 

 

 

 



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