自民党の正体 - 借金1000兆円になった理由とは?
2016.05.29
グラフは、財務省、内閣府資料より編集部作成。
田中角栄(任期 : 1972~74年)
竹下 登(87~89年)
(消費税の導入は)国民の税に対する重い負担感、不公平感の解消を図ることを最大の目的としている。
橋本龍太郎(96~98年)
財政の再建を果たすことが喫緊の課題であり、もはや一刻の猶予も許されない。
安倍晋三(2012年~)
社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するために、財源確保は待ったなし。
建設
許認可で票を集める自民党
自民党はなぜ選挙に強いのか。その理由を探っていくと、業界との根深い関係が見えてくる。
(編集部 山本慧)
戦後の日本を動かし続けてきた自民党。世界でも異例の長期にわたる"独裁政権"だが、独裁を続けるには、各業界から票を集めるシステムが要る。中でも建設業界は、自民党と共に戦後日本の繁栄を築いてきた反面、持ちつ持たれつの関係にある。
協会に入ると自民党員に
建設業の1つであり、不動産を扱う宅建業を始めるには、政府からの認可を得る必要がある。
その際、営業保証金として、法務局に1千万円を預けるか、日本に2つある保証協会のいずれかに60万円を預けなければ、営業することができない。その理由は、消費者が不利益を被った際の弁済に当てるためだ。
事業者のほとんどは、起業時の資金が少ないので、60万円で済む保証協会に入っている。
しかし、その安さには訳がある。埼玉県の建設会社社長は、こう語る。
「保証協会に加入する際に、担当者から自民党員になるよう勧められます。断ればいいのですが、協会に盾突いたら、後から痛い目に遭うかもしれない。だから 信条が違っても、党員になる人が多い。当然、党員になれば、選挙の投票依頼がくる。自民党も、業界に票をまとめさせた方が楽ですから」
建設業は政府の公共投資に左右されやすい。そのため保証協会は、自民党支持に回りやすいのだ。自民党も、そうした産業の"弱み"につけ込み、党員集めに協力させている。
建設業全体は、約500万人もの人々が従事する一大産業。自民党は、この産業を「大票田」に見立てている。
カネ集めもあからさまだ。
業界から自民党に資金が流れる仕組みは、宅建業界を例に引くと、こうなる。
保証協会は、別の組織として政治団体をつくり、会員を集める。東京都内のある政治団体の入会の賛助金は10万円で、年会費は6千円だ。その時に自民党員も合わせて募る。集めた会費は、自民党に献金される
業界から自民に流れるカネ
それ以外にも、自民党は政策をカネに変える“技"を持っている。
自民党は、インフラ投資の充実を目的とした「国土強靭化」(10年で200兆円の公共事業計画)を掲げている。
この政策実現の見返りとして、自民党は2013年に、建設業界に対して4億7100万円を献金するように書面で要請していた。実際に献金された額は、前年比倍増となる1億2600万円であったものの、自民党はこのような目安を示し、資金を"上納"させている。
もちろん、必要なインフラ投資もあるが、公共事業で使うお金は国民の税金だ。それを政治資金に変えるやり方は、まさに「政策を売って稼いでいる」と言える。
元自民党スタッフは、「選挙前に公約と政策集を作る時期には、さまざまな業界から電話がかかってきて、その団体が主張する政策を載せてくれと頼まれま す。それで『何票いけますか?』と聞き、数万票いけるとなったら、じゃあ載せましょう、ということもありました」と話す。
投票依頼の対価として、お金を渡すことは違法だ。しかし、自民党が政府の政策として、税金を配分すれば、違法ではなくなる。「合法的に票を買収」できるのだ(図)。
国民が企業活動を行う上で必要な許認可も、国民の税金で実行する政策も、自民党の票とカネに変える。こうして特定の業界が保護されたり、補助金をもらえたりする。しかしその結果、積み上がったのが1千兆円の借金だった。
イラスト図説
税金を使って票が買われるようになった
違法 金権政治
政治家→金など→有権者→票→政治家
合法 合法的買収
政治家→予算・政策→省庁→補助金・年金・給付金→有権者→票→政治家
企業献金が減って、税金を“収入"にした自民党
「政治とカネ」をめぐる世論の批判により、1994年に企業や団体からの献金が激減した。
これを受けて自民党が中心となり、一定の条件を満たした政党に交付金を出す法律を通した。同党は95年より、毎年150億円前後の交付金を手にし、少なくなった献金の穴埋めをしている格好だ。
つまり自民党は、「汚職のないクリーンさ」を有権者に見せながら、既存政党が自動的に資金を得られるシステムを築いたわけだ。
農業
自民党の農業改革で「補助金漬け」はなくなるか
「農業は補助金漬け」との批判の中、農業改革を進める自民党。
1千万もの農業票を逃さずに、改革を進めることはできるのか。
(編集部 山本泉)
日本の農家の収入のうち、半分以上が補助金―。経済協力開発機構(OECD)の2014年の報告書には、そんな衝撃的な数字が記されている。
自民党は長年、国民の食糧を生産する農業の担い手を、補助金で保護してきた。だが、行きすぎた保護はさまざまな矛盾を生んでいる。
1970年代にコメの需要が減る中、政府は計画的に生産量を減らす「減反政策」を行った。通常の商品なら、生産量が変わらず需要が減れば価格は下がる。だが、自民党は農家を守るという名目でコメの価格を維持しようとした。
生産量を減らせば収入も減り、生活は立ち行かなくなる。そこで、減反に協力した農家にはさらに補助金を出すことにした。
税金を使って、本来、安くなるはずのコメの価格が維持されている状態は何かがおかしい。
補助金で票を買う
これには理由がある。票になるからだ。現在の総農家数は215・5万戸。家族や親戚を含めれば、1千万人もの「大票田」だ。
実は、09年に民主党が政権を奪取した時も、農業票が関係していた。
「農業は補助金漬け」との批判から、自民党は07年から減反による補助金の支給を大規模農家に限定していた。これに対し、民主党は、小規模の農家にも一定額を支給することを訴え、自民党から農業票を奪った。これが政権交代の原動力の一つとなった。
参入規制で農家を保護
これだけの大票田を逃がさない “努力"は、補助金だけではない。農家の競争相手をつくらないよう、新規参入も阻んでいる。
「農業委員会に協力しなければ、農地や補助金も確保できません」と、熊本県の大規模農家の男性(50代)は語る。
この農業委員会とは何か。もともとは、「農地は国民の食料を作るという公的な役目を持つ」という理由で、その保護のためにできた行政機関だ。各市町村に設置され、農地の売買・賃借の許認可を行っている。
「農地を売ろうとしたんですが、農業委員会に許可されず、欲しがる人に売ることができませんでした。結局、農協の組合員にしか売れないんです……」
こう憤るのは、山形県のさくらんぼ農家の男性(70代)だ。
農業委員会は、政府の末端機関であり、当然、自民党の意向を反映している。農作物の流通・販売を行う農協は、自民党最大の支持組織とも言われる。この2つが一緒になって新規参入を阻み、補助金漬けの農家を保護している。
自由化のたびに補助金
最近、自民党は農業改革を進めている。TPP(環太平洋連携協定)を大筋合意させたことは、日本の農業の発展につながる成果だろう。だが、これまで自由化のたびに補助金を出してきた経緯を見ると、同じことが起きる懸念はぬぐえない。
1993年、貿易自由化を進めるウルグアイ・ラウンド交渉が最終合意すると、農業強化に効果が薄い土地改良などに、総額約6兆円が使われてしまった。最近もTPPで貿易が自由化されることに伴い、施設や農業機械などを導入した農家に、補助金が出ることが決まった。
自民党が農業票を“買う"ための補助金は、国民の税金。これも政府の借金1千兆円の大きな要因となっている。
農業だけの収入で生活していない農家も補助金の対象
全215.5万戸
専業農家 21%
農業の収入が主の兼業農家 8%
農業の収入以外が主の兼業農家 33%
ほとんど農業収入がない農家 38%
農林水産省の2015年度の統計データから編集部作成。
図説 票をもらう代わりに補助金を出してきた自民党
医療
年間40兆円の医療費を減らせない自民党
年間40兆円もの医療費が、今も増え続けている。原因は高齢化だけではない。
(編集部 小川佳世子)
「歯肉炎で歯科医に行ったのですが、3回通っても痛み止めや様子見ばかりで。いつになったら治るのでしょうか」
千葉県に住む30代男性は、医療への不満を口にする。
病院のサービスが向上しない理由の一つは、医療技術の内容や出す薬、その価格まで政府が決める「統制経済」的な仕組みで競争原理が働かないことにある。
九州地方で開業する50代の歯科医は、「1回で治す良心的で腕のいい歯科医より、何度も治療に来させ、必要以上の薬を出す歯科医の方が儲かります」と語る。
三位一体で既得権益を維持
誰もが良質な医療を受けられるようにと、医療者と自民党は努力を重ねてきた。だが、時代を重ねるにつれ、政府丸抱えの制度には弊害が出てきた。医療改革が進まない背景には、医療者、官僚、そして自民党の持ちつ持たれつの関係がある。
医師の団体「日本医師会」は、医学部新設や株式会社の病院参入などに反対し、「競争相手」を増やさないようにしてきた。
自民党も、医師会には配慮する。一定の票数を持っており、影響力も強いからだ。そのため、医師の競争相手を増やすような政策は、中途半端な形に落ち着くことが多い。
2015年には、医師会の反対を押し切り、実に37年ぶりに医学部新設が認められたが、自民党にとって医師会から得る権益よりも大きな権益があったからではないかとの疑いもある。
実際、医学部新設を認められた大学の理事長などが、その直後、自民党の下村博文・文部科学相(当時)の講演会に出席していた。文科相は、大学設置に関す る許認可権を持つ。下村氏は自らの選挙区と無関係な仙台で、会費が必要な講演会を開いた。許認可権を悪用した政治資金集めと疑われても仕方ない。
患者置き去りの医療制度
自由競争のない「統制経済」は厚生労働省の利益とも一致する。医療技術や薬に値段をつけられる同省の影響力は大きい。だが、現場を知らない官僚の判断は、医療費の増加につながる。
介護施設に勤務する60代男性は、「一度保険が適用された薬は、効果が薄かったとしても出し続けています。治りもしないのに医療費を垂れ流しているのは問題です」と憤る。
都市部で開業する50代医師は、医療現場の実態をこう話す。
「医師会とは別に、内科、外科、眼科など、各診療科の学会があり、それぞれが、所属する分野の医療の価格を上げろと自民党に圧力をかけています」
医療費の使い道が政治圧力で左右される現状が垣間見える。
元自民党スタッフはこう嘆く。
「自民党も官僚も、問題意識は共通して持っているんです。高齢化や地方の問題、年金、医療、増税でいいのか……。でも、解決策はこれまでの延長線上で、問題を取り繕うようなものしか出せない。各方面の意見を聞かなければいけませんから」
医療にも競争原理を取り入れなければ、既得権益を打ち破ることはできない。このままでは医療費はますます増大し、借金1千兆円では済まない。
グラフ 増え続ける一方の医療費
2013年度 国民医療費の概況(厚生労働省資料)より。
年金
バラまかずにはいられない自民党
政府予算の4分の1以上を占める社会保障費。たびたび支給される数千億円規模の給付金。
自民党にはバラまかずにはいられない事情がある。
(編集部 冨野勝寛)
2007年、第1次安倍内閣の下で起きた、「消えた年金記録」問題を覚えている人も多いかもしれない。しかし、それ以上に大きな問題が今起こっている。年金そのものが消えているのだ。
厚生労働省が試算した結果によると、2014年度末に本来1180兆円あるべき厚生年金と国民年金を合わせた積立金のうち、1千兆円が「なぜか」消えている(注)。
賦課方式で大盤振る舞い
その原因は、年金の賦課方式にある。
自分で積み立てたお金が老後に返ってくる積立方式と違い、賦課方式では、現在働く世代が払った年金保険料が、そのまま高齢者に支払われる。まさに「出資金以上の配当をもらえる」というネズミ講そのものだ。そのため、年金の「もらい得」と「払い損」が発生している。
学習院大学経済学部の鈴木亘教授の試算によると、76歳の高齢者は払い込んだ以上に、1人当たり3090万円も得している。その犠牲になっているのが、他ならぬ若者世代だ。26歳の青年は2240万円、6歳の幼児になると、2840万円も損することになるという。
この理不尽な年金制度を導入した"犯人"が自民党だ。
年金はもともと、積立方式で運用が始まったが、1973年の自民党政権の年金改革の中で、賦課方式へと移行されていった。当時は、高度経済成長期から安 定成長期へと移るころ。好況によるインフレで物価が上がって、積立方式のままでは相対的に受け取れる金額が少なくなるという事情があった。また、受け取る 人数も少なかった。
しかしその後の不況と高齢化で、賦課方式はとっくに破綻している。
にもかかわらず、政府がこの方式を続ける背景には、自民党にとって高齢者は昔から貴重な「票田」という事情がある。高齢者の投票率は、他の年代と比べて高い(下グラフ)。
こうして自民党の党利のために消えた1千兆円のツケを払わされるのは将来世代だ。今では、残った年金積立金も運用失敗によって目減りしている。
バラまきは繰り返される
自民党のバラまきは年金だけにとどまらない。
99年には、約6200億円の地域振興券(上図)を支給した。発案者である公明党と選挙協力をし、その支持母体である創価学会の票を得ようという狙いがあったと見られる。
選挙前は特に露骨だ。
2009年3月には、景気対策の一環とうたい、国民1人当たり1万2千~2万円、総額2兆円規模の定額給付金(上図)を支給した。当時この政策は、同年8月の衆院選に向けた「票目当て」と、マスコミや国民から批判された。
現政権も約3600億円もの予算を組み、今年、選挙直前の6月中に、低所得高齢者1人当たり、3万円を支給する予定だ。
国民が積み立てたお金で高齢者の票を買い、税金を給付金としてバラまいて個人の票を買う。そうしてできた借金1千兆円を「国の借金」と言うのは、あまりにも国民をバカにしている。
50歳以上の投票率は常に高い
衆議院議員総選挙における年代別投票率(抽出)の推移
総務省調査より編集部作成。
自民党は選挙前にバラまく
小渕政権
1999年4~9月
地域振興券 15歳以下(受け取りは世帯主)、老後福祉年金の受給者などに、1人2万円分の商品券を配布。
総額 約6200億円
↓ 半年後
1999年10月 自公連立が発足
麻生政権
2009年5月~11年3月
家電エコポイント制度 省エネ性能の高い家電を購入した国民に、他の商品と交換できるエコポイントを付与。
総額 約6900億円
↓ 3カ月後
2009年8月 衆院選
麻生政権
2009年3~5月
定額給付金 国民1人当たり1万2千円を給付。18歳以下と65歳以上は2万円。
総額 約2兆円
↓5カ月後
2009年8月 衆院選
安倍政権
2016年6月
高齢者向け給付金 65歳以上で低所得の高齢者に3万円を給付。
総額 約3600億円
↓ 1カ月後
2016年7月 参院選