東京タワー/江國 香織
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初めて読みました!江國香織さんの作品。お正月にビデオを借りてきて映画を先に見たんです。とても美しくておしゃれでした。ちょっと現実離れした詩史の生活に憧れます。それで、とりあえず原作も読んでみようかと。何だか独特の雰囲気を持った作品ですね。ふわふわと空気中を漂っているような雰囲気、けど落ち着かない感じはないんですね。他の作品もこんな感じなのでしょうか?

物語は、透と耕二という19歳の大学生の男の子二人(親友関係という設定です。)の恋愛模様を中心に進みます。二人とも年上の女性が好きという点が共通点。しかも一回り以上年上の女性です。透の相手は、詩史という40歳。セレクトショップオーナー、夫は広告関係、夫婦仲はまあまあ、子供なし、軽井沢に別荘を持つセレブ系マダム、というところでしょうか。透の母親と詩史が友人関係で、そのつながりから透と知り合い、恋におちます。恋におちるというか、詩史にとって透はもちろん好きな相手なのでしょうが所詮は遊び、一方の透にとって詩史は絶対的な存在で、世界は詩史中心にまわっているというくらいどっぷりつかってます。何せ、詩史の薦める本を読み、詩史の好きな音楽を聴き、その上透から詩史に連絡することはほとんどなく、ひたすら詩史からの電話を部屋で待つ生活なんです。同世代の女の子には目もくれず、たまに合コンや飲み会に行ったところで四六時中詩史のことを考えている透。19歳の若者らしい元気のよさは皆無ですね。尤も、だから40女と付き合えるのでしょうが。よく言えば一途ですが、トッコには偏愛っぽい気色悪さが感じられました。

一方の耕二の相手は、35歳の喜美子。専業主婦、上流とまではいかないが中の上くらいの生活レベルをおくっています。喜美子の夫については「腑抜け」という描写以外具体的なものはなかったですが、推測するに夫婦仲はイマイチでしょう。その不満からいろいろな習い事に手を出してみたり、耕二みたいな若い男に手を出したりしてみるが、やはり満たされず時々感情的に爆発してしまう、というタイプでしょうか。実は耕二には、同い年の由利という彼女もちゃっかりいて、性格的には透とは全く正反対、所謂イマドキの元気で要領のよい(作中の表現を借りると「行動能力がありすぎる」)若者として描かれています。ただ、耕二が年上女性が好き、というのはイマイチ懐疑的です。というのも、そもそも発端は透の影響なんですね。透が詩史と付き合いだしたことに感化されて、年上女性に憧れたという感じです。時々感情を爆発させて無理難題をふっかけてくる喜美子に辟易しながらもずるずる関係を続けて別れないのは、肉体的に離れられないから、つまり年上女のセックスがよいからというように描かれていますが、果たして本当にそうなのか???トッコには年上女と付き合うために耕二が自分の気持ちを引き出しの奥に押し込めて無理を続けた、としか思えません。喜美子のような面倒くさい女と上手く別れられず、結局は逆に喜美子にふられる羽目になった。プレイボーイを気取ったところで、やっぱり耕二はまだ若くて未熟だわ~って思いますね。

しかし~、こんな若い男の子とお付き合いできるなんて、詩史も喜美子も羨ましいわ~。やや中年の域に達しつつあるトッコにとって、夢と希望を与えてくれる恋愛物語でした。こんな恋愛ができたら、きっと女性も若返るでしょうね。

ところで、映画でも詩史役の黒木瞳に語らせていましたが、「私は私の人生が気に入ってるの。そんなに幸福っていうわけじゃないけれど、でも、幸福かどうかはそう重要なことじゃないわ。」という台詞。ビデオを見たときにもちょっと印象に残ったのですが、そっくりそのまま原作で使われていた台詞でした。この台詞については賛否両論いろいろあるでしょうが、トッコはこんな台詞を言える詩史をとっても羨ましいと思いました。女も40になればいろいろあって、山あり、谷あり。「私の人生は幸福か否か?」よりも「私は自分の人生に満足しているか否か。」を重視するようになるのでしょう。「人生が気に入っている。」と言い切れる詩史は、セレクトショップのオーナーとして今まで努力してきたこと、夫をはじめとする周囲との人間関係の築き方、などについて満足というか、少なくとも誇りを感じているのでしょう。但し、その過程は100%幸福といえるものばかりではなかったのでしょう。人生の満足度イコール幸福にはならないのですね。うーん、詩史はやっぱり大人の女性で素敵です。

最後にとっても気になったことを一つ。詩史の家のリビングにある観音像。これって何を意味するのでしょう?マホガニーの家具に観音像って、どう考えてもテイスト違いすぎますよね。不思議です。どなたか観音像の謎解きできた方いたら是非教えていただきたいです。