有川浩、と聞いてピンとこない人でも、このブログに来てくれる人ならば、「フリーター家を買う」の作者といえばわかっていただけると思います。
その有川さんの最新作、「旅猫レポート」。
有川さんという作家は、とてもベタな話を書く人です。
「図書館戦争」シリーズや自衛隊三部作は、設定こそ奇想天外ですが、物語はいたってベタに進む。
そして、それがいやらしくない。
有川さんは、ベタであることを恐れないし、恥じない。
むしろ、さあ、どうだ。という位の勢いで、私たちに提示してくる。
それが読んでいて安心感というか、心地よい。
私たちも主人公と一緒に恋したり、怒ったり、泣いたりしてもいいんだと思わせてくれる。
ほら、中には斜に構えて読む小説とかもあるじゃないですか。
複雑でわからないのがいいとか、ラストが曖昧で読者の想像に任せる奴とか。
でも、有川さんはそうじゃないんです。
ちゃんと最後の一言まで、作者自身で物語の幕を引いているから、私たちはただ素直に文字を追えばいいだけ。
今回の物語もそうです。
主人公サトルは、ある事情ができて飼い猫ナナを手放すことになった。
そして、新しい飼い主を探すため、知人の元へ訪れる旅の様子を、飼い猫ナナの視点で語られていく。
野良猫であったナナとサトルとの出会い。
古い友人たちとのエピソード。
それらを織り交ぜながら、一人と一匹の旅は続きます。
なぜ、サトルはナナを手放すことになったのかの理由は語られませんが、物語を読み進めるとその理由が少しずつわかってきます。
そして、最後の旅の地となった場所へ。
それからの物語。
最初から、終わりが想像できるとおりの展開で、目新しい驚きはない。
だけど、わかっていても、最後のくだりは、泣いてしまう。
それは、ひとえに作者の筆力だと思う。
波乱万丈の物語にすれば、自然と感動的になるけれど、こうした日常の物語を書くことは難しい。
この作品は、未曾有の災害も大きな事件も起きないけれど、一匹と一人の大切な物語を描いている。
そして、猫を飼っている身としては、理想的な飼い主と飼い猫だと思いました。