25年くらい前に「Levi's」という本を書いた
エド・クレイというおっさんに会いに行ったことがある。
ロスの郊外に住んでいて、確か南カリフォルニア大学で講師をしていた人だ。
ユダヤ系の人で、Levi'sという企業もユダヤ系の同族企業だったので、
同じユダヤ・コミュニティの関係が縁でこの本を上梓したらしい。
アメリカ人にしてはこじんまりした小さな家に住み、贅沢をするでもなく
夫婦二人で暮らすインテリ層のように見えた。
彼の著書の本意はLevi'sの製品や歴史に焦点を当てたのではなく、
企業のあり方を書いたもので、いかにLevi'sという企業がコミュニティに手厚く、
かつ従業員を大事にし、いまでいうCSR(企業の社会的責任)と法令遵守に
チカラを注いできたかが書かれていたように記憶している。
Levi'sという会社は、その歴史のほとんどを生地商として歩んで来た。
いわゆるジーンズは、その一部門に過ぎなかったのだ。
ジーンズ(作業着)づくりに従事している人たちは当然ブルー・カラーで
社会的地位も低い。ほぼ野麦峠のような女工さんが縫製を行い、
生地であるデニムも奴隷に近い黒人労働者に支えられてきた。
作業着の値段は低賃金労働者が買う服だけに安くなければならない。
そのシワ寄せがLevi'sの工場で働く人に行くのは当然のことだ。
で、時代は進み、ジーンズの生産は近代化され、量産も可能となり、
デニムの価格も黒人労働者の地位向上で高騰していったが、
大量消費の波が訪れたので、それらのインフレ要因は相殺できた。
しかし、当時のような生産性の悪いが、クオリティのいいものをつくろうと思うと
高額になる。当時のものと同じつくりのLevi'sのヴィンテージ商品は、
いま3万円とか4万円のプライスをつけている。
これって、生産にかかわる人たちの正統な労働対価を積み上げた価格なら
とてもリーズナブルだと思う。昔も、黒人や低賃金層がいなければ、労働着とはいえ
このくらいになったのかもしれない。しかし、ふたたびジーンズ・ワーキングプアに
支えられた商品が登場した。500円ジーンズだ。どこかで誰かが、働いても働いても
豊かになれないという「犠牲」がつくる商品を、安いからと言って買っていいものだろうか。
モノには適価がある、と思う。企業努力と「犠牲」とは天と地ほど違う。
ちなみに、かつてLevi'sは縫製工場の従業員に自動的にストックオプションを与え、
会社がジーンズの世界的な流行で大企業になったことで、
彼らを老後の心配など何ひとつしなくてもいい金持ちにしてくれた、と
「Levi's」の本に記されていた。いい話だ。