この2軒のお店にはよく行った。
いまから35年以上前に。
道玄坂を上って猥雑な繁華街の奥にある「BYG」は
いまでも営業している。
「BYG」では主に音源の古いブルースや、
英国の民謡のような(昔は何て呼んだっけ)曲を無言で
必死に聴いていた。結局、"わけのわからん"曲ばかりで
若造が背伸びするために通っていた。
吉祥寺の「赤毛とそばかす」は、JAZZの「アウトバック」と
対になる向かい合わせの店だったはず。
ここもよく出入りした。アルテックA-7のスピーカーが奥にあり、
地下と言うこともあって終日暗く、
店内はタバコの煙が充満し、いまなら確実にアウトな店だ。
ここでも、客はみんな会話することなく、
無言でスピーカーから出る大音量のロックに浸っていた。
男は誰もが不健康で痩せていて、あばらが浮いたハンガーような身体に
かろうじてTシャツが引っかかっているみたいだった。
何が楽しかったんだろう・・・。
ヘルシアや黒烏龍茶を飲んで、日々近所の公園を走っているような
元気のいい禿げ上がった中高年のオジサンも、昔はこういう
不健康な店で"わけのわからない"音楽をわかったような顔をして聴き、
社会の仕組みに対して"わけのわからない"議論を戦わせていた。
でも、頭の中は平凡パンチのグラビアやGOROの巻頭グラビアのことで
いっぱいで、女の子をなんとかものにしようと、
この瞬間だけは"わけのわかる"明快な想像を思い描いていたのである。
そんなどこか自由かつ風来坊なそぶりで我々の憧れとなっていた人たちは、
いまや家も家族も持ち、会社ではいいポジションについている。
高級外車に乗り、週末はゴルフ場に通っている。ずるい。
この2店の広告は、「ニューミュージックマガジン」という、これも
"わけのわからん”音楽専門誌に毎号載っていたものだ。