映画「卒業」の中で、就職先を決めかねていた主人公のダスティン・ホフマンに
パーティの場で「これからはプラスチックだ」と囁く会社経営者がいた。
石油化学製品が大きな可能性を秘めていた時代であり、
おそらくそのジャンルをアメリカが牽引していたのだろう。
この映画の10年以上前に、カラー化と化学繊維で話題になった映画があった。
ワーナー映画最初のカラー作品、ご存じ「理由なき反抗」だ。
初カラー作品なので、急遽、主人公のJ.ディーンが着るウエアが
黒の革ジャンから赤いスポーツジャケットに変更された話は
DVDの特典に収められているから有名だろう。
このジャケットは、VANが創作した「スイングトップ」という日本語名で
認知され、その後50年以上経ったいまでもそう呼ばれてる。
あるいは、洋服好きの間では「ドリズラー(小雨をしのぐ)・ジャケット」とも
呼ばれている。実はどちらも間違ったまま浸透してしまった呼称だ。
映画の実物は、広告イラストにある「ナイロン・アンチフリーズ」という呼称の、
マクレガー社の商品。生地は表地に当時画期的な「ナイロン」を使い、
裏地には防寒用のフリースを使用していた。新素材であった「ナイロン」製ウエアを
採用した理由は、この映画が表現したかった時代の価値変革に符合する。
戦後の中産階級の飛躍的増加、郊外の宅地化によるクルマ社会の到来、そして従順だった子供たちの
大人への反抗。50年代の半ばから、若者が文化を牽引する時代が始まる。
化学繊維素材は、おそらくそんな新しい時代の沸き立つ気分を代弁していたに違いない。
J.ディーンに対峙する不良少年が着ていた革ジャンに比べ、「ナイロン・アンチフリーズ」は
遙かに軽量で暖かい。ディーンは新しい時代をまとったニューカマーなわけだ。
この対比軸というか対抗軸を、着てる服にまでこだわって演出しているところは、
さすがハリウッドの黄金時代だ!と膝をたたいたものだ。
ところで、「理由なき反抗」は不良少年を描いた映画というイメージで
語られがちだが、登場してくる少年達はみな自分の車を乗り回せるほどの富裕な家庭に育ち、
校則の厳しい私立高校に通っているわけで、そのイメージは間違っている。
プエルトリコ移民とイタリア移民の対立を描いた「ウエストサイドストーリー」の
ベースにある底辺階層の人種対立とは趣が違いすぎる。