とても面白い切り口から、身近な食文化というものを見つめることを学んばせていただいた。とても一回では書ききれないので、何回かに分けて書いてみたいと思う。
幼児から老人まで日本人なら馴染みのない人はいない日常に根付いている☆おにぎり☆の文化で、一冊の本がまさか書けるとは、思いもよらなかったので、まずは脱帽である。世界の食文化についてもかなり造詣が深い著者であり、歴史的なあゆみの検証も怠らないところが著者の凄いところだ。専門は「文化地理学」と「経済地理学」だそうだが、「文化地理学」というジャンルの存在は知らなかった。どうやら「人文地理学」の一分野らしい。「民俗学」や「文化人類学」とはどう違うのだろうか?学問の名称はともかくとして、その身近な食べ物の正体を見極めるための好奇心を擽(くすぐ)るような具体的な事物を丁寧に遡(さかのぼ)るという辿(たど)り方と記述は、実に見事である。
「おにぎり」文化の検証を芯に入れながらも、あたかも本自体が味わい深い「おにぎり」のように、変幻自在の具材の混ぜ方や表面の海苔や胡麻や焼き具合や容器や包み方なども、それらの意味合いや位置付けが明らかにされていながら、ふんわりと印象深くまとまっている。
おにぎりの本といえば、雑学本か料理本と思いがちだが、この本は違った。超本物である。
自身が若ければ、大学で「文化地理学」を学びたいと思ったほどだ。身近なモノを解き明かして、モノの根っこや背景や関係性を可視化するのは魅力的な仕事だ。知ることによって、目に映っていただけの世界が異なった味わい深い世界に見え始めるからだ。
人に郷愁を感じさせる食べ物を「ソウルフードsoul food」と呼んでいるらしいが、おにぎりは心のそうした存在だと思う。自身も幼少時に、おやつにと台所で祖母が握ってくれた“味噌おにぎり”の懐かしい情景が思い浮かぶ。
『おにぎりと日本人』のまえがきの締めの言葉を紹介すると、
「おにぎりは意外と深い。地方それぞれのおにぎりは環境と時間が創ってきたものといっても過言ではない。(中略)おにぎりは日本特有の「食文化」の発露である。」
記述によると、おにぎりは、弥生時代の神事を発祥として、平安時代に「源氏物語」にも儀式の中で登場し、鎌倉時代に梅干とともに兵糧の1つとなり、戦国時代に農民兵士によって全国に広がったのだ。そして、江戸時代には携行食として拡がり、海苔も登場した。寿司文化と並立して庶民に入った。明治になると、陸軍型(丸形)・海軍型(三角形)という違いも現われた。そして、行軍・教練が起源となった今日の遠足や運動会のお弁当の定番でもある。さらには、現代の多忙化の中で透明フィルムに包まれたコンビニおにぎりは人気商品となった。街の中にはアイディアを凝らしたおにぎり専門店も誕生してきた。というあらましの経過を辿ったらしい。
しかし、興味深いのは、なぜ中国や朝鮮には、おにぎり文化が育たなくて日本人の中に根付き愛されているのかということだ。このテーマは次回にじっくりと読んで考えてみたい。
地方色も家庭色も豊かに浮き出る「おにぎり」は、日本人の庶民の暮らしの多様性のシンボルのように思うので、この機会にしっかりとこの文化を深く理解しておきたいと思う。