
<7月14日>
天明元年(1781)、若狭出身の初代松屋久兵衛が京の街に創業した造り酒屋 「 キンシ正宗 」。
明治13年(1880)に、酒造りの拠点は伏見に移されましたが、酒造りの蔵や道具は大切に保存され、当時の
酒造りの様子を伝える文化的遺産として残されています。
併設の和食処 「 奥満笑屋 」 で、「 造り定食 」 と 「 純米大吟醸 松屋久兵衛 」 を堪能したあとは、専属ガイド
さんの案内で、そんな歴史の一端を垣間見せてもらいました。
最初に案内されたのは 「 天明蔵 」。

古い酒造道具が展示されています。蔵自体は相当狭いものですが、昔のまま保存され、伝統的な酒蔵の風景
を今に伝えています。
酒の味を決める要素の大きなひとつは醗酵という工程。温度を一定に保つことが重要な醗酵過程では、土蔵
造の壁が威力を発揮します。耐火性にも優れている土蔵は、元治元年(1864)の洛中大火からも酒を守り
ました。
「 キンシ正宗 」 は 「 金鵄勲章 」 の 「 キンシ 」 から来ているそうです。

蔵の中には 「 槽 ( フネ )」 も残されていました。
もろみの入った酒袋を並べて重ね、上から圧力をかけて搾った、昔の 「 酒搾り機 」 です。
長い歴史と伝統を誇る酒蔵が取り組んだ 「 新しい事業 」 が地域資源の活用事業でした。自社の醗酵技術を
使って、これも伝統的な京野菜を 「 リキュール 」 にするというものです。
「 鹿ヶ谷かぼちゃリキュール 」「 金時にんじんリキュール 」「 伏見とうがらしリキュール 」・・・etc。野菜リキ
ュールという発想は業界初。しかも、形状などの関係で、市場に出せない野菜でも利用できます。

中庭へと通じる板戸に、こんな張り紙がありました。
【桃の井会員様へのお願い・・・(中略)・・・営業時間中にお越しいただきますよう、よろしくお願い申し上げます】
20名ほどの視察団が、田中部長の説明を聞いているとき、目の前を平気で通る年配の人が何人かいました。
最初は社員かと思いましたが、どうも違う、一般人のようです。つまり 「 桃の井会員 」。

目的はこれです。通り過ぎては、また戻って行く年配の人は、この水を汲みに来ていたというワケ。
天明元年の創業以来、中庭にコンコンと湧き続けている水 「 桃の井 」。これがまさに酒造りの命の水。この水
があったからこそ、「 キンシ正宗 」 は今日まで生き抜いて来れたと言ってもいいかも知れません。
京都御所のすぐ近くの地といえば、いわばかつての日本の中心のようなもの。そこに湧き出る水は、昔も今も
毎時約3トンというから驚きです。
誰でも飲めるので、もちろん飲んでみました。冷たくて、柔らかくて、やさしい、美味しい水です。
「 桃の井会員 」 は、この水を自由に汲むことができるようになるために毎月1,000円払っている人たち。
だから、見学者がいようがお構いなしに、ペットボトルを持って水を汲みに来ていた・・・ということです。

湧水の脇には、ちゃんと水質検査の結果表が掲示されていました。
定期的に水質検査をして、問題のないことを証明し、それを公開しています。こういうところにもキチンと気を
配っていて、何事にも真摯に取り組む蔵元の姿勢が表れていました。