映画館で・・・「たった一人」・・・で映画を観た経験はありますか?
チケットを買って映画館に入る。誰もいない。真ん中あたりの、一番良さそうな席に座る。誰も
来ない。開演時間が刻々と迫る。誰も来ない。場内が暗くなる。それでも誰も来ない。もしや
“オレ一人・・・?” と思いながら予告編が始まる。誰も来ない。そして本編開始。誰も・・・。
実際にこの映画を観たのは数ヶ月前ですが、そんな経験を「して、しまいました」残念ながら・・・。

ザ・ローリング・ストーンズのライヴ・ドキュメンタリー映画。監督は黒澤明監督『夢』にゴッホ
役で出演していたマーティン・スコセッシ。
スゴイ映画でした。一番印象に残ったのはギターのキース・リチャーズ。ガリガリに痩せていて、
どう見ても病的なのに、煙草をプカプカふかしながら、ニヒルに笑って、ちょっと低めの位置にギター
を構えて弾き続ける。66歳。
次は何と言ってもヴォーカルのミック・ジャガー。大柄で随分シワも増えましたが、歌いながら
縦横無尽にステージを走り回り、踊り狂い、客席を煽りまくる、大きく激しく動く口。66歳。
“またバカやってる!” みたいな、醒めた眼差しで、ひたすら淡々とリズムを刻み続けるドラムス
チャーリー・ワッツ。68歳。
キースの挑発に、子供のようにはしゃぎながらノリノリで乗って行く、グループ最年少の悪ガキ
ロン・ウッド。62歳。
やっぱり、どう考えてもこのバンドはどこかおかしい。
ロックの「業界」は「太く短く」というライフスタイルが多く、同じメンバーで何年も、解散も
せず復活もせず、やり続けるというのは尋常ではありません。しかも若いときから、ドラッグ、酒、
女、にまみれた(と思われます)日々を送りながら、いまだに妖怪のように生き続けているわけ
ですから・・・。
途中、クリントン元大統領ご一家がステージに上がります。それを露骨に “面倒くせぇー!” って
表情を見せるキースとチャーリー。監督のスコセッシと、険悪なまでにカメラワークの議論をする
メンバーたち。
もはや何も怖いものなし、です、このグループの場合は。でも観ていると、それが何よりストーンズ
最大の魅力であることが分かって来ます。「ものわかりのいいストーンズ」や「紳士的なストーンズ」
は、ストーンズではない、ってことが・・・。
それはそうとして、どうしてこんなにいい映画を、誰も観に来ないのか。
結局たった一人「貸切」で最後まで観終えた私ですが、ちょっぴり淋しいというか残念というか、
複雑な気持ちでした。