イメージ 1


 『向田邦子と昭和の東京』川本三郎著(新潮新書)。去年の10月に読了した本ですが、最近何となく

古い向田作品を再読了、この本もまた引っ張り出してパラパラと読んでみました。

 「昭和初期~戦中戦後」「父」「母」「家族」「今では死語に近い懐かしい言葉」「食卓」なんて

いうキーワードが、向田さんの真骨頂であることが分かります。

 私の両親は昭和ヒトケタ生まれで、いわば向田邦子とほぼ同年代(私の父は同い年)です。学生服の

ズボンに「寝押し」をかけたり、「ゆうべの残りのカレー」を食べたり、といった向田作品にさりげなく

登場して来る日常の出来事が、私の育った家でもありました。向田さんは東京の山の手の小市民的家族

で育ちましたが、私は田舎の山奥の街で幼年少年時代を過ごし、都会と田舎の違いは確かにありますが、

ある意味で基本は同じかも知れません。

 違いを上げるなら、我が家では昔「釣瓶で汲み上げる井戸」でした、ほどなく「手漕ぎポンプ」には

なりましたが・・・。トイレはもちろん「汲み取り式」で、トイペなどなく「新聞紙」でした。ストーブ

も風呂も「薪」、コタツは「練炭」か「豆炭」で、いろりでは「薪」が煙と炎を上げており、ご飯は

「かまど」で炊いていました。こんなことを羅列して行けば、現代との違いは際限なくあります。今に

なって想い出せば、哀しくもあり懐かしくもあり・・・。生活は決して楽ではなく、一日も早くこんな生活

から抜け出したいと考えていたような気がします。

 街の行事にしても、大きな樽の中をオートバイがグルグル回る出し物、「へび女」のような怪しげな

見世物、「悪いことをすれば、サーカスに売られるぞ!」といった差別用語、「傷痍軍人」といった

戦争犠牲者「もどき」、日本独特の空気とか臭いが充満していました。

 この本では、向田作品に見られる、そんな「昭和」の色を細かく解説されています。


イメージ 2


 『あ・うん』向田邦子著(文春文庫)。読了したのは16年前ですが、今回何となく読み返したくなっ

て再読。向田ワールドに浸ってみました。

 どこか、娘の「さと子」目線で書かれているフシがあります。父と母と、内心では母に好意を寄せて

いる父の親友との絡み合いの物語。いい年の母の妊娠が判明して「急に家の中の空気がねばついてきた

ように思えた」とか、「大人は本当のことは言わないで、青リンゴをサクサクと食べる」とか、向田

さん独特の言い回しが、物語に「艶」のようなものを与えています。

 神社の鳥居の前の狛犬の「阿」と「呍(うん)」のように一対のような男同士の友情。心の裏には

母を巡る三角関係が潜んでいる・・・。考えてみれば、とても深くて難しいテーマですが、どこか江戸っ

子気質のようにサッパリとした割り切りのような筆致で進んで行きます。

 久しぶりに、向田作品を読みかえしてみようかと思ったりしました。