雨模様で大量の湿気を含んだ風、しかも結構強い風が吹きまくっています。
黄色の外壁の店の入口に掛けられた暖簾が、その風ではち切れんばかりにはためいています。A駅に
ほど近い居酒屋、すぐ傍を線路が走っています。
透明の使い捨てビニール傘を持った男が足早に来ると、暖簾を出したばかりの店に入って行きました。
Gパンにスニーカー、Tシャツには「Keith Jarret」「Gary Peacock」「Jack Dejohnette」の文字が
プリントされています。どうやら、ジャズ好きの中年男。散髪に行っていないのでしょう、白髪混じりの
髪が、だいぶ伸びています。それにしても、オデコがかなり広い…。生まれつき広いのか、さもなくば
“だいぶ、来ている…”かどちらかのようです。
しばらくすると、白いカッターシャツの重ね着に濃緑のスラックス、大柄な男が暖簾をくぐって行き
ました。この男、眼光は鋭いが、オデコは先ほどの男より更に広がっています、明らかに“相当、来て
います…”。
三人目は、やや遅れて到着。黒っぽいワンボックス(どうやらオデッセイっぽい)の車を乗りつけ、
運転席から降りて来ました。黄色に横縞の入った半袖シャツに紺色のスラックス、白髪はなくオデコ
の広さも人並み、どう見ても前の二人よりは若そうに見えますが…錯覚かも知れません。怪しいのは、
助手席の美人。運転を交替すると、鮮やかな切り返しで、走り去って行きました。
店の一番奥の小部屋に三人の姿が見えます。もう「密会」が始まった様子。テーブルにはコースの
料理、生ビールが並んでいますが、付け出しがもう一人分あるところを見ると、四人目は到着が遅れて
いるようです。

四人目が来ることなど全く意識していないのでしょうか、三人は快調なピッチで呑み始めました。
そのうち冷酒の四合壜を立て、隣にチェイサー(和らぎ水)を置いて、腰を据えて呑み始めたよう
です。だいぶ時間が経ち、四合壜が残り少なくなった頃、ようやく四人目が到着しました。
この男だけがスーツにネクタイ姿。明らかに会社帰り。他の三人は休日仕様ですが、四人目のこの
男、休みも取れないらしく、疲れ切った表情。大柄な体格ですが、オデコは“いやいやこれは…、
ヤバイかも…”。
こうして、Y高校時代の同級生四人組の密会メンバーが揃いました。W君(2人目)I君(3人目)
H君(4人目)幹事役は私です。隣県から急に帰省したW君からの連絡で、“いつもの四人”を急遽
召集したもの。気の置けない仲間達の、他愛のない、しかし談論風発で突っ込みの厳しい呑み会です。
この日は結局一次会で約3時間。
次は近くのカラオケボックスへ。昔懐かしい歌が次々にかかります。普段職場で歌おうものなら、
若い人達の大顰蹙を買うと思われる歌ばかり…。フォーク、洋楽、演歌、そのうちに「サザン縛り」
などという屈折した歌い方まで始まる始末です。

この夜はよほどノリが良かったのか、カラオケ2時間でも足りなかったようです。最後はラーメン
で“締め”。中年男達にしては、元気があります。若い頃は定番だった“締めのラーメン”も、最近は
「ハイ!メタボ」「ハイ!コレステロール」etcで、一同揃って控え気味。私にとっても何年ぶりかの
“締めのラーメン”、ささやかな贅沢で「煮卵」をトッピング、これでコレステロール値がまたグンと
上がったかも知れません。