ばかりにはためいています。黄昏時。上空には黒雲と青空が混在し、気温はこの季節にしては汗ばむ
ほどの陽気。とそこへ・・・黒のパーカー風ジャケットを羽織った一人の中年の男がスタスタと歩いて
現れ、周りの様子を窺うようにしながら黒塀の中へ、スッ!と消えて行きました。
ほどなくタクシーが黒塀の角に止まり、客と運転手のやり取りがしばらく続いたあと、降りてきた
のは中年の女2人。駅からタクシーに乗った二人、どちらがタクシー代を払うかちょっともめていた
ようです。ちょっとよそ行きの格好の二人「あらぁー、こんなところにあるのね…」などと言いながら、
明るい嬌声を残して黒塀の中に消えて行きました。
5分ほどたったでしょうか、汗だくになってママ・チャリをこいで来た男が突然、黒塀の前で止まり、
中の様子を窺っています。どうやら塀の中に、自転車を無理矢理運び込もうとしている様子。しかし、
入口が狭く内部が迷路のようになっているのでしょう、自転車を入れると通路が塞がってしまうよう
です。諦めた男は、風にはためく幟の横に自転車を置くと、今度は辺りを調べ回るようにしばし塀の
周りを歩き回ったあと、人目を忍ぶように塀の中へ消えて行きました。GパンにTシャツ姿です。
黒塀の館の中。狭い入口、狭い廊下、狭く急な階段を通って二階。黒扉の表示「○の間」「△の間」
「□の間」「厠」。このうち「○の間」に、女二人と男二人が吸い込まれて行きます。
「よぉ!早く着いたなぁ」(黒ずくめの男が、入ってきた女二人に声をかける)
「あらぁ~久しぶり、また抜けたぁ?」(二人の女、爆笑)
「いきなり髪の話かよぉ。これ以上抜けようがありません」(先に来ていた男、怒)
5分ほどしてから、戸が開いて。
「うぁー!暑いいいい ―――!」(Tシャツ姿の男、羽織っていたシャツをいきなり脱ぐ)
「えーっ、風強くて、少し寒くない?何で来たの?」(女二人、怪訝)
「チャリ!チャリ!暑い暑い~!」(男、Tシャツ一枚になって)
「じゃぁ、始めるかぁ!」(黒ずくめの男、つぶやく)
こうして『Y高校3年D組同級会兼恩師喜寿祝賀会』の第1回幹事会が始まりました。日程、会場、
会費、恩師への記念品選び、案内方法の確認、担当者決めなど、何度も何度も話が横道にそれながら
も、少しずつ話が進んで行きます。
ほどなくTシャツ姿の男(これが私です)が冷酒を注文しました。出て来たのは「竹酒」。竹の
香りも一緒に楽しめる、シャレた演出、手酌で飲りながら、美味しくいただきました。
二時間飲み放題、料理は・・・小鉢3種類、前菜の盛り合わせ、お造り四点盛り合わせ、海老の
サラダ、つぼ鯛の油焼き、豚タンの味噌煮、アナゴの天麩羅ネギポン酢掛け、冷やし饂飩。
高校の同級生達、卒業から「ン十年」。いつまで経っても「クン」づけで呼び合う、気の置けない
連中です。秋には、総勢50名のD組同級生のうち、果たして何人集まってくれるやら・・・。
【なお、このドラマはフィクションです】(笑)