その時、私は大学病院の待合室に座っていた。

普通の婦人科の待合室だ。


待合室では、さっきから大声で話している女性が2組がいる。

右に1組。左に1組。どちらも中国語だ。


とにかく声がバカでかい。

右の1組は、別々の長椅子に座り、通路を挟んでおしゃべりを続けている。

距離をとっているのは、さすがにお互い相手の声が煩いのだろうか。

それとも、より大きな声で話すためだろうか。

もしくは、この待合室を自分達の貸切個室だと思っているのだろうか。


・・・と、そこへ角を曲がって通路から子供が走りこんできた。

追って入ってきた母親が子供を怒鳴りつける。こちらも中国語だ。


なんだ、なんだ。

ここは中国か?中国なのか?

服装や髪型を見るに、どうやら彼女らは日本で生まれの中国人ではない。

おそらく、中国で生まれ育った中国人の皆さんである。


なぜ、この病院は中国人だらけなのだろう。

いや、そんなことはない。

大声中国人が目立っているだけで、実際には日本人が圧倒的なはずだ。

だって、ほら、ねぇ。

見渡せば、ひっそり座っている人達が案外大勢いるではないか。


と、思ったら、違った。

診察室から「王さん」と名前を呼び出されて立ち上がった人を見れば

ずっと黙って座っていた女性だった。


また黙って座っていた人が出されて立ち上がっていく。

こちらは、「季(リ)さん」だ。


日本人だから黙っているのではない。

ひとりだから黙っているのだ。


あんなに大声でしゃべり続けていれば、彼女らはさぞかし

表情筋が鍛えられることだろう。

きっとたるんでなくて、ほうれい線なんかも無いのではないか。

振り返って、彼女らの顔を見てみたい。

ほうれい線はあるのか?ないのか?


しばらく私は、振り返ってお顔拝見したい衝動とたたかっていたが

そのうちどうでも良くなった。 ←所詮私の興味はその程度。


家に帰って、試しに同じくらい大きな声を出してみる。

思い切り息を吸い込んで 

「・・・あ!・・・」

思った以上に大きな声が出て、ひとりビビった。

彼女らは、きっと肺活量も凄いに違いない。