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虎キチが私に会いに来るのは、2017年10月10日に決まりました。
これを、虎キチはずいぶんと早いうちに決めました。(8月半ばです)
この日が私の誕生日だったから、というのが理由。
「ある程度前々から言っておかないと、ウチの嫁うるせーんだ。
だから、もう言っておいたよ。
友達に会うってことにしといた」
ふーん、くらいの感想しか出ない私。
しかし、相変わらず引っかかる彼の妻。
「前々から言っておかないとうるさい妻」
めんどくさそうな人だなあ、そう思います。
虎キチは、ゴキゲンです。
地元グルメや観光地をたっぷりggって、かなりなウキウキモードです。
ラブホもいくつかピックアップして、どれにしようか楽しそうです。
「猫ちゃんがイヤならエッチなしでいい、でも、猫ちゃんが大丈夫ならしたい、最低でもハグはする、あと、最低でもおっぱいはもむ、えーと、それに最低でもキスする♡」
まだ1カ月以上先の話なのに大盛り上がりの虎キチに、こんなに喜んでくれるなら会うって決めてよかった、そんなふうにほのぼのする私。
飛行機、新幹線、色々の移動手段で最寄りの駅や時間などをチェックして、一番都合が良さそうなのは夜行バスでした。
「会ったらすぐにキスしたい。
あ、でも、すぐはダメだ、歯磨かなきゃ」
「気にしいひんよ」
「あのさ~……。
言いにくいんだけど……。
……。
俺、口臭あるんだよ」
「ふーん。でも私気にしいひんで」
「いやでも、初対面の初キスだろ?ヘンな思い出残ったらイヤじゃん~!」
「夜行バスやったら寝起きやんか。寝起きはある程度臭って当然やから」
「いやいやいや、俺が気にするんだよ~」
考えてみました。
そういえば、かつて口臭のある男と付き合ったことがありました。
胃弱な体質なので、常にかすかに口臭はしていましたし、起きぬけの時には口の中でザリガニが死んでるくらいの臭いがしてました。
虎キチは、タバコは吸わないしアルコールはほどほど、糖尿はありません。
「虎キチくん、胃が悪いのん?それとか、歯周病や歯肉炎とか、鼻炎があるとか」
「いや、そんなことはないよ」
「じゃ、べつに口臭ないのんと違う?」
「あるって」
「誰かに言われるん?」
「嫁に言われるよ」
「ほかは?」
「うーん、嫁……くらい、かな……」
「嫁だけだったら、大したことないんとちゃうの?」
「いや、でもアイツ、くっせえくっせえうるせーんだもん」
「けっこうしょっちゅう言われんの?」
「いつもだよ!俺の口が臭いからキスしたくないとまで言われるよ!
だから俺、歯磨きは徹底しないとやなのね。
舌苔の掃除だってキチンとやってるよ!」
虎キチは、そのまま妻の話は終わって、歯磨きをどこでしようかな、という話題で一人で盛り上がっていました。
しかし、私は、
これまで虎キチの妻に感じていた違和感を、この時はっきりと明確に悟りました。
私は、口臭のある男と付き合っていた時は、彼にはそれを言いませんでした。
ただ、胃が悪いなら病院行きなよ、周りの人も気にするよ、という感じで遠回しにやんわりと伝えた程度です。
口臭あるよと人に伝えるのは、言いにくいことです。
ただし、妻(肉親)という立場なら、親切心から、それを教えておくべきかもしれません。
ですが、
「しょっちゅう」
「いつも」
「くっせえくっせえうるせー」
「口が臭いからキスしたくない」
まで、言うべきでしょうか?
口臭など、望んでさせている人間がいるわけありません。
しかも、
虎キチは、身だしなみにとても気を使う男です。
ほぼ毎日眉を手入れし、爪を磨き、1カ月に一度は髪を切ります。
仕事上多くの人と接していますし、身ぎれいにしていない人間は仕事も二流、が彼の考えです。
その虎キチが、
歯磨き、舌苔取りなど、そこまで気をつけているのに、
本当にそんなに臭うのか?
いやがらせなのでは?
この時から、私にとって、虎キチの妻は、なにやら得体の知れない存在となりました。
正妻と不倫相手、そうした単純な図式ではない、敵対の構造が、初めてできた時でした。