その男は、バリバリ働くビジネスパーソンで、日経からも取材を受けたことがある。
イヤったらしい勝ち組臭を漂わせてた。
ファーストコンタクトでは、オランダでやったネゴだの、マカオでSP雇ってまで行った危険な取り引きだのと、楽しいけど要は自慢話が洪水みたいにとめどなかった。
深い関係にはわりとすぐに進展した。
遊び慣れてる楽しいヤツで、私もけっこう満足してた。
ある日、彼からキャンプの誘いがあって、参加した。
彼の人脈の楽しくて派手な連中が20人ほど集まってた。
バーベキューやってると、ハプニングで網がダメになって、予備の網も忘れてきたという。
「嫁に持って来させるよ」
私はそれを聞いてちょっと不思議に思った。
私が思う彼の妻は、イメージ的に派手な女でバリバリキャリア、つまり彼を女にしたようなタイプだったので。
私は、嫁に全く興味なかったから嫁について聞いたことなんかないし、彼もそんな話をするほど野暮な男じゃない。
休日出勤でもしてるんじゃなかったのか?
家にいるんだ?
専業主婦なのか?
じゃあ、呼んでやればいいのに?
それほど夫婦仲が悪いのか?
でもま、
そこまで考えたけど、
他人に本当に関心の持てない薄情者の私なので、
ま、いっか。
よそんちの問題だし私関係ない。
こんな感じでそのまま忘れた。
しばらく経って、私がたまたまバケツに水を汲みに行ったら、
キャンプ場所から離れた茂みに、何かコソコソ隠れるような感じで、彼と知らない女性が話してた。
網を受け取ってるようだった。
嫁だ。
反射的にそう思った。
彼らの隠れるような態度に、思わずこっちも見られないよう、そっちへ行かずに見守った。
嫁は、
何年も美容院に行ってないようなボサボサのロングヘア、
毛玉だらけのトレーナー上下、
太めでスッピン、
ただのオバサン、
だった。
(顔立ちは整ってたので昔美人だった感じはあったけど)
遠いので何話してるのかまで聞こえなかったけど、
彼が早く帰って欲しげな、渋い仏頂面しているのと対照的に、
嫁は満面の笑顔だった。
嬉しそうだった。
役に立てて嬉しいです、
あなたが好きです、
そんな感情が伝わった。
私は、見てはいけないモノを見た気がした。