太祖瑩山(けいざん)禅師様の

        七百回大遠忌

 

                      洞林寺住職 

 

1、曹洞宗の一仏両祖と大遠忌

 

   曹洞宗ではお釈迦様(釈迦牟尼仏)を本尊と定めて

おります。お釈迦様は仏教の開祖であり、我々一切

衆生の行く道を照らし正しい道に導いてくださった

大恩教主なのです。そして、曹洞宗の誕生と発展の

礎となった永平寺開山道元禅師様と總持寺開山瑩山

禅師様を両祖と仰ぎ、お釈迦様と共に一佛両祖と呼

んで宗門信仰の根幹として尊崇しております。

 

  道元禅師様はお釈迦様から代々祖師方が受けつがれ

た仏教の真髄(禅の教え)を中国から日本に将来し、

興聖寺や永平寺で弟子を育成し正法をお広めになり

ました。道元禅師から四代目に当たる瑩山禅師様は

道元禅師の教えを弟子たちにしっかりと伝え、人材

育成に努められ、全国に曹洞宗の教えを広める礎と

なりました。曹洞宗の教えの根本を伝えられた道元

禅師は教団の父であり、高祖と尊崇されております。

曹洞宗は単独の教団としては日本一の寺院数と檀信

徒を有します。曹洞宗という教団の基礎を築かれた

瑩山禅師様は教団の母とも言える御方であり、太祖

と尊崇されております。

 仏教の各宗派では其々の宗派を開かれたお祖師さま

などの五十年ごとの年回忌法要を大遠忌と呼び、宗派

挙げての特別な法要を行います。 

 

 

 

   曹洞宗では、福井の永平寺を開いた道元禅師と總持寺

を開いた瑩山禅師、そして、それぞれのお弟子で永平寺

第二代懐奘禅師、總持寺第二代峨山禅師の四人の方々の

五十年ごとの回忌を大遠忌法要としてお勤めし、全国か

ら多くの僧侶檀信徒が参拝されます。

   令和六年四月に大本山總持寺に於いて、太祖瑩山禅師

様の七百回大遠忌法要が厳修され、様々な関連行事が開

催されます。

 

 

2、瑩山禅師様の御生涯

 

  瑩山紹瑾禅師は、文永元年(1264)、越前の国、多禰邑

(たねむら)の豪族瓜生邸に誕生されました。熱心な観音

信者の母に育てられた禅師は、三歳にして観音様の前で

「ナムナム・・・」と唱えて拝み、五歳頃には土をこねて

仏像をつくったり、経を読み、「観音様の生まれ変わり」

と評判になりました。母親の深い信心を受け継ぎ、八歳の

春、永平寺へ登り、三世徹通義介禅師のもとで沙弥(ひな

僧)となり、十三歳になると永平寺二世孤雲懐弉禅師に

随いて得度式(正式出家)を挙げ、幼名行生を紹瑾に改め

て僧列に加えられました。

   以来、本師徹通禅師に従って宗義を学び、仏経祖録の研

鑚を積み、諸国を行脚して臨済・曹洞の禅を学び、比叡山

では天台教学を修し、21歳の歳の時永平寺に戻られまし

た。その後、師の徹通禅師に随って金沢の大乗寺に移り、

寺門興隆と民衆布教に専念されました。徹通禅師の後を嗣

ぎ大乗寺で禅風を揮い、たくさんの弟子を育て教線の拡張

をはかりました。

 1321年(元亨元年)夢のお告げに導かれ、能登の真言

寺院であった諸嶽寺を受け継いで曹洞宗總持寺として開創

されました。瑩山禅師様は、正法を広め曹洞の宗旨を布演

することに全生涯を投じ、正中二年(1325)9月29日、

62歳で亡くなられました。

 

 

 

3、民衆と共に歩まれた瑩山禅師

 

 瑩山禅師様の生涯を貫くもの、それは慈悲と報恩という

言葉に尽きます。禅師様は、幼い頃より「観音菩薩の申し

子」と称されました。またそのご生涯は、実際に観音さま

のように、差別なく、あらゆる人の苦しみを憂い、すべて

の人の幸せを祈り続ける慈悲行に徹した方でした。坐禅に

おいても、「慈悲の想いを忘れてはいけない」と説かれて

おられます。

 

 瑩山禅師様は当初は気性の激しい面もあったそうです。

禅師様が宝慶寺の寂円禅師様のもとで修行されていた時、

寂円禅師様は瑩山様の力量を認めて維那という指導監督

するお役目を与えました。或る日、修行僧の一人が自分

の悪口を言っているのを聞き、ついカッとなって、その

修行僧を罰しようとしたところ、にわかに母の顔が浮か

びました。そしてハッとお気づきになられます。

「自分は母の信仰と願いを受け継ぎ、人々を教え導く

ということが本願である。ここで怒りに負けてしまっ

たら、その本願は虚しいものになってしまう。これか

らは、決して怒りの心を起こすまい。」

そう誓った瑩山様は、それからは実に穏やかな性格に

なったそうです。お母様がいつも観音様にお祈りを

ささげていてくれたお蔭であるということを自分の

自伝の中に書かれています。

 

 そして、この慈悲の心の顕現として「すべての人

びとの苦しみ、悲しみを我がものとして、未来永劫

最後のひとりに至るまでお救い続けたい。」という

誓願を何度もされてます。瑩山様は人々が日々安心

して暮らせるよう、祈雨・治水・豊作等の祈願法要

も積極的に勤めておられます。

 

 瑩山禅師様は道元禅師様や師匠徹通禅師様への報恩

感謝に努めて修行に励まれる方でした。同時に檀越

(檀信徒)への感謝の気持ちも何度も表明されて居ら

れます。

「信仰の篤い人を得ることができれば、仏法がすたれ

ることはないと、お釈迦さまは言われた。」

「私が仏法修行は檀信徒の信心のお陰で成就する。」

と報恩感謝の言葉を語っておられます。禅師は、檀信

徒の信仰の心を仏教伝道の上で最も大切なものとして

位置付けておられました。信仰の心の源は檀信徒の

「報恩の心」です。瑩山禅師様の時代でも、現代にでも

大切にしたい心です。

 11月28日、曹洞宗宮城県第二教区で大本山總持寺

に参拝し、太祖瑩山禅師様にお焼香させていただきま

す。太祖様の教えと心を受け継ぐ気持ちでお焼香させ

ていただきます。

 

 

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