徳川家康を支えた僧侶たち

 

                   洞林寺住職 

1、南光坊天海と金地院崇伝

 大河ドラマ『どうする家康』はなかなかぶっとんだ

ドラマ造りをしているようです。徳川家康は幼少期

青年期を織田家今川家の人質として過した苦労人で

した。苦難の時代を堅忍不抜に生抜き、大大名になっ

た後は豊臣家と諸大名相手に果敢に立ち回った老獪さ

は広く知られています。

 松本潤演じる青年期の家康は決断力を欠き、行動力も

乏しい人物として描かれている。生まれながらに優れた

武将などいません。鍛錬を重ね、学問を深め、多くの修

羅場を経験してこそ、名将への成長が有り得るのだろう。

ヘタレな青年家康がどう狸爺に成長していくか、楽しみ

たい。

 

ドラマの進展の中で、家康は今後も多くの苦難に直面し、

苦しい判断を強いられることになるでしょう。三河の一向

一揆、姉川の戦い、三方が原の戦い、長篠の戦い、高天神

城の戦い、築山殿信康事件、本能寺の変、小牧長久手の戦い、

関ケ原の戦い等々。

 第二回放送では、三河松平家菩提寺である浄土宗大樹寺の

住職を里見浩太朗が演じて居ました。岡崎市の大樹寺は家康

の祖父松平清康と父松平弘忠の菩提所です。

 家康を支えた僧侶としては、江戸の幕府を開いた家康の

ブレーンとして活躍した南光坊天海と金地院崇伝が有名です。

時代劇では、古狸家康の相談役として登場することも多い僧侶

です。

 

 天海は家康の信頼厚く、家康滅後の「東照大権現号」や

東照宮造営の中心を担ったことで有名です。

 崇伝は明や朝鮮東南アジア諸国との交易、西欧諸国との

接触、外交文書の起草や朱印状の事務取扱を一手に引き受

けました。また寺社行政や宗教関係の法制度も担当し、寺

社奉行のもととなる全国の寺社を統括する制度に着手し

寺社の行政システムを確立しました。

 

2、可睡斎と等膳和尚

 曹洞宗の寺院で徳川家との縁が深いことで知られているの

が、静岡県袋井市にある万松山可睡斎です。寺紋は徳川家と

同じ三つ葉葵を使用しており、現在の本堂の大屋根の左右に

大きな三つ葉葵があります。

 可睡斎という寺の由来について、次のような逸話があります。

 

「十一代住職仙麟等膳大和尚は幼い家康を戦乱から救ったこと

があり、後に家康が浜松城主となった折、報恩の為に城に招か

れた。その席でコックリコックリ居眠りを始めました。その姿

を見た家康は和尚の安らかな親愛の心を悟り、和尚に「(ねむ)()し」

(御前にて睡っても無礼ではないとの意)と言い、「可睡和尚」

と愛称せられ、寺号も東陽軒から可睡斎と改めた。 」

 

 残念ながら、これは後世の作り話のようです。徳川家康誕生前に

「可睡斎」という寺号を使用していた記録があるそうです。

 家康は今川家の人質であった時期、駿府城下の臨済寺に預けられ、

その近くの増善寺の知客(しか)(受付や接待の責任者)を勤めていた等膳

和尚とも親交があったそうです。

 等膳和尚が脚光を浴びる前提として、徳川家を揺るがした「信康

事件」があります。家康の正室築山殿と嫡男信康は織田信長から

「武田勝頼と内通した」という嫌疑をかけられ、信長は家康に両名

の処分を命じ、家康はやむをえず天正七(一五七九)年八月築山殿

を処刑し、九月信康に切腹を命じ信康は自害しました。

 いかに信長の命であったとは言え、両名を処刑することは家康に

とって辛かったことは明らかです。家康にとって大きなトラウマと

なったと思います。

                  可睡斎 本堂 

 

浜松城で家康は築山殿の怨霊に苦しめられていました。家康は可

睡斎の等膳和尚に怪鬼の調伏を命じました。等膳和尚が弟子の禅易

と宋山を伴い浜松城に赴き、家康の寝所に留まり禅定修法を勤め

菩薩戒を授け血脈を与えると、築山殿の怨霊は調伏されました。

以後、家康の等膳和尚への帰依は一層高まったそうです。

 等膳和尚の恩義に報いるためでしょうか、天正十一(一五八三)年

十一月、家康は可睡斎隠居等膳を駿河・遠江・三河・伊豆の曹洞宗

寺院を取り締まる僧禄に任じております。

 ドラマ中に等膳和尚が登場するかどうかはわかりません。有村架純

さん演じる築山殿がどういう怨霊に変貌するか、興味深いところです。

 

  洞林寺護持会会報『錦柳』 令和5年春彼岸号

 

参考文献 

鈴木泰山『可睡斎視点ー中遠地方仏教教団史稿ー』

増善寺『今川氏親公菩提所 慈悲尾 増善寺への誘い』

可睡斎・袋井市教育委員会『可睡斎護国塔修理保存報告書』

鈴木哲雄『僧禄可睡斎とその配下大洞院門中寺院を通して』愛知学院大学禅研究所紀要29号

 

 

 

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 仏教へ
にほんブログ村