板橋興宗禅師様を偲んで (3)

     祖父の本葬の導師をお願いした時

 

 平成15年1月、私の祖父であり授業師である大光寺(岩手県千厩町)25世大弘愨道大和尚が遷化しました。世壽百歳でした。密葬は近隣の御寺院の御助力をいただき無事終えました。本葬をいつ執り行うか、話合いました。冬の岩手は寒く、路面も凍結して危険である。東北道は吹雪のために通行止めになることも多かった。それで、百箇日頃の四月の下旬に本葬を行う方向で決まりました。

              

                                          大光寺の本堂

 

 次に、導師を誰にお願いするか、という問題になった。というのは、本寺の御住職が日本にいなからです。

大光寺の御本寺は、奈良県の補巌寺と言います。室町期に太容梵清禅師が正法眼蔵の書写参究をされたことで宗学者には知られた寺であり、世阿弥が禅の修行をしたことで能楽関係者には知られた寺です。但し、外護者である領主が戦乱で滅びたり伽藍が火災で焼失したりして、現在は本堂もなく檀家もいない寺となっているのです。御住職は居られますが、海外開教師としてロサンゼルス在住のため寺には不在でした。(現在は、名古屋在住の御親族が住職をなさってます。)

 

 それで、私は父に「板橋禅師に導師をお願いしてみたら。」と提案してみました。当時、板橋禅師は大本山總持寺貫首を退かれ、福井県に御誕生寺を創建されておられました。本山を退かれても、落慶や本葬の導師をお願いされることは多かったようです。宮城県内の寺院に導師としてお見えになることは、かなりありました。それで、兄が御誕生寺まで拝請に伺い、本葬の秉炬師(ひんこし 大導師のこと)をお引き受けいただきました。本葬の前日、禅師様御一行には一関駅のそばのホテルにお泊り頂き、夕食はその近くの寿司屋で私と大光寺の総代で展待することになった。たいした僧堂修行をしている訳では無いので、正直あまり禅師様と共通の話題は思いつかない。ちゃんと禅師様御一行のお相手が勤まるか、正直不安でした。

 

 昭和61年、私は東京の大きなお寺で住み込みながら駒大の大学院に通っていたことがありましたが、時期は違っていたが板橋禅師のお弟子さんたちも其の寺に住み込んで駒大に通っていたと聞いていました。其のことに触れたら、随身の侍者和尚さんが私の一年後に住み込みをしていた方だったので、其のお寺のことで話題が花咲きました。

 

 禅師様の東北大学文学部の宗教学科を卒業されてます。私もちょっとは宗教学を学んできたので、恐れ多いことですが「同好の士」という感情を抱いておりました。そうだ、東北大学時代のことをちょっと聞いてみようと思い、

 

私「禅師様が東北大学に通われた当時ですと、堀一郎先生が居られたころですか?」と聞いてみた。

 

そしたら、禅師様の目の色が変わった。宗教学科の思い出は大きかったようです。

 

禅師様「君は東北大学だったのかね?」と意気込んで聞いてこられた。宗教学民俗学を学んだ人なら、堀一郎博士のことを知らない方は居ないでしょう。

                     堀一郎博士(成城大学民俗文化研究所のホームページより)

 

私「東北大学に入りたいと思い受験しましたが、落ちました。ただ、東北大学の宗教学科につい最近まで顔を出していましたので。」

 

禅師様「大学には、何しに行ってたのかね。」

 

私「臨時の非常勤講師を頼まれて、半年だけ通ってました。」

 

禅師様「何か研究をしてきたのかね。」

 

私「主に山岳信仰と曹洞宗のかかわりについて研究しようと思ってました。実際にやったのは、大光寺の鎮守である秋葉三尺坊権現についてだけですが。」

 

禅師様「何か、本は書いてるのかい。」

 

私「一冊だけ、書いてます。一冊手持ちがありますので、明日、大光寺でお見せいたします。」翌日、禅師様に本を贈呈させていただきました。恐れ多くて、感想は聞いておりません。板橋禅師の学生時代の東北大学文学部宗教学科には、宗教史の講義を担当する堀一郎教授のほかに、宗教哲学を担当する石津照璽教授が居られました。卒論の指導は石津教授に受けたようです。板橋禅師の卒論の題は「道元の研究」でした。

 

 翌日、板橋禅師は祖父の本葬の秉炬師をお勤めいただき、御垂示では祖父が大光寺で小僧となり参師聞法に精進し、寺門を護持し(叙勲を受けるくらい)社会にも貢献したことを讃えて下さいました。たいへん有難い御垂示でした。父も兄も板橋禅師に導師をお願いして良かったと思ったようでした。

 

堀一郎先生は、宗教学民俗学の権威として多くの業績を残されており、東北大学、東京大学、成城大学の教授を勤められた方です。奥様は柳田国男の三女です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A0%80%E4%B8%80%E9%83%8E

 

 

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