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 「光善寺の血脈桜」の伝説

                       平成19年4月10日洞林寺婦人会での法話より

 桜の季節ですね。日本全国各地で花見が繰り広げられ、岐阜県の薄墨桜、福島県の滝桜など銘木として名高い桜には多くの観光客が詰め掛けているようです。そういう全国の有名な桜を検索していたら、北海道松前町の光善寺に「血脈桜(けちみゃくざくら)」という名木があることを知りました。
血脈(けちみゃく)とは「お釈迦様からその弟子、その弟子から次の弟子へという系譜を示すものであり、仏弟子となった際に弟子が師匠からいただく証明書」です。実際には、葬儀の時に菩提寺の住職から戒名とともに授与されることが一般的です。桜と血脈、どんな関係が有るんだろうと興味を抱きました。


 「伝説・血脈桜」

  今から二百数十年前、松前城下の生符町(いげっぷ、現在の大磯)に柳本伝八という鍛冶屋がおりま した。若い頃から上方見物を夢見て一生懸命、精を出して働いておりました。やがて跡取り息子が、家 業を継ぎ永年の上方見物の夢がかなうこととなり、娘の静江を伴って松前を船出したのは春まだ浅い頃 だったことでしょう。見るのも聞くのも皆珍しい江戸を見物し、東海道を上ってお伊勢参り、京都の名 所旧跡を訪ね、百万遍知恩寺(ひゃくまんべんちおんじ)松前光善寺の本山では、先祖の供養にお経を あげてもらいました。
  奈良をめぐり、吉野山に着いた二人は山を彩る桜の美しさに魅せられ、しばらく宿をとることにしま した。宿の近くに尼寺があり、若い庵主と娘の静江はたいそう仲良になりました。やがて松前への帰郷 の日が来ました、名残を惜しんで、若い尼僧は一本の桜の苗木を静江に手渡し「国に帰られたらこの桜 を私と思って植え育てて下さい。」というのです。松前に帰った親娘は菩提寺である光善寺の前庭に植 えてもらいました。桜は年毎に美しい花を見せ、人々の目を楽しませるようになりました。
  時は流れて伝八や静江はもう世にありませんが、桜は大木となりその名花ぶりは松前の評判になって いました。ある年のこと光善寺では古くなった本堂を建て直すことになりこの桜がどうしても邪魔にな り、切り倒しの相談がまとまりました。
  切り倒しの前日の夜のことです。住職の枕元に桜模様の着物の美しい娘が現れ、涙を浮かべて「私は 明日にも命を失う身でございます。どうか極楽浄土へ行けますようにお血脈をお授け下さい。」と願う のです。住職は夜も更けており「明朝にしてくれ」というのですが、娘は聞き入れる風もなく、ただ泣 くばかりで、やむなく住職は念仏を唱えお祈りし、血脈を与えたのです。娘は丁重にお礼をいい住職の 前から姿を消しました。住職には何かしら夢うつつのような出来事でした。
  翌朝、ふと切り倒す桜を見上げていると、枝先に何か白い物が結び付けられていました。近寄って見 た住職は、一瞬声をのんでしまいました。何と昨夜あの娘に与えた「血脈」ではありませんか。「そう か昨夜の娘はこの桜の精だったのか」直ちに桜を切り倒すのを取り止め、盛大な供養をしました。本堂 改築の縄張りも変えられました。明治36年2月6日光善寺が火災で焼失した時、幹が焼けましたが現 在の姿に復活したそうです。
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Apricot/2375/ketumyaku.htm


 北海道松前町にある浄土宗光善寺に伝わる伝説です。日本人は、草木と言えども命が宿っているという気持ちで、自然に接してきました。特に美しく咲く桜には並々ならぬ愛着を持って接してきました。そういう日本人の心情が表れている伝説であると思います。

 日本の仏教を葬式仏教と呼んでさげすむ方が時々居られます。それは一面的な見方だと思います。

 人は自分の大切な方を失った時、悲しみに暮れる一方で、亡き人の行く末を案じます。菩提寺からお血脈をいただくことで、亡くなった方々は仏様のお弟子さんになり、仏様の世界に旅立って行きます。「迷わず成仏してくれ。」テレビドラマの怪談などでこんなセリフをよく耳にしますが、「悪霊になって自分たちに祟るようなことをしないでくれ。」という意味合いで言うこともありますが、死者の来世での幸福を心から願う心情が吐露されていることも多いと思います。
 亡き人を送るにあたって葬儀を行います。その葬儀の中心をなすのが授戒と言う儀式です。御戒名をつけてもらいお血脈をいただく。そして成仏のための旅路へと向かうのです。仏教の葬儀を通して、死に行く人の来世の幸せを願うと同時に、残されし者に大いなる安らぎを与えてくれる。これは、日本仏教が持っている素晴らしい文化だと思います。そのことを教えてくれる、とても素敵な伝説だなあと思いました。


追記
この血脈桜の伝説は、ネットで検索すると何種類か出てきます。基本的な話の設定等は皆同じですが、若干説明内容や語句に異同があります。伝説の内容について一番詳しく説明している文章を引用させていただきました。



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