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洞林寺護持会会報102号 平成15年春彼岸号より

法話4  「憧れを持ち続けること、これ仏道」   

 2月21日(平成15年)、ラジオのFM仙台の番組に、小曽根真さんというアメリカで活躍しているジャズピアニストが出演していました。2月24日に、2003年グラミー賞の授賞式がアメリカのニューヨーク市であります。グラミー賞は世界で一番権威のある音楽賞ですが、その中の或る部門の受賞候補に小曽根さんは指名されていたのです。世界的なヴィブラフォーン(鉄琴)奏者ゲイリー・バートンと小曽根さんの共同製作のレコードが、グラミー賞の候補になっていたのです。
 ゲイリー・バートンは過去5回もジャズ部門でグラミー賞を受賞しており、小曽根さんにとっては師匠なのだそうです。ピアノをうまく演奏するための先生という意味での師匠ではなく、楽器を通してどのように自分の世界を音楽で表現するかということを教えてくれた師匠なのだそうです。
番組の司会者から、ピアニストとして世界的に認められるようになった秘訣は、と聞かれて小曽根さんは、
 「Keep wishing キープ ウィッシング」
(   希望を持ち続けること、憧れを持ち続けること、という意味)と英語で答えていました。
師匠であるゲイリー・バートン率いるグループに参加させてもらい、長くコンサート活動をしてきたのだそうです。小曽根さんはゲイリー・バートンの演奏をそばで見ながら、自分の演奏で彼のように素晴らしい世界を表現したいなあとずうっと憧れていたそうです。そうしたら、一緒にコンサートで各地を回っているうちに、ゲイリー・バートンが持っている音楽の表現力を自分も身につけることが出来たのだそうです。
 ラジオ番組の中では、あたかも「棚から牡丹餅」が落ちてきたかのように、身につけることが出来たように語っていましたが、その陰には血の滲むような努力と研鑽があったと思います。そして、この小曽根さんの言葉から教えられるのは、努力することも大切だけど、素晴らしい目標に向かって進むことの大切さだと思いました。
 小曽根さんの場合、ゲイリー・バートンという「素晴らしい目標」のすぐそばに居るという御縁をいただき、「素晴らしい目標」に憧れを持ち続け、素晴らしい目標に到達出来たのです。

 毎年2月、本堂に「涅槃図」を飾り、その前でお参りします。涅槃図は、お釈迦様の亡くなった時の様子を描いた絵です。人間も神様も、動物も虫もお釈迦様の死を惜しみ、嘆き悲しんでいる。そんな様子が描かれています。悲しみを表現する絵であると同時に、お釈迦様の徳を称えお釈迦様への憧れを表現する絵なのです。涅槃図の前でお参りする。このことも、私たちが「お釈迦様に憧れを持ち続ける」気持ちの表現だと思います。
 平安時代末のお坊さんで、歌人として高名な西行法師という方がおられます。西行法師は次のような和歌を残しています。

  願わくは  花の下にて  春死なむ その如月の  望月のころ

人はこの世に生を受けてから、死というゴールに向かい続けています。どうせ同じ目的地に向かうのなら、西行法師のような「目標を持ち続けたい」ものです。この短歌で西行法師は、「自分もいつか最期の時が来るが、お釈迦様のように2月15日の満月の頃、花の下で最期の時を迎えたいものだ。」という願いと憧れを詠んでいます。西行法師は単に「2月15日」「花の下で」ということを願っていたのではない筈です。お釈迦様に憧れ、お釈迦様という目標に向って仏道を歩んで来られたのだと思います。
 我々仏教徒の人生も斯く有るべきだと思います。お釈迦様という素晴らしい目標に向かって、歩み続けることが大切なのです。釈迦涅槃図の前でお参りし、仏教徒として「憧れに向かって」「目標に向かって」の仏道を歩んでいきたいものです。