2016年07月31日

 

カンヅメするというのは、締め切りが過ぎた漫画家さんを、会社近くのホテルや旅館にアシスタント共々入ってもらい、集中的に寝かせないで書いてもらうことです。
出版社によって、それぞれ指定旅館やホテルがあります。

私が担当した漫画家さんで、カンヅメにしたのは、秋田書店のプリンセスで描いていた、イケスミチエコさんと、ささやななえさんです。
故・仲村計さんの時、私は、応援担当でした。

イケスミチエコさんの場合、当時の、講談社の週刊誌ヤングレディーが、何故か参入してきて、締め切りが重なりました。
元々、彼女は、講談社出身だし、それを引っこ抜いて、プリンセスで巻頭でヒット飛ばしているから、そんなこともあろーかと推察しました。

そんな締め切りが何回か続いたとき、講談社も秋田書店も、同時に締め切りが過ぎ、コレはヤバいと思って、早朝にイケスミさん宅に奇襲をかけたところ、偶然にも、講談社のカンヅメになるために、私から逃げ出すところを踏んづかまえました。
鬼さん…私のあだ名…実は…と、彼女は、私に事情を話してくれました。
私は、即、当時の神永編集長に電話をして指示を仰いだところ、彼から、うちがカンヅメにしようと言われました。

当時の秋田書店は、男性誌で成り立っている会社で、カンヅメもない様子。にも、関わらず、編集長は、少女漫画の世界では、こういう事例も必要だと判断し、会社の上層部にかけあい、半ば強引に、会社近くの九段下にあるグランドホテルをカンヅメ用に選んだのです。
……後で考えると、頭の堅い上層部を説得するのに、どれだけのエネルギーを使ったか、彼の苦労には頭が下がります。
当時の私は、そのホテルが一流で高いのを噂で聞いていましたので、本気で驚きました。
……それだけに、当時の編集長の、プリンセスに対する心意気が伝わりました。

結果、アシスタント共々イケスミさんが、ホテルに2泊した後、社員倶楽部用に使っていた、会社の5階にある和室に引っ越してのカンヅメとなりました。
勿論、徹夜です。
日曜日の早朝、イケスミさんは言いました。クロワッサンが食べたいの、それに黄薔薇が無ければ、気分よく描けないわ。
何ィ…クロワッサン…黄薔薇だとォ……。腹で思っていても、ニッコリ笑って、分かった、用意するね…と言いました。
私は、まだ店も開いてもいない時間に、タクシーで、クロワッサンと黄薔薇を探しに、皿のような目つきで周辺を探し回り、とりあえずゲットしました。

結果、原稿は無事に上がりましたが、ヤングレディの原稿は落ちました。

後日、講談社のヤングレディの編集部から、裁判訴状の届けがありました。
秋田書店の当時の局長は、天下の講談社から、というだけで、慌てふためき、編集長を呼び出し、何とかしろと大声で彼を叱るだけです。
席に戻った編集長は、私に、心配するなと言ってくれました。
原稿の取り合いは、出版界では、日常茶飯な出来事です。
明日は我が身……出し抜かれ、負けるのは仕方のないことです。
編集長と私は、機嫌の悪い局長を背中に、秘かに笑い合いました。

その後、ヤングレディの担当者が、講談社を辞めたことを、噂で聞きました。
担当者の彼が、文芸志向で、早稲田文学にも関係していたということは、イケスミさんを担当している間、暇が出来た時など、喫茶店などでお互いお喋りをしていて知っていました。
しかし、若い彼は、漫画に対する締め切りのし烈さを、甘く見て知らなかっただけの結果なのです、仕方ありません(-_-)…。

ささやななえさんは、私が担当ではなかったのですが、いつの間にかW氏と共同担当になりました。
締め切りの催促電話をすると、寝ているところを叩き起こされ、締め切り過ぎという自覚もあっての引け目なのか、私に切れて罵詈雑言を浴びせます。
普段の彼女は、気の優しい感じのイイ漫画家さんです。
しかし、いかんせん、ネームが遅すぎました。
結果、秋田書店の5階の和室にカンヅメになりました。

彼女は、カンヅメになってから、何も文句も言いません。アシスタント共々、ひたすら黙々とペンを動かしています。
疲労のために、全員で貼ったサロンパスの臭い、サラサラという動くペンの音…いくつも転がっているモカの瓶…。
時々、ひとりのアシスタントに、キャア~♡コノ点描画は素敵だわと、ささやさんは、喜び、このまま続けてね、と言います。
それを見ていた私は、とっくに過ぎた締め切りに、何が点描だと、グサッと来ました。
時間が無いので、ひとりのアシスタントの手も重要です。点描だけで一日を終わらせるということは、足りないアシスタントがもっと足りなくなり、それだけ原稿が遅れると言うことです。

ま、原稿は、落ちませんでしたけど……(-.-)

で、後日、別の機会で、ご実家の北海道から、沢山のトウモロコシを、自宅に送っていただいたことがある。
すっかり戸惑ってしまった私は、とうとう未だに、お礼も言っていない(:_;)
あの時は、本当に有難うございましたm(__)m

今考えると、それぞれ、カンヅメ一週間はあったと思います。勿論、担当者は、ほとんど付きっ切りで張っています(-.-)


担当できなかった漫画家さんもいます。
COMの時の、宮谷一彦さんと、赤塚不二夫さんです。

宮谷さんの場合。
私は、誰かの担当のになる前に、その著者の行動範囲のよく行く店など、初めの打ち合わせの時、さり気なく聞き出し、万が一の逃避場所を調べておきます。
結果、締め切りに逃げ回る宮谷さんの行く先々を捕まえ、音をあげた?彼から、担当替えを要請され、担当から外れました(-.-)

赤塚不二夫さんの場合。
プリンセスの副編集長は、実にセコイ男で(怒)、好きな漫画家さんを紹介してあげると言って、自分では手に余ると思う、半端じゃなく遅筆の作家の前に連れていき、今度新しく担当になる萩原君です…と私を紹介してのたまうのです。
村野守美さん、宮脇心太郎さん、いずれも、私が目が点状態の中、いつの間にか担当になっていました(怒)……ま、大好きな漫画家さん達だからイイけど……。
で、赤塚さんの場合も、いきなり私を仕事場に連れていき、今度新しく担当になる萩原君です、と、のたまわった。

当時の赤塚さんは、各社の男の編集者を伴って、毎晩ゴールデン街で騒いでいた時期だった。
その頃、無名のタモリさんが、赤塚さんとこに面白い男がいて、一緒にゴールデン街で遊んでいるらしいと、業界では、結構な噂になっていた。
赤塚さんご自身、そうやって男同士で遊ぶことが、エネルギーにもなっていたんだと思う……付き合う各社の担当者は大変だけれども……(-.-)
それに、秘かに静かに永く付き合っていた女性もいたらしい……。

で、副編集長の言葉に、即座にNO!! と、言ったのは、赤塚さんご自身と、私だった。
男同士で楽しんでいるのに、何故、女の担当がつかにゃならぬ……。
で、担当交代の話は、その場で流れた…当たり前だ(怒)


今でも、優しい方だったなぁと思い返すのは、あすなひろしさん、ちばてつやさん、矢代まさこさん、佐伯かよのさん、深見じゅんさん、小橋もとこさん達だ。

宙出版時代、深見さんは、彼女の家の近くの喫茶店で会い、意気投合した。後日、イラストを描いていただいた。
彼女から、編集部に突然、彼女自身のすべての単行本が届いたことがあって、とても驚いたことがあった。しかも、全部サイン入りだった。
その後は、新しく出るたびに、サイン入り本が自宅に届けられたし、私が闘病で入院中も、遠いところから突然お見舞いに来られて、優しく励まされ感激したことがあった。
山の手ホテルで、自らカンヅメになったときも、お食事やお泊りにも誘っていただき、今でもいい思い出となっている。

小橋さんは、私が編集を辞めた後も、飯スタントや、正月のお節料理を私がつくるのと一緒に注文され、経済的に随分助けていただいた。


それと反対に、専属契約をしていて、絶対に描く気が無いのに、接待にだけは何度でも応じる、女性漫画家も多かった…誰とは言わないが、今でも活躍しているみたいだけれど…(-_-)…。

腹が立った漫画家は、講談社専属の某有名漫画家だ。
実は、未だに釈然としないままだ……自分でもしつっこいと思う(:_;)

COMの頃、その漫画家さんから、手塚先生を尊敬しているからと言われ、半分描いてもいいような感じだった。
私は、こんなのはどうでしょうと、いくつか提案を出した後、私が学生の頃からハマっていた幕末の人々の名前を出したところ、初めて聞いたと言って、沖田総司に彼女が食いついてきた。
私は、沖田総司について細々とエピソードを語り、熱く熱く語った。
後日、やっぱり専属だから担当者に反対されたという、断りの電話をいただいた。
私は、ま、しょうがないかと諦めていた。
ところが、私の昔からのライフワークですと、沖田総司をモデルにして作品を発表した……うーむ…(怒)

そのほか、やっぱり同じように、専属契約で、描いてもいいと言われ、私は、事細かなエピソードを入れつつ、ストーリーをその場で作ってお伺いを立てた。
後日、断りの電話が入り、その漫画家さんは、私の作ったストーリーそのまま漫画誌に掲載し、人気一位を取ったと、業界の仲間から聞いて、驚いたことがあった。
しかし、数年後に、別の雑誌で、巻頭の連載作家にも関わらず、私の編集する本に描いていただいたので、チャラにしようと思った(ー_ー)!!

今でも思うのは、漫画の編集者として、いろんな漫画さんにお世話になったけれど、やっぱり一番は、矢代まさこさん、立原あゆみさんでしょう(´▽`)

本当に、皆様には、お世話になりましたm(__)m

次回は、個々の漫画家さんの、エピソードを書きたいと思っています。
相変わらずの、酔った勢いの一気書きで、読み返さずに一気にあげます。ご判読下さい(-_-;)


私のHPです……http://doranekosora.sakura.ne.jp/