「地獄への第一歩」
この私が鍛え上げたマッチョな肉体を武器に、
凶暴なゾンビと壮絶なバトルを繰り広げるという、
少々、いやかなり自己満足な夢の企画。
製作協力者であり、撮影担当の友人田中君が
私の書いた原案を勝手に、いや独自に膨らませ、
長編作品としてストーリーを書き上げ、送り付けてきた。
私はそのストーリーを踏まえつつ、
限られた日程の中で撮影可能な規模に内容を改変、
短編作品に縮小し、田中君に送り付けた。
するとその短編案を踏まえつつ、
長編に膨らませたストーリーが送られてくる。
私はそれを短編に縮小し送り付ける。
するとまた長編が・・・・・
こんな頭の悪いやりとりが実際に繰り返された。
まるで右脳と左脳のキャッチボールである。
しかも田中君の新案では、
私が彼の案から削除した内容や設定を復活させたうえ、
更に私の代案も「踏まえる」、
すなわち盛り込んできていた。
何だか、だんだん内容が濃くなってきてるような気が・・・・・
季節は秋。
当時ブライダル・カメラマンだった田中君は
学生並みに長い夏休みを終え、
平日にしか休めない生活に戻っていた。
私も連日残業続きで、
製作に関する連絡手段は、
もっぱら手紙か、深夜の電話だった。
(電子メール普及以前のお話です)
「日程とか人手とかの制約は無視して、
一度、本当に自分の撮りたいものを書いてみたら。
実現できる、できないは別にしてさ」
季節は移り変わり、
吐く息が白くなり始めた頃、
久しぶりに顔を合わせた田中君は私にそう言った。
そうしたいのはやまやまなのだが・・・・・・
それが出来ないから悩んでんじゃん。
何故理解出来ない?
現状のままでは、田中案どころか、
私の短編案ですら、実現は困難である。
何しろ監督とカメラマンのスケジュールが、
月に一度合うかどうか、という状況なのだ。
ロケ場所の空家は翌年の夏までには取り壊してしまう予定。
何か大きな発想の転換が必要だった。
そしてその年の暮れ、
私は大きな決断を下してしまうのだった。
果たしてその決断は正しかったのかどうか。
今でもよく判らない。
判らないからこんな記録を後追いで書いている。
地獄への第一歩
だったような気がする・・・・・・・・・・