新説『マジすか学園４』
＃3252『彼女について知っていること52 招待されたランチ』
水曜日の正午前に、欅坂６期生やすちーずよりも先にハウスを出た成美は、地下鉄に乗って上前津駅に向かった。８番出口から上がり、「招き猫広場」で石のベンチに座って待っている瑠夏とゆうゆの姿を見て、取りあえずホッとした。
昨夜シャチホコセブンの番組で、関東レディースの４人がコーナーのレギュラー化を懸けた５分のアピールタイムで苦戦していたところ、ムチャぶりで呼んだ瑠夏に一発ギャグを指南してもらい、救われたのだ。これで来週以降の出演が決まった。そのお礼として、瑠夏がランチに招かれた。そして「KEYABINGO!」のスタジオライブで歌う曲の練習を一緒にする予定の自分とゆうゆを、瑠夏が誘ってくれたのだ。
そんな２人と挨拶を交わした成美は、気になることがある。いつもゆうゆが考える「KEYABINGO!」でのドラマのあらすじだ。ゆうゆは昨日の朝から白雪姫のドラマを撮影したあと、名古屋に移動してシャチホコセブンの番組に出演するというハードスケジュールをこなしていた。かなり厳しいだろうと思いながらも、昨夜会った時に聞けなかったことを、今聞くしかない。
『２人とも、昨日はお疲れさん！ゆうゆはドラマのあらすじだけど、何かいい案が思い浮かんだか？』
ゆうゆが悪びれる様子もなく答える。
『あはっ♪それがまだ全然なんですよ～』
成美が心配になる。
『大丈夫かー。撮影はあさってなんだけど…』
『本当は今日１日中家で缶詰になって考えたいところなんですけど、歌の練習をしなくちゃいけないんですよ～。ゆうが選ばせてもらった曲で、初めてセンターに立つんですから。あらすじの方は、今夜必死に考えます！土壇場になると、ようやく閃くんですよね。いつもそんな感じですから』
ゆうゆがそう言うのなら、これ以上追い込むことはないだろうと考える成美だ。
そのあと３人で歩き出した。関東レディースが待っている「はつもり」は、歩いてすぐだ。成美はこれまでに何度も足を運んでいるが、瑠夏とゆうゆは「KEYABINGO!」の撮影をするため金曜日の朝、「はつもり」に集合しているものの、営業時間中に訪問するのは初めてだ。
店の前に行ってみると、成美が久し振りに見る仲間が外に立っているではないか。向こうも自分たちに気付いたようで、白い歯を見せながら手を振っている。すると瑠夏に聞かれた。
『成美さん。あの子、知り合いですか？』
成美が歩きながら教える。
『アンダー16連合の初期メンバーだが、反乱軍には入ってないから、るーちゃんとゆうゆに会うのは初めてかもな。前は「はつもり」を手伝ったりしてたんだが、最近見掛けなかったんで』
久し振りの顔と再会したら、向こうから喋り始めた。
『なるちゃん。久し振りやー。るーちゃんとゆうゆも一緒やん！悪いんやけど表からは入れないんで、裏から入ってもらえるかな』
成美がすぐに突っ込む。
『どうして、うちらが表から入れないんだ。確かにタダで食べさせてもらうんだけど、表から入ってもいいだろっ』
『そういうことやなくて、なるちゃんだけならそれでいいんやけど、人気のるーちゃんとゆうゆが表から入ったら、他のお客さんに見つかって騒ぎになるんで、裏から入ってもらえって麟が言うんだから仕方ないじゃん』
抗議する成美。
『あたしが人気ないみたいな言い方するなよ』
『だってここに食べに来ても、これまで１度もそんなことはなかったらしいやん』
『見つからないように、オーラを消して入ってたんだ』
『まぁ、いいから早く中に入ってよ』
『ああ。分かった』
成美が裏口から入るのは初めてだ。そのまま進んだあと、いい匂いが漂ってくる厨房には向かわず、右手に曲がって居間に通された。
◇続く